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第2話:仕事

あれからリーゼは病気が治って以来どんどんと身体が良くなり、今ではボクを連れ回すぐらいに元気になっていた。


ボクの知っているリーゼとは違うけど、ボクを手を引っ張るリーゼの手は確かに温かかった。


「エテルナ、私と兄さんと三人で世界を回りましょう」


リーゼはエノクさんと一緒に世界を転々としていた。


何でもこの死にかけた世界の中でまだ瑞々しい自然の香りを漂わせる楽園を探し出したいらしい。


「きっとまだ綺麗なお花が咲いている場所があるはず、そこで私はお花畑を作るの。それで砂まみれになった世界を花で一杯にしてあげるのよ」


リーゼの声はボクの知っているリーゼととてもよく似ていた。


だからなのかリーゼの語る夢がより一層心地よく聞こえてくる。


リーゼの言うようにこの世界が綺麗なお花で一杯になったらどんなに素敵なことなんだろうか。


ボクはリーゼが熱く語る夢をただ聞いて頷いた。


そんなボクに気を良くしたのかリーゼが抱き締めてくる。


「改めてありがとう、エテルナ。夢を再び見れるようになったのは君のお陰よ」


リーゼのお礼にボクはむず痒くなってしまう。


ボクは本当は救うかどうか迷っていたんだ。


それがボクの大切な人と同じ声と名前だったことから助けただけ。


だから感謝される必要が無いんだ。


「それでも君は私を助けてくれたわ。君の大切な人にも感謝しないとね。私とその人が似ていたから助けてくれたんだし…」


リーゼはそう言ってボクの身体をより強く抱き締めくれる。


暖かい胸だった。


心地よい匂いだった。


これが出会いなんだなとボクはしみじみと思った。








ボクはエノクさんとリーゼの三人で旅をすることに決めた。


リーゼが言う楽園にボクも行ってみたいと思ったからだ。


「エテルナ君、本当に良いのですか?」


エノクさんが申し訳なさそうにボクに聞いてくる。


ボクがリーゼの我が儘に振り回されているのだと思っているのかも知れない。


だけど、ボクは付いていきたいと思ったんだ。


何の宛もなく世界を回るよりは何かの目的を持って回った方がやりがいがある。


それに一緒に旅した方が寂しくなくて楽しい。


「そうか。なら改めて宜しく。エテルナ君」


エノクさんはボクの手を握ってくる。


これは信頼の証を示す行為だった。


ボクはエノクさんの手を握り返していく。


人と触れ合うのはやっぱり心地良い。


「私も宜しくね、エテルナ」


ボクとエノクさんの手に柔らかいものが包み込んでくる。


リーゼの手がボクとエノクさんの手を包んでくれてるんだ。


「さあ、行くわよ!私達の失われた楽園を目指して!」


リーゼがボクとエノクさんの手を引っ張って歩き出していく。


ボクは久しぶりにワクワクする気持ちになることが出来た。











ボクとリーゼとエノクさんは楽園を目指して歩き続ける。


歩いている内に沢山の人の声が聞こえる場所に着いていた。


町の中に入ってたようだ。


元気な声が沢山響いてくる。


滅びかけている世界の中でも懸命に働いて生きている人達がまだいるんだ。


ボクは顔にエノクさんから貰ったお面を被らせて貰っていた。


このお面は世界に蔓延する死の灰から身を守るためのものらしい。


「しかし、そろそろお金が尽きる頃だ。また何処かで仕事口を探さなければならない」


エノクさんは仮面を被っているためか篭もったような声で今後の方針について言ってくる。


リーゼとエノクさんにはまだボクの身体の秘密は言ってないけど、ボクの場合は飢えることが無いのでお金を儲けなくても生きていける。


けど、リーゼとエノクさんはそうはいかない。


何とか働いてお金を儲けるための仕事を探さないといけないんだ。


どうしようかとボクが悩んでいたときにリーゼの朗らかな声が響いてくる。


「エテルナの力で病に苦しんでいる人を助けることでお金を儲ければ…」


「リーゼ!」


リーゼの提案にエノクさんがきつい声で黙らせてくる。


いつも優しいエノクさんの怒った声を聞くのは初めてで少し恐かった。


