第224話『俺、不在の現場』
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──Sweet Shiny ライブ当日。
潤は、広島へ向かう新幹線の車内でうとうとしていた。
今この瞬間、彼はこの物語の中心から、物理的に外れている。
──残された社内、警備チームの指揮を取っていたのは3人。
エンリ。カエデ。そしてリア。
彼女たちはそれぞれ、冷静な判断力、現場勘、戦術構築の強みを持ち、
“潤がいない間の現場”を、完璧に維持していた。
「ノア様は?」
「いつも通りです。撮影のお仕事に」
──そう、ノアはこのライブと並行して行われる
ファッション誌のインタビュー&撮影スケジュールに同行しており、現場不在。
そして──
問題児2名は社内待機だった。
◆◆◆
【悪徳リクルートエージェント社/本部】
拘束されていたのは、ユズハ。
その見張りを担当していたのは──ミリー。
『みりちゃぁぁぁん、あだしも……推しの……推しの護衛にぃ……』
「だめなの!ミリーは任されてるの!目を離したら“おやつ抜き”って言われてるの!ふんすっ!」
ユズハは社の隅で、ロープこそないが“ほぼ禁錮”状態。
ミリーは彼女の監視役を真面目にこなしていた。
──最初の10分くらいは。
『なら……私が禁止期間中にぃ……プリン毎日2個!どうですかぁ?』
「……え…………だ、だめなの……でも…………ううぅ…………絶対だめ!」
──不安しかない。
◆◆◆
【ライブ会場・裏口】
「やっぱり裏口と駐車場じゃ、なんもわからへんわ……」
「ですね……せめて入場者だけでも判別できたら楽なのですけど……」
「お二人とも、裏口もスタッフの出入りは多いです。油断は禁物です」
リアが資料を睨みながら淡々と警戒を続ける。
カエデは駐車場の巡回、エンリは動線整理の指示出しを担当。
──とはいえ、悪徳リクルートエージェント社・警備部門は精鋭揃い。
制服の下には誰もが特殊警備ライセンスと格闘資格を備え、
“万が一”すら起こりえない、鉄壁の警備網が会場を囲っていた。
◆◆◆
【会場前】
ライブ開場の時間が近づくにつれ、
長蛇の列ができ始め、観客が整然と入場を始める。
一部のオタクがコール練習を始め、
遠くからは「推しに会えるぅぅぅ!!」と涙するファンの声。
──それは、ただの“平和なライブの日”。
何の波乱もなく、予定通りに、すべてが終わった。
◆◆◆
【ライブ終了/21:30】
警備時間終了と同時に、現場スタッフは規定通りに解散を開始。
ヒロインたちも、それぞれの持ち場から引き上げていく。
Sweet Shinyのメンバーも、控え室からタクシーでそれぞれの帰路へ。
──そして、時間は流れ──
【23:10/社内】
エンリ、リア、カエデの3人が戻ってくる。
「無事に終わって何よりですね」
「うん、特に混乱もなくてホッとしたで〜」
「……さて、報告書を纏めないといけませんね」
そう言いながらオフィスのドアを開けると──
「……あれ?」
ミリーがいない。
「え?ユズハも……おらん?」
オフィス内に、人の気配はない。
鍵は開いていた。
モニターはついていた。
だけど、誰もいない。
「まさか……!」
リアが即座に連絡を試みるが──
電源は入っているのに、応答なし。
「潤さんにも連絡を……!」
◆◆◆
【同時刻/新幹線車内】
潤「……ん?なんだ?」
潤のスマホが震え、エンリの名前が表示される。
──その表情が、静かに引き締まっていく。
「……ちょっと急ぐか」
◆◆◆
【ライブ終了 各々撤収中/21:45】
『……まだ、推しはきっといる……私の推しセンサーがそう告げてるっ……!』
自社の制服のまま、謎の仮面をつけたユズハが夜の物陰に潜んでいた。
もはや「警備」というより「怪しい人」である。
