第220話『俺、突発クエスト始まる』
ここまで読んでくださった奇特なあなた……
本当にありがとうございます。
もしよろしければ、ブクマ・いいね・感想・★・DM・テレパシー……なんでも嬉しいです。
作者は、たった1PVでもぴょこぴょこと跳ねてしまうタイプですので……
あなたの反応が、次の執筆の灯火になるんです。
このテンションのまま、どうか温かく見守っていただけると……
とても、とても嬉しいです。
(……助けてあげてくださいね?ふふっ)
──俺は、某アイドル事務所に来ていた。
目的は、コンサート会場の警備依頼の打ち合わせ。
そう、仕事だ。れっきとした。
「で? 今回のご依頼の対象と日時は?」
「はい……幕張メッセでのライブイベントです。
警護の方、お願いしたくて」
「なるほど」
これはもう──帰ったらカエデに丸投げ案件だな。
「あと、他の会社等も入りますので、警備体制についてはそちらにお任せします」
「はいはい、了解ですー」
──……と、言いたいところだが。
「はい! はーーい! 警備ってことわぁ〜、
もちろん控え室近辺もですかぁ〜?」
「…………先程から気になっていたのですが……横の方は?」
──俺の横には、ファン丸出しのユズハが座っていた。
Sweet Shinyの警護依頼と聞いて、
ユズハが黙っているはずもなく。
当初はカエデが同行する予定だった。
……だったのに、今隣にいるのはコイツである。
恐らく──
カエデと何らかの密約か、ユズハの策略があったのだろう。
めちゃくちゃ迷惑。
「お前! 絶対ラアラちゃんに会えるかもでついてきただけだろ!?」
「先輩……感のいいガキは嫌いだよ……」
「ガキじゃねーわ!? お前の方が年下だからな!?」
Sweet Shinyのマネージャーが、
ため息交じりに咳払いした。
「コホン。……正直、私はあなた方を見て不安しかありませんが」
「事務所の意向ですので、仕方なくご依頼をさせていただいております。
くれぐれも、問題は起こさぬようにお願いします」
「はい……頑張ります……」
──不安しかねぇ。
そんな時だった。
扉が開き、女の声が響く。
「マネージャー? ちょっと話が──って、潤さん?」
開けたのは、エマだった。
「ああ、エマちゃん。ちょっと待っててもらえるかな?
もう少しで話し合い終わるから」
マネージャーはそう言いながら、
資料をまとめて俺の方へ差し出してくる。
「こちらに詳細な資料をまとめてありますので、
あとはそちらで今回協力する警備会社に連絡をお願いします」
「細かい金額等は資料に。何か不備があればメールでご連絡ください」
「はい……ありがとうございます。」
よし、帰るか──ユズハ。
そう思って、横を──
……横を見た。
──ユズハがいない。
「え…………」
マネージャーは、俺の様子に気づいて言った。
「お連れの方なら、先程ソローっと部屋を出て行かれましたが?」
あのやろぉぉぉ!!!
問題起こす前に止めないと──!!
「あはは……そうですか……申し訳ない……
ちょっとここで、相方がトイレから帰ってくるのを待っても?」
マネージャーは明らかに呆れ顔で、ため息をひとつ。
「……わかりました。お帰りの際は、近くのスタッフをお呼びください」
「私はこれから少し話があるので、席を外します」
そう言い残すと、マネージャーはエマを連れて部屋を出て行った。
──静かになった部屋。
……さて。
問題が起こる前に、ユズハを探さねばならない。
俺は今、突如発生したクエスト──
《消えたファンガチ勢を追え》に挑む羽目となった。
──マネージャーが部屋を出た瞬間。
俺はすかさず椅子から腰を浮かせ、
周囲の気配を確認しつつ、扉に手をかける。
「……よし」
小さく息を吐いて、そろ〜っとドアを開けた。
できるだけ音を立てずに、指先に神経を集中させる。
幸い、廊下には人の姿は見えない。
静まり返ったその空間に、俺はそろりと足を踏み出した。
(ユズハがフラついてるなら、俺にも可能なはずだ。たぶん)
念のため──首にかけていた入館証のケースに手を伸ばす。
中に仕込んだのは……ジラーチのポケモンカード。
(社員っぽい雰囲気出せるように擬装……完璧)
──普通に怒られるやつだが、うちの社ではわりとある。
※本当は怒られます。全力で真似しないでください。
ちなみにジラーチを選んだのは配慮のつもりだ。
ルージュラじゃちょっとアレだし。
廊下を抜け、俺は館内マップを確認するためエレベーターへと向かった。
足音を抑え、音を立てないようにボタンを押す。
「ピン」という電子音が少し響いて、内心で舌打ちした。
直後に上がってきたエレベーター。
扉が開いた瞬間──中にはスーツ姿の男が一人、腕を組んで乗っていた。
(……うわ、社員。ガチの)
俺は一瞬ためらったが、
“何食わぬ顔”を決め込んでそろ〜っと乗り込む。
少しだけ猫背気味にカードを首元にチラ見せしながら、
さりげなくレッスンフロアの階を押す。
……が。
扉が閉まったそのタイミングで、後ろから低い声が響いた。
「おい、君。どこの部署だね? ポケモンカードなんて入れて……」
「ぎくぅっ」
首がビクッと跳ね上がる。
反射的にケースを隠しながらも、すでに全ては見られていた。
(うちの社じゃ普通なのに……って普通じゃねぇのかこれ)
※ガチで怒られます。マジで真似しないでください。
「えっ、あっ……その、ポッケに入ってて……あはは……すぐ抜きます!」
額にじわりと汗がにじむ。
視線が合わないように天井を見つつ、動揺をごまかす。
だが男はふっと笑って、少しだけ顔を緩めた。
「……怒られるからな?
