第81話『俺、家族にバレる』
【前書き】占拠予告:この領域、俺たちがいただいたぜぇぇぇ!!!
ユズハ「へいへ〜い、読者の皆さ〜ん? もしかしてぇ〜……前書き、スルーしようとしてませんかぁ〜?」
ミリー「なめんなよーっ!! ここまで読まないとぉ〜……ミリーとユズハが占拠するのぉぉっ!!」
ユズハ「見てくださいこれ〜、ミリー先輩のグラサン姿! 完全にリーダー感〜☆」
ミリー「ユズハのサングラスもカッコいいのーっ! 黒くて……まぶしくないっ!」
作者(サングラス装備)「フッ……この前書きはもう“俺たちの特攻隊長エリア”だッ!!」
ユズハ「あとがき? 活動報告? もう全部うちらのシマですよねぇ?」
ミリー「読者が相手してくれないならぁ……このまま前書きもまるっといただくのーーっ!!」
作者「どうせなら本文の1行目まで乗っ取ってやるわ! 暴走族三銃士、夜露死苦ッ!!!」
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潤(巻き込まれ予定):「……誰か、先に本文読んでくれ……そしたら落ち着くかもしれない……」
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※この投稿には一切の学びや意義が含まれていませんが、
ヒロイン達のテンションは保証済みです。
──その朝、俺はいつも通り会社のデスクにいた。
……にもかかわらず、心ここにあらずというか、そわそわが止まらなかった。
理由は、昨晩妹から届いた――
『兄貴、明日そっち行くわ。住所調べた』
という、事後報告の突撃LINEである。
「え、なんで……!?」
寝起きの頭に情報が処理できず、スマホを持ったまま数秒フリーズ。
返信しようとした瞬間には既読もつかなくなり、以降ぷっつり沈黙。
電源を切ったのか、それとも気まぐれか――どっちにしろ、めちゃくちゃだ。
「……なんでまた急に」
妹とは仲が悪いわけじゃない。
むしろ俺が大学進学で上京した頃は、ちょこちょこ連絡もしていた。
ただ、ここ数年は――年に数回、適当なスタンプを送り合う程度。
そんな妹が、なぜ今になっていきなり襲来予告を?
(……まさか、テレビか?)
うっすらと、イヤな予感が脳裏をよぎる。
ノア主演のドラマで、“謎の男”として俺が出演してしまったアレ。
顔は映ってない。が、後ろ姿と空気感が妙にリアルだったらしく、SNS考察班が動いた結果――
「絶対、あれ兄貴でしょww」
「この肩幅、DNAでしか説明つかない」
みたいな投稿が地味に拡散されていた。
(終わった……人類終末並みに詰んだ……)
──そして現在。
俺はデスクで頭を抱えつつ、エンリにだけこっそり打ち明ける。
「……実は今日、妹が来るかもしんない」
「まぁ〜、潤さんの妹さん……! ふふっ、なんだか緊張しちゃいますね〜」
なんか今日のエンリ、笑顔の中にいつも以上の**“包容力オーラ”**がにじみ出てる気がする。
「えーと……一応、社外の人間だから警戒は……」
「大丈夫ですよ〜? いずれこの日のために、何度もリハーサルしてきましたから〜」
「怖いよ!?準備してたん!?……てか俺、妹の存在すら言ったことないけど?」
「ふふっ。社長の“いざ”に備えておくのは、私の役目ですから〜。それに……」
エンリがふわりと頬を赤らめ、目を伏せる。
「いずれ、家族としてご挨拶する日が来るかもと思って……こっそり、練習してました〜」
(絶対プロポーズのやつじゃんそれ!!地雷すぎて触れられねぇ!!)
そこへ社内チャットがぴろんと鳴った。
【受付】
『社長のご家族と名乗る方がいらっしゃいました』
「うわあああああ来たああああ!!」
俺は席から跳ね起き、受付へ急行。
──そして現れたのは、
「潤兄ぃ~~~っ!!!」
ロケットのような勢いで飛びついてきた、元気いっぱいの女――妹・葉山日菜。
そのテンション、昔からブレてない。
てか、物理で来んな痛い!!
