第216話『俺、不審者』
ここまで読んでくれたウチの特別な人〜っ!
ほんまにありがとうな〜♡
ブクマもいいねも感想も★もDMも……もうな?
ウチ、それ全部ぎゅーって抱きしめて喜んでまうんよ?
1PVでも飛び跳ねてるから……せやから……
ウチのこと、見ててな? ちゃんと、ちゃんと応援してな?
このテンションのまんま──
ウチのこと、見捨てんといてやぁ……?
(……いや、ほんまに……そばにおってぇ!?)
──俺の番が来た。
……たかが握手。されど握手。
相手は今をときめくアイドル。
いくらなんでも、緊張しないわけがない。
(大丈夫だ……落ち着け……)
だって俺、女優のノアとも普通に会話してるし?
家ではミリーが普通に抱きついてくるし?
リアに至っては仕事の報告に来たはずなのに人生説かれるし?
──それとこれは別の話である。
“ステージの上の存在”って、なんでこんなにも遠く感じるんだろうな……。
俺は汗ばんだ手をズボンでごしごしと拭い、覚悟を決めて前へ進んだ。
そのとき──
「ひっ……!?」
「えっ……?」
聞こえたのは、明らかに怯えた声。
顔を上げると、目の前のエマが完全にビビってた。
──え、ちょっと待って。なんで?俺、なんかした?
一瞬で思考がフリーズし──そして、はっとする。
パッシブユニークスキル
《咎人の玉座》
◤正しさを否定した者にこそ、王座は似合う◢
周囲の人間が勝手に“裏の意図”を深読みし、
本人が黙っていても“支配者”として認識されてしまう。
(……極度の緊張から、スキルの効果が強く出てる!?)
ああクソ!やっちまったぁあ!!
俺の“何もしてない”が、世界に誤解される代表格だ!!
落ち着け俺!深呼吸だ!
握手だろ!?
ただの人と人とのコミュニケーションだろ!?
──緊張とは、“緊張している”という事実を意識した瞬間からさらに加速する。
わかってる!わかってんだよ!!
俺はなんとか手の震えを抑えながら、ゆっくりとエマに手を差し出した。
その瞬間──
エマが、涙をこらえながら手を伸ばしてきた。
……が。
「そこの不審者!手を引け!!」
「えっ!?」
反射的に声が出た。
気づけば、スタッフたちが3人がかりで俺を取り囲み──
「この子を泣かせるとは何事だ!!」
「大人しくしろ!」
「抵抗すんな!手を上げろ!」
「えっ、ちょっと、違うって!!
俺ただ握手を──握手をしに来ただけなんですってばぁぁ!!」
「問答無用!不審者確保!!」
「やめてぇぇええ!!俺の握手がぁぁああ!!
なんで!?なんでこうなるのぉぉ!?!?」
──その騒ぎを聞きつけたのか、俺の方に目を向けたのは──
ユズハ。
俺は叫ぶ。
「ユズハァァァァァ!!助けてくれよぉぉぉぉ!!」
だが。
彼女は……推しのラアラと握手するため、列から離れようとはしなかった。
そして──
敬礼した。
無言で、堂々と。
俺の目の前で、アイドルに向けてテンションMAXだった女は、今この瞬間、俺よりも平然と推しとの握手を選んだ。
「オメェ……あとで絶対覚えてろよぉぉぉぉぉおおおお!!!」
泣き叫ぶ俺をよそに、スタッフたちは容赦なく俺を引きずっていく。
そして──俺は。
“なにもしてないのに強制退場”という、前代未聞の不名誉を背負わされた。
──控え室。
「……で?お前、エマちゃんのストーカーか?」
囲まれる俺。まるで取り調べ。
「違いますって……ただの通りすがりの握手希望者で……」
「凶器は?カバンの中、見せろよ!」
「うぅ……持ってましぇん……」
「“ましぇん”じゃねぇよ!」
バン!と机が鳴る。
「じゃあなんでエマちゃんがあんな怯えてたんだよ!」
俺の才能のせいです、なんて言えない。
絶対通じねえ。むしろ悪化する。
「……わかりましぇん……ただ……握手がしたかっただけなんですぅ……」
涙目で訴える俺に情けも容赦もない。
すると──廊下からざわめきが。
どうやら握手会を終えたSuicaShinyのメンバーが戻ってきたらしい。
「……あの、エマちゃん。無理にあんな奴に会わなくても──怖かったらいいから、ほんとのこと言ってね?」
やがて開くドア。
中に入ってきたのは、さっきまで俺を怯えた目で見ていたエマ。
あの、アイドルのオーラを纏った存在が、今はなんだか──ちょっと戸惑ってるようにすら見える。
「え……?あれ……?」
エマが、俺の顔を見て、小首を傾げた。
「さっきはすごく怖かったけど……今は全然、そんなことない……」
お、俺の緊張が……解けたからか?
