第218話『私の興味を引く男』
ここまで読んじゃうなんて、先輩ってば……ほんと、物好きですねぇ?♡
ブクマとか♡いいねとか♡感想とか♡……あ、テレパシーでもいいですよ〜?
私、反応あるとテンション上がって、うっかり次の話とか書いちゃうかもですしー?
(……あ、でも逆に、なかったらしょんぼりしちゃうかもですけどー?)
だから……
応援、くださいっ♡(切実)
──ねぇ、お姉ちゃん。
あなたの“お気に入り”って、こんなに面白かったの?
薄暗い部屋の中。
静かに光るモニターの前で、少女は頬杖をついて笑っていた。
その笑みは、恋する乙女のようにとろけて。
その目は、獲物を見下ろす蛇のように細められていた。
「はぁ……やっぱりゾクゾクする……♡」
画面に映るのは、笑いも怒りもない無表情な男。
だがその“何もなさ”が、逆に本能を刺激する。
「ねぇ、なんなのあの人……怖くて、冷たくて、ぜんぜんやる気なさそうなのに……」
少女はぽつりと呟く。
「……全部、壊してくれそうで、……最高じゃない……?」
背後で扉が開いた。
「コハル様、次の指示について……」
「うるさい矢崎。黙って見てなさい」
そう言って振り向きもせず、彼女は指先で軽く合図する。
「でも……なんか持ってきたんでしょ?」
「はい。こちらに、これまで候補となった対潤用の人材リストが……」
差し出された分厚いファイルに、少女は興味なさげに目を通す。
──元傭兵、元暗殺者、AI技術者、メディア支配者、ハニートラップ要員──
どれも一流。どれも実績あり。
けれど。
「……ぜんぶ、退屈」
「っ……コハル様。彼らは一応、潤殲滅用の……」
「誰が潰したいって言った?」
少女はふわりと立ち上がり、モニターに触れるようにして言う。
「欲しいの。奪いたいの。……私のものにしたいの♡」
「……っ」
「でもね、ただ飼うんじゃつまらないの。
私が噛みついて、引っかいて、血まみれにして、
それでも“私の傍にいるしかない”ってところまで──追い込まなきゃ意味ないじゃない」
その声音は、蜜を垂らしたように甘く。
けれど言葉の中身は、正真正銘の“地獄”だった。
「矢崎。例の写真、並べて」
「はっ……こちらです」
差し出された別のファイルには──
かつて“潤”が才能を奪った者たちの記録。
名も顔も優秀だった者たちが、今では何かを失い、ただ空虚な視線を浮かべている。
「ねぇ矢崎。これ、潤のせい?」
「直接的な証拠はありませんが……全員、才能や職能を“喪失”しております」
「ふぅん。じゃあ、もう確定でいいでしょ♡」
少女は指でその顔写真たちをなぞる。
「奪って、壊して、何も言わずに笑って……
あぁ……あんなのが街を歩いてるなんて、興奮しちゃう……♡」
ゾクリ、と言うよりは、ビクン、と震えるような興奮。
少女の両手は頬を撫で、喉元へ滑り、まるで自分を慰めるように、
彼女だけの“潤”を想像して震えていた。
「ねぇ矢崎。いっそ、拉致しちゃおうか?」
「可能ではありますが、手勢程度では……かなりのリスクが……」
「リスク? そんなの私が全部背負ってあげるわ」
「彼ね? 女の色仕掛けも効かないの。バレると完全に隠れて、二度と見つからない」
「なのに──見つけた女の子には、優しくて。絶対に殺さないで、手加減して逃がすの。意味わかんない♡」
その瞳は、完全に“獲物”を見定めていた。
「潤ってね。殺さないくせに、全部奪うのよ。そういう男が一番ヤバいって、私、知ってる」
「だから、首輪つけてあげるの。
ね?私なしじゃ、生きられないようにしてあげる。
