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才能奪って成り上がる!無職の俺がヒロイン達と社会を支配するまで  作者: pyoco
第1章『ズバリ!才能奪取成り上がりでしょう!』
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第79話『俺、人材を狩りに行く』【前編】

いつも読んでくださって本当にありがとうございます!


なろうではコメント欄がちょっと静かめですが、

感想じゃなくても「日常のこと」「アニメの話」「つぶやき」など、

どんな話題でも気軽にコメントしてもらえたら嬉しいです。


いただいたコメントには、ヒロインズや潤が反応することもあります(笑)

一緒に作品の外でも、ちょっとした会話を楽しめたら嬉しいです!








──それは、会社の静かな午後だった。


俺は会議室のホワイトボードを睨みながら、ため息をひとつ。


「……人が足りねぇ」


壁一面に貼られた案件進行スケジュール。増え続けるプロジェクト。人手が欲しい。ていうか、人手以外の全てはあるのに、なぜか一番大事な人間が足りてねぇ!!


「……うち、今社員って何人?」


「正社員10人と、ノア様のマネジメント関係でフリーランスが8名。あと“裏”の人材が──」


「カエデ、それ裏数えるとヤクザになるからやめろ」


「うふふ、けどその“裏”のおかげで現場回っとるのも事実やでぇ?」


そう言って、ふんわり笑うのはカエデ──うちの社員兼、なぜか演出チーフに就任している監督系女子。気づいたら社内に“監督椅子”を持ち込んでたやべぇやつ。


「現場を仕切れる子、育てたいなぁ。演技見れる子もおらへんしなぁ。エンリちゃんどう思う?」


「そうですね……人材は“才能”だけじゃなく、“相性”も大事ですから。数だけ集めても、心が通わなければ崩れてしまいます」


この優しい言葉をかけてくれるのが、エンリ──人事とメンタルケアの両方を担当してくれている包容力の女神。なのに最近、やたらと採用面接で肯定しかしてないという噂が社内で話題になってる。


「っていうかエンリ、お前また『全員合格!』とかやってないだろうな?」


「うふふ……心の相性は、書類では見えませんから」


「採用試験の意味!!」


──とまぁ、そんな感じで。


【演出大好き】【全肯定ママ】っていう極端な社員二人を横に置いた状態で、俺は人材不足という巨大な壁に向き合っていた。


「……わかった。こうなったら──」


俺は机を叩いて立ち上がる。


「うちの芸能部門、マジでオーディション開催する!!」


「ふふっ、カメラ用意しとくわ♪」


「私、合否じゃなくて“心の温度”で判定しますね」


「頼むから、せめて一人くらい戦力になってくれよ……!」


こうして、地獄の扉──いや、“才能との出会い”を求めて、俺たちはオーディションを開くことになったのだった。


──そして翌日。

社内のスタジオスペースは、見たことないくらいの活気に包まれていた。


「セット完成! カメラ三台展開オッケー! 照明はちょっとバチりすぎやけど、まぁ雰囲気や!」


「ありがとうございます。こちらの控室には、応募者の皆さんにお茶とお菓子をご用意しました。人は“空腹”よりも“安心”の方が力を発揮できますからね」


「いやエンリ、気持ちはわかるけどオーディションだぞ? これ面接じゃなくて実技だぞ?」


「ふふっ、でも緊張して力を出せない方もいるかもしれませんし……」


「全部受け入れる気満々じゃねぇか……!」


部屋の片隅では、なぜか監督椅子に座ってサングラスをかけたカエデが頷いている。

何その体勢。もう誰よりも“仕掛ける側”の顔してんじゃねーか。


「潤くん、今日の審査方針なんやけどな?」


「え、あるの?」


「『唯一無二』や。記憶に残らんやつは全部落とす。無難は罪。尖れへんやつは、存在せぇへんのと同じや」


「おまえそれ言いたかっただけだろ!?なんで名言風にキメてんだよ!!」


──というわけで、審査基準:とがってること。

もうそれオーディションじゃなくて、完全に人類未確認発掘プロジェクトなんよ。


「ちなみに私、今日のために“感情評価チャート”を作ってきました。肯定ゾーンが95%、否定ゾーンが5%です」


「エンリおまえそれ採用する気しかないだろ!!」


「はい、素敵な人たちに出会えますように……」


「お願いだから、せめてバランス考えてくれ……!」


カメラの準備が整い、受付ブースではカエデが面接シートに目を通してニヤニヤしている。

一体どんな怪物が来るのか──想像するだけで頭が痛い。


(……まぁ、まともな人も一人くらいは来るだろ……多分)


