第207話『私と太陽』
【読たんへお願い!】
作者の夢──
ヒロインの薄い本です!!(ドン!!)
え?真面目な目標じゃないって?
うるさいっ!!
作者は本気なんです!!!(大事なことなので3回目略)
この夢を叶えるためには──
もっともっと!この作品が知られなきゃダメなんです!!
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評価
ブクマ
コメント(なんでも嬉しいです、雑談感覚でOK)
リアクション
あなたのアクション、全部が……
“読たんの一押し”が、作者の魂の着火剤になるんです!!
あなたが思っている以上に──
あなたのリアクションやコメントに、作者は救われています。
ブクマ、評価、コメント、リアクション。
その一つ一つが、
「ちゃんと届いてるんだ」って教えてくれるんです。
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可愛いけどやべー子たち!
愛しいのに社会壊すヒロインたち!
このバカで全力で尊いヒロインたちを、
もっと世界に広めるために──
お願い!
あなたの「読んだよ」が、作者のエネルギーになるんです!
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今後の目標:
「薄い本、ください」って言われるくらいのヒロインズを育てたい!
その第一歩を、あなたの一票で……!
──児童養護施設。
昼下がりの中庭。
私はポツンと座っていた。
誰とも話さず、ただじっと、陽の光を見つめていた。
「なーなー、なんでそんな暗いん?」
──鬱陶しい。
私と同じくらいの年齢の、関西弁の少女が話しかけてくる。
「……放っておいてください。あなたと話すつもりはありません」
少女はむぅっと唇を尖らせた。
「暗いままやと、誰も助けてくれへんで?」
その一言に、私の中の何かがプツンと切れた。
「……あなたになにがわかるんですか?どうせそのめんどくさい性格のせいで、親から捨てられたんでしょう?」
──言った直後に、しまったと思った。
でも……止められなかった。
彼女は一瞬、ぽかんとしたあと、ゆっくり顔を伏せた。
そして何も言わず、踵を返して歩き去っていった。
(……当然です)
私だって知っている。
この施設がどういう場所かも。
あの言葉が、どれだけ鋭利で、どれだけ許されないかも。
でも……誰かに優しくする余裕なんて、私にはなかった。
私の両親は──もういない。
──あの日から、私は壊れたままだった。
誰とも話さず、ただ静かに毎日をやりすごす。
他の子たちが笑って騒いでいても、私は遠巻きに見ているだけだった。
あの少女──彼女は、いつも誰かの中心にいた。
笑って、走って、時には抱きついて。
鬱陶しいほど人懐っこく、皆から「カエデちゃん」と呼ばれていた。
……まるで太陽のようだった。
(……大嫌い)
誰からも愛されて、明るくて、笑っていられるあの子が、心底嫌だった。
──夜。
布団の中、目を閉じると浮かぶのは、あのクリスマスの惨劇。
お父様の笑顔。
お母様の優しい声。
そして……鉄の匂い。
「……お父様、お母様……なんで、ノアも一緒に……連れてってくれなかったんですか……?」
声にならない嗚咽だけが、枕を濡らした。
──数日後。
施設の裏庭で、騒ぎが起きた。
カエデと同い年の男の子が喧嘩になり、取っ組み合いになる。
カエデが突き飛ばすと、男の子が床に尻もちをつき、叫んだ。
「この暴力女! お前を捨てた親とそっくりじゃねーか!」
その瞬間だった。
カエデの笑顔が消えた。
彼女は何も言わず、そのまま駆け出して行った。
──どうでもいい。
最初は、そう思っていた。
でも──
(……トイレ……)
施設の裏手へ向かった私の目に、偶然それは映った。
ポツンと座る少女。
……彼女だった。
カエデが、ただの子どもに戻って泣いていた。
鼻水を垂らし、ぐしゃぐしゃな顔で、誰にも見せたことのない姿で。
──驚いた。
あれほど笑っていた彼女が、こんなにも深く泣くなんて。
まるで……かつての自分を見ているようだった。
