第215話『俺、アイドルのコンサートへ行く』
ここまで読んでくださったのですね……ありがとうございます。
ですが、お願いがあります。どうか──
ブクマ・いいね・感想・★・DM・テレパシー……何でも構いません。
潤様の物語に、あなたの想いを届けてください。
たった1PVでさえ、潤様を描く私たちの胸を震わせ、力になります。
……いいえ、正確には──私が、誰より喜んでしまいます。
ですから……お願いです。
この想い、この物語を、潤様の名のもとに支えてください。
(……助けてくださらないと、私、潤様を独り占めしてしまうかもしれませんよ?)
「せんぱ〜い!えへへっ♪ 今日の予定とか〜あったりします〜?」
──朝。
扉を開けた瞬間に飛びついてきたのは、我が社の広報(※自称アイドル)だった。
いや……ほんとに飛びついてきた。
朝イチの寝ぼけ顔に全力のタックルかますな。
「って暑ぃぃ!!なに抱きついてきてんだよ!!
夏だぞ!?体温上がるぞ!?俺が溶けるぞ!?」
「いいじゃないですか〜♪
先輩と私の仲ですし〜?
それに……夜に熱く語り合った仲じゃないですか〜?」
──その言い方やめろ。
全部誤解される。
いや、むしろ誤解させにきてるなコイツ。
「……で?どこ行きたいんだよ。まさかまた服見に行くとか……?」
ユズハはいたずらっぽく笑いながら、俺の腕にぐいっと密着してくる。
「実は〜……今ちょっと推してるアイドルグループがいましてぇ……
チケット狙ってたんですけど〜取れなくて〜……でもエンリさんに相談したら〜?」
──ジャジャーン☆
誇らしげに取り出されたのは、ピッカピカの関係者席チケット2枚。
「メディア関係者用、貰えちゃいました〜♪」
「いや職権濫用じゃねぇか!?エンリ!?エンリィィィィ!?」
俺の中の倫理観が悲鳴を上げたが、当の本人はまったく気にしていない。
「なに言ってるんですか〜?これも我が社の広報力を高めるための!れっきとしたお勉強会ですよぉ〜?」
お勉強会(握手会付き)
「……なぁ、ユズハ。お前、たまにギリ合法な顔して犯罪的だよな」
「えへへ〜褒められたぁ♡
彼女たちの可愛さたるや……もう、流石の私でもちょびっとだけ霞むほどなんですから!」
「“ちょびっと”の解釈どうなってんだお前の中で」
──まぁでも。
そんなに楽しみにしてるなら、断る理由もないか。
「……わかったよ。そこまで言うなら、付き合ってやる」
「わ〜い!わ〜い!
じゃあ今すぐゴーです☆」
「は?今?俺まだ寝起きなんだが?」
「ナウです!準備して!
ライブは戦争ですから!!」
「戦争なのに俺が動員されてんの、なんか納得いかねぇんだけど!!」
──こうして。
俺はユズハに引きずられ、アイドルライブ&握手会へと参加することになった。
……なにこの羞恥の夏。
ユズハはルンルンで歩いていた。
──いや、歩いてるというか、すでにライブの空気を背負ってる。
「……おい。
お前それ……どう見ても勉強会の格好じゃねぇよな?」
彼女はハチマキを締め、ハッピを羽織り、背中にはド派手な刺繍で──
《ラアラたん命》
うちわ×2
ラアラちゃんネイル
腰には蛍光ブレス
極めつけに喉に貼られた「声出し可」のシール
「準備完了ですねぇ〜♪」
「準備どころか、開戦5分前の兵士の顔してんぞお前……」
「何言ってるんですかぁ〜。これは我が社の成長のための“視察”です!
郷に入らば郷に従えって、言うじゃないですか〜?」
「いやどう見ても“従わせる側”の装備だからな!?
むしろ今からお前がセンターでデビューしそうな勢いだぞ!?」
そのままノリノリで列に並ぶユズハ。
周囲のガチ勢にも全く引けを取らない──というか一番目立ってる。
「なぁ……ちなみにこのアイドルグループって、どんな感じなんだ?」
俺の何気ない問いに、ユズハが動きを止め──
「……せ、せんぱい……?」
「……えっ、まさか……知らないとか……?」
──ギョッとした顔で、俺を五度見してくる。
「やばすぎますよそれ……。
“Sweet Shiny”知らないとか、現代人ですか!?」
「いや言うて昨日のニュースもロクに見てないからな俺……」
「“Sweet Shiny”は5年前に結成されて、
2年前に新メンバーが入ってから飛ぶ鳥も落とす音圧でドームデビューを果たした、
今をときめくアイドル界のキラキラ銀河なのです!!」
「なんでお前のテンションが銀河規模なんだよ……」
「よくぞ聞いてくださいました!」
「新メンバーは3人いて──ミサキちゃん、エマちゃん、そして我らがラーラちゃん!」
満面のドヤ顔。
背中の“命”の刺繍が風にたなびく。
「ラアラちゃんは歌・ダンス・MC・表情・ポーズ・空気感・呼吸の仕方まで完璧!
天が生んだ“人類最後のアイドル”です!!」
「えっ、最後なの? 人類の?」
「ちなみに先輩、事前予習用のDVDありますけど、見ます?」
「いらん。むしろ今後も一生見ん」
そんな会話をしているうちに、会場に到着。
開演前にも関わらず、観客はすでに戦場の士気をまとっていた。
サイリウムの光が一斉に波打ち、歓声が響き、遠くから既に誰かが泣いている。
俺たちは前のほうの席に着く。
……見渡す限り、ラアラちゃんうちわばっかじゃねーか。
この中で「誰それ?」って聞いた俺、処刑対象では……?
