第一章 魔王転生 第一部
ドクがコーヒーをすすり、オーバーロードを呼び戻す方法を考えるのを諦めかけていたとき、当のオーバーロードは、まだオーバージャスティスとの揉み合いを続けていた。
「離さねぇか!」す
「離すもんか!」
「手をどけろって!このままついてきても、俺の家だぜ?」
「信じられるか、そんな話!」
いや、この時までオーバーロードは本気で行き先が自宅だと思い込んでいた。だからこそ、本気で反撃していたのだ。
ホワイトハウスだろうが、ペンタゴンだろうが構わん! 大統領を人質にとることや、機密文書を盗み出すことくらい、余裕でやってやる。
しかし、自宅はダメだ!
なぜならば…! アダルティなビデオが散乱しているから!
そして目の前の男はそんな光景をみたら、大手をふるって戦いの前の口上に使うだろう。
それは恥ずかしすぎる!
「この野郎! いい加減にしろ!」
オーバーロードは必死だった。アダルティなビデオを見られるかどうかにしても、この男は殺しておかねばならない。
それが悪の組織の頭領としてのつとめだ。
ジャコッ!
オーバーロードの肩口から、重々しい金属がした。オーバージャスティスはその正体をたしかめようとしたが、それを確認したのは、目の前にある銃口を見たときだった。
「ジェノサイドキャノン、ゼロ距離発射!」
銃口から、強力なエネルギーが吐き出される。
それがオーバージャスティスに直撃し、派手に吹き飛ばした。
「くっそ! 逃がさんぞ! オーバーロード!」
「うるせぇ! またいつでも会えるだろうが。ストーカーか!」
まだ何やらいっていたが、オーバージャスティスは光の中をでていった。
「これで、プライベートな空間は侵害されずに済むな…」
オーバーロードはデリカシーのないやつが嫌いだ。彼は彼のプライベートを楽しむ。例えば上質なハーブティーを飲むとか、そういうことだ。
だから、彼のプライベートを汚す、デリカシーのない男ナンバーワンをぶっちぎりの票数で独走しているオーバージャスティスは、絶対に部屋にはいれたくない。
「お、やっと出口か?」
前方に、白い光の輪が見えた。道はそこで途切れている。
眩い光がオーバーロードを包み込み、彼は時空転送の道を出た。
「あれ?」
出口は狭かった。
体を動かすだけのスペースもない。ごそごそと体を動かしてみるものの、やっぱり動かない。
目の前に外の光景が広がるが、それは見慣れない光景だった。
思う。少なくとも自分の部屋ではない。
あの、目の前に見える、城らしきものは、なんだろう?
「とにかく、ここから出ないと…」
だが、この時オーバーロードに選択肢はなかった。
突然、急激な衝撃が彼を襲う。更に灼熱の炎が体を包み、火の玉状態で空に飛び出した。
「ぬぉぉぉぉぉ!?」
気がつけば、城の壁がぐいぐい近づいてくる。何かを言う前に、オーバーロードは壁をぶち抜き、城の床に突き刺さった。
何だってんだ? 一体。
悪態のひとつもつきたい、オーバーロードだった。
そしてこの頃のドクも、困惑していた。彼の手には、丸いバスケットボール級の鉄の玉が抱えられていた。
「何、これ?」
再びドクは、コーヒーを啜った。今度は、暑い入れ直したやつだった。