第212話『俺、誰かの役に立てるなら』
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──夜の交差点。
冷えたアスファルトに足音が響く中、
リアは指定した待ち合わせ場所で、静かに腕時計を見ていた。
時刻は、約束の5分前。
「……さて、今日の潤の行動ルートに合わせれば、出発はあと十数分……」
メガネ越しにスマホの地図と潤の出勤ログを確認しながら、
リアは淡々と計画の確認を進めていた。
「問題は──この作戦の“実行者”たちの、質ですね……」
その瞬間だった。
「──っしゃああああああああっ!! 張り込み開始ィィィ!!」
「突入ですぅぅぅぅぅ!!」
リアが顔を上げると、交差点の向こうからダッシュで現れた二人の姿が──
ひとりは、サングラスにスーツ姿で腰に偽物のIDカードをぶら下げたユズハ。
もうひとりは、何故か「FBI」と書かれたキャップとオモチャのトランシーバーを持ったミリー。
夜の街に浮かぶ明らかな“ごっこ遊び”の気配。
リアはその場で、静かに息を吐いた。
「……やはり、嫌な予感は当たるのですね」
「リアちゃん、待たせました〜!」
「特殊捜査チーム、到着ですっ!」
ユズハがバシッと敬礼ポーズを決める。
その横でミリーは目をキラッキラさせながら、無線機に「ターゲットはまだ移動していません〜」と小声で言っている。
「……それは何の役に立つつもりなんですか?」
「え? 雰囲気ですよ? やっぱ“張り込み”って言ったら、刑事ドラマのノリで行かないと!」
「です!」
ふたりのサングラスが、同時にキラリと反射した。
リアは頭を押さえるようにしながら、溜め息を一つ。
「……もう一度確認します。
今回の目的は“雰囲気を出す”ことではなく、“潤の行動を監視し、異常の有無を確認する”ことです」
「わかってますってぇ〜。でもでも、ちょっと緊張もほぐれるじゃないですか?」
「じゅんくんの後をつけるの、なんかどきどきするし……!」
リアが静かに地面を見つめたあと、目線を戻す。
「……あなた達に本格的な尾行行動を期待した私が悪いのでしょうね」
「えへへ♪ バレてました?」
「最初からです」
「ですぅ!」
──かくして、“絶妙に使えない尾行チーム”が揃った夜。
すでに不穏な空気しか漂っていなかった。
だが、その不穏さは──
開始2分で爆発した。
「確認っ! ターゲット、南口ロータリーより歩行開始ですっ!」
リアが通信用イヤホンを指先で押さえながら、声を落として報告する。
「各自、5メートル間隔を維持して接近。目線を合わせず、自然に──」
「は〜い、了解です先輩っ!」
「りょーかいでーす♡」
──その返事からして、すでに信用ならない。
リアはサイドから巻き込む形で距離を詰め、
遠巻きにフードを被った潤の背中を捕捉する。
その後方──
「……先輩、見えた見えた♪」
ユズハが物陰から顔を出しながら、小声で笑う。
「さあ、張り込みドラマ第2話、開幕ですねぇ〜……」
「ねえユズハちゃん、今から“あのセリフ”やってもいい?」
ミリーがワクワクした顔で近づいてくる。
「尾行っぽいやつ! ほら、“泳がせるか……”ってやつ〜!」
「ふふっ、いいですよ。じゃ、私が刑事Aやるんで、ミリーちゃんは情報屋ってことで」
「情報屋!?」
──ゴソッ。
物陰からふたりが同時に顔を出す。
「……泳がせるか」
「シロっぽい顔してたけど、目が泳いでました〜」
──背後にいたリアのこめかみに青筋が浮かんだ。
「……出すな顔を」
『はっ!?』
『あっ!?』
慌てて飛びのく2人。だがその直後──
「ん?」
ミリーが何かに気づいたように指をさす。
「あれ? あの人の方が怪しくない?」
見ると、潤とはまったく関係ない中年男性が、スマホを胸ポケットに忍ばせて周囲を見渡している。
「……盗撮っぽい?」
ユズハも覗き込む。
「てことは、“ターゲット変更”ですね!」
「ダメです」リアが即座に制止する。
「でもあの人の方が悪そうだったよ〜?」
「ですよね〜? ですよね〜?」
「“張り込み対象は潤”だと3回説明したはずですけど?」
「ふぇ〜〜〜〜〜〜……」
──3人の列が再構成される。
再び潤を尾行──しようとした、ちょうどその時だった。
「……ふーっ」
「……っっ!!」
リアの肩が、ビクッと跳ねる。
「……今、耳に“ふー”ってしました?」
「してません〜〜〜♡」
(※完全に満面の笑み)
「してました〜〜〜♡」
(※バレたのに悪びれてない)
「…………」
リアは一度、イヤホンを外して、無言で空を見上げた。
「……もう、全員別行動でいいですか?」
