城の尖塔で真実を暴露する
寒々しい石造りの、古びた尖塔。
その最上階。
そこが、今の私の住まいだ。
ここに入ってくる人間は誰もいない。
そう、ご飯すら持ってこない。
だけど罪人のように、尖塔の外から常時監視されている。
ここに入れられてから、一度もこの尖塔から出たことがない。
別に私は、罪を犯したわけではない。
理不尽で自分勝手な理由から、ここに幽閉されている。
誰にって、もちろん国王に、だ。
ここに幽閉されて、半年もの時間が過ぎた。
幽閉されたのは半年ほど前。
ご飯を持ってきてくれなくなったのは、1ヶ月前。
私が普通の人間なら、とっくに死んでいた。
むしろ国王は、それを望んでいるのだろう。
もともと国王とは政略結婚だった。
せめて表面上は仲良くすべきと思うのは、至って普通の思考だろう。
ましてやこの政略結婚は、ここグリエット国の先代の王が、我がシンフォニー国に頭を下げてお願いしてきた結果だと言うのに。
あの国王は、それを理解していないのだろうか。
……していないのでしょうね、きっと。
していたら、こんなことは絶対にしないでしょうから。
シンフォニー国は、いくつかの島が集まった、島国だ。
我が国は精霊に愛された国として、大陸の国々から神聖視されている。
よっぽどな事情がない限り、他国の人間と婚姻しない。
婚姻するメリットがないからだ。
私とグリエット国王の婚姻が許可されたのは、先ほども言った通り、先代の王が、父であるシンフォニー国王に頭を下げて願ったから。
グリエット国は以前から少しずつ、天候の悪化や自然災害で疲弊していた。
民が餓死し始め、歯止めが効かなくなったので、我が国にすがったのだ。
その結果選ばれたのは、精霊から最も好かれている私だった。
王族に生まれた以上、政略結婚は当たり前と思っていたので、私も特に反対はなかった。
それにグリエット国の民に同情したから、自分の役目を果たそうと決心して、約1年前に嫁いできたのだ。
グリエット側が、護衛も使用人も全て用意すると言うので、我が国の者を全て帰国させた。
初めの半年ほどは、良かった。
先代の王は、それはそれは歓迎してくれたし、敬ってくれたから。
現国王が愛妾を囲っていても、何とも思わなかった。
問題は嫁いでから、半年が経過した頃のこと。
先代の王が突然死去したのだ。
理由は病死だと聞いている。
その後からだ。
私の扱いが変わったのは。
良くない噂が回り、いきなり尖塔に閉じ込められたのだ。
それから半年。
私は我慢した。
国同士の契約は大事なもの。
誤解はすぐに解けて、解放されるだろうと思ったから。
結局、そんな期待は意味がなかったけれど。
……半年、我慢したのだから、もういいわよね?
この状況を、私は許した覚えはないの。
国の契約を蔑ろにしたのだもの。
もちろん、覚悟はあるわよね?
この尖塔は、元々は罪人のためのものだったようで、魔法が一切使えないようになっている。
けれど私に、そんなことは関係ない。
私には、私を愛してくれる精霊たちがいるから。
私が今生きているのも、精霊たちが食べ物や水を用意してくれたから。
とても頼りになる友人だ。
清々しい朝が、この行為を歓迎してくれるかのよう。
「水の子と地の子は、誰も入れないように結界を。火の子は万が一の護衛を。風の子は、私の声がシンフォニーのお父様のところまで響くように大きくね。」
さあ、始めましょう。
みんな、手伝ってね。
「私はこの国の国王と婚姻した、シンフォニーの王女ローゼマリー。この国の国王の罪を告白します!」
覚悟してくださいね?
「現国王は、先代が頭を下げてまで婚姻を、嫁いだ私を蔑ろにしました。先代はこの国の民を飢えから救うために、我が国に頭を下げました。私は先代の願いを叶え、この国に精霊の祝福を与えました。それなのに先代が死去した途端、尖塔に罪人のように幽閉されました。この1ヶ月、食事すらもらっていません。私を殺すつもりでしょうか?」
尖塔の結界に、誰かが触れた。
けれど人間の魔法が、精霊に勝てるはずはない。
大人しく聞いているといい。
「先代の突然の死去は、病ではありません。先代を疎んだ現国王が、毒を飲ませたからです。愛妾のジュリーヌ・ロマンも協力者です。先代が亡くなれば、私をどうにでも出来ると考えたのでしょう!」
『何てこと…』
『彼の方を毒殺!?』
どこからか、風の子が声を運んでくる。
風の子たちは噂話や、人の秘密を探るのが好きだ。
彼らにお願いしたら、簡単に原因を見つけてきてくれた。
「先代が死去した後、ジュリエーヌは私の良くない噂を流しました。複数の男性と密接な関係にある、と言うものです。それは事実ではありません。そして複数の男性と密接な関係にあるのは、ジュリエーヌの方です。相手は宰相、騎士団長、近衛、侍従、舞台役者、他にもたくさんいます!」
『どう言うことだ、ジュリエーヌ!?』
『違う違う違う!!』
……空耳かしら?
風の子にこのことを聞いた時は、多過ぎて驚いたわ。
……元気ね?というコメントしか出なかったわね。
「私が国から持ってきた嫁入り道具も、全て現国王に取り上げられ、あろうことかジュリエーヌにプレゼントしていました。私の大切な故郷の思い出なのに……」
『お可哀想に……』
『人の心がないのかしら。』
流石にアレは、そうとう頭に来たわ。
思わず精霊の祝福を、災厄に変えそうになるくらいには。
「正妃の予算も全て、愛妾が使っています。これは立派な横領です。」
『横領!?ふざけんな!金を返せ!』
「私とシンフォニーに対する数々の侮辱、王女として許しません。精霊の祝福を、この国から剥奪します!」
私の宣言通り、この地から祝福が消えるのを感じた。
『ローゼマリー、我が愛娘よ。聞き届けた。今から迎えに行くので待っていなさい。グリエット国王、覚悟するように。絶対に許さん。』
良かった。
お父様にきちんと届いたわ。
お父様自ら迎えにきてくださるなんて、大変なことになりそうね。
でもとても嬉しいわ。
父がすぐと言えば、今日、明日には到着するだろう。
私はそれまで、尖塔に閉じこもって待っていればいい。
言うことを言えたので、とてもスッキリした。
今日はとてもいい気分だ。
植物や作物が枯れ、国中は大混乱に陥った。
平民も貴族も、国王と国王の関係者に憤りをぶつけた。
いくつかの貴族の屋敷は燃やされ、王城にも人が押しかけた。
そんな中、精霊の力を使って、父と騎士団が王都の中に現れた。
王城はシンフォニーに制圧されて、私は1年ぶりに父と再会することができた。
父からは、良く頑張ったとお褒めの言葉をいただいた。
それだけで、私の心は温かくなった。
心のどこかで、間違っているのではないかと心配していたが、間違いはなかったとホッとした。
その後、国王や国王の関係者は平民に落とされ、政権が交代することになった。
当然、私とも離婚することになった。
平民になった後の国王と愛妾の行方は、誰も知らなかった。




