第78話『俺、女優を武器にする』
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──それは、とある午後。
“表の社長”である俺、葉山潤は──裏で「芸能戦略会議」に巻き込まれていた。
場所は例によって、ゲンジの指定した怪しすぎる会議室。
重厚な木の机に、安っぽい金の装飾。壁には意味深なポスター。
本来なら新興宗教の布教ビデオ撮る部屋だろ、これ。なんで毎回こんな空間センスなんだよ。
「……で?」
ゲンジが煙草をふかしながら、にやりと笑う。その顔には、完全に“仕掛け人”の自信が満ちていた。
「ノアを“守る”だけで満足してんのか、坊主」
「いや、満足っつーか、むしろ手一杯だったっていうか……」
「おまえ、守った相手が武器になるって発想はねぇの?」
「……武器……?」
この時点で俺の中の警報がフル稼働。
“やべぇワード出たぞぉぉぉ!!”って全細胞が騒ぎ出してた。
でもゲンジは構わず続行。煙をゆるく吐き出しながら、指先でそれをなぞる。
なんだその手つき。魔術師かよ。メディア界のグレイシアかよ。
「今、ノアは“正義の被害者”として世間に受け入れられてる。清楚な見た目、泣きながら訴えた記者会見、そしてあの爆弾発言……“潤様をお慕いしてます”」
「うわあああああ、やっぱあれ引っ張るんだ!?やめてくれもう忘れてくれ!!」
「あれだけでSNSトレンド5位以内に入ったんだぜ? “ノア様の旦那候補潤様”ってタグ、知ってる?」
「知らんでいいよそんなの!」
「視聴者は期待してんだよ、坊主。続編をな」
「いや俺ドラマの脚本家じゃないから!ていうかこれ、リアルだよな!?虚構じゃないよね!?」
ゲンジは声を殺して笑っていた。
くそ……顔は笑ってるけど目がまったく笑ってねぇ。まさにメディア界の魔王。しかもこっちは会議に来ただけなのに、なんで精神的にボコボコにされてるんだよ。
「いいか。ノアはこれから主演ドラマを持つ。その看板に、おまえの“影”を仕込むだけで──視聴率爆上がりだ」
「影って、俺の……?」
「そう。脚本に“謎の男”が登場する。名前は明かされず、過去も不明。でもヒロインには優しくて、めちゃくちゃダサくて、だけどたまに……やたらかっこいい」
「なんだよその設定!?俺そのまんまじゃん!!ていうか“めちゃくちゃダサいってどういうこと!?流石に傷つくよ!?」
「リアリティだよ。キャラ作るなら、欠点だらけの方がウケる。おまえみたいにな」
「うるせえな! わかってるけどムカつくなそれ!」
──でも、なんだろう。
ゲンジの言葉が、完全に“現実を戦場にする話”に聞こえてきた。
俺がノアを守った結果、今の彼女がいる。
だから──
「それにな!知ってんだろ坊主、おりゃ実力でしか人を認めねぇ……あのノアは正真正銘の女優だ……
大切なんだろ?もっと評価されて広まって欲しいって思わねぇのか?」
──その言葉は、不意を突いて胸に刺さった。
確かにノアは人気女優ではあるけど……そこが彼女のゴールじゃない。
もちろん、一人でも多くの人の気持ちを動かせる舞台やチャンスがあるなら、チャレンジさせてあげたい。
そう思った瞬間、口が勝手に動いていた。
「……ノアは……大切な人です……だから!彼女がより評価されるチャンスがあるなら応援したい」
「は?やっぱり付き合ってんのか?