「な、なに突然!?」
「テレビで見た!あれ“謎の男”って兄貴でしょ!? まさか社長やってるなんて……この会社、正気?」
「世の中にはな、説明のつかないアンビリバボーが存在するんだよ……」
「……あ、でも。やっぱりいつもの潤兄ぃだ。安心したわ。逆にこの会社やばいわ」
「もうちょっと信じてくれない!? 傷つくぞお兄ちゃん!!」
そこに、後ろからふわっと香るような気配と共に、エンリが歩み出る。
「初めまして〜、ひなちゃん。私はエンリと申します〜。お兄さんとは、お仕事でもプライベートでも、いつも一緒に過ごさせていただいてます〜」
言葉も所作も完璧に丁寧なのに、どこか“絶対に動じない感”が漂っている。
「エンリお姉さん……うちのお兄ぃ、なんか、よろしくお願いします」
「ふふっ、任せてくださいね〜」
(いや、今なんとなく“妹さんも含めて面倒見ます感”出てたけど!?)
そのタイミングで、ノアが音もなく現れる。
エンリが「……あれ?連絡網遮断したはず……」と小声で呟いたのは、気のせいではなかった。
ノアは一歩前に出て、優雅に一礼。
「はじめまして。潤様の“全てのお世話”をさせていただいております、ノアと申します」
(“全てのお世話”ってなんだよ!!明らかにスケールがおかしいだろ!!)
その瞬間、まるでノアの導線を潰すように、次々と現れるヒロインズ。
「へぇ〜、潤くんって、妹おったんやな? ええやん、うちはカエデ。潤くんの右腕兼、将来の……まあ、それはええか」
「じゅんくんの“癒し担当”のミリーだよ〜♪」
「ユズハですけど? いずれ“義姉”ってポジ、私がいただく予定なんで〜。よろしくね、妹ちゃん?」
(ノアの顔、ピクってなったよな!?今、確実にピクってなったよな!?)
「え、えっと……みなさん、兄貴の……な、なんなんですか……?」
「うーん……大切な人?」
ユズハが即答。
「大切な……全員!? 兄貴、どれだけフラグ立ててんの!?」
「違うんだ誤解だマジで誤解なんだ! 付き合ってるとかじゃなくて!」
(ノアの湯呑みが震えてるぅうううう!!)
「みんな、落ち着け!! 彼女は俺の家族!敵じゃない! 俺にとって──家族にも自慢できる仲間たちなんだ!」
その言葉に、ノアの湯呑みの震えが止まり、ミリーがぽそっと「じゅんくん……かっこいい……」と呟き、カエデが「せやな」と頷いた。
エンリは少しだけ後ろから、ふわりと微笑む。
「ふふっ、やっぱり潤さんは……素敵ですね〜」
(……なんかもう、場の空気が“妹面接会場”みたいになってるんだけど!?)
──こうして、“妹襲来編”という名の【ヒロイン面接大会】が、静かに始まったのだった。
日菜がソファに座るや否や、なぜか始まる“妹向けヒロイン自己紹介タイム”。
「じゃあまずは……あたしからでいいかな?」
ユズハが軽やかに前へ出た。
スカートの裾を整える仕草が、妙に“お姉ちゃんっぽい”。
「私、ユズハで〜す。潤先輩とはね〜、お互いの理解を深め合ってる関係、って感じ?」
「関係って、誰視点だよ!?その言い回し、完全にヤバいやつだぞ!?」
「ちなみに今日は、“妹ちゃん対応”モードで“お姉ちゃんコーデ”にしてみました~。どう?似合ってる?」
そう言いながら、妹の隣に自然と着座。
笑顔の裏で、軽く“ポジション確保”してきやがった。
「えっ、お姉ちゃん……?」
「うん。呼ばせてあげてもいいよ?」
「やめてくれ混乱するから!!」
「じゃあ次、ミリーなのっ!」
ぴょこんと手を挙げたミリーが、嬉しそうにぴょんぴょん前へ。
「じゅんくんとはね、毎朝“もやしスムージー”を一緒に飲む仲だよっ!」
「嘘だよな!?俺、飲んだ覚えないからな!?何そのヘルシーな儀式!!」
「ミリーはね、“お仕事の合間にぎゅーする係”でもあるのっ!」
「なんだその係!?部署名で言うと“癒し戦力部ぎゅー課”とかか!?」
ミリーは日菜の隣にちょこんと座り、ニコニコしながら小声で囁く。
「ひなちゃんも、今度一緒にぎゅー修行しよ?」
「……え、修行?」
「うんっ♪元気出るよ?」
(やめろ、困惑が顔に出てるぞ日菜!!)
