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第七話 愛は地球を救わなくともリサイクルは国を救う!

「改めて礼を言いたい。あの時は助けてくれて感謝する」

 二人きりになってすぐに、カグラはあの時の礼を言ってきた。

「いや。それはいいんだけどさ。意外と狙い通りの展開になったし」

「……やはりあの時オレを助けたのは、ハイディグレードとの繋がりを作るためか」

 納得したような、感心したような態度で頷くカグラ。純粋な善意でない方が、むしろ信用できるということらしい。

「まあな。俺のプランは話し合いと相互理解が大前提にあるからさ。まずは敵でも味方でもない関係を作りたかった。カグラは俺のことを信用する必要はないし、ましてや守る必要もない。ただ自分たちの利益のために協力してくれればそれでいい」

「……なんだか人情の欠片もない物言いだな。実質的ではあるが」

「俺の世界ではこういうのをビジネスライクって言うんだよ」

「びじね……?」

「あー、まあ気にしなくていい。この世界では恐らく使われない単語だ」

 ジェネレーションギャップならぬワールドギャップを感じつつも、まだ首を傾げて考え込んでいるカグラがなんだか微笑ましかった。

「タロー、でいいんだよな」

「ああ。間違っても勇者とは呼んでくれるな」

「どうでもいい疑問なんだが、何故勇者と呼ばれるのが嫌なんだ?」

「……ちょっと考えれば分かりそうなものなんだがな」

「?」

 カグラは首を傾げる。ちょっと考えてもかなり考えても分からないらしい。仕方ないので説明してやることにした。

「俺は今現在三十二歳だ」

「……そうなのか。もう少し若いと思っていた」

「……まあ日本人は基本的に童顔らしいからな」

 そんな事はどうでもいい。

「俺の世界では『勇者』というのは十代前半から後半までの『少年』を示して呼ぶ場合が多いんだよ」

「そ、そうなのか……」

「そう!」

 ……まあそれも二次元限定ではあるのだが。

「つまりだな。俺の中にある常識では『勇者』とはそういう『若い世代の専売特許』なんだよ。それが三十路を越えてそんな風に呼ばれてみろ! 精神的なダメージがぱないんだ! つーか自分がすげーイタい存在に思えてきて辛いんだよ!」

「あ、ああ……」

「つーか武力皆無な俺がなんで武力の象徴である『勇者』なんて呼ばれなきゃならないんだよ! あり得ないだろ! マジであり得ないだろ!! もっかい言うけどあり得ないだろ!!」

「わ、分かった。分かったから落ち着け……」

 溜まりに溜まった鬱憤を都合良くぶちまけた俺に対して、カグラは若干引いている。いや、むしろドン引きしている。しかしこいつにしかぶちまけられそうになかったので仕方がない。姫さま相手にぶちまけたら泣かれそうだし、サイラス相手にぶちまけたところでガン無視されるのが関の山だろう。こうやってまともに対応してくれて、なおかつ宥めてくれるような奴は今のところこいつだけだと思う。命を救われた分、負い目があることも勿論計算済みだ。


「カグラは千人隊長だっけ? それって偉いのか?」

 千人を束ねる隊長ということぐらいは想像が付くのだが、如何せん軍人経験がない俺にはそれがどの程度の役職なのかが全く想像が付かない。

「軍人としてはそこそこの地位だ。一応陛下の副官を務めている」

「それってかなり偉いんじゃ……」

 ……軍事ではナンバーワン、国でも恐らくナンバーツーくらいなのではなかろうか。いやまあ他にも政治面とか色々役職がありそうだけど。

「つーかそんな奴があんなところで傷を負ってたのかよ」

「ほっとけ。オレは前線で戦うタイプの指揮官なんだよ。指示だけ出して後ろでふんぞり返るとか性に合わん」

「………………」

 誰だこいつを指揮官にした奴は。絶対に人選ミスだぞ。

「じゃあ何だ? あの時は指揮官のクセに調子に乗って最前線まで暴走した挙げ句に大怪我してへたりこんでたって訳か? 間抜けにもほどがあるだろ」

「やかましいわ! 別に暴走していた訳じゃない。予め敵陣営に入り込んでから内側から陣形を崩していくという高度な作戦だったんだ! ただちょっとヘマしただけじゃないか!」

