第九話 洗濯板カムバック!
俺がハイディグレードに滞在するようになってから一週間ほどが経過した頃、セインも俺をそこそこ信用してくれるようになったのか、トイレに行く程度のことなら一人で出歩いても構わない扱いになっていた。
常時部屋の外に立っていた見張りも、寝る頃にはいなくなっていて、代わりに何故かセインがよく訪ねてくるようになっていた。
「それでな、もう一つ、今度は作物の方で違いを試してみたのじゃ。こっちも大成功したぞ! 小規模ではあるが畑一つ分を使っての実験に移行してみるつもりじゃ」
「そ、そうか……。分かったから落ち着け……」
鼻息荒く語りかけてくるセインはかなり興奮しているようで、俺の手を握ったままその手を胸に触れさせながら語りかけてくる。
非常に美味しい状況なのかもしれないが、やはり俺としてはぺったんの方が……ではなく!
「あのあのあのあの……セインさん……!?」
「ん? なんじゃ?」
「どうして俺は今ベッドに押し倒されているのでしょう?」
しまいにはセインが迫ってきて俺の方がベッドに押し倒されている。もちろんセインが上の状態で。
「ささやかなお礼のつもりじゃが? なんじゃ、不満か?」
「お礼と言いながらセインが攻め姿勢なのはいただけない」
俺も男だから押し倒されるよりは押し倒すほうが好みだ。
なので一応は必死で抵抗しているのだが、いかんせん力ずくで押さえつけられているのでビクともしない。 一体どういう腕力してやがるんだこの女。
「それは仕方がない。儂は王じゃからな。王は上から攻めるものと決まっておる」
「どんな決まりだ! お礼なんてしなくていいからとにかくどいてくれ!」
「むう。儂はタローをかなり気に入っておる。じゃから却下じゃ」
「うがー!」
かちゃかちゃとズボンを脱がそうとするセイン。しかし俺を押さえつける手がズボンを脱がす為に離れたのでその隙をついてセインを引き剥がそうとする。
「むう。往生際が悪いぞ、タロー」
「悪くもなるわ! このゴーカン魔!」
「仕方ないのう。まあこれはこれで面白いかもしれぬのう」
そう言いながらセインは懐から紐を取り出す。
紐! 一体何に使うつもりなのか考えたくもない!
「ほれ。あまり抵抗するでない」
「うわっ! 何やってんだ! これじゃあSMプレイじゃねえか!」
その紐で俺の両腕を縛り上げたセインはそのままベッドの柱にその紐をくくりつける。まんまSMプレイだ。これで鞭とロウソクがあれば新しい世界に目覚めさせられかねない。って目覚めてたまるか!
「やめろー! 俺はぺったん胸が好きなんだー! ぼいんは嫌だー! どうせ襲われるなら姫さまがいいのにー!!」
とにかく力ずくでの抵抗は無駄そうなのでこうやって叫ぶことくらいしか出来ない。せめて心的ダメージを与えてやる気を無くさせようという試みなのだが……
「………………」
その発言を耳にした途端、セインはぴたりと動きを止めた。
「……タロー。儂はそんなに魅力に欠けるかのう……」
そしてじわりと涙を滲ませて切なげに俺を見つめてくる。
「い、いや……魅力に欠けるというか、あくまで俺の好みの問題であって……」
いかにも演技臭いのだが、演技だと分かっているからこそ逆に萌えるから困る。こういうのはノリと感性でやられる一番堪える。
「つまりタローは儂のような無駄肉の多い身体よりも、ユーフェリア姫のような慎ましく引き締まった身体の方が好みだと、そう言いたいわけかえ?」
「そ、そう! その通り!」
でも客観的に見るならかなりのナイスバディだと思うから無駄肉とか言わないで。罪悪感に苛まれそうになるから。
「……何故じゃろうなぁ。途轍もなく犯罪ちっくな感じがするのは……」
「ほっとけ!」
どうせロリコンだよ! 小学生とか中学生にひそかに萌えつつも手出しは出来ない我慢人生だよ!
