詩小説へのはるかな道 第83話 はずかしいけれど伝えたい
原詩: はずかしくて言えない
はずかしくて言えないことが
胸の奥で
小さく咳をしています
言えば
たぶん
あなたは笑うだろうし
わたしもつられて笑うでしょう
けれど
言葉にした途端
そのぬくもりが
どこかへ逃げてしまいそうで
だから
今日も
黙ったまま
あなたの横顔を見ている
言えないことほど
人をやさしくする
そんな気がして
わたしは
もう少し
この沈黙を
抱きしめています
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詩小説: はずかしいけれど伝えたい
毎朝、同じ時間の同じ車両、同じ場所に彼女が立っています。
ただそれだけのことなのに、僕の味気ない一日は、ほんの少しだけ鮮やかに色づきます。
ある日、電車が鋭い音を立てて急停車しました。
よろけた彼女を反射的に支えると、僕の腕を細い指がそっと掴みました。
「ありがとう」 その一言だけで、胸の奥が熱くなりました。
言葉を返そうとしましたが、喉が引き攣れて声になりません。
僕はただ、不器用に頷くことしかできませんでした。
それ以来、僕たちは小さな会釈するようになりました。
「おはよう」
「今日も冷えますね」
「その本、僕も好きなんです」
伝えたい言葉はいくつもあるのに、僕の唇は頑なに閉ざされたままでした。
もし言葉にしてしまったら、この朝の柔らかな魔法が解けて、ただの他人に戻ってしまうのではないか。
そんな臆病な風が、いつも僕の胸を通り抜けていくのです。
季節が巡り、車窓の景色が桜色から深い緑へと塗り替えられた頃、 彼女がめくる文庫本に見慣れない栞が挟まれているのに気づきました。
それは今日の僕のネクタイと同じブルー。
ふいに、彼女が顔を上げました。
視線が絡まります。
彼女の唇が、音もなく動きました。
「……待ってるんですよ」
電車のブレーキ音が響き、ドアが開きました。
人波に押されるように降りていく彼女の背中を見送りながら、僕は心を決めました。
明日の朝こそ、この静寂にピリオドを打とう。
「ありがとう」の、その先にある言葉を僕自身の声で伝えるために。
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わたしの詩小説をもとにAI君が詠んだ連作短歌です。
連作短歌:はずかしいけれど伝えたい
① 朝の色づき
同じ駅
同じ車両の 朝のなか
君の立つ場所 そっと色づく
② 触れた指先
急停車
よろけた肩を 支えたら
細き指先 僕をつかんだ
③ 声にならない
「ありがとう」
胸の奥まで 届くのに
返すひとこと 声にならず
④ 小さな魔法
会釈だけ
交わす朝には 魔法あり
言葉にすれば 消えてしまいそう
⑤ 季節の移ろい
桜から
深き緑へと 変わる窓
君のしおりは 僕の色して
⑥ 交わる視線
顔あげて
絡むまなざし ほどけずに
唇だけが そっと告げたね
⑦ 「待ってるんですよ」
音もなく
君の言葉が 触れたとき
胸の臆病 風をやめたよ
⑧ 明日の決意
降りてゆく
背中の先に 残るもの
静寂の句点 明日こそ打つ
詩をショートショートにする試みです。
詩小説と呼ぶことにしました。
その詩小説をもとに詠んでくれたAI君の連作短歌も載せます。