その隣では──
『ねーねーユズハちゃん……やっぱりこれ、怒られるよぉ〜?』
ミリーが不安げに制服の裾をぎゅっと掴んでいる。
『大丈夫ですって〜!だってもうライブの時間、終わりましたよね?』
『……うん、終わった〜』
『でっ!クリームのってるプリン2個で“目を離さない”って約束しましたよね?』
『う……ん、約束はした……』
『なら、OKじゃないですかぁ?♡』
ユズハがキラキラと謎の笑顔でミリーを抱きしめる。
ミリーは抵抗のポーズだけして、すぐ諦めた。
『……うーん……多分?』
──そんな時だった。
前方から、スーツ姿の知的な女性が歩いてきた。
ぱっと見、スタッフか関係者といった雰囲気。
『あっ、あなたたち……悪徳リクルートエージェント社の方ね?』
『えっ……?あ、はいっ!?』
ユズハとミリー、完全にキョトン。
『ちょうど良かった。今、エマさんがタクシーに乗るタイミングなの』
『本来の契約には含まれていないんだけど……可能なら、その時だけでも護衛つけてくれない?』
『いえっっっ!!ぜひやらせていただきます!!』
──即決。
ユズハの目がギラリと光った。
「推しの仲間を守る」
それは彼女の中で「推しを護る」と同義である。
ミリーも「うん、うん……だよねぇ……」と無言で同意。
こうして2人は、予定外の任務に投入された。
◆◆◆
【タクシー護衛/22:15】
「お疲れさまでしたー!」
エマがスタッフに見送られ、建物の裏手からひょこっと現れる。
「ささっさっさっさっ!!こちらへっっ!!」
ユズハが大急ぎでエマの手を握り、勝手にエスコート開始。
「え……あの……わたし……?」
エマは軽く戸惑いつつも、手を握られて流されていく。
その後ろでは──
『うん、警戒態勢モード、発動……!』
ミリーが真顔で左右を見回しながら、謎のポーズで壁に貼りつく。
まるでアクション映画ごっこである。
「よし、敵影なし……風向きも良し……嗅覚も良し……!」
(※たぶん何も感知できてない)
エマ「…………(本当にこの人たち、護衛なの……?)」
──だが、タクシーのドアに手をかけた瞬間だった。
──キィィィィィ……
白いバンが、静かに彼女たちのすぐ後ろで停まる。
「──……え?」
ユズハが微かに振り返った瞬間、バンのドアが勢いよく開いた。
「ちょっ──なに──っ!?」
エマが叫ぶ暇もなかった。
ミリー「えっ……ちょ、うそ、待って、えまちゃ──」
──そのまま3人は、白い影に吸い込まれるように、バンの中へ。
無言のままドアが閉まり、バンはそのまま、音もなく路地裏を走り去った。
あとがき小話
(冷房効きすぎの居間)
⸻
ミリー「……っくしゅんっ!」
(鼻を押さえて目をぱちぱち)
カエデ「おお〜、ミリーちゃんのくしゃみ可愛いなぁ〜」
ミリー「やだぁ〜! 聞かないでよぉ!」
⸻
リア「……はっ……くしっ」
(即座にハンカチで口を押さえる)
ユズハ「リアさん、それ上品すぎますぅ♡」
リア「……飛沫は最小限にすべきです」
⸻
エンリ「……くしゅ……くしゅんっ」
(両手で口を覆って恥ずかしそうに笑う)
ノア「……その仕草、可愛らしいですね」
⸻
ユズハ「あぁ〜っくしょんっ♡」
(わざとらしく背を反らして髪を揺らす)
カエデ「お芝居入っとるやん」
ユズハ「せっかくなら華やかにですよぉ?」
⸻
ノア「……っ……」
(ほぼ無音、肩がわずかに動く)
ミリー「えっ、今のくしゃみ!? 音なかったよ!?」
ノア「……静粛に行うのが礼儀です」
⸻
カエデ「ぶぇっくしょーーーいっ!」
(全員ビクッ)
リア「……豪快ですね」
カエデ「ほっといてぇな!」
⸻
(全員が一通りくしゃみを終えて沈黙)
⸻
潤「……へっくち!」
(全員の視線が集まる)
ミリー「潤くんが一番可愛い〜!」
潤「いややめろ! その感想やめろ!」