第210話『俺、ヒーローじゃないって言っただろ?』
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「お疲れ様〜!」
「おつかれさま〜じゅんくん! 今日ね、みんなでご飯行かない?」
にこにこ笑顔でミリーが俺の背中に飛びついてくる。
「みんな誘っていこーよー! ねっねっ!」
「……また今度な」
「えぇ〜〜〜〜っ……?」
申し訳ないとは思う。でも──
今の俺には、“やらなきゃいけないこと”がある。
しょぼーんとするミリーの手を、そっと振りほどく。
俺はそのまま自宅に戻り、玄関で静かに深呼吸する。
──パーカー。
──マスク。
──手袋。
──そしてフードを深くかぶる。
俺はもう、ヒーローじゃない。
だから──この姿で十分だ。
──夜の街。
フードを深くかぶったまま、俺はゆっくり歩く。
通行人の顔は見ない。会話も、ネオンも、何も興味はない。
ただ──
俺の目には“ウィンドウ”だけが浮かんでいた。
【奪取対象:松葉 和樹】
悪事:現在進行中(詳細不明)
→ 才能奪取条件未達成
→ スキル奪取不可
……いつものことだ。
最近は、こればっかだ。
何をやったのかは、わからない。
けど──“悪事をしてる”ってだけで、十分。
目の前のサラリーマン風の男が、不審そうに俺を見た。
「……なんですか?」
俺は、ゆっくりと歩み寄る。
「何してんだ」
「は?」
「悪事だよ。何した?」
「な、何もしてませんけど……っ!?」
俺は男の胸ぐらを掴む。
「ウィンドウが言ってんだよ。“お前は悪人だ”ってな」
「え、ちょっ……待ってください、俺、本当に何も──」
バキン。
壁に男を押し付け、拳がすぐ横を砕く。
声にならない悲鳴。男の顔色が真っ青に染まる。
「今すぐ自首しろ。黙って罪を洗って来い」
「で、でも……っ!」
「何したかなんて、俺は知らない。
でも、お前がやったことは──お前自身が一番わかってんだろ?」
男が震える。顔面蒼白で、崩れるようにしゃがみ込む。
「そ、そんなつもりじゃなかったんだ……っ」
「じゃあ、“やった”んだな」
「ひっ、すみません、すみませんすみません……!」
男は半狂乱で立ち上がり、よろけながら夜の街へ走り去っていく。
──俺の拳が震えている。
わかってる。
これが正しいなんて、思ってない。
だけど──
“やらなきゃ誰も止めねぇ”
法じゃ届かない奴がいる。
スキルじゃ足りないこともある。
だったら──俺がやるしかない。
「……次、いくか」
ウィンドウに、また別の名前が表示された。
でも俺は──その“名前だけの何者か”を、追って夜を歩く。
誰が何をしたかなんて、もうどうでもいい。
“悪”がそこにあるなら──
俺は、叩き潰す。
それだけだ。
────────────
──────
ジュー……
鉄板の上でお好み焼きが音を立てる。
ソースの匂いが漂う中、3人の箸が一瞬止まった。
ユズハがヘラでじわじわとお好み焼きを押しながら、ぽつり。
「……最近、ノリ悪くないですかぁ?」
「わかる〜。じゅんくん誘ったのに来なかったし〜」
ミリーがぷーっと頬を膨らませて、隣の席に視線を送る。
リアは黙ってお好み焼きを切り分け、一番大きい部分を迷わず自分の皿へ。
「ノアはスケジュールが埋まってるのはわかります。
エンリも何かの対応中でしょう。
ただ──お好み焼きにカエデが飛びつかない時点で、異常事態です」
「うちもそれ思ったー!」
ミリーは手を叩く。
「カエデちゃんって“粉もん=戦”みたいなとこあるのに〜!」
「ねぇねぇ、最近みんなちょっと他人行儀っていうか〜」
ユズハが小声で続ける。
「なんか一線引いてない? 話すけど踏み込まない感じ……」
「うん〜表向きは元気だけど〜、奥の方が暗いの〜」
ミリーはお好み焼きの具をつつきながら眉を寄せる。
リアは箸を止めたまま、じっと鉄板の焦げを見つめる。
「潤の言動も変です。最近、こちらの目を見て話しません」
「え、それ致命的じゃん……」
ユズハがリアの皿からちょろっとソースのしみた一切れをつまんでぱくっ。
「ねぇ、まさかとは思うけど──“隠し事”してるとか?」
「してるよ、絶対」
ミリーが断言する。
「最近のニュース、タイミング合いすぎだもん」
「“自首事件”ですか」
リアが頷く。
「軽犯罪者が次々に震えながら警察に出頭してくる。
しかも動機は不明。“何かに怯えている”という証言だけ──」
「しかもその“何か”が、毎晩出没してるんだよねぇ?」
ユズハは鉄板の端を指差すようにして続ける。
「じゅんくんが“用事ある”って言うのも、必ず夜なんだよ〜?」
「でも潤くん、怖い人じゃないよ〜?」
ミリーが不安そうに言う。
「誰かを傷つけるような人じゃないの。
けど、最近ちょっとだけ……顔が怖い時ある」
リアはしばし黙り込んだ後、箸を置いた。
「だからこそ、確認が必要です。
あの人がどこで、誰と、何をしているのか──」
「張り込み?」
ユズハが身を乗り出す。
「尾行だね〜」
ミリーも続く。
「調査です」
リアは静かに断言した。
ユズハがいたずらっぽく笑って立ち上がる。
「なら明日、決行しちゃいますぅ? 名探偵ユズハちゃんの腕が鳴るぅ〜!」
「私、カメラ持ってく〜」
ミリーは嬉しそうに鞄を確認する。
リアはスケジュールアプリを開きながら、表情を変えずに呟く。
「では、0時集合。現場は──潤のアパート周辺で」
──この夜、
お好み焼きの鉄板の上で決まったのは、ひとつの追跡計画だった。
【あとがき小話】
作者『ねぇ〜エンリ〜俺にさ、癒しの極意教えて〜!ガチで教えて〜!枯れかけてるから〜!』
エンリ『ふふ、それは大変ですね。癒しの極意……ですか』
潤『(あれか。どうせ「優しい笑顔」とか「温もり」とか、ぬるま湯成分全開のやつだろ……)』
エンリ『まずは、どんなに疲れていても、隣にいてあげること──』
作者『(うんうん)』
エンリ『そして、話を聞いてあげること』
潤『(まぁ王道だな)』
エンリ『最後に──“何もしていないのに偉いね”って、抱きしめてあげること、です』
作者『それだああああああああ!!』
潤『お前が一番何もしてねぇぇぇぇ!!』
カエデ『……なぁエンリちゃん?潤くんにもその癒し分けたってなぁ?最近寝落ちしてるでぇ』
エンリ『もちろんです。潤さん?おいでなさい?(ぽんぽん)』
潤『ちょっ……待て……!この流れで来られると逃げづらいっ……!!』
ノア『潤様は私が癒しますので、他の方はお控えください(腕組み密着)』
ミリー『ミリーも癒せるよ!?むしろ抱きしめられる方が好きだけど!!』
ユズハ『じゃあ私は横でASMR囁きしますね〜。先輩、今日もお疲れさまでぇす♡』
リア『私は……癒しより、潤に常識を与えたいです。まずは休憩の取り方から見直しましょう』
作者『癒しのはずが修羅場生まれてるんですけどォ!?どうして!?』
潤『(……一番癒されるのは、お前が黙ることなんじゃないか?)』