第73話『俺、敵メディアを追い詰める』
──とあるBAR『サイダシ』 深夜のカウンター席──
カエデ(グラス片手にほんわかウィンク)
「なぁなぁ……読者さん、ウチのこと……ちょっとでもええなって思ったらやなぁ……」
「ぽちーって押して、ぴこーってコメントしてくれたら……ウチ、めっちゃ喜んでまうねんで?」
ユズハ(カクテルをくるくるしながらニヤリ)
「え? コメントってハードル高いですかぁ? そんなことないですよぉ~?」
「“ユズハ可愛い”の5文字でもいいんですからぁ……ね、先輩♡」
「……ま、できれば“潤くんとのやりとり尊い”まで書いてくれたら、もっと喜んじゃいますけど?」
ミリー(氷をかちかち鳴らしながらにっこにこ)
「じゅんくんが褒められてると、ミリーも嬉しくなるのーっ!
だからコメントでいっぱい撫で撫でしてあげてね~っ!」
「ついでにミリーのことも『元気すぎ!』って書いてくれたら……飛び跳ねて喜んじゃうの!」
エンリ(静かにグラスを置いて微笑)
「あなたの一言で、この物語の灯がまたひとつ……強くなる気がするのです。
どうか、今夜だけでも……素直な言葉を残していってくださいね?」
「ふふ、作者さんも……潤さんも、喜ばれますから」
ノア(カウンターの影からひょっこり顔出し)
「……潤様が誰かに褒められていると、胸が痛みます。けれど……」
「コメントがあると、潤様が……嬉しそうに微笑むのです。
……ですから……たまには、その、お願いしますね?」
リア(メニュー片手に冷静なトーン)
「感情は理性の敵……けれど、理性を破るコメントほど、人を動かすものはありません」
「──つまり、“嬉しい”の一言すら、価値があります」
「……任意ですが、私はあなたの感想、分析しておきたいので。よろしくお願いしますね」
潤(やや照れながら)
「いや、なんで俺が最後に呼び出されてるんだよ……
でもまあ、言ってくれるなら、正直嬉しい……かもな。
“面白かった”だけでも……お前の声、ちゃんと届くからさ」
作者(カウンター奥から顔出して)
「コメントもいいねも全部読んでます!
投稿の原動力はあなたの言葉──だから、気軽に残してってくださいな!」
街頭モニターから、どこかのスタジオから、スマホの通知から──
今日もまたあの女優の話題が流れ続けていた。
「ノアはリョウヤとラブラブなんだから、ほっといてやれよ」
「昨日からこのニュースばっかじゃね?」
「え、ノアちゃん騙されてたって、普通にやばくない?」
「……なんでつけるチャンネルごとに、言ってること違うんだよ」
「てか、あの芸人……昨日と意見変わってんだけど?」
疲れ切った顔のサラリーマン、制服姿の女子高生、深夜バイト明けのフリーター。
誰もが画面を見ては首を傾げ、眉をひそめ、そして次の話題に逃げようとする。
──メディアに、翻弄されていた。
人気女優・ノアを巡るスキャンダル。
だが、それを伝えるメディアの言葉が、どこかおかしい。
A局では「二人は恋仲」と報じられ、B局では「被害者のノア」と報じられ、C局では「証拠不十分」と曖昧に濁す。
一人の人間を巡って、まるで全く違う世界線が同時進行しているかのようだった。
──前代未聞の放送界パニックだった。
けれど、その空気が変わったのは、ほんの数十秒の動画からだった。
SNSに投稿された一本の映像。
それは──
リョウヤが、ノアに顔を近づける瞬間。
ノアが首を横に振る拒絶のしぐさ。
そして──「やめてください」という震えた声。
その動画は、名前も顔も出さない匿名アカウントから発信され、
タグも説明もほとんどない、ただの投稿だった。
だが──
「リョウヤってさ、前から熱愛報道あったよね。相手ばっか干されてるけど」
「てか、リョウヤ出演のドラマ、あの局ばっかりじゃね?」
「うわー……ヤラセって、こういうの?」
「あたし、ああいう男、マジ無理」
「……顔だけじゃ、ダメなんだな」
最初に動いたのは、SNSの住人たちだった。
そして次に、メディアを見る目が──変わった。
報道の内容ではなく、誰が言っているかその人を信じたいか。
正しさではなく、空気が。
この国の情報の中心が──信頼から、ノリと感情に傾いた瞬間だった
⸻
とある都内の会議室。
そこには、日本のメディアの三分の一を束ねる巨大組織──日本放送大連合の重鎮たちが集まっていた。
ある者は有名テレビ局のプロデューサー。
ある者は報道番組を仕切るキャスター出身の重鎮。
ある者は莫大な資金を投じる投資家。
決して表舞台には姿を現さぬ者たち。
だが、この国の報道という看板を、裏から動かしてきた存在だった。
「で? 矢崎くん……大蔵社長はなんと?」
投げかけたのは、白髪混じりのスーツに身を包んだ男。
声には苛立ちと焦りがにじんでいる。