「……なぁ、ユズハ」
「もし俺が間違えて“ララちゃん”とか呼んだら──死ぬ?」
「即死ですね〜♪」
──俺、今日生きて帰れる自信がない。
公演が始まると、会場の熱気はさらに跳ね上がった。
光と音の洪水。サイリウムの波。跳ねる足音、咆哮に近い歓声。
──そのステージには、6人の少女たちが立っていた。
どの子もビジュアルは完璧。だが──
一際目を引くのは、その中の3人。
……なるほど、これがユズハが言ってた「新メンバー」ってやつか。
立ち姿、歌い出す瞬間、煽る手の角度……放ってるオーラが、明らかに違う。
「絞殺天使〜♪ お顔が真っ青、は〜がねちゃ〜ん♪」
──えっ、今の歌詞なに!?
物騒すぎない!?
絞殺天使ってなに!?顔真っ青てどういう状況!?
てかどっかの深夜アニメで聞いたことあるぞこのフレーズ!?
今、元ネタ考えてる場合じゃないけどさ!
「見て見て先輩!!今ラアラたんこっち見ましたよ!!こっちガチで見ましたってば!!」
「わかったわかった落ち着け!」
──それにしても。
曲はクセ強、歌詞は物騒、踊りはフルパワー。
それでも……
パフォーマンスの迫力がすごすぎて、気づいたら俺も身体でリズムを取っていた。
完全に負けてる……!
観客として!
──そしてライブ終了後。
一部のVIP席限定で、握手会が開催された。
「先輩は誰が一番輝いて見えました〜?」
ウッキウキで聞いてくるユズハ。
さっきまでの叫びで喉やられてるはずなのに、声が元気なのが逆に怖い。
「いや……誰が誰だかまでは分かんねーけどさ。
3人だけ、後加入なんだろうなってのはなんか見てて分かった」
「それでそれで?どの子が気になったんですか!?」
ぐいぐい距離を詰めてくるユズハ。
「え……? いや、強いて言えば……あの、ショートボブの子」
「──あ〜っ、エマちゃんですね♪」
即答。
「いいですよね〜わかります!
エマちゃんは清楚で、控えめで、ちょっと天然な感じが……あっ、でもダンスキレッキレなんですよ?」
「もう好きすぎて解説早ぇよ……」
「ちなみにちなみに、私の推しのラアラちゃんは、ピンクのフリフリ衣装でツインテの子です!」
「あー……いたな。
なんか世界を自分中心に回してる系の……」
あの立ち方と目線の配り方、完全にセンターの空気だった。
「お前、完全に負けてるぞ?」
「むー!いいんですぅー!
推しに負けるなら本望ですぅ〜!尊い……あぁ尊すぎますぅ〜……」
両手を合わせて拝み始めるユズハ。
このままじゃ魂抜けて昇天しかねない。
「わかったから!帰ってこーい現世に!!」
はっと我に返るユズハ。すごいなこの切り替え力。
「それはそうと、先輩は誰と握手しますか?やっぱエマちゃん?」
「いや……別にいいよ、握手とか。俺そういうの慣れてないし……」
「ダメですよぉ!
応援してくれる人がいるって、あの子たちにとっても絶対うれしいんです!」
「そ、そうだけど……」
「それにせっかく握手券あるのに使わないなんて、握手できなかったファンに失礼です!」
──うっ、ぐうの音も出ねぇ。
なにこの論破力。間違ってねぇ。
「……なんか妙に筋が通ってんのが腹立つな……
……わかったよ、行きゃいいんだろ。別に会話とかしなくていいんだよな?絶対どもるからな?」
「大丈夫ですよ♪彼女たちはプロですから!」
──そう言って、ユズハはラアラの列へ。
俺はその隣、エマの列に並んだ。
距離が少しずつ近づいていくたびに、心臓がざわついていく。
それはアイドルに会うから──だけじゃない。
改めて、目の前に立つエマを見る。
……やっぱり、可愛いな。
あの無邪気な笑顔と、どこか凛とした空気。
そんな事を考えていると──
「はいっ、ありがとうございました〜!お次の方〜!」
そして順番が回ってきた
──名前も知らない相手に、こんなに緊張すんの、初めてかもしれない。
【あとがき小話】
〜作者、ロマンを3秒で台無しにするの巻〜
⸻
作者『なんかさ……創作ってすげーよな……』
リア『急にどうしたんでしょう』
作者『いや、こうして俺が綴った物語がさ……通勤中とか、布団の中とか、お風呂とか……』
リア『はい』
作者『下手したらさ……恋人とのデート中に読まれてるかも、とか思うと……』
リア『……ふふ、少しロマンチックですね』
作者『……うん……(΄◉◞౪◟◉`)』
リア『……何ですか、その顔は』
作者『いや……その電車の中で、
俺のギャグ読んで“プフッ”って吹き出した瞬間を想像して……
勝ったなって……』
リア『ロマンチック、今落としましたよ』
作者『返してもらえる?』
リア『もう、駅のホームに転がってますね』
⸻
潤(あー……どんな恋愛漫画よりこの会話のほうが“人間”してるわ……)