「ちょっとヘマしただけで死にかけてたんだからやっぱり間抜けじゃねえか」

「うぐっ!」

 作戦そのものは悪くない気がするが、それでも結果がこれではただの阿呆だ。

 それにしてもこいつ、意外と愛嬌があるなあ。顔はゴツいクセに。……いや、ゴツいからこそ間抜けた部分に愛嬌を感じるのかもしれないけど。

「それよりもこの国のことが知りたいのだろう? 案内してやるから付いてこい」

「お、おう」

 強引に話題を逸らされた気がするが、これから世話になる相手をこれ以上虐めても仕方がないので黙って従うことにする。

 楽しいひとときは終了、ここから先はお仕事タイムだ。


 決して豪華とは言えない城を出てから、俺とカグラはハイディグレードの中を歩き回る。真っ先に目に付いたのは畑の様子だった。少しでも食糧を得るために土地の許容面積ギリギリまで使って作物を育てているのだが、それでも満足な実りには繋がっていない。土から出ている緑の先は、頼りない細さでしかない。あれでは食べ物の質もかなり落ちているだろう。

「聞いてはいたけど、本当に酷い有様だな」

「ああ。作物の実りは年々減ってきている。このままでは不毛の土地となるのも時間の問題だろう」

「そもそも土を何とかしろよ。作物を育て続けたら土の成分が枯渇していくのは当然だろ。たまには畑を休ませるとか、色々あるだろ」

「何故畑を休ませなければならない。ただでさえ食べ物が足りてないのだから出来るだけ畑を利用するのは当然だろう」

「………………」

 この世界には農法という概念は存在していないらしい。

「あのな、土っていうのは作物を育てるための栄養分に満ちているかもしれないが、それは無限じゃないんだぞ。育てれば育てるほどに栄養分は減っていく。手入れもしないまま作物を育て続ければ土地が痩せていくのは当たり前だろうが」

「タローの言っていることはよく分からない」

「だああ! だから人間だって休まずに働き続けたらぶっ倒れるだろ! それは土地にも同じ事が言えるんだよ!」

「なぬ!? では育てれば育てるほど土地は駄目になっていくということか!?」

「そうだよ。ルディアだって余った食糧を堆肥還元してるから土地が痩せないですんでいるんだ。それが出来ないのなら土地を休ませて自然回復させるしかない」

「む……。しかしそのような余裕はないぞ」

「そりゃ見れば分かる。しかし今のままだったらそう遠くないうちに草一本生えなくなるぞ」

「うぐぐ。ど、どうすればいいと思う?」

「いや、だから土地を休ませ……」

「無理だ」

「即答すんな」

「しかし現実問題、食糧が足りていない」

「…………じゃあ堆肥だな。それぞれの家庭で発生する生ゴミを集めて乾燥させてからバケツに……ってそれじゃあ規模が知れてるな。いっそ畑に直接ぶちこむってのもアリか。まあ多少は臭うかもしれんがそれでも土地が枯れたままよりはマシだろう。あとは腐葉土をどこかから持って来られればいいんだが……いや。そこはルディアに協力させるか。あの土地なら腐葉土くらいいくらでも手に入りそうだ」

「生ゴミ……? そんなもので本当に土地が潤うのか?」

「まあ信じなくてもいいけどさ。どうせこれ以上は悪くならないんだから一部の畑で試してみるくらいはいいんじゃないか?」

「……確かに。物は試しか」

「そうそう。あとは貝殻があればいいんだが」

「貝殻?」

「そう。えーと、確か昔テレビでやってたのを観たんだが……なんだったかな。ええと、あ、そうそう。『貝殻焼成カルシウム』だ」

「?」

 年々不味くなっていく市販の野菜に嫌気が差して、ちょっと家庭菜園に手を出してみようかななどと思った時に見た番組だ。

 大家の趣味でアパートの屋上は家庭菜園エリアになっているのだ。だから俺もそこに便乗させてもらうことにした。最近まではスタンダードな野菜は全て屋上の家庭菜園で育てた物を食している。これが意外とうまい。

 その際にちょっとだけ参考にした番組がそれだ。

 ホタテの貝殻を長時間焼いてから粉状にして、それから水を混ぜるのだったか。とにかく俺が購入したのはすでに完成された貝殻焼成カルシウムだったので詳しいことはうろ覚えだ。