呼吸も睡眠も、私の許可がないとダメになるくらい──私の色に染めてやる」
少女は笑った。
まるで恋する乙女のように。
まるで拷問官のように。
「ツバキお姉ちゃんには、ぜったいに渡さない」
「潤は、私の“おもちゃ”になるんだから──♡」
その声が、部屋に響いたあとも。
矢崎は動けなかった。
背筋に走る冷気は、少女の声ではなく、
“世界が静かに壊れていく音”だった。
潤はまだ知らない。
自分が、今、誰に見初められたのかを。
────────────
『へっぶしっ!』
「じゅんくん、かぜー?」
『かも知んない……へっぷしっ!なんか……背中に悪寒が……ゾクッて……』
「それぜったい風邪だよぉ!」
『いやでも熱は……うーん……たぶん……無い……』
「そーゆーときはね!出るの!熱ってそういうものなの!じゅんくんは今日は帰ってやすむの!」
『いや、仕事がな──』
「だいじょーぶー!報告書はミリーが書くからっ!ふんす!」
『それが一番不安なんだけど!?絶対お花とか描くなよ!?』
「だいじょーぶ!」
『なら……飛行機とか、クマさんとか、うさぎさんとか、バニー服着た子猫とか……』
「ぜーんぶだいじょーぶ!」
……全然大丈夫じゃねぇ。
つーか今、選択肢の中に“報告”要素が一個も無かったぞ?
想像するまでもなく──
報告書にキラキラの星とか貼られてる未来が見える……!
くそっ……もういい。
俺は観念して、スマホを取り出すと着信を鳴らす。
『──もしもし? 今ヒマでしょ?』
「失礼な。私は今、冷房の効いた快適な部屋で読書という名の知的活動をして──」
『はいはいはい知性はわかったから来て!社長室!急ぎ!』
俺は一方的に通話を切った。
『ミリー、いいか?今からリアが来る。だから──書類には触るなよ?』
「えーーー!ミリーできるのにぃー!」
『やめて!ほんとやめて!てかもうわかったから、リア来るまで待ってて?俺は帰る!寝る!』
「うぅ〜ん……じゃあ、“ちょっとだけ”お絵描きして待ってる〜♡」
『それがダメだっつってんだろ!?』
……逃げるように社長室を後にした。
───
───数分後───
「で、潤。私も暇ではないんですが……何の用事──」
バサッと机の上に広がる紙。
……いや、報告書?
いやこれ──報告書って呼んでいいのか?
リアの言葉が途中で止まる。
引き攣った顔。手が震える。
「……これは……何ですか……?」
「えへへ♡ ちょっとだけ〜書いて待ってたよぉ〜♪ お花と飛行機と、バニー服の子猫ちゃん!」
「…………」
「あとね、報告書って言葉かたいから、ミリーは“ぼうけんのきろく”って名前にしたの!えらい?」
「…………はめましたね」
声のトーンが凍りついた。
……リアの瞳が、一切笑っていなかった。
あとがき小話
潤『…………なぁ、あれ何?』
カエデ『あれは……次の話に詰まった作者やな』
潤『なんか体育座りで目開いたままブツブツ言ってるんだけど……怖ッ』
カエデ『まぁ、自分で増やした企画で自爆しとるだけやし、ほっとこ?』
作者『リアタンノマホウショウジョスガタ……ハァハァ……アアア……ツギノハナシハ……』
潤『こいつ壊れてんぞ!?』
カエデ『だいじょぶやって。そのうち──』
作者『キエエエエエエエエエエエエエ!!!!!!!』
バタァッ!!
潤『うわああああ!?奇声あげて倒れた!?』
カエデ『……せやけど安心して。あそこからが“再起動フェーズ”や』
ムクッ……
体育座りに戻る作者。
作者『……ヤッパリ……ネコミミ……モット……ハァハァ……ユズハタン……』
潤『やっぱ壊れてるじゃねーかああああああ!!』