「というかだな! 簡単に身体を投げ出すんじゃない! もっと自分を大切にしろ!」
「ん?」
「いやだから。そういうのは心に決めた相手だけとするべきだろうっていうか……」
間違ってもロリコン野郎には言われたくないであろう正論を、俺はその場しのぎのためだけに吐いていた。
「つまり、女は貞淑であるべきじゃと?」
「そ、そう! だから俺なんかじゃなくてちゃんとした結婚相手とだな!」
「しかし性に開放的なのはハイディの国民性じゃからのう」
「最低な国民性だな!」
国民揃って淫乱属性かよ!
「というわけで儂は今からタローを襲う。これは決定事項じゃ。なあに、慣れればルディアの洗濯板よりもこっちの方が良くなってくるぞ」
「ぎゃあああああっっっっ!!」
「ほれほれ。儂のテクもなかなかのものじゃろう?」
そう言って俺の下半身をまさぐるセイン。
「なんの! 俺はロリ少女の手にしか発情しない!」
本当はすっげー気持ちいいのだがそこは矜持として耐え抜く覚悟だ。
覚悟なのだが。
「うあっ! ひゃっ! くうううっ!」
「ほれほれ~」
「ぐぐぐ……んくっ!」
その手の動きがエロく、しかも絶妙なので心が折れそうになる。強制的に快感が引き出されてしまう。
「ふっ。もうすぐ落ちると見た」
「お、落ちて……たまるか……! くぁっ!」
理性と快感と矜持の鬩ぎ合い。
頑張れ俺!
頑張れ息子!
ここを耐え抜かなければロリコン失格だぞ!
しかしセインは容赦なく俺から快感を引き出していく。
そして――
「ふっ。儂の勝利じゃな」
「………………」
具体的にどうなったかの表現は避けさせてもらうが、俺も、俺の息子もある意味でセインに敗北してしまったことだけはここに明記しておこう。
こうなるともう、俺は抵抗する気力を根こそぎ奪われてしまったようなものだ。
そして勝利を確信したセインはここぞとばかりに畳みかけてくる。完全に火照りきった身体にその指が容赦なく責め立てていく。
たふんたふんのおっぱいを顔面いっぱいに押しつけられながら、俺はセインに襲われるがままになってしまうのだった。
しかし最後のプライドとして、
「俺は洗濯板が大好きだーーーーっ!!」
最後の瞬間までこの主張を曲げることはなかった。
「うううううぅぅぅぅぅ……」
俺はセインに喰われてしまった後、ベッドの上ですすり泣いていた。
一方セインの方はと言うと、
「ふぅ~。ごちそうさまじゃのう」
などとつやつやのてかてか顔でのたまうた。
「く、屈辱だ……」
ロリ好きを信条としてきたこの俺が、よりにもよってぼいん女に喰われるなどあっていいはずがない。これは夢だ。夢に決まっている。誰か夢だと言ってくれぷりーず!
「そこまで落ち込まれるとさすがに傷つくのう。タローだってそれなりに気持ちよさそうだったではないか」
んふふ、と怪しげに笑うセイン。その表情はとんでもなく蠱惑的だ。
「だからよけいに落ち込んでるんだ! 何でこの俺がろりぺったんじゃなくてこんなぼいんぼいんにイカされなくっちゃならないんだ! 俺の息子は俺の信念を裏切ったんだ! これが落ち込まずにいられるか!」
「………………いやあ、それはそこまで堂々と主張することでもないような気がするのだがのう……」
「うるさーい!」
俺の涙ながらの主張は呆れという形で返されてしまう。それが余計に虚しくて悲しくて切ない。
「うう……こんなことになるんだったら姫さまをいただいとけば良かったぜ。還暦前のおっさんに喰われるくらいならいっそ俺が……」
「ベッドの中で他の女への未練を口にするとは男として最低じゃのう……」
「ゴーカン魔にそこまで気遣えるか!」
「仕方なかろう。食べたかったんじゃから」
「だからって無理矢理襲うな……むぐっ」
んて、と言い切る前に唇を塞がれる。
「むふぐぐぐぐっ!」
呼吸を塞がれ唾液がからまり、思考がエロ方向へと強制的に切り替えられる。
俺の好みは置いておくとして、セインのやつ、快感を引き出すことにかけては天才的なスキルの持ち主なのだ。気が付けば俺自身もセインの頭を引き寄せてから呼吸の貪り合いに溺れてしまっている。
