第219話『私、初対面』
──煌びやかなバラエティ番組のセット。
ヤシの木と浮き輪、床のLEDに海辺の波……夏全開の装飾がテンションを煽ってくる。
\\\ 今夜は特別企画! ///
\\\ “夏にキュンとする瞬間”スペシャル! ///
──出演者席には、現在人気急上昇中のアイドルグループ《Sweet Shiny》から3名。
さらに、その隣に──完璧な仕上がりの“異彩”が座っていた。
司会『というわけで、さっそく皆さんにご挨拶をお願いします!』
『では……ノアさんから!』
ノア『初めまして。ノアと申します。本日はよろしくお願いいたします』
──相変わらず表情一つ崩さず、それでいて妙に絵になる。
白のノースリーブワンピに緩やかな巻き髪、静かな微笑。
完璧すぎるフォーマットに、逆にスタッフが若干緊張してるのが面白い。
司会(例の彼)『うわ〜お上品だわ〜!これは夏の京都から来ましたって言っても信じるやつ』
ノア『……東京生まれですが』
司会『マジかよ!?』
──続いて、Sweet Shinyの3名。
シズカ『……シズカです。今日は、ちょっと緊張してます……』
──落ち着いた黒髪に、ラフなデニムワンピース。
あえて作ってない“素の空気感”が一部層に刺さってるらしい。
エマ『エマで〜す♡よろしくお願いしま〜すっ♪』
──ふわふわな雰囲気と、若干あざとい笑顔。けどあくまで自然体。
ラアラ『ラアラです!今日は精一杯、頑張りまーすっ!』
──真っ直ぐな視線と明るい笑顔。
まるで台本の通りかと思うほど、理想のアイドル的ムーブ。
司会『う〜ん、今日は華やかすぎて目がやられそうだなぁ!
じゃ、さっそく本題入りましょう!』
\\\ 夏にキュンとする瞬間! ///
司会『おひとりずつ、どんなシチュにキュンとするか教えてください!』
──まずはシズカ。
シズカ『私は……駅とかで偶然目が合うとか……そういうの、ちょっと憧れますね』
司会『おっ、王道の出会い系〜!……って古い?』
シズカ『あっ、いや、その……今どきあんまりないですけど……なんか、いいなって』
──ひそかに画面隅《共感度:★★★》の演出。
でも、自然体の語りにスタジオの空気がふんわりする。
──次、エマ。
エマ『私は〜、意外性にキュンとするかなぁ?』
司会『意外性?たとえば?』
エマ『なんか、普段と全然違う一面とか……
例えば静かそうな人が、突然強気だったり、真面目そうな人が急に抜けてたり……』
司会『あぁ、わかる!ギャップってやつだね〜!』
エマ『はいっ♡……でも、別にそういう経験あるわけじゃないんですけどねっ』
──ふわっと笑うその様子に、視聴者も癒される。
──ラアラ。
ラアラ『私は……今はアイドルとして、お仕事に集中したいので……
恋とかは、まだ、いいかなって思ってますっ』
司会『うんうん、真面目だね!』
ラアラ『でも!ファンの皆さんの応援は、毎日キュンときてますっ♡』
──真っ直ぐな言葉、トップアイドルそのものだ。
──そして最後はノア。
司会『お待ちかね!ノアさんの“夏にキュン”とは!?』
ノア『……何気ない日常の中にこそ、惹かれる瞬間があります』
司会『おお……深い!たとえば?』
ノア『……例えば、陽射しが強い日。隣を歩く人が、何も言わずに日傘を傾けてくれたり……』
司会『……ああ、もう絵になるやつじゃん!』
ノア『気づかせずに、優しさをくれる人……そういう方に、私は……』
──言葉を濁すが、その声の奥にだけ、柔らかい確信が混ざっていた。
司会『……もしかしてぇ〜、その“隣を歩く人”って、例の……?』
ノア『……さぁ、どうでしょう?』
司会『絶対そうだろそれ!!!』