「次、ウチな!」
カエデが仁王立ちで前へ出る。腕を組んで、どっしりとした貫禄。
「ウチ、カエデ。潤くんとはな? そらもう“運命共同体”やんなぁ?」
「ちょっと待て、いつの間に共同体組まれてた俺!? しかもその言い方やめろ!!」
「ちなみに今日のお弁当、潤くん専用にハート型の卵焼き入れといたで? 営業先にも配ったけど、ウチのだけは特別仕様や!」
「営業と私情のハイブリッドかよ!? おまえだけ社食カスタムされてんじゃん!」
「妹ちゃん、覚えとき。男は胃袋や。ハートはタンパク質に詰まってるねんで?」
「勝利条件みたいに言うなあああ!!」
「……では、私の番ですね」
静かに立ったノアは、所作のすべてが完璧すぎて逆に怖い。
「私はノアと申します。潤様の生活全般の管理を担当しております」
「また出たよ“生活全般”!! それ聞くたびに“なんか全部任せてる人”みたいになるんだけど!?」
「日菜さん。潤様は朝が弱く、カフェイン摂取が遅れると午前の思考力が著しく低下しますので、毎朝コーヒーと“愛情と注意点”を添えてお出ししております」
「何それ!?小学生の連絡帳!?生活記録表送られてんの俺!?やめて恥ずかしい!!」
ノアは湯呑みに手を添え、凛とした口調で言った。
「それでも潤様は、今日も社長を立派に務めていらっしゃいます。私は……そんな潤様を、心から尊敬しています」
「尊敬で押し切られると否定できないからやめて!!」
……静かになった部屋で、妹の視線がこちらに向けられる。
「潤兄ぃ……すごいな。なんか、めっちゃモテてんじゃん」
「俺が望んでこうなったわけじゃねぇ!!てか助けてくれよぉおおお!!」
顔を覆ってソファに沈む俺の頭上で、アピール合戦は……まだ終わらなかった。
「で、兄貴? 本命は?」
「なんで今その質問すんだよおおおおおお!!」
日菜の爆弾発言に場が一瞬、凍る。
「え、だってこの空気……明らかに“椅子取りゲーム最終ラウンド”じゃん」
「例えが修羅場仕様なんよおおお!!」
そこへ――一人、ニッコリと笑いながら立ち上がったユズハ。
「じゃあ、決めましょっか。妹ちゃんが、“潤先輩のベストパートナー”を選ぶってことで♪」
「任命すんなああああ!! そのポジションおかしいだろ!!」
「だって、潤先輩のこと、誰よりもわかってるのはこのユズハですからぁ?」
「いや、わかってる“つもり”ランキングは堂々一位だよおまえ!!」
「ちなみに先輩の寝起き顔スクショ、300枚突破しました〜!」
「何そのホラー収集癖!!」
ノアも静かに立ち上がり――
「私は、“潤様の生活”の朝昼晩、すべてに携わっております。心のケア、健康管理、未来設計……そして、信頼」
「重い!!なんかもう、重みがリアルすぎて怖い!!」
「だからこそ、妹さん……あなたには知っておいていただきたいんです。“潤様が、どれだけ愛されているか”を」
(プレゼンが始まってるううう!?)
「ミリーの番っ!」
と手を挙げたミリーが、ぴょこんと前へ。
「じゅんくんが疲れてるときは、肩をぽんぽんしてるの!」
「……地味にありがたいやつだな……」
「あとね、ぎゅーってすると、じゅんくんが“ふわぁ……”ってなるの!」
「ふわぁ……って何!?擬音で癒すのやめろ!!」
「ひなちゃんも、ぎゅーしてみる?」
「私が!?いや、それはちょっと心の準備が……!」
「じゃあ一緒にぎゅー修行しよっか?」
「修行の定義とは……!!」
「身体ちゃう。心で繋がるんがうちらやからな!」
今度はカエデがどしっと立ち上がり、仁王立ちで愛情マウント。
「潤くんとウチは、“想いの深さ”が違うねん!」
「いやそれ、完全にマウントワードだからな!?」
「見てみ? 今日のお弁当、ハート型の人参、ウチは5個。ユズハは1個やろ?」
「どこ情報だよ!?なんでお前そんな裏取りしてんの!?盗聴!?解析眼!? え、カエデ、おまえ《解析眼》持ってる!?」
「ちなみに、夜に送ったボイスメッセージの回数なら、わたしの方が多いですよ?」
「競うなあああああ!!なんでヒロイン同士で“愛情量バトル”してんの!!」
──そんなバチバチが続く中。
「……じゃあ兄貴は、誰のことが一番好きなの?」
静かに発された日菜の問い。
場の空気が、凍る。
重い沈黙を破ったのは――俺。
「俺は! 誰か一人を選ぶとかじゃなくて! みんなが、それぞれ大事で!」
