第233話『俺、通じない』
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「……………………へっ?」
目が覚めると──まず視界に入ったのは天井のシミだった。
それから、自分の両手両足に視線を落とす。
──鎖。
ガチャリと鳴る重たい金属音。
そして、首にも……何かが巻かれている感触。
「……えっ!? えっ!? ここどこ!? なんで俺、拘束されてんの!?!?」
とりあえず落ち着こう。整理しよう。
いや落ち着けるかーーーーーい!!!
確か俺は……待ち合わせしてて、
ライラとタクシーに乗って、エマのご両親が事故にあったって聞いて……
それで……それで……急に眠気が来て……
……で、気がついたらこれだ。
「……受け入れられるかぁああああああああああああああ!!!!!」
冷静に考えて“受け入れられる要素ゼロ”だった。
しかも──ライラは?
あいつも一緒だったはずだ。
「……まさか、あいつも──」
ギィ……と重たい音と共に扉が開く。
「や〜〜〜ん♡ 起きたんだぁ? ダーリンっ♪」
「ダーリ……ン? って……え?」
扉の向こうから現れたのは──見覚えのある顔。
だがその雰囲気は、俺の知ってる“ライラ”じゃなかった。
妙にハイテンションで、甘ったるい声。
手にはリモコンのような黒い装置。
「……ライラ……?」
「ここではね〜、コハルって呼〜〜〜んで♡」
「コ……コハル……?
いやいやいや、待て、ライラだろ!? エマの知り合いで、sweet shineの──」
「ん〜〜〜〜っ、ダーリン? ダメじゃない♡」
ニコッと笑って──カチッ。
バチィィィィィィィィッ!!
「が、あああああああああああああああッ!!!??」
首に巻かれた金属から走る激痛。
反射でのけぞった身体が、鎖に引き戻される。
「ハァ……ハァ……コ、コハル……」
「ふふっ♡ よく言えましたぁ〜〜〜〜〜〜♪」
その笑顔は、犬が初めて芸を覚えたのを見て喜ぶ飼い主そのものだった。
満足げで、支配的で、なぜか嬉しそうで──怖い。
「私ねぇ、今まで“欲しい”って思ったものは、どんなものでも全部、手に入れてきたの!」
「……」
「もう欲しい物なんてないかな〜って、退屈してた時にね?
──お姉ちゃんから、あなたのことを聞いたの♡」
お姉ちゃん?
俺、こいつの姉なんて知ってたか……?
いや、誰だよお姉ちゃんって……会った記憶もねぇし……
「それでね〜、暇つぶしになるかな〜って思って♡」
「……ひ、暇つぶし……?」
俺が声を絞り出すと、
ラアラ……いやコハルと名乗る女は
まるで恋に落ちた乙女のように、うっとりと微笑んだ。
「あなたのことが気になって〜、いろいろ調べたのっ♪」
「……俺のことを……?」
「そう! そしたらね〜、あなたと関わった人たちが……み〜んな、社会的に制裁受けてたり、
今までできてたことができなくなってたり、特別じゃなくなってたりするのっ♪」
「……」
「しかもね? 何がすごいって──あのパパでさえ、手をこまねいてるって! 信じられる!?!?」
──パパ? 手をこまねいてる……?
まさか……大蔵……
「お前……まさか、レグルスホールディングス……大蔵シゲフミの──」
「そうっ♡ 私は──大蔵コハルっ♡」
「だからダーリンも〜、大蔵潤になるんだね〜きゃっ♪」
「…………なんなんだコイツは……!?」
混乱する思考を振り払い、
俺はスキルを強める。
【咎人の玉座】
──正しさを否定した者にこそ、王座は似合う──
周囲に絶対的な威圧を放つ、俺のパッシブユニークスキル。
「……きたきた……♡
あの時と同じ……
まるで全てを拒絶する空気──
本当、ゾクゾクしちゃう♡」
──……効いて……ない?
嘘だろ──
思い出す。
皆が拉致され、助け出したあの日。
俺がこのスキルを最大まで発動したとき──
ミリーも、ユズハも、エマまでもが怯えた。
現場にいた半グレたちでさえ凍りついて動けなかった。
……なのに──
「──ライラだけは、笑ってた……?」
「ダーリン♡ 本当に愛してる♡
あなたが欲しい! あなたの、ぜ〜んぶが欲しい!!」
くそ……なら──
【才能奪取】
【奪取対象:大蔵コハル】
悪事:なし
対象に選択できません
「……えっ?」
なんで……
俺を拘束してる時点で、“悪事”として成立してるはずだろ……?
たとえ奪取できなくても、“悪人”として判定されるべきだ。
俺の混乱と絶望を見て、
コハルは満足そうに、にっこりと笑った。
「やっぱり〜、ダーリンは悪い人に対して、なんらかの力的なものが使えるんだね〜♪」
「でも、無駄でーす♡」
「だって〜、わたし欲しいもの手に入れてるだけだもん♪
悪いことなんて、してないも〜ん♡」
──な、何を言ってやがる……
「その力って、条件あるんでしょ?
例えば〜、悪人限定とか、悪事を目撃してないとダメとか〜♪」
「……だからどうした! コハル! 今こうやって、俺を拉致してるだろ!!」
「ちがうよ〜、ダーリン♡」
「私はただ──ダーリンのすべてが欲しいだけなの。
だから、悪いことなんて、な〜んにもしてないよ〜♡」
──こいつ、狂ってる……!!
普通、人間はどこかで“罪の意識”を持っている。
悪事をすれば、少なからずそれを「悪いこと」と理解するものだ。
だがコハルは──違う。
彼女は、生まれながらにして「世界が自分のもの」だと思っている。
欲しいと願えば手に入り、
気に入らないものは排除できて、
周囲はすべて、従わせる存在だった。
──だから。
彼女の中には“罪”の概念が存在しない。
悪意なき怪物──
それが、大蔵コハル。
あとがき小話
──ある昼下がり、静かな部屋の中で。
ユズハ「ふふっ……怖がらなくていいんですよぉ? ほら、力抜いて……」
ミリー「う、うん……でもこれ……ちょっと冷た──んっ!?」
ユズハ「ね? じわ〜って染みてくるでしょ……♡」
ミリー「んぅぅ……まだ心の準備が……!」
ユズハ「はいっ、じゃあ今度は……奥の方まで、いきますねぇ♡」
ミリー「だ、だめぇっ……! まだ……っ、さっきのが効いてて……!」
──コンッ(ノックもせずに扉が開く)
リア「……一体、何をしているんですか?」
部屋の中。
膝枕状態のミリー。
その傍らで、長いスティック状の何かを持ったユズハ。
ミリーの口元には、透明な液体が垂れている。
リア「……………」
リア「…………は?」
ユズハ「あっ、リアちゃ〜ん♡ 丁度よかったですぅ〜。冷えすぎちゃって、ミリーちゃんが頭キーンってなっちゃって♡」
ミリー「んぅぅ……ゆずはちゃ……ん……つめたいの……とけた……」
リア「……つまり、それは……氷菓子?」
ユズハ「そーです♡ 先輩からの差し入れ〜♡」
リア「……もう少し言葉を選んでください」
ユズハ「えぇ〜〜? リアちゃん、想像力たくましすぎじゃないですかぁ?」
リア「あなたがたくましくさせてるんですよ」
作者pyoco:「はい……やりすぎました(猛省)」