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中の中

 学校は学問や一般教養を習うんだ。そう父は小学生の僕に言った。しかし現実とは、または小学生とは実に純粋無垢で、その分残酷である。

 キッカケはそう、あるクラスメイトと接したこと。たまたま前を走っていた彼が転倒し、危うく巻き込まれるところを回避する。その時の僕はすぐさま転倒した彼に駆け寄り介抱をした。しかし、それがすべての始まりだった。


 初めは物がなくなった。鉛筆が一本、自由帳が一冊。教科書が引き出しから半分。上履きが…始めは気のせいだと思っていた。自由帳辺りまでは『自分が忘れたんだろう』そう、思っていた。しかし教科書からは明らかに意図してやられたと感じた。先生に報告し、最終的に校庭の花壇に突き立ててあった。ご丁寧に水やりもされて。


 次に精神的なところ、まずは聞こえるように悪口を言われた。反応して反論すると、彼らは無邪気に笑いながら逃げた。次にトイレを覗かれる。女子同士でおふざけの範囲では耳にしたことがあるが、まさか男子の僕がやられるとは… 先生に報告し、犯人はすぐさま指導室に連れていかれた。が、出てきた彼はヘラヘラと笑っており、僕と目が合うと不敵な笑みを浮かべた。


 小学…3? 年だったと思う。彼を助けたのはその頃だろうか、持久走を行っていた。走っていると集団で囲まれ足をかけられ転倒し、結果出血する程の怪我をした。先生が丁度見ていない、巧妙なタイミングであった。その才を何かに生かせなかったのが残念だが…


 ともかくそれはエスカレートしていった。小学6年生、ドッジボールに参加した時の事だったと、思う。内野は相手一人、こちらは二人、当然狙われるのは僕。背が低く、小柄な僕でも避け続ければいずれ予測投げやフェイントで当たる。


 事件はその時起こった。チームメイトが当たった瞬間、

「よっしゃあ!」

 味方が喜んだのである。当時の僕は相当精神に来ていて、それでいて敏感になっていた。過剰なまでに。咄嗟に彼に掴みかかり、詰め寄った。何をするわけでもなかったが、味方にアウト宣告を喜ばれ反射的に掴みかかってしまった。


 敵味方の外野内野すべての人間が、たちまち僕たちを引きはがす。そして僕を押し倒し、ボールを顔面にぶつけ蹴りを容赦なく叩き込んできたのだ。もちろんそういう悪戯をした奴らも居たが、状況を理解しておらず、ただ同調して蹴りを入れていたと告白して許しを請いに来た奴もいた。


「くっ…」

 砂交じりの唾を飲み込み、よろよろと立ち上がる。目の前には、談笑しながらボールを置いて帰る集団が見えた。まるで「お前が片付けろ」と、言わんばかりに。ボールを見る視界が、徐々に狭まり、どす黒い感情が僕を支配する。やれ、やれと。


 しかしその感情と状態は始業のチャイムで現実に引き戻される。この頃には先生も見て見ぬフリをし、犯人捜しも形式上やるだけになっていた。僕は転校、引っ越しを選択した。証拠を持って、親を説得して、教育委員会に行って。やっとそれは、虐めは白日の下となった。全員が実名報道され、教師は懲戒処分を受け、関わった教職員も懲戒処分を受けることになり、学校の先生はほぼ一掃されたと引っ越す直前に聞いた。


 それでも心に残った傷は消えない。例えどんな仲のいい人が出来ても、そもそも僕以外は人間なのか? 人間の定義は? 奴らはなんだ? そう思うと自然と人と関わらない道を選んだ。中学の席は名前順、机はほぼ教室の真ん中に位置した。僕は周りの奴らを座ったら机に伏せ、周囲を警戒するかのように睨みつける。二度とやられるもんか。自然と周りの、転校先のクラスの奴らは僕と距離を置いた。


 高校には進学しなかった。VRが普及した今、それで配信するのはいとも簡単だった。お年玉や色々して貯めたお金でゴーグルとコントローラー、PCを買った。VRの世界のアバター、PCで自分で独学で作成しそれなりに自分に似せたものを作った。それから毎日、ひたすら配信をした。


 時には音ゲー、またはFPS。配信は全て無言で行い、ゲームの待機ロビーなどでは常に周りを睨んでいた。配信は順調に伸び、時にはランキングにも乗ったりした。ネット掲示板には、

「無言配信者がランキング100に乗った!?」

 などのスレッドが立てられ、中の人特定などの検証が行われた。だが、まさかアバターが本人に似せてあるという発想がある人は少なく、特定スレは次第に閑散とし静かに流れて行った。


 そんな僕にも唯一の救いがあった。同じ無言配信者でたまたまマッチングが重なった女性アバターの”みりん”というアカウント名。年齢は少なくとも年上、としか情報がない。彼女もまた、マッチングの間周囲を睨んでいた。睨み合う同士、目が合った。そこからチャットでやり取りが始まった。


 彼女も曰く、虐められたとのこと。詳しくは聞かなかったが、聞いた限りではかなり陰湿なものであったのは確かだ。僕もありったけをチャットで話し、心の傷を癒したかった。しかし物理的に開いたお互いの穴は消えない。結局は傷の舐め合いにしかならなかった。


 そしてある日を境に彼女は配信をしなくなった。二度と現れなかった。また独り、それからは配信する意欲を失い、VRの広場でひたすら行きかうプレイヤーを睨み回すようになった。現実は配信の時に貰ったお金、夜間警備で手に入れたお金で家も一人で暮らすために親に言わず引っ越した。


 孤独、それは人を追い詰めいつしか破滅へと導く。僕も、彼女も。世界のどこかの誰かも。そこへ導いた者はいつか同じことを受ける。運命の確率はやがて収束し、また拡散してゆく。僕らはそれを決めることはできないし、きっと神様がいるなら、それを見て楽しんでいるのかもしれない。



 日記にはそう書き記した。気が付けば午後10時を少し回っている。

「時間か」

 今日も警備のために身支度をする。そして部屋を出る前、中を睥睨する。等身大のぬいぐるみやVRゴーグルセット、70万くらいした箱型PC。寝室に積みあがった段ボールが一瞥し仕事へ向かった。

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