俺はうっすら希望を抱きながら、オーディションの初日を迎える。


だが──


「一人目、入りまーす!!」


スタッフの声が響き、扉がゆっくりと開いた。


「……って、え? 何アレ……?」


──俺の希望は、三秒で裏切られた。



【一人目】


ドアが、重々しく開いた。


──入ってきたのは、ゴージャスなドレス姿の女。背筋はピンとしていて、やたら威圧感がある。肩パッド、バチバチに入ってる。


「お、お名前をお願いします……」


俺が恐る恐る訊ねると、女はスッと前に出て、口を開いた。


「“たけやぶやけた。しんぶんし、よのなかね、かねかなのよ。しんぶんし、たけやぶやけた”」


「回文!!?」


「いきなり!?しかも長い!!」


女は微笑み、すっと手を広げた。


「我が名は、マダム・ピカレスク。回文に生き、回文に死す女」


「死なんでええ!!てか自己紹介それでいいん!?」


「ふふ……“しんぶんし”、潤様に捧げますわ……」


「いらんいらん!!新聞紙はいらんのよ!」


カエデが一歩踏み出して小声で囁く。


「潤くん……ウチ、この人あかん気がする……視線がガチや」


エンリはふわっと笑って言う。


「でも……美意識と発声は、なかなかのものですよ?」


「見るとこそこ!?評価ポイントどこ!?」


俺は気を取り直して、進行を戻す。


「じゃあ……セリフ、読んでみてください」


マダム・ピカレスクは、ゆっくりと両手を広げ、女神のポーズを決める。


「……回文以外は読みませーん!」


「出た!職業病!!」


「帰れー!!」


カエデが一拍置いてビシッと指差す。


「はいアウトォ!っていうか脚本読めへんって、オーディションに来る意味あるぅ!?」


マダムはくるっと回って決めポーズ。


「それが私の……“真実”!」


「知らんがなぁ!!」


「でも……一貫した美学は感じましたよ。結果はともかく」


「結果がすべてやからなエンリさん!? 見逃したらこの会社潰れるで!?」


俺は深く息をついて、書類に「不採用」の二文字を、これでもかと丁寧に書き込んだ。




【二人目】



「二人目、どうぞー」


俺の声に応じて、ゆっくりドアが開いた。


入ってきたのは、やけに艶やかな赤いワンピース。目元はバッチリ化粧、だけど顔色はどこか不健康。肌は真っ白で、口元だけが妙に赤い。


「……こんにちはぁ」


「怖ッッ!!」


「ホラー演出!?入場から怪奇現象始まってるやん!?」


彼女はペコリと頭を下げ、やけにしなを作りながら椅子に腰掛けた。


「感情を……演じるプロです……」


「なんで半泣きなん!?」


「この世の“哀しみ”を、私は知っているから……」


「知らんでええ!!その知識いらん!」


俺が困惑しつつ進行を戻す。


「じゃ、自己紹介からどうぞ……」


「……え……聞いてなかった……ごめんなさい……」


「もう情緒が不安定なんよ!!」


カエデが前のめりになって突っ込む。


「自己紹介って……言われて泣くタイプ久々に見たわ!!」


でもエンリは、ふわっと笑って言う。


「……繊細ですね。女優にとって大切なことだと思いますよ?」


「エンリさん優しすぎやろ!? この子、繊細とかのレベルちゃうで!?」


「じゃあ……セリフ、いってみましょうか」


俺が台本を差し出すと、彼女は震える手で受け取りながら、


「……この“セリフ”にも、魂……宿るんですか……?」


「知らんわ!!おまえの魂、過剰供給やねん!!」


「いきます……」


深呼吸。


そして──


「わたし、あなたのことが……きらい。だって、好きすぎるから……ッ!」


沈黙。


……悪くない。


でも。


「……ちょっと重くない?」


カエデが率直に呟く。


「たしかに……愛情表現に“死”の匂いが混ざってましたね」


「エンリさんまで言うんかい!!」


俺は静かに「不採用」と書きながら、心の中で手を合わせた。


頼むから……心は健康でいてくれ。




【三人目】


「次の方、どうぞー!」


扉が開いた瞬間──そこに現れたのは。


