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才能奪って成り上がる!無職の俺がヒロイン達と社会を支配するまで  作者: pyoco
第3章『初心者の作者が本気出すでしょう』
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第209話『俺の覚悟』

ここまで読んでくれた奇特なあなた!


ブクマ・いいね・感想・★・DM・テレパシー、なんでも嬉しいです!

作者は1PVでも跳ねて喜ぶタイプなので、反応があるとガチで次の原動力になります。

どうかこのテンションのまま、応援いただけると助かります!


(いや、助けてください!!)




──翌日、朝。


俺たちは昨日と同じように、再び病院へ向かっていた。


エンジンの音だけが鳴る、沈黙の車内。


と、そのとき。


スマホの着信音が鳴り、全員が一斉にエンリを見る。


 


「……知らない番号?」


エンリが眉を寄せながらも、ハンズフリー通話に切り替えた。


 


『……もしもし?』


 


その瞬間、車内の空気が変わった。


俺は、そっとスマホを取り出し、録音を開始する。


 


『あの……ユカリちゃんのお母さん……ですか?』


 


『あんた……あの子どこ行ったか知ってる? 昨日の朝、邪魔だから外に出したのに、帰ってこないんだけど?』


 


(──“邪魔だから”外に出した?)


 


一瞬、俺の手がスマホを落としかけた。


だが、運転中のカエデが前を睨んだまま、なにも言わない。


リアシートでノアが、黙って視線を伏せている。


 


エンリは、できるだけ冷静を保とうとしていた。


「ユカリちゃん……今、病院にいます」


 


『はあ!? 病院!? ったく面倒くさいわねー!』


『……あんた引き取りに行ってくれる? 今、旅行から帰ってきたとこでさー、疲れてんだよね〜』


 


さすがのエンリも、声が震えはじめていた。


「あなたは……ユカリちゃんのこと、どう思ってるんですか!?」


 


その問いに、母親は乾いたため息を吐いた。


 


『そりゃ娘でしょ? だから何よ?』


『それとも、あんたが引き取ってくれんの? 私には私の人生があるの。あの子のせいでどれだけ大変か……』


『最近、面倒見てるんでしょ? 欲しいならあげるわよ?』


 


「……っ、“あげる”って……そんな……!」


エンリの声が震える。


ノアが手を握ろうとしたが、エンリは静かに首を振った。


 


『ったく、面倒くさいわね! とりあえず引き取っておいて。あとは病院の駐車場にでも放置しといて。あの子、歩いて帰ってこれるから。よろしくぅ』


 


──ブツッ。


 


電話は、音もなく一方的に切られた。


 


車内に、誰も声を出す者はいなかった。


 


誰もが怒っていた。


でも……それを言葉にできないほど、怒っていた。


 


 


──病院に着いて、ユカリちゃんの病室をノックする。


 


「ユカリちゃん! 迎えにきたでー♪」


 


「わーい! みんなありがとーっ!」


ベッドの上で手を振るユカリちゃん。


昨日と変わらず、明るい笑顔だった。


 


その笑顔が、余計に痛い。


 


エンリがそっとベッドの横に腰を下ろす。


「ユカリちゃん? その……今日から、私の家に住まない?」


「ユカリちゃんさえ良ければ……だけど」


 


けれど──その言葉の途中で、ユカリちゃんが小さく首を振った。


 


「エンリお姉ちゃんのおうちも好きだけど……ママが心配だから……」


 


その言葉に、エンリの瞳が揺れる。


 


(……わかってる。わかってるよ、そんなの……)


ユカリちゃんの声には、**笑顔に隠された“罪悪感”**が滲んでいた。


自分が“母親を心配する立場”にいると信じている。


捨てられたことにも、気づいていない。


 


その優しさが、残酷だった。


 


エンリはすぐに微笑みを作り直した。


「そ、そうよね! お母さん、大好きだもんね」


「……とりあえず、一緒におうちに帰ろっか」


 


「うん!」


ユカリちゃんは何の疑いもなく、エンリの手を握った。


 


──その手を、誰一人として振り払うことはできなかった。


母親が“クズ”だとは、どうしても……この子の前で、言えなかった。


 


 


帰り道、ユカリちゃんが眠りにつくと、エンリが小さく呟いた。


「潤さん……私は、今度こそ……」


 


「……わかってる。俺も、もう……見てるだけじゃ、いられない」


 


(もう正義のヒーローじゃない。優しさだけじゃ、救えない)


(なら俺は……)


 


“正しさを否定する力”で、あの母親の人生を、終わらせる。


──決して、ユカリちゃんの前では語られない決意。


 


それが、この日。


俺の中に、確かに生まれた。




──────


ユカリちゃんの家の前。


俺たちが車を降りると、ユカリちゃんは少し緊張した様子で、玄関の前に立った。


 


「……ご、ごめんなさい……」


彼女はそう呟きながら、震える手で扉を開ける。


 


中から、母親が出てきた。


派手な化粧に寝癖混じりの髪。

作られたような笑顔で、ゆっくりと娘に手を伸ばす。


 