「……そんなに泣いていても、誰も助けてはくれませんよ?」
思わず、言葉が口をついた。
カエデが、涙と鼻水まみれの顔をこちらに向けて、睨む。
「……はぁ」
呆れたふりをして、私はポケットからハンカチを取り出し、彼女の顔を拭ってやった。
「っ……ありがと……」
「みっともないですね。お母様が言ってました。レディはいつも綺麗に、と」
──その時、初めて彼女は私の目をじっと見つめた。
「へぇ。あんたのママって、優しかったんやな?」
「……はい。とても綺麗で、優しくて、温かい……そんな母でした」
「なんで? そんなら、施設に来たん?」
「……両親は……強盗に……」
沈黙。
彼女は一瞬だけ目を伏せ、でもすぐに、笑って言った。
「うちはな、親に捨てられた。毎日、殴られて、飯は残飯。
夏も冬も、ベランダで寝てた。知ってるか? ゴミ袋、あつめると意外とあったかいねんで?」
……ひどい過去を語るその口調は、まるで笑い話のようだった。
「うちはカエデや。……あんた、名前は?」
「ノ……ノアです」
「そっか。ほんなら──よろしくな、ノア♪」
──太陽だった。
泣いても、笑っても。
傷ついても、また笑って。
──それでも人に手を差し伸べる。
誰にも手を差し伸べられなかったあの子が、それでも誰かのために笑う。
……あの子は、間違いなく本物の“太陽”だった。
それからの日々は、まるで季節が変わったかのようだった。
私の止まっていた世界が、カエデという名の風に揺らされて、音を立て始めた。
毎日一緒に、将来の夢を語り合った。
二人してかけっこして泥だらけになって、大人に叱られた。
からかってきた男の子には、結託して立ち向かった。──ちょっとやりすぎてしまったけれど。
夜、涙が止まらないときも、カエデは「寒いからや〜」なんて言い訳して、私の布団に潜り込んでくる。
「くっつかないでください」なんて言いながら、心のどこかでは、それが嬉しくて──
私の夜は、あの頃だけ“泣かずに済む夜”だった。
ある日、施設で上映されたヒーロー映画。
勇者が魔王を倒し、捕らわれた姫を救う──誰もが知る、予定調和の物語。
でも、私には……まぶしすぎた。
隣にいたカエデが、ぽつりと呟いた。
「うち……いつか必ず、どんな悪い奴でもやっつける王子様、見つけるんや!」
「王子様……?」
「そうや。うちの親も、ノアのこと泣かせた奴も、そんで世界中の悪いもんも、ぜーんぶやっつけてくれる──最強の王子様!」
──その時、私は心から願った。
そんな“理不尽を全部ひっくり返してくれる存在”が、この世に本当にいるなら。
私は──きっと、その手を離さない。
「わ、私のほうが先に見つけます!」
「ならうちは、もっともっと強い王子様見つけたるわ!」
「な、なら私も……もっともっと、もーーーーっと強い王子様見つけます!」
──それはまるで、子供のような夢物語。
でも私にとっては、その夢こそが、唯一未来を信じられる“お守り”だった。
カエデと過ごしたあの時間は、私の中で唯一“心が溶けた季節”だった。
……やがて高校生になった私は、カエデの“親”について調べた。
理由は──たった一つ。
「あなたが捨てた子は、こんなにも素敵な人間になりました」
──そう、皮肉でも告げてやりたくて。
でも、彼女の両親は既に亡くなっていた。
死因は、薬物の過剰摂取。
中毒死。
──あまりにも、呆気なく。
それでも私は止まれなかった。
彼女の“過去”を、知っておきたかった。
あの明るさの裏に、どれほどの涙があったのか。
──彼女は助けを求めていた。
毎日殴られ、残飯をあてがわれ、夏も冬もベランダで凍えて。
それでも助けは来なかった。
近所の大人も、教師たちも──彼女の親の前科を理由に、“見て見ぬふり”をした。
彼女が救われたのは──
家賃を滞納した結果、警察立ち合いで踏み込まれたその日だった。
玄関の向こうから漂う異臭。
その扉が開かれたとき、誰もが知ったのだ。
“この家は、もう終わっていた”と。
──それでも、彼女は。
明るくて、眩しくて、誰よりも優しくて。
私の、たった一人の、光だった。
そして──
話を終えた私は、いつの間にか、涙を流していた。