「よろしくお願いしまぁすッ!!」


──スーツ姿の、どう見ても40代の男。


「……え?」


「……え?」


「……ええええええええええええ!?」


一瞬、会場全員が硬直した。


男はバッチリ七三、眼鏡を光らせながら、堂々とした姿勢で中央に立った。


「役者歴20年! 本日は“小学生役”で来ましたッ!!」


「なんでやねん!!!!」


カエデの魂が割れんばかりのツッコミが飛ぶ。


「おっちゃん何してんねん! 今何歳や!!」


「今年で47ですッ!!」


「なんで小学生志望やねん!! 七度見したわ!!!」


俺はもう混乱を通り越して、頭痛の気配がする。


「ええと……一応確認だけど、年齢詐称とかではなく?」


「演技に年齢は関係ありませんッッ!!」


「それはまぁ……そうだけども!!」


エンリがそっと口を挟む。


「でも、見た目と役柄のギャップが……」


「そのギャップこそが、演技の真髄ッ!! “魂の年齢”で勝負してます!!」


「今すぐ魂だけで活動してくれ!!!!」


「……じゃあ、セリフお願いします……」


俺の指示で台本を渡すと、彼は深呼吸して──


「……ねぇママぁ、今日もいっしょに寝ていい……?」


「こわっ!!!!!!!!」


「ただのホラーや!!小学生のセリフちゃう!!震えが止まらんわ!!」


「魂が小学生って言ってましたけど、なんか……魂も不審者なんですよね……」


エンリが静かに結論を出す。


「今回は……ご縁がなかった、ということで」


「くっ……“魂”では受かりませんか……!」


「なんで魂で勝負すんねん!!!」


男は背筋を伸ばしたまま、ゆっくりと退場した。


魂の年齢──謎理論だけが、この部屋に残った。




【四人目】


「では、次の方──どうぞ」


扉が開くと、ぱっと明るい笑顔で入ってきた女性。


──が、開口一番。


「(笑顔で登場。明るく元気に挨拶)こんにちはぁ~っ!!よろしくお願いします!(お辞儀)」


「えっ!?今ナレーション読み上げた!?」


「(椅子に座る。審査員を見て微笑む)」


「ナチュラルに地の文読んでる!?」


「……あの、それ、ト書きというか……演技用のメモじゃない?」


「(驚く顔。少し焦る)えっ!?……(ページをめくる音)あっ……あった!」


「効果音も入ってるぅぅぅ!?」


俺とカエデが交互にツッコむ隣で、エンリがなぜか嬉しそうに頷く。


「うふふ、でも素直で一生懸命な子ですね。可愛いです」


「肯定が早ぇな!?なにフィルター通ってんの!?」


「じゃあ、セリフ読んでもらえるかな?」


台本を差し出すと、彼女は朗読を始める──のだが。


「(手を胸に当てて感情を込める)“どうして……どうしてあたしだけが、こんな目に……!(涙をこらえる)”」


「もうツッコミ追いつかんて!!」


「演技じゃなくてナレーションの練習してるやろこれ!!」


「(感情が高ぶる。足元がふらつく)うわぁぁぁ……(涙を流す音)」


「どんなオーディション!?感情表現というより実況放送や!!」


「……うん、すごい勢いだったな……うん」


「“うん”しか出てこんやろ!?リアクション詰んでんのよ!」


「(退場しながら)今日は本当にありがとうございました!(笑顔で手を振る)」


「もう黙って帰れーーー!!」


扉の向こうから「(退場)」の声が聞こえた気がしたのは、きっと俺の幻聴だ。




【五人目】


「はい、じゃあ……次の方どうぞー」


扉が開いた瞬間、オーラが違った。


黒髪ストレート。真っ白なワンピース。静かで、影のある雰囲気。

まるでホラー映画から抜け出してきたような、謎めいた存在感。


「……失礼します」


低く、囁くような声。

歩幅を崩さず、ぴたりとセンターで足を止める。

一礼。無表情。睨んでないのに圧。


(……おい、ちょっと待て。これ、場違い感エグいぞ)


「名前を、聞いても……?」


「名前は……ないです」


「めんどくせぇなおい!」


「でも何か深い意味ありそうですね……!」

(エンリが肯定するな!この場に関してはブレーキ側だろ!?)