坊主見た目によらずやるじゃねーの。ガハハ!」
「違う違う、そうじゃない! いや、そうなんだけど語弊がある!!」
「坊主……今の、録音してっからな?」
「うわあああああ! 違うって言ってんだろがああああ!!やめて録音消してお願いだから!」
ゲンジの腹の底から響く笑い声が、会議室全体を揺らしていた。
──そして、撮影初日。
ノアは、真っ白な衣装に身を包み、スタジオのど真ん中に立っていた。
その姿は、まさに“女優”だった。
「……ノアさん、リハーサルの位置確認入ります」
スタッフの声に、ノアは小さく頷く。
たったそれだけの動作なのに、現場の空気がピリッと締まる。息を呑むような静寂すら生まれる。
(すげぇ……)
正直、何度も見てるはずなのに。
でも、ノアがカメラの前に立つときの“空気の変わり方”には、毎回心底驚かされる。
オフの時は、あんなに甘えたがりで、俺にべったりな子なのに。
今のノアには、誰も触れられない“プロの壁”があった。
「本番、いきます!」
監督の声が飛び、ノアの目がすっと変わる。
その瞬間、彼女の中の“スイッチ”が入ったのがわかる。
──彼女はもう、俺の知ってるノアじゃなかった。
そこに立っていたのは、ひとりの男に想いを寄せる“物語の中のヒロイン”。
その視線の先には──劇中の“謎の男”がいた。
顔は映らない。声もない。
ただ、後ろ姿と気配だけで演技するモブ役。
……なのに。
(俺やん……)
ノアが向けるあの優しい視線、静かに寄り添う空気。
完全に、あの日の俺を再現してる。まるでドキュメンタリーだ。
しかも、セリフが──
『君は僕のものだよマイハニー。ただ、そばにいて……それだけで、私は強くなれるから……エネルギーが満ちてくる!』
(そんなセリフ言ってねー!もうやめてくれ~~!!俺の羞恥心が死ぬゥゥ!!)
SNSでは、放送どころか撮影初日からバズっていた。
「“ノア様の演技、やばすぎる”」
「“謎の男=彼氏ってことでよろしい?”」
「“この気配、絶対あの社長でしょw”」
「“潤様との実録ラブストーリーかよ”」
(バレてんじゃねぇか!!俺、顔出てないのにぃぃ!!)
俺が頭を抱えていた、そのとき──
「せんぱ~いっ!」
元気な声とともに、ユズハが現れた。
ピンクのマフラーに、やけに派手なサングラスをかけて、現場の空気をぶち壊す勢いで。
「もしかして、今の撮影……ちょっとドキッとしちゃいました?」
「いやしてねーよ!むしろ恥ずかしさで死にそうだわ!」
「え~? 先輩、まさかあの“後ろ姿”でバズるとは思わなかったですぅ~?」
「噂だけ一人歩きして怖いわ……!ていうか、なんでおまえ現場入ってんの!?」
「えへへ、視察ですぅ? 情報収集ですぅ? それとも──」
ユズハはニヤリと笑って、俺の耳元にささやいた。
「ヒロイン争奪戦……開始、ですかねぇ?」
「いやゲーム感覚で言うなああああ!!」
「でもー、ノアさんに主役とられっぱなしは、ちょっと悔しいなぁ~って思ってたところなんですよねぇ」
「……え?何その含みある言い方」
「なので、私もプロデューサーさんにアプローチかけておきましたぁ!」
ユズハはピースを作って、ウィンクをひとつ。
「……狙わせてもらいますね、センパイもろとも?」
「おまえなぁぁぁああ!! どこまで本気で言ってんだよ!!」
「ふふっ、ノアさんが主演なら、私だって──第二主演ですからね?」
「なんだよ第二主演って!? そもそもこの物語ユズハの出番ないだろ!?」
「でも、応援してくれますよね?」
「むしろ警戒してるよ!!」
ユズハは楽しそうに笑って、俺の腕にくっついてくる。
「じゃあ、私も“主役の座”──狙っちゃおうかな?」
「何やらかす気だよ!!余計な仕事増やすなー!!!」
──まるで、嵐の前の静けさのような。
あるいは、火種をばら撒いていくような。
そんな午後だった。
***
──数日後。
──記者会見。
俺は、なぜか壇上に立たされていた。
横にはノア、正面にはフラッシュと記者の嵐。
ライトが眩しい。鼓動が早い。俺、なんでここにいるんだ?