──視聴者が名前を出さない“あの男”を思い出したとしても、それは誰にも確かめられない。
だが彼女たちの言葉に共通していたのは──
誰かを想っている空気。
カメラが回る中、いくつかの嘘と、本当が、夏の光に紛れていく──
──────
──バラエティ収録、無事終了。
『お疲れ様でーすっ!』
照明が落ち、出演者たちがぞろぞろと楽屋へ引き上げる。
スタッフの声とクールダウンの空気が、さっきまでの熱気をかき消していく。
『お疲れ様〜!ノア、今日はもう終わりやんな?』
──ぽんっと背後から肩を叩かれ、ノアが振り向く。
『あっ……カエデさん。お疲れ様です』
『エンリの代わりで来たんやけどな、連絡きてん。
潤くん、熱出したらしいで?』
『──潤様が!?』
ノアの表情が一瞬で張り詰める。
『今すぐ……すぐに向かいましょう!』
『うん、せやからまずは着替えてきぃ。
ウチも車呼んどくさかい』
──だがそのタイミングで。
通路の奥から、今日の共演者である《Sweet Shiny》の三人が、笑顔で歩いてきた。
そして──誰とも知れぬ声が、すれ違いざまにひとこと、ポツリと落ちる。
『……待っててね。すぐにもらっちゃうから♪』
え……?
一瞬、ノアの足が止まりかけた。
だが声の主は判別できない。
ラアラか、エマか、あるいは……
──冗談とも本気とも取れぬ“何か”が、通り過ぎていった。
『……今の、なんや?』
『……わかりません。何か言われた様な気が……』
だがその違和感は、ノアの脳裏にしっかりと刻まれていた。
*
──タクシー車内。
『でな?今ちょうどユズハから写真送られてきてな?』
カエデがスマホを差し出す。
画面には──
・涙目で書類に向かうリア
・その隣で、落書き帳と化した紙にうつ伏すミリー
・そして二人の背後で、完璧な笑顔で“見張り”をしているエンリ
『……何があったんです?』
『最初はな、ミリーが資料に可愛い顔描いたんよ。
で、リアが止めようとしたんやけど……気がついたら、誰も整理終わってなくてな』
『小学生の自由研究でももうちょっと真面目にやる気がします……』
『ちなみに今は、ユズハも巻き込まれてるみたいやで?さっき「電話きた」ってメッセきてたから、たぶんリアの指導対象』
『当然の報いですね』
『せやけど、潤くんしんどいなら……ウチらがごはんとか作ったげよか?』
『……ええ。おかゆ、スポーツドリンク、それと……保冷剤もあれば』
『よっしゃ、じゃあ目的地変更〜!』
カエデが運転手に笑顔で声をかける。
『おっちゃん!スーパー寄ってから、潤くんのとこ行くでぇ!』
──ノアは窓の外を見ながら、ふと、先ほどの“声”を思い返していた。
(……あれは……誰の言葉……?)
“待っててね。すぐにもらっちゃうから”
──その“誰か”が、潤様に向けた言葉でなければいい。
そんなあり得ない妄想を、ノアはかき消すように瞳を閉じた。
──不穏な夏の夕暮れが、ゆっくりと、街を染めていく。
【あとがき小話】
今回は告知に御座ります!
新作
『過労死したら経験値カンストしてた俺、異世界でようやく評価される』
を公開いたしました〜!!
普段から『才能奪取』を読んでくださっている皆さま、本当にありがとうございます。
もしよろしければ、新作の方にも目を通していただけたら嬉しいです!
それに伴い──
今週に限り、
・『才能奪取』を毎日1話更新
・『過労死したら経験値カンストしてた俺、異世界でようやく評価される』も毎日1話更新
という【ダブル連載ウィーク】を開催いたします
更新通知が多くなるかもしれませんが、
どうか温かく見守っていただければ幸いです……!
何卒、よろしくお願い申し上げます!