第222話『俺、絶叫遊園地』
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⸻
──朝の富士急ハイランド前。
「……で、なんで俺がここにいるんだっけ?」
自分でも言ってて情けない。
今、俺は富士急ハイランドのゲート前で立ち尽くしていた。
その隣では──
「ねぇねぇ、最初はどれ乗る!?ド・ドドンパ?それともええじゃないか!?」
ライラがぴょんぴょん跳ねながらチケットを掲げてる。
そして──
「ふふっ、なんだか遠足みたいですねぇ……」
ほんわか笑うエマが、ゆっくり俺の横に並んだ。
──今日の任務、それは『お忍びで来園したアイドル二人の一日護衛』。
が、何がどうしてこうなったのか──
**完全に“デートの付き添いポジション”**である。
「なぁ、これって本当に“警護”なんだよな……?」
「もちろんだよー?でもさー、せっかく来たんだから楽しまなきゃ損じゃん♪」
「ふふ、業務中とはいえ、無理に顔を強張らせる必要もないと思いますよ?」
──そう言って、二人とも全力で楽しむ気満々の服装してるのやめろ。
お前らの方がよっぽど“徘徊系不審者”に見えるって。
「じゃ、最初は決まりだねっ!ド・ドドンパ行こ!」
「うわ、よりによってソレかよ……」
──というわけで俺、
世界最大級の加速を誇る“地獄への滑走路”へ並ぶ羽目になった。
ドドンパ───
──発車直前。
俺の隣では、ライラがゴーグルをつけながら爆笑していた。
「うっひゃー!潤くん、顔ひきつってるよー!」
「……いや、普通ひきつるだろこの角度……何度だよこれ……ってか心の準備が……」
「3、2、1──発射しまぁ〜す!」
「はやっ!!?!」
ド ゴ ォ ォ ォ ッ!!!
【ライド後──】
「……」
「……潤さん?」
「……」
「潤くん……?生きてる……?」
「おい、俺の魂どっか置いてきたぞ……誰か届け出してくれ……」
俺はベンチで膝抱えて震えていた。
ライラは腹抱えて笑ってるし、エマは俺の顔を覗き込んでる。
「潤さん、目の焦点が……あ、でも顔色は意外と良好です。ふふっ、良かった」
「今“良好”って言った!?これが!?!?」
──まさかと思ってたが、
この任務、本気で命を削る系のやつだった。
◆◆◆
続いて連れてこられたのは──
悪名高き、高飛車。
「やっぱ絶叫系って言ったらコレでしょ!」
「いやさっきのが完全にトドメだったんだが!?」
だがチケットはすでにライラが機械に通している。
強制乗車。
──コースは急上昇からの、真下への垂直落下、そして121度の反転。
「ふふっ……高飛車って、確か“記憶なくす人が多い”って有名ですよねぇ」
「お前まで怖いこと言い出したなエマァ!!」
【ライド後──】
「……」
「潤さん……あの、気を確かに……」
「“さっき生きてた”ってことしか覚えてねぇ……」
俺は園内のベンチで虚空を見つめていた。
エマが俺の横で、差し入れのジュースを手渡してくれる。
「ふふっ、がんばりましたね。これ、少し冷えてますよ」
「あっ……ありが──」
「潤くんっ!次は“ええじゃないか”いくよぉ!」
「おいバカやめろそれ“上下の概念を失うやつ”だろおおおおおおお!?」
そして……
──“ええじゃないか”。
それは「座って乗るとは一体……?」という哲学に挑むマシン。
前後左右に回転しながら、全く別の次元に旅立てるスゴいやつ。
「潤くーん、あたしの隣ー♪」
ライラに引っ張られ、強制的に一番後ろの座席へ。
隣では、嬉々としてハーネスを下ろすライラ。
「んっふふ〜!これで3回転目〜!潤くん、酔い止め飲んだ?」
「さっきの高飛車で“胃”ごと全部置いてきたからな……」
「じゃあ軽いね!回ってこー!!」
「いや発想が狂ってるよぉぉぉぉ!!」
──ガチで“回ることが前提”の絶叫装置が、俺を天に連れていった。
【ライド後──】
俺「……んえぇじゃな……」
ライラ「んふふ〜、なんか潤くん、顔色お花みたいになってる〜!」
エマ「ふふっ……これはこれで可愛いですね」
──たすけて。
本気で誰か、労基に相談していいやつじゃないのこれ。
◆◆◆
──続いて向かったのは、脳を使うタイプの地獄。
絶望要塞
「今度は頭を使う系だよ〜!ね、潤くんならいけるでしょ?」
「……むしろここまで頭使わないで身体だけ酷使されてきたからな、ちょっと安心したわ……」
と、思ってた──最初は。
中に入った瞬間、受付スタッフから問われたのは──
「お一人様ずつの挑戦となります。成功確率は1%未満です」
「…………」
「行ってらっしゃい♪」
──俺は、何の罪でここに送られたんだっけ?
