承/第十五話:ムシムシ尽くし(其の弐)
「まだ喰う気ぃですかアナタはっ!」
ヒトの生死に関わる問題を“そんなこと”呼ばわりして、夕食を所望するそのお方は、
「食事だってヒトの生死に関わる立派な命題――命に直接影響を及ぼす重要な事柄ですよ? 食べられるときに食べておかないと、次にいつ食事をいただけるともわからないのに。食べたいときに食べられる幸せを満喫しようとしてなにが悪いと言いますか? 常々思うことがありましたが、刀さんは食に対する考えが少々甘いところがありますよね。現在に至るまでは、幸運なことに水にも食にも困ることなく来ていますけれど、旅をしていれば飲まず喰わずで数日過ごすなんていうことは常であり、恵まれなければ死に至ることすら珍しくありません。おわかりですか? いまの私たちは罪深いほど幸福なのですよ?」
ものすごく真面目な表情で真剣におっしゃった。
うん。まあ、確かにその通りなのでしょうから否定はできないですけれど……
でも壱さんがなにを言いたいって、食わなきゃ損々ってことでしょう?
「自然の恵みと畜産農家と料理してくれる人に感謝しつつ、です」
飲み干したお茶のおかわりを注げ、と見せつけるように空の湯のみをズーズーすすりながら壱さんは付け加える。
つまりは“いただきます”と“ごちそうさま”が大切である、と言いたいのかなこのお人は。
なんてことを思いながら、壱さんの要求通りに空の湯のみへ茶を注いでいると、
「お風呂の準備が整いましたので、お夕食の前にいかがでございましょう?」
風呂桶のようなモノを胸の前で抱えたロエさんがご登場した。
がしかし彼女は、
「お着替えはこの中にありますから」
抱えてきた風呂桶を示し、それを条件反射で受け取りに動いたバツへ手渡すと、
「ツミさんは料理を手伝ってくださるので、バツさんは皆様とお風呂をすませてくださいませ、とのことです」
ツミさんからバツへの言伝を伝え、
「では夕食の準備がありますので」
と言い残して、早々にご退場してしまう。