悲しい男の性なのだ。気持ちよければ流されてしまうのだ。そこに気持ちはなくとも本能さえあれば抱けてしまうのだ。
分かっていても悲しすぎる。
俺の信条なんて所詮快感に流される程度のものなのか……
結局第二ラウンドにもつれ込んでしまうのだった。
「……幼女趣味といっても儂のような女も抱き慣れておる風ではないか。ええ?」
逆らう体力もすっかり搾り取られた後、ベッドの中で意地悪そうに問いかけてくるセイン。
「幼女趣味言うな!」
「違うのか?」
「せめて少女趣味と!」
「大差ない気がするがのう……」
「色々違うんだ」
分水嶺とかそのあたりがきっと違うはずだ。
「まあ本当に子供をいただくわけにもいかないし。だからといって男である以上どっかで処理しないといけないからな」
女性経験だけならそれなりにある方だと自負している。つーかこの歳になって童貞とかマジであり得ないから。
「じゃあそこまで落ち込む必要もなかろう? 儂が処理してやったと思えばよい」
「喰うと喰われるとじゃ大違いだ」
受け攻めはとても重要なのだ。主に心因的なものとして。
「んふふ。子供が出来たらきっちり責任とってもらおうかのう」
「襲ったんならともかくどうして襲われた側が責任を取らないといけないんだ!?」
「いやまあ、口実?」
「ぶっちゃけるな!」
どうやらかなり気に入られたらしい。俺としてはあまり歓迎できることではないのだが、だからといって好意を邪険に出来る性格でもないのがこの場合辛いところだ。しかも行為を先にやらかしてしまっているものだから尚更。
確かに内面の幼さとか、老人喋りとか、萌え要素はかなりあると思うのだが。それを差し引いてもその胸だけはいただけない。やっぱり胸はぺったんに限る。
「むう。タローが望むならぺったん胸になることもやぶさかではないぞ?」
「え? そんな事出来るのか!? どうやって!?」
確かにセインがぺったん胸になってくれるのならそれはそれで大歓迎ではある。
「そうじゃのう。まずは刃物で胸の肉を削ぎ落として……」
「やめて――っ! 痛いの反対! つーかえぐすぎるから勘弁して――っ! そんなことするくらいなら巨乳でいい! むしろ巨乳でいてっ!」
なんつー恐ろしいことを平気で言ってくれるのだろうこの女は!
想像しただけでちびりそうになるではないか!
「そうか! 巨乳がいいか!」
「『が』じゃなくて『で』だ! 巨乳『で』いいと言ったんだ! 勝手に人の言葉を改竄するな!」
「たった一文字じゃないかえ……」
「されど一文字だ!」
つーかどうして俺は一国の王とおっぱいについてここまで熱く語り合っているのだろう?
こんな事をしている場合ではないような……
そうそう。俺には戦争を止めるという姫さまとの約束が……
「そうだ。こんな事してる場合じゃねえって。姫さまの猫耳尻尾メイド服を堪能するためにも早く取引材料を見つけないと……」
ロリ萌えロリ萌えぺったん萌え!
びば洗濯板!
などと病的なコマンドを自分自身に入力しながら、俺は通常の思考回路に戻そうとするのだが……
「儂の前であの洗濯板の話をするでなーいっ!」
その前にセインの方がぶち切れた。
まあベッドの中で他の女の話をすればその反応も当然だろう。しかし俺が本来ロリ萌えでありセインよりも 姫さまの方が好みだと承知した上で襲いかかってきたのだからそれくらいは大目に見てくれないものだろうか。
「ええい! くらえ! 奥義・巨乳窒息楽園堕とし!」
「うぶぶぶっ!?」
ぶち切れたセインがその巨乳を俺の顔面に押しつけた上でさらに両手で寄せてくる。ぷにぷにした感触が顔面一杯に広がるのだが、本気で窒息させる気でやっているため気持ちいいどころの話ではなくなっている。
「ぐぐ、ぐるじい……」
「このまま落ちてしまえ! 儂のおっぱいなしでは生きていけなくしてくれるわーっ!」
「うぶぶぶぶ……!」
むしろお前のおっぱいで死にそうになってます! ライブで小ピンチリアルで窒息死寸前!
「………………ぐ」
こうして俺はおっぱいで気絶させられるという、人生初体験を果たしたのだった。