第208話『俺、悩んでる間に壊れてしまう』
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(いや、助けてください!!)
ノアとカエデの過去の話――
それを聞いた時、俺はただ、黙って立ち尽くしていた。
目の前にいるはずの“いつものノア”と“いつものカエデ”が、一瞬だけ遠く感じた。
いや、違う。
俺が、ちゃんと見てこなかっただけだ。
いつも明るく笑っていたカエデ。
俺を“潤様”って呼んで、どこまでも尽くしてくれたノア。
そんな彼女たちの裏に、誰にも見せなかった痛みと過去があったなんて。
──けど、俺は。
そこまで思い至って、ふと疑問が頭をよぎる。
いや……そもそも、俺は“知ろう”としてたのか?
自分が情けなくなった。
笑ってごまかして、流されて、寄りかかって。
それっぽく関わってきた“つもり”になってただけじゃないか。
カエデの明るさも、ノアの独占欲も──
あの過去から来ていたのかもしれないのに。
俺は、ずっと何も知らずに、のうのうと――
そのとき、俺の手をノアがそっと握った。
まるで、何かを遮るように。
あるいは、赦すように。
「潤様……」
ノアの声は、いつになく優しかった。
「潤様は、潤様です」
「私達の過去を知っても……それを無理に変える必要など、御座いません」
その言葉に、胸が締めつけられた。
俺が何を言うより先に、ノアが俺の気持ちを受け止めてくれる。
それがまた、苦しかった。
──それでも。
「それと……」
ノアは視線をそっとエンリに向けた。
「エンリさんも、あまり……お気になさらず」
「カエデも、あんな態度を取ってしまいましたが……彼女なりに、ユカリちゃんを思ってのことです」
「そして、それはエンリさんも同じ……」
「……私は、どちらが“正しい”のかは分かりません」
「でも──どちらも、“間違い”ではないと思います」
その言葉は、エンリの胸に静かに届いた。
ほんの少しだけ、彼女の表情が和らぐ。
何かを許されたような、あるいは肯定されたような、そんな微かなぬくもり。
──そして翌日。
まるで何もなかったかのように、またユカリちゃんが遊びに来た。
俺たちは、彼女に悟られないように。
あの日の話も、昨夜の涙も、すべて隠して、いつも通りの空気を演じた。
カエデも、あれから一晩寝て、頭が冷えたのか……いつものように笑っている。
「おっはよ〜!潤くん、またお菓子買ってきたで!今日こそ食べさせたるんやからな〜!」
……どこからどう見ても、いつものカエデだ。
(けど……あの時の顔、忘れられるわけねーよ)
エンリも、静かに微笑みながら、様子を見ている。
たぶん、カエデに謝るタイミングを、ずっと伺ってるんだろう。
でも、その距離感すらも、きっとあの二人にとっては大切な“歩幅”なんだ。
──俺は、まだ何も答えを出せていない。
──翌日。
俺たちは、いつも通りエンリの家でユカリちゃんを待っていた。
時間はもう、とっくに約束の時刻を過ぎている。
でも、玄関のチャイムは鳴らない。
「ユカリちゃん……今日はこーへんのかな?」
カエデが、テーブルの上のプリンをじっと見つめながら、ぽつりと呟く。
「そうですね……いつもなら、そろそろ来ている時間なのですが……」
エンリの声も、どこか曇っていた。
時計の針の音が、やけに大きく響く。
(……いや、考えすぎだ。たぶん、今日は誰かと遊ぶ予定があるだけだろ)
無理にでもそう思いたくて、俺は言った。
「まぁ……友達と遊びたい日もあるんじゃないかな」
「それもそうやなぁ。ふふっ、心配しすぎやなウチら!」
カエデがそう言って、明るく立ち上がる。
「ならとりあえず、ウチは会社戻って──」
その時だった。
──ガチャッ!
玄関の扉が、乱暴に開かれる音が響いた。
「っ……!?」
反射的に全員が振り返る。
そこには、ノアが血相を変えて立っていた。
その表情は……普段の冷静沈着な彼女の面影すらない。
「ユカリちゃんが……!」
荒い息を整える間もなく、ノアが叫ぶ。
「ユカリちゃんが……病院に、運ばれたらしいです!!」
その言葉が落ちた瞬間、部屋の空気が──凍りついた。
カエデの笑顔が、すっと消える。
エンリは、静かに拳を握りしめた。
俺は……立ち上がったまま、動けなかった。
(……どういうことだ?なんで?)