ちなみに俺はイーブイ推し。ジラーチも可愛いけどな」
そして、俺より手前の階で
背中を見せたまま、手を軽く振って降りていった。
(……え、ポケモンカード、もしかして……有効……?)
※調子に乗ってはいけません。
とりあえず、潜入成功。
俺はほっと胸をなで下ろしつつ、目的階に到着。
エレベーターの扉が静かに開く。
一歩踏み出し、周囲を確認しながら廊下を奥へ進む。
途中、扉の一つが開いていた。
そして──その中から出てきたのは、
「あ〜潤だ! なんでこんなところにいるの?」
──ラアラだった。
「げっ!!」
思わず数歩後ずさる。
無意識に、カードケースを首元から引きちぎりそうになった。
(やばい……徘徊してたのバレたら詰む……!)
咄嗟に作り笑いを貼り付けながら、
何事もなかったかのように口を開いた。
「いや〜、今回の警備、うちも関わるからさ。
いろいろ見て回っておかないとな〜って」
ラアラはくるりと一回転してから、
俺に近づくように一歩ずつ足を運ぶ。
「ふ〜ん。やっぱり、運営も無視できないんだね〜」
「まぁ、うちみたいな会社でも依頼来るんだなって感じ」
ラアラはにこっと笑い、口元に指を添えて首をかしげた。
「ちがーう! 最近、脅迫文が届いてるのよ」
「えっ、マジで?」
「うん。けっこうガチ。
それで上がピリピリしちゃってさ〜」
どこか“他人事”のように言いながらも、
彼女の目だけは妙に冴えていて、笑っていなかった。
(……やっぱり、この子、なにか隠してる)
そんな違和感を飲み込む間もなく、ラアラはまた唐突に話題を飛ばす。
「あっ、そうだ! 警備会社やってるってことは〜、
今回の護衛とか受けてくれたりしない?」
──即答。
「しません」
ラアラの目がしゅん……と垂れたように見えて、
すぐにまたにやりと笑みに変わった。
「ふ〜ん、なら……レッスンルーム近辺で、
私物に手を出そうとしてた、とか言いふらしてもいいんだ〜?」
「おい待て! おかしいだろ!? どんな理屈だよ!?」
ラアラは手を後ろで組み、
つま先をトントンと地面に打ちつけながら笑った。
「だってぇ〜、許可なくフラフラしてるなんて〜ねぇ?」
「ぐっ……! 仕事って……なんだよ……」
ラアラはくるっと踵を返すと、
壁にもたれて肘をつきながら、悪戯っぽく囁いた。
「私とエマ、ライブ前にはね、
二人で“お忍びでテーマパーク”に行くの。願掛けなの」
「でも、会社からはダメって言われてるの。
だから無理には行けないし、行って何かあったら……ね?」
──嫌な予感しかしない。
「やだやだやだ! 絶対やだ!
共犯とか怖すぎるだろ! 俺も怒られるんだからな!?」
ラアラは人差し指を立てて、
“シー”と口元に当てる。
「え? 私とあなたはパートナー♡」
「私があなたの“徘徊”を黙る。
あなたは私たちが一日テーマパークを満喫できるように護衛する。」
──これは、脅迫である。
こうして、俺は
アイドルお忍び護衛任務という地雷案件に巻き込まれることとなった。
ちなみにユズハはというと──
【館内放送】
「悪徳リクルートエージェント様。お連れの方がロビーにてお待ちです。至急お越しください」
スタッフに見つかって、
しっかりと怒られていたらしい。
……いや、俺より先に捕まるな。マジで。
あとがき小話
作者『潤……疲れた……』
潤『お疲れ様。向こうの主人公にもよろしく言っといてくれ』
作者『エンリに……癒されたい……』
トボトボと歩いて行くと、
そこには穏やかな笑みを浮かべて座るエンリの姿が。
──その膝の上には、ちょこんと丸まる子うさぎ読たん。
作者『エンリィィ疲れたよぉおおおおぉお!!!』
膝を見た瞬間、作者の中で何かが弾けた。
作者『おめええええええええええらたなまなつやたなまほたやたやなまなあやたはあはたひまはあやたなはたらたやまやな(錯乱)』
潤『壊れたな……完全に。』
エンリ『ふふ……安心してください。
疲れたあなたも、壊れかけのあなたも……私が、全部包み込みますから』
──今日は全員で、エンリの膝をかけた争奪戦が勃発しました。