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承/第三十六話:ムシムシ尽くし(其の二十三)

 壱さんの“意志/言葉”を受け取ってから、シズさんが攻め込む。鋭く踏み込み、右の拳を壱さんの腹部に向かって放つ。

 壱さんはそれを対応した手でいなす。――いなそうとして、しかしその手は拳に触れることなく空を切った。体勢が崩れる。

 シズさんは腹部を狙った殴りで反応を釣り、転じて隙の生じた壱さんの“急所/聴覚/耳”へ左の掌を打ち込む。

 掌が迫るのを察知した壱さんは、体勢が崩れるのを利用して身を低くし回避する。そして体勢を戻す勢いを載せて、がら空きになっているシズさんの横っ腹へ拳を突き刺す。重い衝撃が、シズさんの身体を打ち抜く。

「――んぐっ」

 シズさんは苦悶の声を漏らし、身を折る。

 流れる動作で、壱さんは容赦なく追い討ちを仕掛ける。一時的に動きが停止したシズさんの、先ほど“急所/聴覚/耳”を打とうとした手腕を左の手でつかみ取り、手前に引く。そうして伸びた腕へ、体重を載せた右のヒジを打ち落とす。

「がはぁっ!」

 シズさんの腕が、ダメな方向に折れ曲がった。

 しかしシズさんは地に伏すことなく、奥歯を噛みしめて、動く。折れた腕をつかんでいる壱さんの手に、生きているほうの手をやる。

 ――だが、シズさんがそこから反攻に転じることはなかった。

 手に手が触れた瞬間、壱さんはつかんでいる折れた腕に“ひねる/ねじる”力を加えた。それによって生ずる“痛み”で、シズさんの行動を制す。

 シズさんは尋常ならざる精神力を発揮し、額に脂汗を噴出させつつも、堪える。

 ――が、壱さんがその“堪え”の隙を逃すことはなく。シズさんの足を払って体勢を崩し、後頭部へそえるようにして手をやり、押し倒す。

 受身を取れず、シズさんは頭から地面に突っ込んだ。生めいた鈍い音がした。

 ――静けさが訪れる。

 シズさんは地に伏して沈黙し、動かない。

「――っ」

 壱さんは張り詰めた緊張の意と解きほぐすように、

「はぁ……」

 深いところからひとつ息を吐いた。


 ――空に顔を向け、しばし黙す。

 そよ風が、嘆息するように流れた。



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