◆◆◆
中は広大な迷宮と謎解き。
パネルを押したり、光を追ったり、意味不明な数式を解いたり──
完全に、IQよりHPが削れる仕様だった。
最奥の難問の前で、俺は立ち尽くす。
(ダメだ……これ、絶対に無理なやつだ)
と、その瞬間──
「潤さーん、こっちで正解出ましたよ〜」
エマがひょっこりと隣のルートから登場。
※謎解き、全部ノータイムで突破してきたらしい。
「いやお前、見た目ほんわか系じゃなかったのかよ……!」
「え?ふふっ……なんとなくで♪」
「なんとなくで突破できる施設じゃねぇからここ!?」
──そしてスタッフの拍手の中、
俺だけ最終扉のロック解除に失敗して取り残された。
「エマー!?ライラー!?待って俺を置いてかないでー!?」
「ええじゃないかー!!」
「絶望したかー!?」
「ギャグで返すなーーーーー!!!」
──次に案内されたのは、富士急最凶の名物。
戦慄迷宮。
それは「ホラー」ではなく「訓練」。
“叫ぶ”じゃない、“生き残る”やつ。
「さすがに怖くないよね〜?潤くんなら〜!」
ライラがにやにやしながら俺の背中を叩く。
その隣で、エマはなぜか不思議そうに首をかしげていた。
「潤さん、お化け屋敷って、怖いんですか?」
「いや怖くないけど……“苦手”って言葉には魂の叫びがある」
「へぇ〜……ふふっ、大丈夫ですよ。私も“あんまり”得意じゃないですから」
──その時は、まだ甘く見ていた。
ライラもエマも余裕そうだったから、俺も乗るしかねぇと。
だが、入場して1分──
「ひいっ!!近いっっ!!だめっ!来てるぅぅぅ!!」
叫んでたのは──エマだった。
予想外すぎて二度見した。
そのほんわか顔で、心臓バクバクさせながら、
俺の腕にしがみついてくるとか聞いてない。
(いや近い!これは近い!警備ってレベルじゃねぇ!!)
「ら、ライラは!?」
「ばぁっ!!」
「やめろぉぉぉお前が一番怖いわぁぁぁあああ!!」
ライラはゴーストにハイタッチしながら進軍しており、
すでに“ホラー側”に転職していた。
──そのままルート中盤。
どこかの分岐で、潤とエマがライラと分断される。
「こっち……?あれ……ライラちゃん?」
「おい、声が遠ざかって……って、うわ、真っ暗!?」
──静寂。
2人きり。
エマがそっと潤の服の袖をつかんだ。
「……潤さん?」
「な、なんだ……?」
「ちょっとだけ、こうしてていいですか……?」
──少し震える手。
でもその指先は、あたたかくて。
俺は、声を出さずに、小さくうなずいた。
──たぶん、このとき。
遊園地の騒音の中に、
一瞬だけ“静かな心音”が、重なっていた。
──戦慄迷宮を出ると、外はまぶしいくらいに晴れていた。
「ふはぁ〜!!出たー!出れたー!!潤くん、私ら生還したぞ〜!」
ライラが両手を広げて叫ぶ。
まるで世界救った勇者のようなテンションである。
「ふふ……思ったより、怖かったです……」
エマは胸に手を当てて深呼吸していたが、
顔はどこかほんのり笑っていた。
──まさかあのエマがあそこまでビビるとは。
怖がり方すらほんわかしてたけど……やっぱギャップってやつか。
「……あっ、ジュース買ってくるねー!潤くんはポカリ?それとも“ええじゃない炭酸”?」
「それ味どうなってんだよ!?……って、あーもう好きにしてくれ……」
そう言いながら、ライラは売店へダッシュ。
結果、俺とエマが──ベンチに、ぽつんと二人。
「……」
「……」
少しの沈黙。
エマが、ゆっくりと座ってから言った。
「潤さん、今日は……本当に、ありがとうございます」
「いや、別に。仕事だしな。むしろ命がいくつあっても足りねぇっていうか……」
「ふふっ……それでも、付き合ってくれて嬉しいです」
ふいに、エマが視線を落とす。
その頬に、ほんの少しだけ陰りが差すのが見えた。
「……私、元々アイドル目指してたわけじゃないんです」
「……え?」
「最初はただ、何かをやりたくて……色んな会場のオーディションに応募してました」
エマの声は静かだった。
でも、言葉の一つ一つが、まるで柔らかい針のように胸に刺さる。
「でも……全部ダメで。何度も落ちて……
そんなとき、ラアラちゃんと出会ったんです。レッスン会場で」
「あの子も……私と同じで、何度も落ちてて。
“だったら一緒に練習しようよ”って、言ってくれて……」
──思い浮かぶ。
天真爛漫で、図々しいまでに明るくて。
