第223話『俺、地獄の帰還』
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──帰還した俺を迎えたのは、拍手でも労いでもなかった。
『で?潤様はアイドルとのデートで鼻の下を伸ばされていたと?』
ノアの声は柔らかかった。
ただしその“柔らかさ”は、牛刀の切れ味と同じ系統だった。
「違うんです……これはユズハのせいで……な!?ユズハ!」
俺は視線を向けた。
助けを求めた──その先にあったのは。
『とれたて……新鮮……肩メロン……大胸筋が……ある……いて…………る』
「ダメだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
完全に壊れてる!
ユズハ、マッスルブートキャンプで壊されたぁー!!
そのユズハの上に足を乗せていたのは、達成感満載のカエデである。
腕を組み、仁王立ちで──
“潰したったで”みたいな顔してるのマジで怖い。
「ならば───!」
俺は最後の希望に縋る。
「リア!?ミリー!!お前らは知ってるよな!?」
──が。
その二人は書類の山に埋もれていた。
「うぇぇぇ……やだぁぁぁぁ潤くんのせいでミリーたちも地獄の事務作業なのぉぉぉ!!」
「お前が引き延ばしたせいでしょうが……!」
リアが冷静に突っ込みつつも、目の下にはクマができている。
──俺が不在の中、彼女たちは書類と戦い、そして散っていた。
主に、ミリーがリアの足を引っ張ったせいだが。
そんな地雷原をかき分けて、ノアが再接近してくる。
『潤様?例え脅されたとしても別の女とデートだなんて?』
「ひぃぃぃごめんなさいどうかどうかご容赦をおおお!!」
俺は反射的に土下座していた。
──そう、俺は今、“社内ヒロイン全員からのリンチ”という地獄に突入していた。
「まあまあノアさん……仕方ない事情だったんですから大目に見ましょう」
天使の声が響いた──エンリだ!
助かった!エンリだけは俺の味方……!
──と、思ったその時。
彼女の笑顔が、少しだけズレて見えた。
俺はゆっくりとエンリを振り返る。
……笑っている。
だが、心は絶対に笑っていなかった。
『な……なんでぇぇぇ』
「警護として行った割には満喫しましたという表情だったので……ほんの少しだけ……ね?」
──圧が……圧がすごい……
あのふわふわエンリから、怨念フィルター越しの光が漏れている……!
『潤様?もちろん私たちにもデートありますよね?』
ノアが微笑みながら、俺の腕に手を重ねてくる。
「は……はぃぃぃぃ」
──拒否権?そんなものは存在しない。
会社のルールブックには「ノア様のご機嫌を損ねてはならぬ」と書かれている(嘘ではない)。
──その時、カエデが口を開いた。
『それでそのアイドルグループの警護やけど、うちらの担当は施設周辺だったわ』
『……駐車場とか裏口や……うちの社員なら20人ぐらい襲ってきても余裕やのにな』
「いやおかしいだろ!?何前提で話してんだよそれ!?」
──ランボーみたいな奴が警備にいたら客逃げるだろ。
この会社、見た目がすでにアウトなやつ多すぎなんだよ!
カエデは軽く肩をすくめる。
『余程信用されとらん感じやな〜。メインは他の警備会社やし』
『うちが表で張るとプライドが傷つくんやろな。……まあ、しゃあないけどなぁ』
リアが静かに頷く。
『そうですね……我が社が持ち場以上を動くと、「信用できない」と思われかねませんから』
『実績と結果があっても、“空気を読め”が最優先……厄介ですね』
「じゃあ俺が、いつもみたいに入り口に張り付いて──」
『潤くんはその日、電柱社長と会食やで?』
カエデがぴしゃり。
『しかも相手、出張先の“広島”やろ?どう考えても無理や』
「うっ……そ、そうだった……」
──あの時は「東京で会いましょう」って言ったら「広島でもええですか?」って流れになって、
“広島名物コース”って言われた瞬間に流されちまったんだ……。
バカな俺……勢いでスケジュール切ったツケが、今ここに……!
「でもカエデ、潤様抜きでも大丈夫でしょ?」
『なんとも言えんわ〜。うちの社員の質は間違いないけど、メインじゃないから勝手に動いたら他のとこが機嫌悪くすんねん』
『現場ってのは戦場やなくて政治やからな〜。でしゃばったら逆に悪印象なる』
エンリが補足するように口を開く。
『そうですか……なんかあれば“連帯責任”って言われそうですし……』
──いやな響きだ、“連帯責任”。
「会食、ずらせないかな……?」
リアがスッと立ち上がり、髪を整えながら言った。
『それもやめておいた方がいいですね』
『警備業務で社長自ら会食をキャンセルして現場に出るのは──“社員が信用できない”と受け取られかねません』
「……はぁ……」
まさか同じ日にバッティングするとは……。
そもそも、何でこの規模のイベントと重なったんだよ……。
──社長なのに現場に出たら“不信”で、出なきゃ“無責任”ってなんなんだよこの業界。
「とりあえず、作戦考えてみるか……」
俺は重い腰を上げた。とりあえず、考えるしかない。
が──
「潤様?」
背中に、冷たい空気が走る。
ビクッと肩が跳ねた。
振り返ると、そこにはノアが立っていた。
『お逃げになろうとしてませんか?』
──ぎくうっっっっ!!!
『まだ遊園地の件、許してはいませんよ?』
──許してなかったぁぁぁぁぁ!!
俺は再び、正座へと戻された。
背中には、リアの冷たい視線。
隣ではエンリが静かに紅茶を注ぎ、ミリーは謎の反省ダンスを踊っていた。
──まさに四面楚歌。
甘かった遊園地の余韻など、跡形もなく消え去ったのであった。
あとがき小話
作者『毎度毎度ごめんなさい、深海潜ってました』
潤『お盆休みという事で……』
ミリー『バーンってなるからー!』
リア『……意味がわかりませんね』
カエデ『要するにサボってたって事やろ?』
作者『やめて!? 翻訳すんな!!』
ユズハ『でもぉ~、せんぱ~い♡ そういう時は“充電期間”って言うんですよぉ?』
ノア『……私は、どれだけお休みでも構いません。
ですが、他の方と遊びに行くのは……許しません』
潤『休みでも地獄かよ』




