第234話『俺、因縁の相手と対話する』
──どうすりゃええねん。
コハルは「また来るね♡」と満面の笑みを残して部屋を出て行った。
才能奪取:効かない
ユニークスキル:効かない
電気ビリビリ付き拘束具:完備
……詰んでね?俺。
そのとき、部屋にスピーカー越しの音声が響いた。
「お久しぶりですね。……覚えてらっしゃいますか?」
「声だけでわかるかァァァァァ!!!!」
「……まあ、直接お話しする機会はほとんどありませんでしたからね。
では──**“大蔵の秘書”**と聞けば、思い出すのでは?」
「……ッ!」
大蔵の秘書──その言葉で、一気に血が逆流する。
「矢崎……!!
てめぇか!! どこまでしつこいんだお前はぁぁああああ!!!」
「ふふ……しつこいと言われましても、私も“あなたに人生を狂わされた側”ですので。
いろいろ思うところはありますよ?」
──こいつ、やっぱり裏で生き延びてやがったか……!
「……で、宿敵繋がりで俺を助けるとか、
まさか……あったりする?」
「……いいえ?」
バチィィィィィィィィッ!!!
「がっ……あがががががががあぁぁぁぁぁ!!」
「おやおや、死なないでくださいね?
あなたを壊したりなんかしたら、**“コハル様”**からどんなお叱りを受けることか……。
想像しただけで、正直、私の方が壊れそうです」
「はぁ……はぁ……じゃあ流すなよこのやろぉ……」
バチィィィィィィッ!!!
「ぐっがががががががが!!!!」
「でも♪壊れなければ問題ありませんので。
それにしても……あなたに“人の才能を奪う力”があるとは。
正直、信じがたいです。ですが──今までの出来事も、確かに合点がいきます」
「……」
「そして、今こうして。
目の前にいない私には、一切通用しない」
──くそ……全部バレてやがる……!
落ち着け……情報だ。
今、俺にできるのは、“この地獄”を把握することだけ──
「なぁ……矢崎さん。
あの女……コハルって何なんだよ。
あんなもん、悪の意識が欠落してるどころか、存在そのものが狂ってる……」
「……ふふっ。やっと“さん付け”になりましたね。
ご褒美として、お話して差し上げましょう」
「……」
「コハル──彼女は、大蔵家の中でも“タブー”とされる存在です。
幼少期から際立った才を持ち、あの容姿。
他人の前では別人のように“演じられる”特性を持ち……姉よりも、シゲフミ様は彼女を溺愛しておりました」
「……」
「それはもう、“欲しがるものは全て与える”日々。
……しかし、異常性は早くから現れていたのです」
──そして、矢崎の口から語られたのは──
『あら……あのワンちゃん、かわいい♡ あれ、欲しい〜!』
『承知いたしました。同じ犬種を──』
『はぁ?バカじゃないの? “あれ”が欲しいって言ってるの。』
『で……ですが飼い主が……』
『じゃあ、飼い主がいなくなればいいじゃん?
その飼い主の職場、調べて──?』
「……」
「結局彼女は、“あの犬を手に入れるために”、
その家族の父親の職場に圧力をかけ、早期退職に追い込み、生活を困窮させ、
“買い取る”という形で手に入れました」
「……は……?」
「欲望にためらいもなく、手段も選ばず。
しかもそれを、“悪いこと”だとすら思っていない。
コハル様にとって、“世界は与えられるもの”なんです」
「……それが……」
「──“あなた”という、“手に入らない存在”が現れた。
情報が漏れ、興味を持ち、今、あなたは“私物”として収容された。」
「…………マジで……やばい奴じゃねぇか……」
「では。話も終わりましたので──」
「や、やめろやめろやめろやめろ──!!」
「拷問、再開ですね?」
バチィィィィィィィィィィィィィィィィィィッ!!!!
──やばいやばいやばい……!
これ本当に死ぬ……!!
誰か……
誰か……たすけ─────
──────
一方……
「潤様……どこに……おられるのですか……」
ノアは、昨晩から一睡もせずに捜索を続けていた。
表情は変わらず静かだが、目の下には薄く影。
だが、それすら潤のためならと構わず走り続けている。
彼女の手には、破片のような端末の残骸と、反応のないタブレット端末。
「このあたりが……最後のGPS反応……」
ノアは誰にも聞かれないように、
そっと潤の名を呼ぶ。
──────
悪徳リクルートエージェント社
社員「カエデさん!仕事のお電話が……!」
「今ちいと手が離せへんねん!株の件で手一杯や!代わりに頼むわ!」
「それが……潤社長ご指名のお仕事のご依頼でして……」
「……潤くん?」
カエデの指が止まる。
「潤くんを“指名して依頼”なんて、今まであったっけ……?」
──このタイミングで?
社を揺るがす株の買い占め。GPSの反応消失。ノアの焦り。
全部が揃ってる最中に、なぜか潤指名の“依頼”が来た──
「……わかった。一応出るわ」
受話器を取るカエデの表情から、“ほんわか”がゆっくりと消えていった。
【あとがき小話】
潤「お前……前回のあとがき小話……なんだよ?」
作者「…………まさか……怒ってらっしゃる?(´;ω;`)」
潤「……なんでミリーとユズハなんだよ! あれじゃ最初から丸わかりじゃねーかぁぁぁぁ!」
作者「そっち!?」
作者「てっきり『やりすぎ!アウト!通報!』って怒ってるのかと!」
潤「違ぇよ!! “バレバレ感が興を削ぐ”って話だよ!!」
潤「こっちは誤解からのギャップ萌えが見たいんだよ! “あっ……これはマズい……って思わせといてからの健全!”がいいんだよッ!!」
作者「えぇ……面倒くさい……」
作者「じゃあさ、誰ならよかったのさ?」
潤「……エンリとユズハ」
作者「やべぇな……」
潤「リアとエンリ」
作者「修羅場だな……」
潤「カエデとエンリ」
作者「戦争だよそれ……」
潤「母性とは、大人の色気なり。」
作者「師匠ォォォォォ!!!(土下座)」
作者「弟子にしてください!! 毎週あとがき小話の主役にしますからぁぁ!!」
(この日、潤は“あとがき界の覇王”として目覚めた)