第一章 魔王転生 第四部
マルガレッタとオーバーロードは、走りに走った。
何せ城は広い。しかも登り降りは全て階段と来たものだ。オーバーロードもそこが予測できないほど、浅はかではない。
だが、いつものエレベーターとやらが、いかに便利かは、思い知った。
あぁ。文明開化。
通路の脇から、敵兵が飛び出してくる。オーバーロードは、それにライフルを向け、軽々と撃ち倒した。
「さっきから敵兵ばかりだな。あんたのところの兵隊はどうした?」
「さぁね! 恐れをなして、逃げたんじゃない?」
マルガレッタの顔に、怒りと悔しさが混じった表情が浮かんだ。何か事情は複雑なようだ。
二人が到着したのは、まさに城の最上階だった。そこから外をみれば、この城を囲んでいる軍勢の規模がいかに大規模かわかる。
オーバーロードは、呟いた。
「こりゃあ、陥落するわ」
大砲の砲列に、攻城櫓の群れ。更に、イナゴのように迫ってくる歩兵たち。
城の陥落が目前なのは、明白だった。
「この奥よ」
マルガレッタが指差した扉は、半開きになっていた。その間をすり抜けるように入ると、これまた贅を尽くした、またはけばけばしさの限りを尽くした、きんきら金の部屋が現れる。
「どうも、この趣味にはついていけねぇ」
だが部屋の中は、荒らされており、装飾の殆どが破壊、またはなくなっていた。略奪にあったことは容易に判断できるが、恐らく中央付近で剣片手に倒れている男は、被害者なのだろう。
マルガレッタはその男を見て、叫ぶ。悲痛な声だった。
「お父様!」
どうやら、目の前の男が、マルガレッタの親父さんらしい。御姫さんの親父さんなのだから、多分彼が王様なんだろう。
マルガレッタは、父親に走りよる。
その後をオーバーロードが追い、共に抱き上げた。
「生体スキャン」
脈拍、心拍数、呼吸、全てが弱々しい。いわゆる、虫の息だ。
しかし男は、辛うじて、マルガレッタの姿を見た。薄く開かれた目の中で、瞳が動く。
「マルガレッタ、なぜ逃げていない…?」
「お父様、しっかりして。私一人で、一体どうすればいいのよ?」
オーバーロードは、目の前の光景を見て、悲痛な思いだった。悪の頭領なのに、意外に涙もろいこともあるのだ。
王は、マルガレッタに言った。
「私はもう、これまでだ。お前は一人で生きていかなければならない」
残酷で、冷徹な言葉だった。
そして、マルガレッタを急かすように、運命が敵兵をつれてくる。それでも、マルガレッタは動かない。
「行け、マルガレッタ。このわしの死を、無駄にしないでくれ」
王の声は懇願だった。マルガレッタの瞳から、涙がこぼれ落ちる。
「そこのお方、どこのどなたかは知らない。しかし、死ぬ間際の私に免じて、願いを聞いてくれないか?」
紛れもなく、その言葉はオーバーロードにむけられたものだ。
「聞こう」
オーバーロードも答える。この状況で、ダメだとはいえない。例え、脳みそが面倒くさいことになると、警鐘をならしていたとしても。
「私の娘を、守ってくれ。クブルの谷に行け。あそこにいけば、仲間がいる。難しいまもってくれるはずだ」
死にかけにしては力強く、王は言った。オーバーロードは、その言葉を刻み込む。
「わかった。送り届けよう」
「ありがとう。して、あなたの名前は?」
オーバーロードは答えた。力強く。
「オーバーロードだ。我が世界の言葉で、絶対君主を意味する」
王は安堵の笑みを浮かべた。そして、深く息を吐き出す。
それが、最後の呼吸だった。
「お父様、お父様!?」
王は動かない。
父親を呼び続けるマルガレッタを、オーバーロードは引き離す。
「行くぞ」
冷酷にいい放つ、オーバーロード。マルガレッタが睨み付けた。
「何よ!命令しないで!」
「俺の名前はオーバーロードだ。従ってもらう。親父さんの死を無駄にするな」
無理やりにマルガレッタを王の死体から引き離し、オーバーロードは歩き出した。