「……選ばないって選択肢はナシですけど?」
ノアが笑顔のまま、場を凍らせ。
「じゃあ、“妹ちゃんが選ぶ潤くんのベストパートナー”決定戦~♪」
ユズハが即ぶっ壊す。
「やらねぇよおおおおお!!なんで妹に託す流れになってんだよ!!」
「えっと……私、ただ会いに来ただけなんだけど……?」
日菜の目が泳ぎに泳ぎまくる。
「兄貴、今……地獄に住んでる?」
「もう住民票も移したよ!!!」
俺は机に突っ伏した。地面に吸われるかと思った。
──そして、ヒロインたちは……まだ戦っていた。
──少し経って。
応接室の空気はようやく落ち着きを取り戻していた。
カエデはフルーツを剥き、ミリーは紅茶を入れ、ノアは湯呑みをそっと差し出し。
エンリは――日菜の隣に寄り添うように腰を下ろし、ふんわりと笑った。
「ひなちゃん、疲れてませんか〜? ……ちょっとだけ、肩貸しますね〜」
「え、あ、ありがとう……ございます……?」
戸惑いながらも、日菜がそっと身を預ける。
まるで、姉に甘える妹のように。
(……やっぱエンリ、包容力だけチートなんよ……)
ユズハはちゃっかりスマホで一緒にゲームしてるし、カエデはやたら剥いたフルーツ盛ってるし、ノアは湯気の角度まで計算された茶を出してるし。
(なんだこの“疑似ホーム”感……)
そして日菜が、ふっと笑った。
「……なんかさ、安心したよ」
「え?」
「兄貴、ずっと無茶してるって思ってたけど……案外ちゃんと“囲まれて”んだなって」
「囲まれてるって言い方やめろ!?囲い込みみたいに言うな!?」
「ふふ……でも、楽しそう。あたしには、そう見えたよ」
そう言って、妹は少しだけ肩の力を抜いた。
「でもさ、あんまり無理すんなよ?」
「……ありがと」
気づけば、自然に手が伸びていた。
俺は、妹の頭をくしゃっと撫でた。
「何すんのよ、もう……」
と言いつつ、どこか嬉しそうだった。
ヒロインたちは、その様子をそれぞれの距離感で――優しく見守っていた。
……まるで、嵐のあとの静けさ。
いや。騒がしかったけど、ちゃんとあったかい。
窓の外、夕陽が社屋を優しく照らしていた。
そして俺は、思う。
(──まぁ、悪くないか)
今日もまた、ちょっとだけ世界が騒がしくて。
でも、それだけじゃない。ちょっとだけ、あたたかい。
【あとがき小話:ノアの休日 — 一日編】
06:00
目覚め。カーテンの隙間から漏れる光で自然に起きる。
ベッドに手をつき、寝癖を軽く整えて──
まずするのは、潤様の夢を覚えているかの確認。
06:15
白湯を飲みながら、昨日潤が発した言葉をメモ帳で復習。
些細な言い回しの癖、イントネーション、間。
『次に会った時に、少しでも安心していただけるように……』
07:00
朝食。栄養バランスは潤仕様で整えて、自分も同じ内容に。
「潤様が好きな味を、私も正しく理解していたいので……」
08:10
ベランダで洗濯物を干す。
シャツの袖口を伸ばすたび、潤のスーツを思い出す。
どんな天気でも、部屋干し用のスペースは潤専用として空けてある。
09:30
掃除と書類整理。
潤が読みそうな本、言いそうなセリフ、自分が対応すべき未来の質問。
それらを予測し、準備しておくのが“当然の務め”。
12:00
お昼は軽め。潤がいつか「時間がないときでも食べられるやつ」と言っていたレシピを練習。
『いつか、何の前触れもなく差し出せるように』
13:30
ショッピング。自分のものは買わない。
『潤様が笑顔になってくださるものを探す方が、幸せです』
15:00
カフェで読書。
でもページは進まない。窓の反射に、誰かの姿を探してしまう。
17:00
夕飯の買い出し。
「この味なら潤様はきっと“美味しい”と仰ってくださる」と思ったものを数品。
18:30
入浴。お気に入りの香りを使いながら、潤が顔を近づけたときに違和感がない香りを探す。
『あくまで自然に。あくまで……私だけの距離感で』
20:00
ノートに一日を記す。
今日の気温、潤のSNS投稿時間、ヒロインたちの動き。
“想いは冷静に整えるもの”と決めているから。
22:00
照明を落とす。
『潤様、今日も無事でいてくださって、ありがとうございます……』
目を閉じる。すぐには眠らない。
まぶたの裏で、潤の声を反芻するために。
作者:pyoco(愛とは、絶対に誰にも渡せないもの)