「エテルナ君の力は私達の間だけで留めると約束しただろう。忘れたのか?」


「だけど、みすみす救える命があるんだったら助けた方がいいじゃない!」


ボクのことでエノクさんとリーゼが言い争っている。


リーゼはボクの力で病気で困ってる人を助けることでお金儲けしようと考えているようだ。


だけど、ボクは前に神様のように崇められてしまって嫌な思いをしたこともあってか、リーゼの提案が受け入れられなかった。


「いいかい、リーゼ。どんなに素晴らしい力を持っても救えない命はあるんだ。それにエテルナ君の力はこの世界では異端と言ってもいい。もし、狩猟者に見つかったら身売りされてしまう羽目になってしまうことになる」


「だけど…」


リーゼはどこか縋るような声を出していた。


それはボクに向けてのものだったのだろうか。


リーゼがボクの方を見ているように感じてくる。


「私もエテルナ君の力に目を付けてお前を救うように頼んだ。だから、お前の気持ちも分からないでもない。だが、一番苦しむのはエテルナ君なんだ」


エノクさんはボクの気持ちを考えて言ってくれている。


だけど、リーゼもリーゼなりにボク達のことを考えて言ってくれてるんだ。


ボクはリーゼがお金儲けのためにボクを利用しようとしてるなんてこれっぽっちも思ってない。


多分、リーゼは病気が治ることで自分と同じように夢を持って生きて欲しいと願ってるんだろう。


だってリーゼは病気が治ったことで元気になってボクに素敵な夢を語ってくれたのだから。


だからボクは決心する。


リーゼの提案を受けようと思う。


「エテルナ!」


ボクの頭がリーゼの身体に包まれていく。


感激の余り抱きついてきたんだ。


「いいのかい、エテルナ君?」


リーゼに抱きつかれているボクにエノクさんは心配そうに声をかけてくれる。


確かに前みたいに神様のように崇められたら恐いかもしれないけど、今度はエノクさんとリーゼが付いているんだ。


少なくとも前みたいに一人なんかじゃない。


「大丈夫、エテルナの力を悪用させないように私が守るから!」


リーゼはボクを安心させるように優しく抱き締めてくれる。


やっぱりリーゼはどこかボクの知ってるリーゼと少し似ているように感じた。


この温もりを手放したくない。


もっと一緒にいたい。


「エテルナ?」


ボクはリーゼの腰に両手を回してしがみつく。


リーゼの身体が震えてきてる。


ボクの突然の行動に戸惑ってるんだろうか。


だけど、何故か離したくなかった。


「やっぱり兄さんの言う通り、止めることにするわ。ごめんね、エテルナ…」


リーゼがいきなりボクにやらなくてもいいと言ってくれた。


せっかく決心したのに何で止めたんだろうか。


「確かに助けたいと思う気持ちはあるわ。だけど、そのためにエテルナに無理をさせることなんて出来ない。それが分かったの…」


リーゼはボクの頭を慈しむように撫でてくれる。


まるでお母さんみたいだ。


「綺麗事かもしれないけど、私はエテルナを金儲けために利用するなんてことをしたくなくなったの。だってこんなにも君は可愛いのだから。頑張って仕事を見つけましょう」


「それが賢明だ。過ぎたる力を濫用すれば必ず災いを引き寄せることになる。結果、より多くの命を散らすことにも繋がりかねないからね」


エノクさんはボクの力を思ったよりも深く見ているようだった。


確かにボクの力は使い所を間違えたら沢山の人達を傷つけることになってしまう。


それはもう痛いほどに経験したことだ。


結局、ボク達は地道に仕事を見つけることにした。









その後、ボク達はエノクさんが見つけてくれた仕事で飲み屋で食べ物を配ることでお金儲けをすることになった。


ボクは何故か女の人が着る服を着せられ、足下が寒くて辛かった。


だけど、お客さん達はそんなボクを笑って歓迎してくれる。


店長さんもお金を沢山出すからその姿のままでいてとお願いしたのでボクは女の服を着て仕事をしていく。


少しでも多くお金を儲けるためだったら足下が寒くても我慢しないといけない。


リーゼとエノクさんのためにもボクは一生懸命仕事を頑張っていった。

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