第71話『俺、もう一つの帝国に踏み込む』
「才能を奪って、成り上がる!」
無職で底辺だった俺が、美少女ヒロイン達とともに現代社会を攻略していく物語、ぜひ覗いてみてください。
ちょっと空き時間に、俺の成り上がりハーレム物語をどうぞ!
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静まり返った高層オフィスの一角。
壁一面がガラス張りで、眼下に広がるのはネオンとビル群、そして……どこか寒々しい、無機質な夜景だった。
「……やっべ、吐きそう……」
スーツの襟元を指で引っ張りながら、俺──潤は誰もいないエントランスの片隅で、ひとり胃の重みに耐えていた。
(いや、普通に考えてムリだろ。テレビ業界の黒幕みたいなヤツに交渉って……。ノアのことがなかったら、こんなヤベー所、絶対来ねぇよ)
でも──今は、行くしかない。
俺の中で、あの夜のノアの涙が、いまだに焼き付いて離れなかった。
──眠らされて、知らないホテルに。
──無理やり撮られたキス未遂の映像。
──すべてを仕組んだリョウヤという男。
──そして、裏でそれを動かす放送全連合会。
「正義じゃ勝てない」──リアがそう言ったとき、正直、心が折れかけた。
でも、エンリが言ってくれた。
『放送界には、もう一つの帝国があります』と。
その名は──ゲンジ。
変人で、業界最大手のあの局を牛耳る社長。
協力を取り付ければ、あの連中に対抗する力が得られる。
けど、問題は──
「変人……かぁ。俺、まともなヤツとも会話成立しねぇのに……」
深呼吸一つ。
エレベーターの扉が開くと、目の前には異様に広いワンフロア。
壁には落書き、机の上には未開封のアイスと大量のリモコン。
そして──
「よぉ。……あんたか、ノアの社長ってのは」
部屋の奥、ソファに寝転んでいた男が、片手を上げてニヤついた。
目元にサングラス、Tシャツには『地上波、しんどくね?』の文字。
髪は寝癖ついたまま。
パッと見、ただの深夜テンションの大学生。
でも、俺は瞬間で理解した。
(……この人、やべぇ)
何がって、空気の重さが違う。
俺の《威圧(Lv4)》を打ち消すどころか、逆に飲み込んでくる感覚。
スキルを通してわかる。「あ、こいつ、ただ者じゃない」って。
「ま、座んなよ。てか、靴のままでいいから。
あとその顔……初対面のオーラじゃねぇな?ビビってんの?」
「い、いや……その……そういうわけじゃ」
ビビってた。全力で。
しかも最悪なことに、座ろうとしたとき椅子の脚に足ぶつけた。
「ぅあ゛っ!」って素で声出た。
ああもうこのタイミングで!一番ダサいやつ!
「ははははっ、マジか。俺、今のでちょっと好きになったわ」
笑ってんじゃねぇよ!
心の中だけでツッコミをいれる…
少しずつ整えていく呼吸の中で、俺は腹を括った。
「──話があって来ました。
放送全連合会が……ノアを潰しにかかってます。
証拠は揃ってますが、正攻法じゃ……潰される」
「ふーん?」
ゲンジはテレビのリモコンをくるくる回しながら、視線だけ俺に向けてくる。
「それで?」
「それで、じゃないですよ! ……っつーか……あの、助けてほしいんです」
踏み出した。
情けなかろうが、カッコ悪かろうが。
足元おぼつかなかろうが、下手すりゃ鼻水垂れてようが。
それでも──俺は、ノアを、助けたい。
「はぁ~……やっぱ変なヤツ来たわ」
ゲンジが、ソファから身を起こす。
それまでの脱力した態度が一変、ギラッと鋭い目つきになる。
「なぁ、あんた。場慣れしてないのに、なんでこっち睨めんだ?
しかも、お前から出てる空気……変だぞ?」
「えっ……?」
「いや、言ってることも挙動もダサい。つーか普通。なのに……お前の存在が場を取るんだよ。不自然なくらい」
俺は、ぐっと息を飲んだ。
(やべぇ……完全にスキルの副作用だ……!)
威圧も魅力も、レベル4あれば自然と滲み出る。
発動してるって自覚がなくても、周囲には何らかの違和感を与える。
……でも、この人、嗅ぎつけた。
スキルという言葉を知らずに、異物感だけを。
「へぇ……わからんなぁ。あんた、バカみてぇに下手で、でも……芯だけは通ってんのか?」
ゲンジは立ち上がり、テーブルの奥にある大量のDVDボックスを手に取る。
「俺さ、超一流とか天才とか、大嫌いなんよ。
整いすぎたヤツ見ると萎えるの。予定調和、みてぇでさ」
「でも──お前はバランスが悪い」
俺は思わず口を開く。
「いや、それはただの欠点じゃ……?」
「違ぇんだよ、バカ。
お前みてぇに下手で、不器用で、でも何故か空間を奪ってくる奴ってのはな……
原石なんだよ。磨かれてないからこそ、手のひらに乗る」
……何言ってんだコイツ。
って思ったけど、正直、ちょっとだけ嬉しかった。
「俺は、完成された正義には興味ねぇ。
未完成のまま進むバカの方が、よっぽど痛快だ」
ゲンジはゆっくりと、俺の目の前に座る。
「それでも、俺に協力しろって?」
「はい。……バカですけど、
それでも、ノアを守りたいんです。
だから……お願いします」
沈黙が、数秒。
ふいに、ゲンジの口元が釣り上がった。
「……っははは! おもれー!
