第83話『俺、電車という名の戦場』
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満員電車の中、吊り革につかまるミリーが揺れに合わせてぴょこぴょこ身体を弾ませてる。
「うわぁ……ぎゅうぎゅう詰めだよ〜。じゅんくん、ミリー、潰れちゃいそう〜」
「おい、あんま跳ねんな。俺の肘が宙に浮いてるからマジで体幹勝負なんだけど」
身動きも取れない車内。そんな中、突然響くやかましい男の声。
『でさ〜、ほんっと上司がクソでさぁ〜……そうそう、マジでありえねーって!』
電話だ。しかも、声デカすぎだろ。
周囲の視線もガン無視で、まるで自分の部屋か何かみたいに喋り続ける。
すると、その男に勇気あるサラリーマンが一言。
「君、ここは電車だ。通話は控えなさい。迷惑だよ」
正論。100点。俺の中で拍手鳴った。
でも、男は鼻で笑ってこう言い放った。
「は? おっさんの加齢臭のほうが迷惑だっつーの」
おい。
あまりの暴言に、注意したおじさんは顔を真っ赤にして俯くしかなかった。
それを見ていたミリーが、ぽつりと呟く。
「……おじさん、正しいこと言ってたのに……可哀想なの」
小さく、でも確かな怒りがその声に混じっていた。
男はそのまま電話を続行。
『マジで変なおっさんに絡まれたわ〜、ほんと最悪〜。でさー』
その時だった。
「ぎゃああ……!」
赤ん坊の泣き声が車内に響く。
驚いたミリーが目をぱちくり。
赤ちゃんをあやす母親は、周囲にぺこぺこと頭を下げて申し訳なさそうにしている。
だが──男は舌打ちとともに怒鳴った。
「たくっ! うるせーな! 電車で子供泣かせんなよ! 常識ねーのかよ!」
……いや、お前が言うな。
多分今、この電車に乗ってる全員が心の中で同時につっこんだ。
『お前が言うんかーい!』って。
ミリーは怒りのこもった目で男を見つめ、ギュッと拳を握りしめて一歩前に出た。
「常識がないのは、あなただもんっ!」
小さな体から出たその声は、静かな車内を切り裂いた。
周囲の乗客たちが、はっとしたようにミリーを見る。誰もが「よく言った」と顔に書いていた。
だが──男は、にやりと笑って言い返す。
「はあ? 常識語ってくんの? 何様? ここ、お前ん家じゃねーんだけどー?」
いや、それもお前が言うな。
つい俺も耐えきれず、口から突っ込みがこぼれた。
「お前が言うんかーい! そのブーメラン、でかすぎて回収不可能だからな!? むしろ武器じゃんもう!」
それが決定打だったのか、男の視線がピクリと俺に向く。
「てめぇ、さっきからなんなんだよ?」
その瞬間──
俺はスキルを発動した。
⸻
◆スキル発動◆
《威圧(Lv4)》
「……睨む!」
俺は全力で男を睨みつけた。
すると──隣からミリーの声が飛んできた。
「じゅんくん……なんか顔、ひょっとこみたいになってるのー……?」
「ひょっとこォォ!?」
マジか、俺の真剣な表情、笑い取れてたんか。
でも、男はその威圧感──もといひょっとこフェイスに気圧されたらしく、次の駅に着くや否やドアが開いた瞬間、逃げるように電車を降りていった。
「……ふぅ。なんとかなったわ……」
安堵したその時、さっきのおじさんが下車しながらこちらを見て、軽く会釈してくれた。
「ありがとう。君みたいな若い人がいて助かったよ。……ただ、あの表情は……いや、なんでもない。ありがとうね!」
最後、ちょっとだけ口元が引きつってたのが気になる。
俺はミリーに訊ねる。
「俺の顔……そんなひどかった?」
ミリーは首をかしげながら、もごもごと口ごもった。
「うーん……ミ、ミリーわかんなーいっ!」
濁したッ!
今、明確に濁されたッ!!
