第235話『思惑の外』
リアがモニターを凝視したまま、頭を抱える。
「やはり……でしたか……」
「ん〜? リアちんなんかわかったんですかぁ〜?」
「……ちん? その呼び方、やめなさい……」
「じゃあ〜、リアちんち◯っ♡」
ピッ──
ユズハの発言が終わると同時に、リアが無言で電気スタンロッドを構える。
「あなたは……本当に、しっかり叱られないと理解できないようですね?」
「ひゃあ!? ごめんなさいごめんなさいもう言わないぃ〜〜!!」
「ふふ……リアさんも、怒ったらめ〜ですよ?」
エンリが両手を広げて、場をなだめるように微笑む。
「……はあ、失礼しました。
それより本題です──やはり株の売買にはレグルス傘下の企業、そして外資系ファンドの連携が確認されました」
「はーい予想通りすぎて逆に眠いんですけどぉ〜……」
ユズハが机に頬を乗せながらだらけた声を漏らす。
エンリが頬に手を添えて静かに言う。
「でも……違和感が残りますね……」
「──何故? レグルスが関与してるにも関わらず、
我が社が“ギリギリ持ち堪えている”のか、ということですね?」
リアが補足する。
「はい。あのレグルスが本気で潰す気なら、今頃……」
「……間違いなく、終わっていたでしょうね」
「つまりレグルス側は、突発的な判断で動いた。
計画的買収ではない。何かの拍子に──好機と見て即座に動いた」
「けどさ〜? それでいてウチらが買い戻し始めたから、
ギリッギリで詰めきれてないってこと……」
「はい。結論として──潤の不在と、この買収劇は無関係。
レグルスは潤を攫っていない。むしろ、“不在だから好機”と判断したに過ぎない」
「じゃあ〜誰か他の奴が先輩を隠してるってことぉ……?」
ユズハが不安げに声を落とす。
「ええ、恐らく……。
逆に言えば、その“他の誰か”もまだ準備万端ではない。」
エンリが真剣な表情で言い切る。
リアが続けた。
「そして──私達だけなら、それで済むと思われていた。
潤不在の“今”なら勝てると。つまり……」
「舐められてるってことですね。」
沈黙。
ユズハがニヤリと笑った。
「じゃあ〜、潤くんが居なくてもやれるってところ、一発見せてやりますかぁ〜♡」
──なお、どうやるかはこれから話し合う模様。
────────────
一方その頃──
カエデは、潤宛てに届いた“警護の指名依頼”に対応していた。
「──で、アンタ誰や?」
『あら? この前ちょっとおもしろかったから、潤を指名しただけよ?』
「……あーーー思い出したわ!
前に一回だけ依頼あった、あのわがまま令嬢!」
『はぁ!? 失礼ね! 私は“ツバキ”よ!
光栄に思いなさい? 一般人のあなたが、私の名前を知れるなんて!』
「……お生憎様やけどな、今その潤くんが──行方不明なんよ」
『……は? 行方不明? なにそれ、冗談でしょ?』
「冗談ちゃうわ! ガチの行方不明や!!
つまり、あんたの護衛ごっこに付き合っとる暇は──」
──ブツッ。
電話が一方的に切られた。
「…………はぁ?」
カエデはあきれながらも、受話器を静かに置いた。
──────
一方その頃、電話を切ったツバキ。
『……潤が、行方不明?』
何かが胸に引っかかる。
「ふぅん……それ、私に黙って勝手にいなくなったってこと?」
スタッと立ち上がるツバキ。
その瞳は、まるで自分のペットを探す猫科の猛獣のようだった。
「……私のおもちゃ、どこ行ったのよ」
──少しだけ、調べてみようかしら。
────────────
ノアは、潤が最後に会う予定だった人物──エマの元を訪れていた。
潤が失踪したその日。
彼が「予定していた唯一の相手」は、エマだった。
当然、ノアは真っ先に彼女の行方を追ったが──さすがはトップアイドル。
そう簡単には会えなかった。
芸能関係の繋がりを総動員して情報を集め、
ようやく辿り着いた答えは──
「両親のお見舞いで、病院にいる」
ノアはすぐさま、指定された病院へと向かった。
──────
「潤様……!」
ノアは病室の扉を開けた。
そこには、包帯を巻き、点滴を受ける老夫婦──そしてその隣に座るエマの姿があった。
「……あなたは……たしか……女優の……ノアさん?」
エマが驚いたように顔を上げる。
「はい。お時間を取らせてしまい申し訳ありません。
潤様は、どちらに……?」
エマは両親に一礼し、小声で伝える。
「ごめんね、ちょっと話してくるね?」
そう言って、ノアとともに廊下へ出た。
「……私、潤さんと約束してたのに……」
エマは少し顔を伏せ、ぽつりとこぼす。
「両親が事故に遭ったって連絡が入って……慌てて病院に来ちゃって……」
「……」
「潤さんには後から電話したんです。でも……全然繋がらなくて。
もしかして……怒っちゃったのかなって……」
ノアは静かに首を振った。
「潤様が、そのようなことで怒る方だとは思いません。
むしろ、“俺のことはいいから早く行け”と、言いそうですね」
エマが少しだけ目を見開く。
「……ノアさん……」
「確認させてください。潤様と──当日は、お会いになっていないのですね?」
「……はい。結局、直接は会えませんでした」
「では、病院に来られることになった際、潤様にはどのように伝えましたか?」
「その場にいた知り合いに伝言だけ頼んで……。
あの時……正直、気が動転してて……電話する余裕もありませんでした」
「無理もありません。ご両親の件でしたら、潤様なら“迷わず行け”と仰います。
──では、その伝言を託した“知り合い”というのは?」
「……ライラちゃんです。偶然、現場に居合わせてて……」
ノアの目がわずかに鋭くなった。
「……ライラさん、ですか。……連絡は可能ですか?」
「はい。今、電話してみますね」
エマがスマートフォンを取り出し、発信を始める。
ノアは、沈黙の中でその着信音を見つめていた。
──今、それぞれの思惑が交差し、
潤という存在を中心に、物語は確かに──静かに、だが確実に動き出していた。
【あとがき小話】
作者「投稿忘れて……
申し訳ございませんでしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
エンリ「……ふふっ。そんなに自分を責めないでくださいね?」
エンリ「日にちを間違えることぐらい、誰にでもありますから♪」
作者「エンリぃぃ……やっぱり優しい……」
エンリ「そうですそうです♪
例え……書いてるもう一作品の方は忘れずに投稿しているのに、
こちらだけキレイに投稿を忘れていたとしても──」
作者「エ……エンリ……!?」
エンリ「全然、気にしてませんよ?
あちらでは“1日3話投稿”なのに、
こちらは“1話投稿忘れ”なんて、よくあることですから♪」
作者「ひっ……!」
エンリ「怒ってなんて、いませんよ?」
エンリ「ただ……ちょ〜っぴり、寂しいだけなんです♪」
エンリ「『もしかして私たち、捨てられちゃったのかな〜』って……
……ふふっ、そんなワケないって分かってるんですけどね?」
作者「…………ごめんなさいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
──このあと、作者はミリーにも「おあずけ反省タイム」をくらいました。