「はい。大蔵様からは、私に一任されております。現在、状況の把握を行っている段階でして……」
矢崎は冷静に応じた。
だがその言葉を遮るように、別の年配の投資家が声を荒げる。
「一任されてるって……あのねぇ? 我々も君たちレグルスと共に歩んできた。勝ち馬に賭けていたつもりだ。なのに、どうしてこうも事態が揺らぐ!?」
(白々しい……)
矢崎は思う。
つい先月も、この男のスキャンダル──若手アナウンサーを食い物にした件を揉み消してやったばかりだ。
──絶対に沈まぬはずだった勝ち船が、わずかに軋んだ。
その途端、この有様だ。
「まずは状況の整理をしましょう」
矢崎は淡々と語り始める。
「我々、レグルスホールディングスの全面支援のもと、日本放送大連合は以下の主要メディアを擁しております」
■日本放送大連合(レグルス側)
プジテレビ/二本テレビ/TBSN/テレビ東京/朝火新聞/AAN/毒売新聞/TOKYO MZ
「対する帝国系、ゲンジの率いる変則的独立系ネットワークは──」
■帝国系(ゲンジ陣営)
tvZ/News24/日刊ゲンジ/Abemo News/Buzzreed/クロスTB/TOKYO VICE
「出力に関しては互角。むしろ、資金力・政治支援を含めた持久戦では我々が圧倒的優位にあると見立てております」
そう、戦力差は明確だった。
あとは時間が片をつける──はずだった。
「ふざけるな! 君は今にも押し込まれてるように見えるが?」
先ほどの投資家が、椅子を叩かんばかりに身を乗り出す。
「世論はリョウヤ叩きに傾いている。それを擁護する我々が、まるで加害者じゃないか!」
「承知しております。最悪の場合……彼には海外移住を命じ、どこぞの富豪の玩具として切り売りする予定です。……彼は少々、調子に乗りすぎました」
「それで済む問題か!? 今の混乱は我々の信頼まで損なっている!」
「このままでは……報道の信用そのものが揺らぎます。我々のメディア群も、視聴率の低下、スポンサー離脱の連鎖……その危険があります」
その時だった。
ドアが乱暴に開き、一人の社員が駆け込んできた。
「報告します! 中立系のNHQ、東京新聞、日景新聞なども、帝国系の報道スタンスに歩調を合わせ始めました!」
一瞬、空気が凍る。
矢崎は静かに目を閉じた。
──今まで、数多のタレント、アイドル、女優を裏で操り、メディアの力で潰し、食い物にしてきた。
その積み重ねた悪意が、今、牙を剥こうとしている。
矢崎は思案する。
(なぜだ? なぜここまで……?)
──情報戦は世論の多数決。
メディアシェアは互角。スタミナ勝負でも我々に分がある。
なのに、ひっくり返るのはなぜだ?
矢崎の視線の先で、他の出席者たちはまるで子供のように騒ぎ立てていた。
「どうしてくれるんだ!」
「このままでは信用に関わる!」
「政府とのパイプも切れるぞ!」
まるで母親に駄々をこねる子供のように、声を荒らげる連中。
──仕方あるまい。
「……強行策を取ります。対象は、ゲンジ、あるいは……ノアが肩入れする男、潤」
「……消す、ということか?」
「はい。あらゆる手段をもって接触し、発信力を断ちます」
「資金は出す。潰してくれ」
「我が局も、同時に情報封鎖の準備に入る」
「次はしくじるな、矢崎……」
矢崎は黙って頷いた。
(……失敗は許されない。今度こそ、確実に……奴らを潰す)
【あとがき小話:誕生日決定会議(独断)】
作者『ヒロインズの誕生日、そろそろちゃんと決めないとだな』
潤『えっ……誕生日って、決めるもんなの?』
作者『当然だろ?季節感、イベント展開、ファンアート対策、全部関わってくるんだぞ。』
潤『いやまあそれは分かるけどさ……お前、絶対テキトーに──』
作者『潤は……12月25日な』
潤『おい待て待て待て!!なんで俺だけ即決なんだよ!?しかもクリスマス!?一番めんどくさい日じゃん!!』
作者『大丈夫だって。全国が潤の誕生日を祝ってくれるようなもんだよ?
しかも誕プレとケーキを1個にまとめられるお得設計!!』
潤『被害者のセリフだろそれ!!!生まれてからずっと“プレゼント兼用”で泣いてきた人のテンションなんよ!!』
──そこへ──
ユズハ『へぇ~?じゃあ潤先輩の誕生日、全国行事なんですねぇ?』
ノア『特別な日に生まれた男……ふふ、ふさわしいです。私も全力で準備を』
カエデ『潤くん~、誕プレって“手作り”でもええよなぁ?めっちゃ特別なやつ渡したるわ~?』
リア『……毎年、用意が必要……ですね』
エンリ『ふふっ……一緒に過ごす理由が、できましたね』
ミリー『潤くん潤くん、ミリーからは!ちゅー!……だめ?』
潤『おい待て!!なんで俺だけ地獄のスケジュール詰まってんの!?しかも誕生日決めただけだろこれ!!』
作者:pyoco(ヒロイン全員、年末進行で潤に詰め寄る)