「職業とか……聞いていい?」


「かつて“地下で詩を売っていました”」


「なにそれ!?ポエマー!?てか“売ってた”ってなんだよ!!」


「ただ、今は違います。感情を、燃やしています」


「え、なに……今なにしてるの!?」


「“誰かの心を爆破する存在”として、生きています」


「なんだよその職業!テロリストなのか!?詩人なのか!?」


カエデも口を開く。


「え、あんたもしかして……“爆発系ヒロイン”ってやつ? それか一周回って“元カノ枠”?」


「どちらでもありません。“まだヒロインになれていないもの”です」


「ややこしいな!」


俺はとりあえず気を取り直して、台本を手渡す。


「と、とにかく! じゃあ演技の方、お願いします」


彼女は紙を受け取ると、そのまま破り捨てた。


──バリバリバリィィィ!!


「なにしてんだお前ぇぇええ!!!」


「……台本は、魂の邪魔をするから」


「いやいるよ!?台本いるから!なんなら現場で一番いるから!!」


「私は、自分の言葉で、叫びます」


床を踏み鳴らす。その場で腕を広げる。そして、唐突に──


「恋とは!!! すなわち!!!! 死だッ!!!」


「!?!?!?」


「別れがあるのに、始めるんですか!? 愚かすぎる!!! でも──それが愛でしょう!!!」


「な、なんなんだこの人……!」


「うふふっ、なんだか……新しい風を感じますね……!」

(エンリィィィィィィィィ!!!!)


彼女は静かに前髪をかきあげて、こちらをじっと見た。


「あなたの心は、今──何色ですか?」


「知らねぇよ!!」


そのとき、扉の向こうでスタッフの誰かが倒れる音がした。


(おい、なんか起きたぞ!?)


彼女は振り返りもせず、言った。


「……選ばれることに、意味はない。私は、ここに“いる”という事実だけで、十分」


そのまま、すっと去っていった。


あまりに濃厚な空気が残りすぎて、全員が数秒間無言になる。


「……え、採る? 採らない? どっち……?」


「ウチ、夢に出てきそうで怖いねんけど……」


「でも、演技に迷いはなかった……ような気がします」


「俺はもうわからん……次行こう……次……」


──そして、次なる挑戦者が、ドアをノックする音が響いた。


《後半に続く》







【あとがき小話:カエデの休日 — 一日編】


09:02

『ん~~……ウチ、もうちょっと寝たい~~』

毛布にくるまりながら、スマホのロック画面に映る潤の写真をチラ見。

でも通知は来てない。


09:40

なんとなく起きる。

『はぁ~あ。潤くんにモーニングコールしてもらいたいわ~』

言いながらベッドの上で転がる。自分で自分を抱き枕にしてみる。


10:10

パンケーキ焼いて、3枚目で焦がす。

『潤くんに出す用は……こっちやな!』

自分用のは焦げたやつ。癖になってる“勝手な仕分け”。


11:20

友達とカフェに行く。

笑顔でずっと喋るけど、ふとした瞬間、隣のテーブルのカップルをじっと見てしまう。

『……ええなぁ、ああいうん』


13:50

ショッピングモールでうろうろ。

可愛い服を見つけるたびに『潤くん、こういうの好きかな?』って脳内会議が始まる。

でもレジに行く前にやめる。理由は分からない。


15:00

公園のベンチでアイスを食べる。

スマホを見ながら『……なーんで既読つかんねやろなぁ』と小声で言って、

自分で「んふふ~ウチ、めんどくさい彼女やん~」と笑ってごまかす。


16:30

帰り道。潤の好きそうなお菓子をスーパーで買う。

『なんとなく』でカゴに入れるが、気づくとそればっかりになってる。


18:00

夕飯は手抜き。だけど潤が来た時用のレトルトは常に4種常備。

『なんでもええよ~って言うくせに、ちゃんと味見してくるからな~……かわいいわ』


19:30

お風呂で歌う。

ちょっとだけセクシーに見える自分を鏡でチェックして、

『これ見て潤くんが顔真っ赤にしたら……んふふっ』って妄想。


21:00

潤からのメッセージが来る(と仮定して)

一度返信文を書いて、全部消す。書き直して、また消す。最終的に「おつかれ~」だけ送る。


22:00

暗い部屋。ベッドの中。

『潤くん……なんか、ウチのことちゃんと見てくれとる?』

誰にも聞かれない声で、天井に問いかける。


22:10

そのままスマホを胸に乗せて、眠る。

通知は鳴らない。でも、手はしっかりスマホを握ったまま。


 


作者:pyoco(甘えたがりは、いちばん寂しがり)

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