「あらぁ〜ユカリ〜、心配したんだよぉ〜。もう、次はもっといい子にしようねぇ?」


 


「うんっ!ユカリ、もっともっとがんばる!」


 


母親は、そんなユカリちゃんの頭を撫でた。


……笑っていた。“口元だけ”が。


その目は、冷えきっていた。


 


(……この毒親、演じてるつもりかよ)


俺の中で、何かが静かに切れた。


 


ユカリちゃんは、母親の機嫌を取ろうとしてる。


信じたいんだ。見ないようにしてるんだ。

“ひどいこと”も、“都合の悪いこと”も、全部。


 


誰もその場で何も言わなかった。

カエデも、ノアも、エンリも──口を閉ざしていた。


……だから。


 


俺は、母親の腕を掴んだ。


「じゃ、感動の再会も終わったし……ユカリちゃん。お前のママ、連れてくわ」


 


「──は?」


カエデたちが一斉に俺を見た。


ユカリちゃんは、ポカンとしていた。


「え……? お兄ちゃん?」


 


「ユカリちゃん。お兄ちゃん、実はすっごく悪いやつなんだ」


「だから……君のママを、連れてくね?」


 


「──!? だ、だめっ!」


ユカリちゃんが、驚いて俺の腕にしがみついてくる。


「やめて! ママを連れていかないで!」


「お兄ちゃん、正義のヒーローなんでしょ!?」


「ユカリから……ママを取らないでよぉ!!」


 


その叫びに、一瞬だけ……俺の手が止まった。


(……あぁ、そうだよな。ユカリちゃんにとって、まだ“母親”なんだ)


 


でも──


俺は、目を逸らさずに彼女に向き合った。


 


「ユカリちゃん……」


 


俺は、パッシブスキル【咎人の玉座】を強く意識する。


俺の存在が、“ただならぬ威圧”を放つように。


 


「お兄ちゃんはね──ヒーローなんかじゃない」


「悪者だ。……それも、とびきりの悪者だよ」


 


スキルの影響か、ユカリちゃんの顔から色が引き、震えながらその場に座り込む。


 


「……お兄ちゃんのこと、恨んでいいよ」


「俺は逃げない。隠れない。ずっとここで待ってるから」


 


そう言い残して、俺は母親の腕を引いて、家の外へ歩き出した。


 


 


「ちょっと!あんた、何様のつもりよ!?離しなさいよッ!」


母親が暴れる。


だが、俺はその場で立ち止まり──


ゆっくりと振り向き、睨みつける。


 


「黙ってついてこい」


 


……その一言で、母親は怯えたように口を閉じた。


スキルの効果もある。


でも、これは──俺自身の覚悟の圧だ。


 


後ろから、ユカリちゃんの小さな声が聞こえた。


 


「──ママ……」


 


……でももう、振り返らない。


 


 


──────


その後、俺は録音していた音声と、今までの経緯すべてを警察に提出した。


 


もちろん最初は、まともに取り合ってもらえなかった。


「すぐに逮捕は難しい」「証拠が足りない」「児相を通してから」──


お決まりの台詞ばかりが並ぶ。


 


俺は、無言で警察署のカウンターに座り続けた。


 


スキルを最大限に発動しながら──


警察官たちの誰もが、目を合わせないようになっていた。


 


結果的に、“やむを得ない事情”という名目で母親は一時的に保護され、


その後、児童相談所の動きも加わり、正式にユカリちゃんは保護施設へ送られることとなった。


 


 


──それから数日。


ユカリちゃんは施設で生活を始めた。


直接会うことは避けたが、エンリが定期的に様子を聞きに行っている。


 


「潤さん……ユカリちゃん、毎日“お母さんが立派だから来れないんだよ”って職員さんに話してるそうです」


 


そう言って、エンリは泣きそうな顔で笑った。


 


「“お母さんは、偉いから……きっといつか迎えに来てくれるんだ”って」


 


 


……そうか。


それでいい。


その“信じる気持ち”だけは、壊さないでいてくれ。


 


たとえ──


 


その信じる先に、“俺”がいなくなっても。



【あとがき】


──実は、作者も幼少期、親に苦しめられていた側の人間です。


折れたままの骨を抱えて、誰にも言えず学校に行き、授業を受けていたこともありました。


だからこそ、今回のエピソードは、書くのが本当に苦しかった。

でも、それでも筆を止めなかったのは、過去の自分に「今の姿」を見せたかったからです。


あのときの自分には想像もできなかった──

「今、家族を大切にできる大人になれている」という未来を。


だから思うんです。

あの頃の痛みも、理不尽も、涙も全部……今の自分を作ってくれたんだって。


もし今、誰かが同じように苦しんでいるなら──


どうか、ほんの少しでいい。

ちょっとだけ、前を向いてみてください。


あなたが思っているより、あなたはきっと強い。

何も持っていなくても、誰かに否定されても、

それでも顔を上げて、歩き出すことはできるから。


過去は、いつか“過去”になります。

どうかその日まで、あなた自身を、どうか諦めないで。


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