第一章魔王転生第六部
1年以上ぶりの投稿です。仕事やらなんやら忙しすぎて、そしてインターネットがなくなったりで投稿できませんでした。これからまた、ちょくちょく投稿していこうと思います。どうぞ、よろしくお願いします。
脱出経路は確認した。今しがた発射したミサイルは射線上の敵を木端微塵に吹き飛ばし、包囲中の敵軍に少なからず損害を与えている。その所々に包囲が薄くなっている個所があるのだ。
「脱出経路は二つ。一つは敵の騎馬隊が集中している個所。ここはすぐに埋められちまうだろうな……。それよりも……」
もう一つの退路、そこはオーバーロードが射出された砲陣地である。砲陣地ならば自らの手勢で防御を固めたとしてもその厚さには限界がある。その程度なら、マルガレッタを伴っていても突破することが可能だろう。それに……。
「弾数が回復してねぇ」
今回実験に失敗した次元転送装置をもってすれば、弾丸は無限に使用できたはずなのだ。しかしまだ何も回復しいないところをみると、おそらく本気で実験は失敗しているのだろう。しかも全面的に。
「ったく! 何も成功しちゃいねぇじゃねぇか!」
悪態をついたところで始まらない。唯一無限に使用できるものがあるとすれば、エネルギー系の武器だけだろう。それにしたって、すこしばかり休憩を入れないことには底をついてしまう。連続使用には耐えられないのだ。
そのことまで考えたら、実弾の使用は避けたいし時短で突破したい。
「やるっきゃねぇな。マルガレッタの御姫さん、ついてこれるな……って、今の格好じゃ無理かな?」
「何よ、これでも走るくらいできるわ!」
「いやぁ、速さの問題と走りやすさの問題を言ってるわけでな」
お嬢ちゃんのドレスでは走りにくいことこの上ないだろう。社交界では甚だ有効であろうこのゴスロリ風の姿も、陸上競技には適しちゃいない。着替えてもらわなくちゃならないことは、間違いない。
腰から大きな刀を抜き取り、それを構える。そしてマルガレッタに歩み寄った。
「な、何よ! 何するの?」
顔から見えるのは恐怖以外の何物でもない。マルガレッタは自分が殺されそうになる恐怖を知っていた。
「動くな」
目にも止まらない速さで太刀が振るわれる。しかしマルガレッタの体からは血も何も吹き出すことはなかった。床に落ちたのはバラバラになったドレスの布きれ。たかだか数ミリにも満たないドレス生地を、体を傷つけることなく切り裂いたのだ。ドレスが跡形もなく無くなったのち、マルガレッタの美しいからだが露わになる。白い雪のような色をした、細い体だ。胸のふくらみは成長途上の少女にしては大きく、それを意識しているのか彼女はすぐに目の前のそれを手で隠す。
「それで、私をどうしたいの?」
「どうするわけもねぇ。お前を助けろと言われた。約束は守る。だけど、お前があの格好だと守りきる自信はない。だから、さっさとこれに着替えろ」
オーバーロードは自分が撃ち殺した兵士から衣服を剥ぎ、マルガレッタに投げた。彼女は一瞬着ることを躊躇したが、
「早くしろ!」
怒鳴られて急ぎ服を着始める。その間にオーバーロードも人間の姿に戻り、死体の衣服をひん剥いた。少し小さいが、それを身に着ける。
「これもつけるんだな」
兜にたまったドロリとした血を振り落とし、マルガレッタにかぶせる。血でベトベトになるのを感じ、生臭いむせ返るような匂いに嘔吐する彼女だったが、その青白い顔が好都合だった。そこまでオーバーロードが考えていたかはわからない。
「おい! 大丈夫か!」
入ってきたのは同じ鎧を身に着けた兵士たちだ。彼らは血で染まった二人を見て、安否を確認しに近寄ってくる。
「あぁ、俺は大丈夫だ」
オーバーロードはハンドガンを構えて、兵士たちを瞬く間に撃ち殺す。
「何も殺さなくったって!」
「お前が殺されたいってんなら、話は別だ。でもそうはなりたくないだろう?」
まだ息がある一人を抱えあげ、オーバーロードは走り始める。
「ついてこい! 一気に走り抜けるぞ」
ケガをした歩兵を抱え上げ、マルガレッタとともに砲陣地に向けて走る。
「どうした!?」
所々で敵兵に声をかけられるが、あまり問題にはならない。
「負傷兵です! 安全な場所まで運びます!」
