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第一章 魔王転生 第三部

オーバーロードが、今やるべきこと。


それは、この世界がどこかを調べることではなく、この城から脱出することだ。


城内は思ったよりも広く、迷路のようになっている。これは恐らく、敵の侵入時に時間を稼ぐための工夫だ。敵が迷えば、脱出に時間が稼げる。


そして、オーバーロードは、城の中で脱出経路を探すうちに、自分がおかれている状況が極めて危険なものだと判断した。


「こりゃ、ひでぇな」


阿鼻叫喚や地獄絵図とは、今彼の目の前に広がっているような光景をいう。


長い廊下に、幾多の死体が転がっていた。若い女性のものから、年老いた男のもの。兵士の死体も転がっていたが、圧倒的に多いのが使用人たちのものだった。


どれもが、鋭利な刃物で斬られている。


「サーモグラフィー作動」


倒れ付している人間の中に、生きている人間がいないか探る。体から発生する熱量が多ければ、まだ生きているかもしれない。


一人一人、確認しながら歩く。


すると、いた。もう死にかけてはいるが、一人だけ老いた男が生きている。服装からして、この城のバトラーかもしれない。


「おい、しっかりしろ」


男は虫の息だ。腹から血が流れており、鋭利な刃物で刺されたことは容易に想像できる。


男の口が動いた。


何か言いたいようだが、口から息が抜けるだけで、何を伝えたいのか分からない。


「あまり喋るな。傷に響く」


見ているだけで気の毒になるオーバーロードだった。悪の頭領なのに、気を使ってしまう。


しかし、目の前の男は、話すのをやめなかった。辛うじて、言葉を聞き取ることができる。


「ひめ…姫様をお助け…下さい」


絞り出すような懇願が、男の最後の言葉だった。それから息を大きく吐き出し、男は事切れた。どうしても最後の願いを伝えたかったのだろう。


目は大きく見開かれたままだった。


「姫様ねぇ。何か、頼まれちまったが、本当にここはどこなんだろうな」


姫様に聞けば分かるかもしれない。それに死に際に頼まれたこともある。


オーバーロードは律儀に老人の願いを聞き届けることにした。悪の頭領なのに。知り合いからは、あまり悪の頭領らしくないとは言われる。


しかし、オーバーロード的には、悪の頭領なのだから別にどう振る舞っても構わんだろう、くらいの気持ちでいるのだ。


唯我独尊ってやつですよ。


目の前には、大きな扉がある。これだけ大きければ、開けるのも数人がかりだろう。


その扉の向こう側から悲鳴が聞こえる。


オーバーロードは急いで扉を開け放つ。


開けたときに一人の騎士を扉とドアの間に挟んだが、気にしないことにした。


その騎士に襲われていたのか、美しい女性が床に座り込んでいた。部屋の装飾は豪華そのもので、赤やら金銀の装飾が目に痛い。


あぁ、原色の嵐。


「目の痛くなる部屋だな。ところで」


オーバーロードは床に座り込んでいる女性に、声をかける。女性は喪服のような、黒いドレスを身に付けていた。黒いドレスながらも可愛さを追及しているのか、スカートなどはフリフリだ。


女性は長い黒髪と、赤い瞳が印象的だ。


オーバーロードは思う。その服装がゴスロリ風でなければ、完璧なのに。と。


「あんたがお姫様?」


女性は頷きかけたが、慌ててオーバーロードの後ろを指す。


「後ろ!」


振り替えれば、さきほどサンドイッチにしてやった騎士が切りかかってくる。


剣の一撃をひらりと避けて、オーバーロードは思いきりストレートをお見舞いする。


「ファントムクラッシュ!」


ストレートが命中した瞬間、爆発したような音と衝撃波が部屋全体を揺らす。騎士は外壁をぶち破って、外に飛んでいった。


名前を叫ばなければ、技が発動しないのが難点だ。


「名前は?」


オーバーロードは、更に聞く。


「マルガレッタよ。マルガレッタ・ダブレ」


話せば気の強そうなお姫様だ。騎士を吹き飛ばしたのに、物怖じしない。


「私を犯そうとした騎士を倒したんだから、敵ではないみたいね」

「あんたを守るように、外の老人に頼まれた」

「じゃあお願い。私の願いを聞いて!」

マルガレッタは、唇をキュッと噛み、オーバーロードに懇願した。その表情から、何か切羽詰まった願いがあるのだろうとオーバーロードは察する。


「言ってみな」


どうせ乗り掛かった船だ。


マルガレッタは言った。


「お願い、お父様を助けてください!」


今度は親父かよ!


「あぁもう! わかったよ。案内しな!」


オーバーロードとマルガレッタは、部屋を出て走り出した。



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