転/第九十八話:(タイトル未定)
「なあ、にぃちゃん、ねぇちゃん」
いままでとは打って変わった真面目な表情で、レンくんが声をかけてきた。
「その、あの……」
「“刀さんと私に手を貸し、ここへ連れて来た理由”が現れた、ですか?」
言葉を選んでいるのか、なにか言い難そうにしているレンくんに、
「レンちゃん」
氷を「ぼりぼり、がりがり」と噛み砕きながら、壱さんがズバリ言った。
「ねぇちゃん、すごいな! どうしてわかったんだ?」
「いえ、わかったわけではないですよ。ただ、私が“つぼふり”をおこなっているとき、“なにかしでかそう”と様子をうかがっている気配が上、おそらく天井裏ですかね、そちらのほうからじんわりと感ぜられましてね。その気配の息づかい――まあ、存在感ですね。“それ”と、出会ったときのレンちゃんの存在感が、なんとなく似ていまして」
「すげぇ、バレてたのか!」
「そこから現在に至るまでの流れで予想がついた、と?」
壱さんがさらっとすごいことをおっしゃるものだから、うっかり口を挟んでしまった。
「それ以外に、もうひとつあります」
「ん? と、いうと?」
「先ほどの怒声と、とってもよく似ていたのですよ。同じと言ってよいくらいに」
壱さんは探る手をテーブルの上へと放ち、ササッスススッとその手を我が前方の皿へと伸ばし、そこに残ってあった焼き菓子をひょいとつまみ上げると、“それ”を自然な動作で己がお口へと運び、当然のように平然とかじりついた。そして、
「“つぼふり”の場で――」
ヒトの分の焼き菓子を、じつに美味しそうなお顔で喰らってくれながら、
「私が、最初にご挨拶した方のお声と」
これまたさらっと、すごいことをおっしゃりおった。
サムズアップするようなノリで、“ご挨拶”と握った拳をグンッと突き出して。