いいぞ、ダサいまま突っ込んでくる男!
わかった、協力してやるよ。
その代わり──」
「えっ、まじで!?はやっ!?」
「こっちも面白いもん見せてくれよ、潤くん」
「協力してやるよ。
その代わり──」
ゲンジの笑顔が、ピタッと止まった。
それまでのふざけた空気が一変、
空間の温度が、一気に氷点下まで下がったような気がした。
「──レグルスホールディングスを潰せ」
「…………へ?」
思わず変な声が出た。
今、何つった? この人。
「もっかい言いますけど、俺、芸能事務所の代表です。
ていうか、肩書きだけ社長って言われる部類の……」
「3年だ」
「はい?」
「3年以内に、あの腐った企業グループを潰すか、乗っ取れ。
それができたら、うちのすべてを貸してやる。
うちの放送枠、制作、タレント、メディア接続網──全部な。
正真正銘、日本のもう一つの帝国が、お前に力貸す」
……息が詰まった。
それは、あまりにも突拍子がなさすぎて、
むしろ本気に見えるラインを、完璧に突いてくる。
「で、できなかったら……?」
「んー……そうだな。
あんたには、どっかの国でちょっとだけ危険な仕事してもらおうか。
ほら、ジャングルの奥地で鉱石掘るとか、ね?」
「こわっ!!」
「冗談だよ。……って顔してねぇだろ、俺」
冗談のふりをした本気。
この男、遊んでるようで一切ブレてない。
「……なんで、そこまでレグルスに執着を?」
ふと、俺の口から自然に漏れた問い。
ゲンジの瞳が細くなり、
指先でグラスを転がしながら、ぼそりと吐いた。
「アイツさ、大蔵シゲフミ──気に食わねぇのよ」
「……え」
「たかが一企業のくせに、メディアに口出してきやがる。
金で枠を買って、番組をねじ曲げて、報道の意義も価値も全部利権に変える。
あのクソ野郎……情報を兵器としか思ってねぇ」
机を拳でコツン、と軽く叩いた。
「お前がノアを救いたいように、俺もメディアを救いたいんだよ。
地上波ってのはな、本当は伝えるためにあるんだ。
なのに──利権と忖度ばっかで、魂が腐ってやがる」
「……」
言葉にできなかった。
ゲンジの目には、確かに怒りが宿っていた。
演技や茶番ではない。
これは、この男が本気で世界を変えようとしている証。
「だから──潰せ。
大蔵を。レグルスを。あの偽りの情報帝国を」
「……」
俺の胸が、ズンと重くなる。
(本気で言ってる……。この人、俺に敵の本丸を潰せって……)
怖かった。無理だと思った。けど──
同時に、心のどこかが、燃えた。
「……3年あれば、やれるかも」
声が震えてた。自信なんて、まるでなかった。
でも──俺は、逃げなかった。
「やってやりますよ。
ノアを守るついでに──あなたの願いも背負ってやりますよ」
ゲンジが、ニッと笑った。
「いいねぇ……やっぱバカって最高だわ。
全部できる気になってるその顔。
──そういうヤツが、世界を変えるんだよ」
そう言って、グータッチの手を差し出してきた。
……正直、タイミング的にスルーしようか悩んだ。
でも俺は、そっと拳を合わせた。
潰せるかどうかなんて、知らない。
けど──やるって決めた。
そしてこの時から、俺たちは帝国同盟を結んだのだった
【あとがき小話:作者逃亡未遂】
潤『作者がまたいねぇ。……あいつどこいった?』
ユズハ『多分そんな遠くに行く度胸もないですし~?
せいぜい部屋の隅とか……押し入れとか……布団の中とか……』
潤『ミノムシかよ……。
いや待て、あいつ前も“メンタル療養”とか言って枕に顔埋めてただろ』
ユズハ『あー、それって“活動報告未提出症候群”ですよねぇ~。
重症者は“投稿予定カレンダーから目を逸らす”傾向があるらしいですぅ~』
潤『うわ、それもう末期じゃん……』
──そのとき──
作者『……ここにいるよ……(カーテンの裏)』
潤『おいっ!?そんなどっかのホラー映画みたいな出方すんな!!』
作者『投稿ボタンの光が……眩しくて押せなかったんだよ……』
ユズハ『じゃあ、代わりにユズハが押しておきますね~?ふふっ♪』
作者『あっ、いやちょっ……心の準備が──ってもう投稿済みィィィ!!!』
潤『ほら、こうやって毎回ギャーギャー言いながら結局出すんだから、おとなしく初めから書け!!』
作者:pyoco(物理的に逃げても……原稿からは逃げられない)