第一章 魔王転生 第二部
「あっちぃ! あっちぃよ! この野郎!」
いかにオーバーロードといえど、熱いものは熱いらしい。大理石の床に刺さった体を引き抜き、水を求めて走り回る。
見れば、目の前に噴水があった。
「俺様って、超ラッキー!」
迷わずダイブした。この際、回りの目なんて関係ない。だって自分は悪の組織の頭領だから。
ジュワッ!
ダイブした場所から、熱い金属が冷やされる音と、鉄が精製されるときの荒々しい香りが漂う。ぼこぼこと水が沸き立ち、湯気が上がった。
「はっはぁ! 生き返ったぜ!」
水も滴るいい悪の頭領が現れた。ぶるぶると体をふって、水を払ったオーバーロードである。
ようやく落ち着いた目で辺りを見回せば、今彼のいる部屋が、天井が高く豪華な装飾を施されていることに気づく。
「どこの金持ちの家かね?」
あぁ、ブルジョアジー。
訳のわからないことを呟きつつ、先程自分が突っ込んできた壁の穴に気づく。結構な大穴で、オーバーロードはかなりの衝撃で突っ込んだのがわかる。
穴から見える外の光景は、オーバーロードの目を疑わせた。
どこまでも続く地平線と、真っ青な空。そのふたつが絶妙なコントラストを成し、なんとも美しい。日本の光景ではなく、少なくとも自宅からの光景ではない。
更に自分がいる建物は包囲されていることに気づく。
「ありゃあ、大砲か? それに攻城兵器か?」
言ってる間にも、大砲が火を吹いた。ほぼ同時にオーバーロードの部屋に、砲弾が飛び込んできた。
「俺が打ち出されたのは、あれかよ!」
まさかの砲口に転送されたオーバーロードだった。そしてそこから導き出される答えは、
「ドクめ! 失敗だぜ!」
自宅だよ!自宅に転送で失敗って、どういうこと!?
しかし、再び状況を確認するに、ここがどこなのかまったく検討がつかない。衛星にアクセスするも、結果は「圏外」だ。
その時、部屋に白銀の鎧を纏った男たちが飛び込んできた。口々に何かを叫んでいるが、まったく何を喋っているか分からなかった。
オーバーロードは、一つの機能を起動させる。
『言語変換機能作動。言語検索、言語不明。情報収集、開始』
オーバーロードについている機能は、強力な武器や強靭な装甲だけではない。情報収集能力に、情報解析能力も大きな特徴だ。言語変換機能は、相手の言葉を聞いて、それを直接脳に登録、相手の言葉を変換する。
多少時間はかかるが、すぐに話をできるようになるだろう。
騎士たちはオーバーロードを指差して、何か口々に言うが、全然理解できないオーバーロードである。
「もうちょい待て! まだわからん。話ができるようになりたきゃ、もっと喋れ!」
しかし、騎士は剣を抜いて斬りかかってきた。
「うわ、やめろ! あぶねぇ!」
剣くらいではオーバーロードは死なないし、傷つきもしない。剣は一刀目で歯こぼれを起こし、二刀目で折れた。
オーバーロードも黙っていない。
「いてぇな! この野郎!」
思いきり殴りつける!
騎士の鎧はベコベコにへこみ、衝撃で回転しながら吹っ飛んでいく。壁に激突した騎士はガクンと項垂れて動かなくなった。
その騒ぎを聞いて、仲間の騎士たちが部屋に入ってきた。数は10人以上いる。
この時には多少言葉がわかるようになっていた。
騎士たちの口からは、魔王という言葉や、魔王軍という言葉が聞こえてくる。一瞬ゲームの世界を想像するオーバーロードだが、相手から立ち上る殺気は本物だ。
どこかそれは、宿敵オーバージャスティスににていた。
だからオーバーロードは知っている。
こいつら、話してわかるやつじゃない。
こういう時はさっさと潰すべきだ。
「ビームガトリングキャノン!」
巨大な銃を向けて、引き金をひく。ビームの弾丸が騎士たちを貫き、絶命させる。
「こんなんがごろごろしてんのか? とにかく、探さなくちゃな」
話ができる人間を!
オーバーロードは城の中を足早に移動し始めた。