昨日までは、普通だった。
たった一晩で、何が──
「詳細はまだ確認できていませんが……近所の方が救急車を呼んだそうです」
ノアの声が震えている。
「搬送先は、◯◯市立総合病院です。今すぐ、向かいましょう」
「……っ、わかった!」
エンリが駆け出し、それに続くようにカエデも玄関へ。
「うち、運転する!行こ、潤くんも!」
「……あぁ!」
ドアを蹴るように開けて、俺たちは外へ飛び出した。
エンジン音が、焦りのように唸りを上げる。
この胸のざわめきが、ただの思い過ごしであってくれと願いながら──
俺たちは、ユカリちゃんの元へ向かった。
──病院に着くなり、俺たちは受付に駆け込んだ。
看護師に名前を告げると、すぐに案内された部屋。
扉を開けると、そこには――
「……あっ! おにーちん達!」
ベッドの上から手を振る、小さな声。
「えへへ……くら〜ってなって、気がついたらここにいたの!」
ユカリちゃんは、いつもと変わらない笑顔でそう言った。
まるで何事もなかったかのように。
カエデとエンリが、その言葉に反応するよりも先に、駆け寄った。
「ユカリちゃんっ!」
「よかった……ほんまに、無事でよかったぁ……!」
二人は、もう言葉にならないような声で、彼女を強く、強く抱きしめた。
──そんな中、俺だけが別の方向へ呼ばれる。
「すみません……ユカリちゃんのご親族の方ですか?」
白衣の看護師が、遠慮がちに尋ねてきた。
「いえ……最近、彼女のことを見ていた者で……それで、容態は……?」
「……長時間、外にいたようですね。脱水症状と貧血、それに過労による一時的な意識障害です」
「正直、あの年齢の子どもがこの状態になるのは……ありえません」
看護師の口調は、あくまで穏やかだったが、言葉の裏にははっきりとした怒りが滲んでいた。
「連絡を取ろうとしたのですが……ユカリちゃん、保護者の連絡先を知らないようで……」
「……そう、ですか」
胸の奥がずしりと重くなる。
「とりあえず、手続きが必要ですよね? 俺が代わりにやります。親御さんの連絡は……一緒に来てる子たちが分かるかもしれないので、聞いてみます」
そう伝え、俺は手続きを進めた。
保険証もない、保証人もいない――
すべてが“異常”だった。
そして、エンリに母親への連絡を任せたが……電話が繋がることはなかった。
病院側の判断で、今日は一日、絶対安静。
ユカリちゃんはそのまま入院となった。
「じゃあ、また明日も来るからな」
帰り際、俺が言うと――
「うん!ユカリ、まってる〜!」
小さく手を振るユカリちゃんに、全員が何も言えなかった。
──帰りの車。
車内は、ひどく静かだった。
エンジン音だけが、妙に耳に残る。
その中で、ぽつりと泣き声が落ちた。
「……私が……私が、もっと早く……っ」
振り返ると、エンリが両手で顔を覆い、堪えきれずに泣いていた。
「カエデさんの言ってた通り……無理矢理でも、救っていれば……こんなことには……っ」
あの完璧主義で、優しくて、誰よりも大人なエンリが──
泣いていた。
崩れるように、声を押し殺して、肩を震わせて。
俺は何も言えなかった。
(それで言うなら、俺も同じだ)
(俺だって──悩んでる間に、なにもかも、取り返しのつかないところまで……)
言葉が喉につかえて出ない。
本当はわかってたはずだ。
こんな社会、こんな制度、こんな家庭。
“正しさ”だけでどうにかなる世界じゃないってことくらい――
でも、俺は。
“才能奪取”というスキル。
そして、頼れる仲間たち。
それがあれば、きっと自然とうまくいく。
そう、どこかで“甘えて”いたんだ。
──でも違った。
奪えば済む問題じゃない。
変えればいいわけでもない。
母親の才能を奪ったところで、心まで変えられるわけじゃない。
正義のヒーローのように、誰もが救われる結末なんて――
そんな都合のいい話、あるわけがない。
思わず、スキルウインドウを開いていた。
⸻
【スキルウインドウ展開】
【パッシブユニークスキル】
【咎人の玉座】
◤正しさを否定した者にこそ、王座は似合う◢
⸻
咎人――か。
俺が持ってるスキルは、「正しさ」の裏側にあるものばかりだ。
悪意、脅し、隠蔽。
それを武器にしてる時点で、俺はもう……ヒーローなんかじゃない。
(……皮肉だな)
思わず漏れたその声は、泣きじゃくるエンリの嗚咽と、エンジン音にかき消された。
“正しさ”じゃ、守れないものがある。
“強さ”でも、届かない場所がある。
だったら俺は──
この手で、“正しさを否定する力”を使ってでも。
この子を守るために、“悪”になるしかない。
【あとがき小話】
作者「暗いお話の後は……お待ちかね!
あとがき小話でヒーリングタイムだぁーっ!!」
潤「…………」
作者「さぁ!元気出していこう!
フォーエバーフォーチュンラビラブびぃーむ☆」
潤「やめろ。死んだテンションの読者を無理やり起こすな」
作者「なにぃ!?
癒しってのは勢いで押し通すものだろ!?
脳が処理する前に愛と狂気で上書きだ!」
潤「逆に脳が拒否反応起こすパターンだよそれ」
作者「よし、次は踊るぞ!!
“チョコもなかジャンプ”で読者の涙を吹き飛ばす!!」
潤「やめろって!!
お前のテンション、真面目な読後の余韻を破壊してんだよ!!」
作者「え……でも……
悲しい話のあとって、なんか無理にでも元気になりたくならない……?」
潤「…………」
潤「……読者の反応見て、次回で謝っとけ」