第55話『私、マサエ』
「才能を奪って、成り上がる!」
無職で底辺だった俺が、美少女ヒロイン達とともに現代社会を攻略していく物語、ぜひ覗いてみてください。
ちょっと空き時間に、俺の成り上がりハーレム物語をどうぞ!
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「おばちゃーん、コロッケいっこー!」
店の中で肉をこねていると、外から元気な声が飛んできた。
この声は──
「やっぱり、あんちゃんかい! いつもありがとね♪」
「ここのコロッケ、うまいし!」
黒のTシャツに、ピンクのプリント。
【I LOVE もやし】
見た目はどう見ても怪しいが、この店の大事な常連さんだ。
「はいよ! 今日は一個おまけしたいたよ!」
「ありがとー!」
「ったく、あんた、なんか抜けてるねぇ……こっちも力が抜けちまうよ! そういや昨日のテレビ番組の──」
こんな何気ない会話が、私の生き甲斐だった。
早くに主人を亡くして、この商店街で肉屋を続けてこれたのは、こうして常連さんたちとお喋りする、この時間があったからだ。
この、黒Tシャツのあんちゃんは、どんな話でも嫌な顔ひとつせずに付き合ってくれる。
そんなとき──
「マサエさーん! 来たよ! あいつが! KOCが来たよ!」
「KOC?」
魚屋のあんちゃんが、顔を真っ青にして飛び込んできた。
「そうかい、もやしのあんちゃんは知らないだね。
ここいらじゃ有名な──キング・オブ・クレーマーだよ!」
「商店街の人らは人がいいから、無碍にもできずずっと嫌がらせされ続けてんだよ……」
「で? 今、KOCはどこに?」
「今、メガネ屋のおばちゃんが捕まってて泣かされてたから、そろそろこっち来るよ!
オリャー、今すぐ店のシャッター閉めようかなって!
マサエさんも早くした方がいいよ!」
そう言い残して、魚屋のあんちゃんは走っていった。
「悪いねぇ……私も今日は、店を早仕舞いするかね……」
もやしのあんちゃんを見送りながら、シャッターを下ろしに行こうとした──
──そのとき。
向こう側から、KOCがゆっくりと歩いてくるのが見えた。
やってしまった。
今からじゃ間に合わない──!
このままじゃ、またKOCに捕まってしまう……!
そんな時──
「あのー、コロッケのおまけのお詫びに、俺が店番するよー」
「えっ? でも、あんちゃん、あいつはかなり酷いこと言うので有名なんだよ?」
「あー、大丈夫だよ! まかせといてー」
そう言うなり、私は押し込まれるようにして店の奥へ──
もやしのあんちゃんを、カーテンの隙間から見守った。
「あんちゃん……」
その時──
「おっ? 今日は肉屋、空いてんじゃん!」
KOCがズカズカと入ってきた。
「旦那が死んでからクッセェ肉しか出してねーもんな!
こんな店、早く潰れちまえよ!」
(くっ……)
怒りで震える。
でも、言い返したら最後、相手は100倍にして返してくる。
ぐっと拳を握りしめる私。
そんな私をよそに、もやしTシャツのあんちゃんが一歩前に出た。
「あのー、肉買わないんですか?」
「はぁ? テメェ、ここのババアはどこ行った!?」
「俺、今日代理の店員でーす」
「舐めやがって……なんだそのダッセェ服は?
I LOVE もやし……ぷはっはっはっは!」
KOCは腹を抱えて笑った。
「マジでお前、センスねーなー!
ダッセェ店とダッセェ店員、お似合いじゃねーかよ!」
「それにな、オメーくせぇぞ?
ここで売ってる腐った肉の臭いじゃねぇのか?」
(あんちゃん、ごめんよ……私の代わりに……)
辛いよね……それでも。
あんちゃんはただ静かに、淡々と──
「で、注文は? しないんですか?」
と、聞き返した。
「はぁ!? お客様に向かってなんだその態度はァァァ!!!
テメェみてぇな店員がいるからこの店はバイオ汚染なんだよォォォ!!!」
「ちゅうもんはー?」
「オメーロボットかよ!?
いいか!? 俺がこの店をSNSで晒したら一発で──!」
「でー、ちゅうもんはー?」
「ッッッざっけんなよテメェェェェ!!!!」
KOCが怒鳴りながら、スマホを取り出した。
「このクソみてぇな店とクソみてぇな店員、晒してやっからなァァァァ!!」
その時──
「おい、KOC!」
裏路地から怒号が飛ぶ。
「はぁ? 誰だよ、KOCって呼んだのは!?」
「おーよオメーだよ! キング・オブ・クレーマーが!!」
魚屋の兄ちゃんが仁王立ちしていた。
「この商店街にはな、オメーみたいなヤツをお客様だと思ってる奴は一人もいねぇ!!」
「出てけー!!」
「そうだそうだ出てけー!!」
次々と、商店街中から声が上がる。
気づけば、常連さんたちが店の前に集まっていた。
(うそ……みんな……)
KOCは顔を真っ赤にして震えている。
まるで、今にも沸騰しそうなヤカンみたいに。
そのときも、もやしTシャツのあんちゃんは──
「で、注文はー?」
変わらず、聞いていた。
(……まだ聞くんかい!!)
内心で盛大にツッコミを入れた。
そして──
「もう二度と来てやるかぁぁぁぁぁぁ!!!!」
顔を真っ赤にしたKOCは、怒鳴りながら逃げていった。
* * *
私はそっと、カウンターから顔を出す。
もやしTシャツのあんちゃんは、ふわっとした笑顔で、まだそこにいた。
「はい、コロッケ追加ー!」
「──あんちゃん、ありがとね」
泣き笑いになりながら、私はそう言った。
(この商店街、まだまだ大丈夫だ──)
【あとがき小話】
潤『あれ? 今日はXの“おはよう”当番、投稿なかったよな?』
リア『……ええ。静かでしたね。まるで世界から朝が消えたかのように』
ノア『……潤様の朝が無事だったのなら、それだけで私は……ですが、少しだけ、寂しさがありました』
カエデ『うち、昼まで寝とるからおはようツイート助かるんよ?ほら、目覚まし的なアレやん?』
ユズハ『うわ~、それってけっこう大事な役割だったりしますよねぇ?
“忘れた人”にはちょっと、デコピンくらいしてもいいんじゃないですかぁ?』
ミリー『……え? 今日って……わ、わたしじゃな、ないよ~? た、多分……きっと、えーと……あれ?』
(全員の視線、そっとひとつの方向へ)
潤『ま、まぁ誰が忘れたかは置いといて……“おやすみ”はちゃんと頼むぞ?』
リア『“当番”とは責任。――次、忘れたら……わかってますね?』
ノア『……ええ。おやすみの時間も、潤様の大切なひとときですから』
ユズハ『次は“うっかりさん”じゃないといいですねぇ~?』
カエデ『せやせや、忘れんように手に書いとくとええで?「おやすみ」ってな?』
ミリー『……っ、書くぅぅぅぅぅ!!ミリーもう忘れないぃぃぃ!!!』
潤(※犯人バレバレじゃねーか)