でもたまに、底の見えない目をする女の子──ラアラ。
「ふたりで、毎日レッスンして、踊って、歌って……。
そうして、やっと今の事務所に拾ってもらえたんです」
エマは、少しだけ笑った。
でも、それは“今が幸せ”という笑顔じゃなく──
“少し、遠くを思い出してる人”の笑い方だった。
「私、後期組なんですよ。Sweet Shinyの中でも。
だから“苦労知らず”って、言われることも多くて……」
「……」
「でも、本当は、けっこう……がんばってきたんですよ?」
静かに、こちらを見るエマ。
その目に揺れているものは、泣きそうでもなく、笑ってもなくて。
ただ、まっすぐだった。
──この子、ほんとに“ちゃんと”努力してきたんだな。
「……知ってるよ」
気づけば、そう口にしていた。
「お前が……簡単にここに立ってるわけないだろ。
お前が、“あのラアラ”と並んでいられるってことは──それだけで、十分だよ」
「……潤さん……」
風が、頬をなでる。
二人の沈黙が、静かな音楽みたいに心に響いた。
──日が傾く富士急ハイランド。
ライトアップが始まり、街灯の明かりが足元を優しく照らす。
さっきまでの騒ぎが嘘みたいに、静かだった。
「……きれいですね」
エマが、ふと空を見上げる。
イルミネーションの光が、彼女の髪に反射して、淡く揺れていた。
「……まあ、うん。確かに」
俺もつられて見上げる。
目に飛び込んできたのは、観覧車のシルエットと、空に滲むオレンジ。
騒がしかった一日が、やっと終わる──
そんな、静かな“しめくくり”の時間。
「潤さん、今日は……本当に楽しかったです」
「……お前、あんなに叫んでたのに?」
「ふふ……叫んでるのと、楽しいのは、ちょっと違うんですよ」
「……そりゃまた、妙な理屈だな」
エマは、座っていたベンチから立ち上がり、
そのまま俺の前に、くるっと向き直る。
「また、来たいですね──こういうところ」
「……ああ」
それだけ。
それ以上の言葉は、出さなかった。
出せなかった、かもしれない。
でも、たぶん。
それで、良かった。
少し離れた売店から、ジュース片手のライラが手を振っていた。
「潤くーん!まだ顔白いけどー!最後にもう一回ええじゃないか乗って帰るー!?」
「やめろ!お前がトドメ刺す気だろ!!」
──明日からまた、いつも通りの日々だ。
でも今日だけは、少しだけ、特別だった。
俺の中に、確かにそう残る一日だった。
あとがき小劇場
『ついにーーーーー!!』
(舞台・薄暗い執筆部屋。机に突っ伏す男が一人)
作者「ついにーーーーー!!」
(バァン!!派手な効果音とともに紙吹雪が舞う)
一同「やすみだぁぁぁぁぁぁぁ!!」
【全キャラ乱入】
ユズハ(カーテン裏からスライディング登場)
「せんぱ〜い、お疲れさまでしたぁ〜! はいこれ、ご褒美の……耳かきセットですぅ♡」
潤(内心):《癒しなのか攻撃なのかどっちなんだこのご褒美ぃぃぃ!?》
ノア(正座で膝枕待機)
「潤様、こちらにどうぞ。心の疲れも、身体の疲れも……私が癒やしますので」
潤(内心):《もうこの膝から動けなくなる未来しか見えねぇ!!》
カエデ(毛布に包まりながらごろごろ登場)
「ウチの横、あいてるで? 一緒にぐーすか寝よ〜や〜?」
潤(内心):《拠点型ヒロインの全力誘惑だとぉ!? 俺の理性HPが……》
エンリ(紅茶とクッキーのお盆を運んでくる)
「お疲れ様です。これ、疲労回復用に。糖分も、水分も、忘れずに」
潤(内心):《この優しさに、毎回泣かされてんだよ……!》
リア(背後から静かに接近)
「では、次の投稿スケジュールについて──」
潤「ストップストップストップ!!」
リア「……冗談ですよ」
潤(内心):《今の“……”の間が怖すぎるの!!》
ミリー(どこからかラジカセとディスコボールを取り出す)
「じゃあパーティーだねっ! みんなで踊ろう踊ろうっ♪」
潤(内心):《うるさい、うるさい、うるさい! でも元気出る!》
作者(机に突っ伏したまま顔だけ上げる)
「……皆様、本当にありがとうございました……とにかく今日は、休みます……!」
潤「このあとがき読んでるそこの読者さん! ここまで読んでくれてありがとな!!」
潤「マジで、君の存在が命綱だった……!!」
一同「次回もよろしくーーー!!(でも今は寝かせてーーー!!)」
(静かに幕が下りる)