プロローグ:生まれた世界が違えば
「……こんなはずじゃなかった……」
男は小さく呟いた。
男の立つ足元と周辺だけが鮮明で、その周囲は地面ごと揺らめき、波紋を広げる水面のようにぼやけている。
真夏の陽炎にも似た歪みが世界を侵食しつつあった。
そう、男はまた負けてしまったのだ。
ほどなくして世界は崩壊する。
こうしてまだ立っていられるだけ、まだマシなのかもしれない。
何度も見てきたはずの終焉の光景、それでも男は考える。
本当に、どうしようもなかったのか。
このまま黙って終わりを迎えるしかないのか。
───これで終わりか?
誰もいないはずの空間に、声が響いた。
幻聴ではない。
確かに聞こえた。
そういえば、誰かの声を聞くのは久しぶりだ。いつも最期は独りだったから……。
───こんな終わり方で良かったのか?
再度、声が問いかけてくる。
……良いはずがない。
誰も死なず、苦しまず、滅びずに済んだ、幸福に包まれた世界。
何度も夢に見た理想の世界。
───君なら創れる。今一度やり直そうじゃないか。
やり直せる?
そんなの願ってもない話だ。
罪を重ね、仲間を失い、ついには人間性すら失いかけた。
しかし時間を巻き戻そうなんて、相対性理論に反する行為だ。
常識的に考えて不可能である。
───再度問おう。君なら創れる。君が思い描いた『理想の創造世界』を。
……もし、本当にそれが可能なら。
可能性が1%でも残っているなら。
俺は戦い続ける。足掻き続ける。何度だって繰り返してやる。
生まれた世界が違えば、きっと何度でもやり直せる。
「必ず……救ってみせる……救ってやる!!」
直後、少年とその決意は迫り来る崩壊の奔流に飲み込まれた。
男の声が、虚空へと散っていく。
───『契約成立』だ……
初めまして。細井之川氏と申します。
今回が初投稿で、私の処女作となります。
1話目、というか物語としてはプロローグという扱いですが、今回は短めで、続き(正式な第1話)を同日中に投稿する予定です。
完結するのはいつになるかわかりませんが、次回以降もお付き合いいただけると幸いです。




