第225話『俺、手詰まり』
ここまで読んでくれた奇特なあなた!
ブクマ・いいね・感想・★・DM・テレパシー、なんでも嬉しいです!
作者は1PVでも跳ねて喜ぶタイプなので、反応があるとガチで次の原動力になります。
どうかこのテンションのまま、応援いただけると助かります!
(いや、助けてください!!)
⸻
──翌朝。悪徳リクルートエージェント社 本部会議室。
空気は重い。
会議室に集まったメンバー全員、誰も口を開けず、ただモニターと書類をにらんでいた。
「……やっぱり、見つからねぇ」
潤が深く息を吐きながら呟いた。
監視カメラの映像。近辺のタクシー記録。交通網。
全て当たったが、ミリー・ユズハ・エマ、3人の明確な足取りは、途切れていた。
「最後の目撃は、イベントスタッフ風の人間に“護衛任せます”って言われて、タクシー乗るところ、だっけ?」
リアが情報の整理をしながら確認する。
「はい。会場スタッフも“その人に頼んだ”という認識しかなく……特に不審な様子もなかったようです」
エンリが手元のメモを見ながら答える。
「その警備員の身元確認は?」
「……記録にないそうです」
「ない……?」
リアが一瞬、目を細める。
「関係者リストにいないという意味です。“いなかった”のではなく、“名簿に登録がない”」
「ってことは──偽装って可能性ある?」
「極めて高いです」
潤は、ソファに沈み込むように座り込んだ。
「……俺が、現場にいたら……」
「潤くん、それは違うで。あの時は、東京から広島への会食優先やって決めたんはウチや」
カエデがフォローを入れるが、潤の顔は曇ったままだ。
「ミリーとユズハ、エマまで……どうして一緒に……」
「たぶん、見分けがつかなかったんやと思うで?」
カエデが手を組んで天井を見上げる。
「Sweet Shinyのライブに関係ある“女の子3人組”やろ? もう、誰が誰って判断せんと、まとめて……な」
「そんな雑な……!」
「逆に、慎重やったんやと思うで」
リアが補足する。
「関係者と見られる人物を確実に“保護するふりをして連れ去る”。表面上は完璧な立ち回りです。痕跡も残っていない」
「警備記録も、他社との引き継ぎログもありません。まるで、最初から“その人たち”は存在しなかったみたいに」
「……」
潤は拳を握った。
冷たい汗が、背中を伝っていた。
(誰だ……誰が、どこで……どうやって……)
考えれば考えるほど、何も見えてこない。
だが確実に──これは偶然ではない。
“誰かが狙って仕掛けた”ことだけは、はっきりしている。
(でも、その“誰か”が全くわからない──)
沈黙の中で、机の上のモニターに映る映像が切り替わる。
エマが笑顔でタクシーに乗る、そのわずか数秒の記録。
──それが、3人の“最後の目撃”だった。
──同日午後、会議室。
再び集められたメンバーたちの間に、朝より深い沈黙が流れていた。
情報は増えていない。
むしろ「無い」という事実が、確定してしまったことで、より絶望が濃くなっている。
「全部……“完璧に消されてる”ってことやな」
カエデが腕を組んだまま、ぼそりと呟く。
「タクシー会社の記録、現場の警備引き継ぎ表、付近の監視カメラ……
どれも“不自然なほどに綺麗”すぎる」
「潤様、申し訳ありません」
ノアが膝をつき、頭を下げている。
「私が……あの日、2人を監視しておかなかったのは判断ミスでした。たとえ私一人でも同行していれば……」
「いや、ノアのせいじゃない。……誰も悪くねぇ」
潤は俯いたまま、力なく答える。
「ただ……誰も、間に合わなかっただけだ……」
「でも潤くん、こんな手際……ど素人の犯行やないで?」
カエデが口調を戻す。
「やってることは完全に“プロ”の仕事や。“誰にも気づかれずに、関係者を一瞬で”って……ウチらでもそう簡単にはできへん」
「プロの仕事……でも、なんのために?」
リアが思案するように指を組んだまま答える。
「目的は明確にしていないが、狙いは限定されていない可能性が高い」
「“Sweet Shinyの関係者で、誰か特定できないからまとめて”──」
「……ユズハとミリーも巻き込まれた、ってわけか」
潤が歯を食いしばる。
「じゃあ、エマだけを狙ったわけじゃないんだな……」
「でも逆に言えば、“一人だけが本命”だったなら──」
リアが目を細める。
「その人物の正体がわかれば、相手の狙いにも手が届くかもしれません」
「じゃあ、何か知らないか聞いてみる?」
エンリが控えめに口を開く。
「Sweet Shinyの他の子に、何か心当たりがないか──」
「……いや」
潤がかぶりを振った。
「今動かせるメンバーは限られてる。それに、社内でももうパニック寸前だ。
余計な憶測を流せば、あっという間に情報が崩れる」
「とはいえ……このままじゃ、何一つ進まない」
リアが低く呟いた。
「足りません。“突破口”が──」
潤は黙ったまま、机の上を見つめていた。
そこに、何もないはずの空間に、ぼんやりとある“顔”が浮かぶ。
──ライラ。
あの日、事件の直前にエマと一緒にいた。
あのグループの中で、エマと対等に付き合い、過去を共有している唯一の人物。
潤はゆっくりと立ち上がる。
「……俺、ちょっと出る」
「潤様?」