司会者の声が響く。
「本日は“新ドラマ記念・主演女優と経営者の特別対談”にお集まりいただき──」
「いや俺なんか出てよかったんすかこれ……?」
「潤様、堂々としていてください」
ノアが小さく囁く。いつもの声なのに、変に安心する。ああもう、ずるいなこいつ。
だがその横で、記者のひとりがマイクを握った。
「葉山さん。今回のドラマの“謎の男”──これは、やはりご自身がモデルとお考えで?」
「えっ!?いやその、俺なんかがモデルってわけじゃ──」
「“影の社長”が、実在するという噂については?」
「裏社長の話はやめろォォォ!!!」
「実は影の社長に訓練された戦闘兵説については?」
「そっちはもっと違う!!やめろ!!!」
「では、ノアさんとのご関係について──」
「それ以上は企業秘密です!!絶対答えないからな!!」
会場がざわつく。俺の心拍もざわつく。
そんな中、ノアはくすっと笑いながら、マイクを取った。
「潤様は、私にとって──“救い”でした。だから、ドラマでも、その想いを大切に演じさせていただきます」
──まただ。
あの“清楚な声”と“目線”だけで、会場の空気が飲まれていく。
本当に、こいつは“女優”なんだな……。
でも──
そんな彼女を近くで応援したい。
ノアが前に進もうとするなら、俺も──
その隣で、堂々と立ってやる。
「……おまえ、ホントすげぇな」
「え?」
「なんでもない。俺は……裏で地味に頑張るから」
「──ふふっ」
ノアが、満足そうに微笑んだ。
そしてその様子が、またSNSでバズっていた。
「“見つめ合うだけで絵になる二人”」
「“え、これドラマじゃなくてリアルじゃん”」
「“潤様……沼すぎる……”」
……いや、俺、沼ってねぇよ!?
ああもう!
なんで俺の平穏、いつも数日しかもたねぇんだよぉぉぉお!!
──こうして、ノアの新主演ドラマは、見事に世間を沸かせた。
……代償として、俺のイメージもごっそり変わっていったけどな。
【あとがき小話:ミリーの休日 — 一日編】
08:12
『うわー!おひさままぶしー!!』
カーテンを開けた瞬間、ミリーは目を細めてベッドに戻る。
「5分だけー!」と叫びながら、また毛布にくるまる。
08:26
『……ねぇ起きてないってば……』
でも誰もいないので、自分で勝手に笑って起きる。
今日も一人遊びのスタート。
08:45
トーストを焦がす。
『……あっ……あーっ……まぁいっかー!』
焦げたところだけかじって、残りはジャムでごまかす。
今日のジャムはイチゴ。昨日より甘い。
09:30
近所の公園にひとりでお散歩。
ベンチで鳩を眺めながら、突然ジャンプしてみる。
理由はない。でも楽しかったからオールオッケー。
10:20
スーパーでおつかいごっこ。
買うのはチョコ、ジュース、そしてなぜか乾燥わかめ。
『潤くん、これ好きかなぁ~?』と呟いてハッとして赤くなる。
12:10
お昼はオムライス。
ケチャップで「じゅんくん」って書いたあと、慌ててぐしゃぐしゃにする。
『ちがうの!べつに意味ないのっ!』
13:00
アニメを観る。テンション上がる。
でも途中で寝ちゃう。
起きたらエンディングが流れてて、なぜか悔しくて変な泣き方をする。
15:30
ちょっと静かになる時間。
部屋のぬいぐるみと並んで座って、ずっとしゃべってる。
『今日さー、なんか潤くん元気なさそうだったからさー……ミリー、何かできないかなーって……』
17:00
パフェを作る。でも砂糖を入れすぎて失敗。
笑ってごまかす。
『おいしくないけど、気持ちはいっぱい詰めたのーっ!』
18:45
お風呂で“ぽかぽかの歌”を即興で作って大熱唱。
歌詞は忘れる。でも気分は100点満点。
20:10
お布団でごろごろ。
スマホで潤の写真を見ながら『うわーん潤くんすきー!!』と叫ぶけど、ちゃんと声は枕に埋める。
21:00
『明日は……ぎゅーしてもらえるかなぁ……』
そう言って目を閉じる。
寝つきはいつも早い。でも、今日はちょっとだけかかった。
作者:pyoco(まるで子どもみたいで、誰よりもまっすぐな大人の女の子)