「中にはいったいどんな化け物がいるというのだ!? 先ほどから部隊がいくつも帰ってこない!」
「恐ろしい化け物です! 黒い、大きな化け物です!」
よくここまで嘘が出るもんだと、自分でも呆れるオーバーロードである。しかし彼はこの状況を楽しんでいた。
「むぅ……。さすがは魔王よ。えぇい、怯むな! 進めぇ!!」
(こいつが指揮官か……。覚えたぜ)
脳が認識し、それがシステムに記録される。これでこの男の顔を忘れることはない。いつでも殺せる。
だが、そんなのはいつでもいいことだ。
まずはマルガレッタの安全を確保することが重要だ。彼は、基本に忠実な男でもある。
再度城を攻める兵士たちから背を向け、砲陣地に向かう。そして砲陣地にたどり着くと、そのまま走り抜け、近くの森に身を潜めた。
「……これから、どうするの?」
ニヤリとオーバーロードが笑う。
「指揮官と砲陣地を全滅させる。あれだけの大砲だ。叩き潰せば、さぞ損害がでかいだろうよ」
この世界の軍隊がどのように構成されているかはわからない。しかし、一般的に大砲や銃などの兵器は高額だ。なぜなら、それを作るための資源もいるし、鍛冶師が作らなくてはならないから生産数も少ない。剣や槍に比べればどうしても高額になることが欠点だ。その大砲をこれだけ準備しているのだから、それは金持ちの国家が攻めてきているに違いない。それでも全滅は、人的にも金銭的にも、相手にかなりの被害を与えるはずなのだ。
「ここで大人しくしておきな」
黒い機械の体に身をまとい、オーバーロードは砲陣地に悠々と歩を進める。
「さて、そんじゃあ、全部平らげてやろうか!」
「いったいどういうことだ!? 敵はすでにいないだと?」
「城内には死体ばかりです。魔王の姿も確認できました!」
「娘の姿はどうした?」
「ありません! 現在も捜索中でございます」
「探せ! あの女を手に入れなければ、今回の戦に何の意味もないのだ!」
先ほどオーバーロードに声をかけてきた指揮官は、この作戦全体を指揮していた。彼はオーバーロード扮する負傷兵の情報を信じ、真に受けていた。部隊が進行するスピードは遅れ、さらに噂に恐れをなした兵士は城に入りたがらなかった。中でも勇気のある兵士が入り、魔王と呼ばれているこの国の王と他の使用人が死んでいるのを発見する。
それに彼が焦っているのは、それだけではない。
姫である、マルガレッタの存在だ。あの娘を手に入れなければならない。絶対に。
そうでなければ、今度は自分が危ないのだ。
そんな彼に、さらに追い打ちをかける事態が迫る。後方の砲陣地が爆発し、大きな黒煙と炎の柱が、天を焦がすように立ち上っている。
「な……何事だ!」
「敵の襲撃ですとも」
声の方向に体を向ける。そこには先ほど自分が情報を得た兵士が、黒い鎧に身を包んで禍々しい笑顔を浮かべている。
「貴様! 何者だ!」
「俺の名はオーバーロード。誰もがひれ伏す、絶対君主である」
「なんと? この世で全ての者がひれ伏し、敬愛するのは法皇様のみ。それに唾を吐くというか!」
「法皇? 俺の世界ではただの爺さんだったぜ? お前の世界ではどうなんだ? 若いのか、爺さんなのか、それとも赤ん坊か? 何だっていいや、俺は俺が一番であればそれでいいんだよ!」
顔が黒いフルフェイスに包まれ、赤い目がギラリと光る。そしてライフルを構えた。そこから青白い光が迸る。次の瞬間、指揮官の胸が撃ち抜かれ、彼は血を吐いた。
「呪文も唱えていないのに、魔術、だと?」
白目を剥いてこと切れた男が、それ以上しゃべることはなかった。
「隊長殿! あいつを討ち取れ!」
他の兵士たちが大挙して押し寄せるものの、オーバーロードにとっては何ほどのものでもない。しかしこれほどの量を相手にしていては、弾薬が問題だ。無駄に消費することはない。
「格好悪いが、ここはお茶を濁させてもらおうか」
雑魚相手に弾薬を使うのも惜しい。ここは煙幕でも食らってもらうことにしよう。
「そんじゃあな! せいぜい煙の中で右往左往してろ!」
真っ白が弾幕があたりを覆い、悲鳴と怒号が加わる。その間にオーバーロードはマルガレッタが待っている場所に舞い戻った。