ノアが顔を上げるが、潤は静かに手を上げて止める。
「連絡はすぐ取れるようにしとく。……でも、ちょっとだけ“賭け”に行ってくる」
──夜。Sweet Shiny事務所前。
街灯の光が地面に長く影を落とす。
潤は建物の前、ポケットに手を突っ込んだまま、静かに佇んでいた。
(……賭けだ。けど、他にもう道はない)
──手がかりも希望もない。
けれど“あの子だけは何か知ってるかもしれない”という、ただの勘。
それでも今の潤にとって、それは唯一の“前に進める選択肢”だった。
「……なにしてんの? 潤」
不意にドアが開いて、軽い声が投げかけられる。
潤が振り返ると、ライラがコンビニ袋をぶら下げて出てきていた。
どうやらコンビニ帰りらしい。
「……話したいことがある。ちょっとだけ、時間くれないか?」
ライラは少しだけ目を見開いて、それからふっと笑った。
「なに? デートの誘い? 夜の事務所前でとか、潤くんわりと攻めるタイプだったんだね」
「……冗談言ってる場合じゃないんだ。……エマが、いなくなった」
ライラの笑みが、静かに消える。
「ユズハとミリーも一緒に……昨日、ライブの後に。
誰かに連れて行かれた。いま、行方がわからない」
「……それ、本当なの?」
「ああ。目撃者はゼロ。監視カメラも映ってない。タクシーに乗る直前に“誰かに任せた”って話だけは残ってる。
……でも、そいつが誰なのかは、誰にもわかってない」
ライラはレジ袋を握り直し、少し黙ってから小さく息をついた。
「……ねぇ潤。私に何ができると思ってここ来たの?」
「お前は……エマのこと、よく知ってるだろ? 他のメンバーには話してないこととか──過去のこととか」
「……」
「何か、ほんの些細なことでいい。思い出すことがあれば──教えてほしい」
ライラは一歩、潤に近づく。
「じゃあ質問、逆に聞くけど──」
「ん?」
「潤、あんた1人でこの先、誰を相手にするつもり?」
その問いは、妙に静かで、けれど強く刺さった。
「……わからない。でも、それでもやるしかない」
「……ふぅーん」
ライラはレジ袋を持ち上げて、それを潤の胸に押しつけた。
「じゃあ、その覚悟、本気だって信じていいんだね?」
「……え?」
「いいよ。ついてく。私にも、思い当たることがある」
「本当か!?」
「結城って名前──初期にいた子で、今はもう完全に業界から消えたと思ってたけど……
実は、数ヶ月前にSNSで“それっぽいアカウント”見つけたことがある」
潤の目が見開かれる。
「でも、あれは偽名で出てたから……本人かどうかは、確証がなかった」
「今、それがわかるかもしれない?」
「うん。ちゃんと調べれば、辿れるはず。
──ただし、私も一緒に行く。いい?」
「当たり前だ。むしろ……助かる」
ライラはふっと笑って、歩き出す。
「じゃ、決まりね。ほら潤くん、ちゃんとリードして? パートナーでしょ?」
「……まったく、どっちがだよ」
そうぼやきながらも、潤もその背中を追いかけた。
──ようやく、止まっていた歯車が、音を立てて回り出した。
あとがき小話
〜作者の復活と、ミリーの伝達任務〜
⸻
ミリー「う、うぅぅ……どうしよ……! うまく言えるかな……!? えいっ、登場ーっ!!」
潤(おい、登場から不安しかないが……)
ミリー「あっ、こ、こんにちはなのっ! ミリーだよっ! 今回はね、ミリーがだいじな、お知らせを持ってきたのっ……!!」
潤(珍しく真面目だな……)
ミリー「えっとえっと、あのね、作者が……ちょっとだけ、ちょーっとだけ……ね?」
潤(何その“ね?” すごく怪しいんだけど)
ミリー「…………脱走してましたっ!!」
潤「やっぱりかよ!!」
ミリー「ご、ごめんなさいなのぉぉぉ!! ミリーが止めたんだけど、止めきれなくてぇぇぇ!!」
潤(え、マジで逃げてたのかよ!? あとがきどころか連絡すら来てなかったぞ!?)
ミリー「でもっ、でもねっ!? 作者、またちょっとずつ書き始めたのっ! 今回の更新も、それなのっ!」
潤(ほう……つまりあれだな。
“行方不明だった飼い猫が、急に餌を食いに戻ってきた”みたいなもんだな)
ミリー「ち、違うのっ! ちゃんと戻ってきたのっ! ちゃんと……反省して……!」
潤「……で? 本人は?」
ミリー「カーテンの裏で震えてますっ!!」
潤「出てこいやぁぁぁぁ!!」
ミリー「だって……また失踪するかもって言ってたし……」
潤「自信なさすぎだろ!!」
ミリー「でもねっ! ミリーは信じてるのっ! 作者のやる気、ちゃんと少しずつ戻ってきてるのっ!」
潤(いやまぁ、それなら……とりあえず、よかったのか?)
ミリー「だからっ! また応援してくれると嬉しいのっ! ゆっくり、のんびり、でも! ミリーたちの物語は、ちゃんと進んでるのっ!」
潤「……俺はいつだって進まされてる側だけどな……」
ミリー「ふふっ、潤くんが頑張ってくれるから、みんな応援してくれるのっ♪」
潤「俺、理不尽に巻き込まれてるだけだからな?」
ミリー「というわけで──!」
ミリー&潤「「これからも、『才能奪取』をよろしくお願いしますっ!!」」
潤「……作者に代わって、深く深く、お詫び申し上げます」
ミリー「おわび……なのっ!!(土下座)」