恐るべし……俺の睨み顔……。
車内にじわりと静けさが戻ってくる。
あれだけ騒がしかったのに、今はやけに静かで……どこか、ホッとする空気。
「……ふぅ。やっと終わったか」
思わず口から漏れた溜息を飲み込むと、俺の袖が引っぱられた。
振り返ると、ミリーが見上げてる。
ちょっと照れたように、でも迷いなく、言った。
「じゅんくん、かっこよかったの」
小さな声。でもまっすぐすぎて、こっちの心臓が変な跳ね方する。
「いや、ひょっとこフェイスで威圧かけただけなんだが……」
「でも、守ったもん。ミリー、ちゃんと見てたよ?」
そう言ってニコッと笑う。
不意打ちかよ。
さっきまでの満員電車のストレスが、一瞬で吹き飛ぶくらいの破壊力。
──と、その時だった。
次の駅に着いて、ドアが開く。
新しい乗客たちがどっと雪崩れ込み、流れの中で異物感のある影が一つ。
大きなバックパックを背負い、前にも荷物を抱えた男。
しかも両肩にはポーチ類。まるで現代の装備兵がそのまま乗車してきたような姿。
「……おい、マジか。帰宅ラッシュにガチ装備で来るなよ……」
男は空いていた座席に腰を下ろすと、無言で左右の荷物を展開。
当然のように、3席ぶんを堂々と占拠。
「いやいやいや……それ、車内で“ソロキャンプ”始まってんだけど?」
隣でミリーが、じっとその様子を見てる。
珍しく、眉を少しだけひそめていた。
「……あれじゃ、誰も座れないの」
「でも誰も言えないんだよ。もうみんな、今日の言葉ポイント使い切ってんの」
疲れてるのだ。全員が。
静まり返った車内。けど、今度の“静けさ”は質が違う。
明確に「諦め」混じりの、見て見ぬふり。
──でも、ミリーは違った。
ぐっと背筋を伸ばし、小さな声で、でもはっきり言った。
「すみません……それ、ちょっと邪魔です」
フルアーマー男が顔を上げる。
「……は? 邪魔って誰に?」
その返しに、一瞬だけ場の空気がまた固まる。
けど、ミリーは迷わず言った。
「ミリーに、です」
柔らかく、でもまっすぐに。
空気が、少し揺れた。
まわりの誰かが、思わずクスッと笑うのが聞こえた。
男はバツが悪そうに視線を逸らし、膝の上に荷物を移動させる。
解放される、3席ぶんのスペース。
その直後、年配の男性が静かに座り、ミリーに軽く頭を下げた。
ミリーもぺこっと丁寧に会釈する。
「どうぞ、座ってください」
その声が、妙にあたたかくて。
不思議と、少しだけ車内の空気が柔らかくなった。
「……なあミリー。お前、今めちゃくちゃ強かったぞ」
「えへへ。ミリー、戦った?」
「うん。スキル名で言うと……《無邪気な圧力》だな。多分ランクS級」
「じゃあじゅんくんは、《ひょっとこフェイスLv.4》なの?」
「それはそろそろ忘れろや!!!」
「ふふっ、忘れられないのー」
俺が思わずツッコんだそのタイミングで、電車がまた軽く揺れる。
ふとミリーが、俺の肩にもたれながらぽそっと呟いた。
「……今日、いっぱい色んなことあったけどね」
「うん?」
「でも、じゅんくんが隣にいるから、怖くなかったの。
ミリー、帰り道が好きだよ」
その声はとても小さくて、でも耳の奥に残るくらい、ちゃんと響いた。
窓の外はすっかり夜。
だけど隣には、ぴたっとくっついてる誰かがいる。
それだけで、今日という一日も……なんとなく、悪くなかったと思えた。
【あとがき小話:読たん、爆誕】
作者『……俺の話、していい?』
潤『いらん。』
作者『えっ、ほんとに? だって読たんが──』
潤『……待て。なんだよ“読たん”って。』
作者『読者に“たん”をつけるとかわいくなるんだよ。
例えば──
「読たん、今日も読みに来てくれてありがとねぇ〜?」
って言われたらどう?嬉しくない?』
潤『気持ち悪ッ!!誰得だよその甘ボイス!!』
作者『じゃあさ、名前に“たん”をつけていくと何でも可愛くなる説ってあるじゃん?』
潤『聞いたことねぇよ。てかお前どこの界隈で暮らしてんの?』
作者『潤たん。』
潤『やめろ(即死)』
作者『ノアたん、ミリーたん、ユズたん、カエたん、リアたん──』
潤『おい本編に火つけんな!!作者消されるぞ!!!』
作者『俺たん──』
潤『誰にも呼ばれてねぇんだよそれだけは!!!』
──こうしてあとがきに誕生した“読たん”。
これが物語のターニングポイントになる……わけがない。
作者:pyoco(読たん、いつもありがとう。君がいないと潤も俺も秒で心折れます)