「……海が近いから貝殻を手に入れるのは簡単だが、本当にそんな事で?」

「さあな。俺も専門家じゃないから断言はできないよ。ただ生ゴミや貝殻を集めて消費したところで大した損失があるわけでもないだろ? だったら試してみてもいいんじゃないか?」

「うむむ」

「だが効果が出るまでに結構掛かるだろうから年単位の計画でやったほうがいいな」

「どれくらいの期間で現れるんだ?」

「さあ。俺も詳しくは知らない」

「知らないのかよ!」

「言っただろ。専門じゃないんだよ。俺のはあくまで素人知識の延長なんだから」

「む……」

 早いものなら一か月くらいで効果が現れるだろうが、一年かかる場合もあるかもしれない。何せ規模が違う。土壌改良は時間を掛けてじっくりやるのが一番無理がなくていい。

 昔の人間はそれこそ排泄物を利用していたらしいがさすがにそれは勧められない。だって食べ物を育てるのにう○こを使うのはちょっと抵抗があるし。う○こで育てた物を食卓に出されるのはさすがに嫌だ。

「まあ最低でも一か月はその土地を休めろ。その間にさっきの方法を試してみるんだな。それから作物を育ててみて、違いを確かめてみればいいだろう」

「まあ、陛下には進言してみるが」

 これで畑の方の問題は大丈夫だろう。効果が出る頃には俺も元の世界に戻っているだろうが、それでもちょっとした助けになれるのなら何よりだ。

「しかし一度利用したものを再び使うという考え方は新鮮だな」

「そうか? 俺の世界ではかなり一般的な考え方だけどな。リサイクルっていうんだ。資源っていうのは限られてるんだから一度使ったものをそのまま廃棄してたらあっという間に世界が干上がってしまう。使えるものは何度でも使う。塵になるまで使い倒すのが理想的だな」

 愛は地球を救わなくとも、リサイクルは立派に地球を救っていると思う。救うというよりは延命措置って感じではあるけれど。今も世界は破滅への階段を上り続けている。それは止めようのない加速装置のようなもので、俺たちは今も昔も緩やかな破滅へと向かっているのだろう。この『ファランクス』もいずれそういう消費文明に追いつく時がやって来るのかもしれないが、それはまだまだ先の話だろう。だったら今は少しだけ文明加速の手伝いをしてやりたい。少なくとも、それによって多くの人間を救うことが出来るのだから。


 次にやってきたのは練兵所。

 多くの兵士がここで訓練を積んでいる。

「ここにいるのでほとんどか?」

 訓練している兵士を眺めながらカグラに訊いてみる。

「いや。半数ほどだ。休暇を与えている人間もいるし、狩りに出しているのもいる」

「狩り?」

「山の中だ。狩りで得られる猛獣は貴重な肉だからな」

「猛獣って……」

「オレ達は本来狩猟民族だ。人間相手よりも獣相手の方が戦い慣れているのさ」

「なるほどねぇ……」

 原始人かよ……。銛とか弓とかで猛獣を仕留める姿が連想される。いや、まあ人間よりも獣の方が遥かに強力なのだから貴重な訓練にもなるだろうけどさ。

「あっちは模擬戦か」

 チームに分かれて戦い始めたグループに視線を移す。

「すげえな」

 素人目にも統率が取れているのがよく分かる。動きに無駄がないし、突撃の際の行動も相手の弱点となる地点へと直接的に行えている。

 適切な指示と効率的な訓練、それがこの練度の高さを保っているのだろう。

「人間相手に限らず、オレ達の歴史は戦いの歴史だからな。こと戦闘に関しては周辺諸国に遅れを取るつもりはない。兵士の数は少なくともそれを最大効率で生かせる戦術や戦技をハイディ族は身に付けている」

「うーん。さっぱり分からん。でも多分すごいことなんだろうな」

「説明が虚しくなるような対応をするな」

「仕方ないだろ。素人なんだから」

「………………」

「しかし、戦闘技術か……ふむ……」

 ハイディ族の戦闘技術の高さはやはり他の国よりも抜きんでているのだろう。優れた技術と確かな経験。

 対価として考えるならこの辺りを活かすのが無難なのかもしれないな。


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