スタッフがすかさず詰め寄る。
「エマちゃん、言っていいんだよ?なんかされてたらすぐ警察──」
警察!?
やめろやめろやめろやめろ!
バニー服の幻覚を見ろ俺!!想像力!!解放しろ想像力!!!
脳内に現れる、発光するバニー服を着たおっさんが両手を広げて語りかけてくる。
(大丈夫だよ〜潤ぅ〜〜)
「──あの!本当にすみません!私の勘違いでした!」
エマが、全員に深々と頭を下げた。
そして廊下からスタッフの声。
「撤収時間迫ってま〜す、各自着替えてくださ〜い!」
「ごめんなさい!ほんとにごめんなさい!」
俺の前に駆け寄り、再び頭を下げ、エマは走り去っていった。
……あれ、可愛いじゃん。
いや、違う違う、今そういうことじゃねえ!
俺はドヤ顔で、尋問してきたスタッフの目を見据える。
「どやぁぁぁぁぁあ!!」
スタッフは舌打ちひとつ。
「……悪かったな。裏口から帰れ」
それだけ言って、どこか不貞腐れたように立ち去った。
──裏口。
待っていたのは、スキップ気味のユズハ。
「せ・ん・ぱ・い〜♪おかえりなさいませ〜☆」
「お前……俺より推しを取ったな?」
「えへへ〜?だってぇ……エマちゃんが先輩連行されてる時、ラアラちゃん神対応でぇ……」
「比べんな!」
「せ〜んぱい?過去のことは、水に流しましょ?あの夜……語り合った仲じゃないですかぁ……?」
「見捨てた奴に言われたくないんだけど!?」
……こうして。
“エマ”との最悪のファーストコンタクトは、どうにか幕を閉じた。
だがこのとき俺はまだ知らなかった。
すべてが──既に、あいつの掌の上だったことを。
あとがき小話】
作者『昨日さ……夢の国行ったんだよ……』
潤『おぉいいじゃん!なんかこれって思い出あんの?』
作者『それがさ……トイレ並んでたら個室から煙が……夢の国で出るうん◯すげーな、煙でんだぜ?』
潤『……それ絶対違うだろ……』
作者『マタドガス食ったんじゃないかってくらいモクモクって……』
潤『完全アウトーーーー!子供泣くだろそれ!』
作者『しかもさ、スタッフが即座にライトセーバー──じゃなくて“箒”持って現れてな?』
潤『ジェダイいんの!?夢の国に!?』
作者『“こちら処理班!現場に到達!”って感じで猛突進してったわ』
潤『なんだその現場系バトルアニメみたいな対応!?』
作者『こっちもさ、ガチで色んな意味で“出る”とこだったんだけどさ……』
潤『意味深やめろ。心も腹も限界迎えそうな言い方すんな』
作者『とりあえず夢の国でも油断すんなって学んだよ……』
潤『学び方と夢の使い方が迷子すぎるだろ……』
汚くてごめんね(>人<;)