「だめ〜! チームプレー! チームプレーだよぉ〜!」
「私たち、“尾行アイドルユニット”じゃないですか〜!」
「そんなユニット存在しませんし、今からも作らないでください」
──そのやり取りの横で、ふと見ると潤の姿がない。
リアが冷静に視線を走らせると──50メートル先で、すでに次の角を曲がろうとしていた。
「しまった……!」
「いけない! 潤くん逃げちゃうっ!」
「先輩ぇ〜〜〜待ってくださいよぉ〜〜〜っ!」
──追跡ミッション、再開。
だがこの夜、“追う側”がこんなにもてんやわんやだとは──
追われる側の潤もきっと、想像していないだろう。
──尾行再開から数分後。
潤は大通りを外れ、わざわざ裏路地に足を踏み入れていった。
「ちょ……じゅんくん、なんでそっち!?」
「雰囲気からして絶対ヤバいやつじゃんあれ〜〜!?」
ユズハとミリーが、物陰から顔を出して目を丸くする。
その先には、明らかに悪目立ちする5〜6人のヤンキー集団。
金髪にジャージ、酒缶片手にコンビニ前で騒いでいる。
そのど真ん中に、潤が、迷いなく突っ込んで行った。
「──やばい! あれ絶対絡まれるやつぅぅぅぅ!!」
「逃げて〜じゅんくんっっ!!」
──けれど潤は、逃げない。
というか、むしろ“話しかけてすらいない”。
その姿は、まるで──“獣の群れに自分から踏み込む処刑人”。
「なんだテメェ……」
「なぁおい、マジで見たか今……ぶつかってきといて無視だぜ?」
「“フード”だぞフード! こういうやつってなぁ、ノリでブン殴ればだいたい土下座すんだよ!」
──グキィッ!!
金髪ヤンキーが缶を放り捨て、腕を振り上げた、その瞬間。
──バキン。
音の方が速かった。
潤が一歩も動かず、腕だけでヤンキーの拳を“巻き取るように”流し──
そのまま、ありえない関節の角度で相手を地面に叩きつけていた。
「ぐえぇっ!?」
「お、おいっ!? な、なんだ今の……?」
「はっ、はぇえっ……ちょ、こいつ──なんだよっ……!」
続く仲間が一斉に襲いかかろうとするが──
潤は一言も発さず、ただ“動きだけ”でそれを無力化していく。
──踵を軸に身体を回しながら、
──肘と手首の返しだけで武器を捌き、
──時には膝で相手の腹を突いて“力を抜かせる”。
その動きは……かっこよくて……でも……
「……なにあれ、なんか……」
「うん……キモい……」
「武術……っていうより……なんか……ねじり?」
物陰でユズハとミリーが絶句していた。
──そして、全員が倒れ伏したあと。
潤は、倒れて呻くリーダー格のヤンキーにゆっくりしゃがみ込む。
フードの影から、冷たい目だけが覗く。
「……このままにしといてもいいけど」
「次は、俺じゃ済まないぞ」
「──自首しろ。今日のうちにな」
「……っひ、は……はいっ……!!」
ヤンキーはガタガタと震えながら、仲間を引きずって逃げ去っていく。
逃げるでもなく、捨て台詞でもなく──完全に“敗北した獣”の目だった。
潤は立ち上がる。
その顔には、達成感も勝利もなかった。
あったのは──
“責任”と、“罰”。
誰も見ていないはずの路地裏で、
誰にも気づかれないまま、
潤はただ「誰かを守った代わりに」また一つ、自分を削ったような顔をしていた。
──だが、見ている者がいた。
ユズハ、ミリー、リア。
その3人が、静かに歩み出す。
「……先輩」
ユズハが呼びかける声は、いつもの軽さがなかった。
「じゅんくん……っ!」
ミリーが走る。何かを伝えたくて、けれど何から話せばいいか分からなくて。
リアは無言で歩き出す。
そして言葉を探しながら、静かに──潤の背中に近づいていく。
──止めなきゃいけない。
──この人は、きっともう、自分を止められないから。
【あとがき小話】
作者「ダークサイドじゅぅぅぅん……」
潤「いじんな……しばくぞ?」
作者「仲間だね?暗黒面が呼んでるよ……シュコー……シューコー……」
潤「やめろ!一緒にすんなや!その呼吸音やめろ!ダースベイダーか!!」
作者「でもさ、フォースあったらさ……テレビのリモコンとか、飲み物とか、こう……ヒュッて取れるよね?」
潤「使い方雑!!」
作者「やっぱりダースベイダーも、“もう動きたくない”ってときは、フォースで“ヒュッ”ってやってるのかな?」
潤「やめろぉぉぉ!銀河の威厳が溶けるぅぅぅ!」
作者「スターウォーズ見ながら、“あ、今絶対めんどくさかったんだな”とか思っちゃうじゃん?」
潤「そういう目で見るなよ!?やめろ、崇高なサイファイのイメージ崩壊するから!!」
作者「つまり、フォースとは──“横着の力”。」
潤「やめろおおおおおぉぉぉ!!!」
──闇に堕ちたのは、作者の思考だった。