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才能奪って成り上がる!無職の俺がヒロイン達と社会を支配するまで  作者: pyoco
第3章『初心者の作者が本気出すでしょう』
230/262

第205話『俺、雨の中で現実を見る』

ここまで読んでくれた奇特なあなた!


ブクマ・いいね・感想・★・DM・テレパシー、なんでも嬉しいです!

作者は1PVでも跳ねて喜ぶタイプなので、反応があるとガチで次の原動力になります。

どうかこのテンションのまま、応援いただけると助かります!


(いや、助けてください!!)




──雨の中を車で走らせ、

ユカリちゃんの住むアパートに到着する。


「ここがおうちー!ありがとう、カエデちゃん!じゅんくん!」


後部座席から元気よく手を振るユカリちゃんに、思わず笑みがこぼれる。


車を一旦止めると、カエデがシートベルトを外してぼそりと呟いた。


「……玄関まで送ってくわ」


「大丈夫だもん!」


ユカリちゃんはそう言って、頬をぷくっと膨らませた。


……なんて、愛おしいんだろう。


「ユカリちゃんが心配なんだよ。カエデはさ」


そう言うとカエデは傘をさして、ユカリちゃんと一緒にアパートの階段を上がっていく。


俺は車内で待機しながら、

2人の小さな背中をぼんやりと見送っていた。


──しばらくして、カエデが戻ってくる。


「遅くなっちゃったな。……ユカリちゃんのお母さんに挨拶でもしたの?なんか言ってた?」


何気なくそう尋ねた俺に、カエデは一拍置いてから言った。


「……なんかな。ちょっと引っかかったんや……」


カエデはこういうとき、無駄に勘が鋭い。


「で? なんかあったのかよ?」


「家、誰もおらんかった」


「……仕事、大変なんだな」


「……部屋ん中、ゴミだらけやってん」


「……それは、あんまり良くないな……」


運転席のハンドルを握ったまま、

カエデはまっすぐフロントガラスの向こうを見つめていた。


「なぁ、潤くん。ちぃと引っかかんねん。……親、帰ってくるまで待っとらん?」


「……まぁ、いいけど」


正直いつ帰ってくるのかもわからないし、

帰りたいって気持ちもある。


でも──カエデの顔があまりにも真剣だったから。

俺はそれ以上何も言えず、助手席に身を預けた。


──1時間。


──2時間。


時計の針は、22時になろうとしていた。


窓の外は、まだ雨。

ユカリの部屋の明かりだけが、ぽつんと灯っていた。


「……見逃しただけじゃない? もう帰ろうぜ」


そう俺が口にすると──

カエデは、小さく首を振った。


「……いや、まだ“見てへん”もんがある」


その声は、どこか──覚悟を含んでいた。


──そして数分後。


アパート前に、一台の車が滑り込んできた。


ワイパーの音に紛れて、俺たちはその車を無言で見つめる。


「……あれか?」


女が降りてきた。

見覚えはないが、あの部屋の方へ向かっている。


会社帰り、には見えない。

服装も派手で、足取りもふらついている。


傘もささず、運転席側へふらっと寄ると──

男の方と、何やら話し始めた。


……雨の音が激しいはずなのに、

声は、はっきりと車内まで届いてくる。


「ちょっと〜、どう? うち、寄ってくぅ?」


女の声は、明らかに酔っていた。

足元も覚束なく、笑いながら身体を揺らしてる。


「えー? お前んとこガキいんじゃん?」


「いいのよ〜、最悪ベランダ出しとくか、外にでも散歩させときゃ〜♪」


「おいおい……それヤバいって」


「ん〜〜なら今日はいいわよ〜。でもでも、今度旅行行きた〜い♡」


「ったく……仕方ねぇな〜」


──車の中で聞いていた俺とカエデは、

言葉もなく、ただそのやり取りを見つめていた。


ワイパーの音がやたら大きく感じる。


カエデがハンドルを握る手に、ぎゅっと力が入ったのがわかった。


でも──

俺も何も言えなかった。


ただ……胸の奥に、じわりと何かが広がっていった。


それが怒りなのか、戸惑いなのか、

悲しみなのかさえ、わからなかった。


でもひとつだけ確かだったのは──


「ユカリちゃんの笑顔に、嘘はなかった」ってことだ。


──この女の、どこを見てあんなに“好き”って言えたんだろう。


いや、違う。


きっとユカリちゃんは、“好き”でいようとしてたんだ。


────その“努力”が、なにより哀しかった。


──その言葉を聞いた瞬間、

カエデが飛び出した。


「……ウチがあの女、ぶっ飛ばしたるわ!!」


「待てって!!」


俺は咄嗟に腕を伸ばして、カエデの肩を掴んだ。


「ここで怒鳴り込んだって何も解決しねぇだろ!

悪化したらどうすんだよ!? ユカリちゃんが余計に傷ついたら……!」


カエデの表情が、悔しさでぐしゃっと歪む。

それでも言い返さず、ギリッと奥歯を噛みしめて──


「……チッ……しゃあない……」


そう呟いてハンドルを握り直す。


そのまま、車はエンリの家へ向かって走り出した。


車内には、何も会話がなかった。

雨の音とワイパーだけが、やけに響いていた。


──そして、エンリの家に到着。


ドアを開けると、出迎えた2人が顔を上げる。


「随分と遅かったので……心配しましたよ?」


「潤様、何かトラブルでもございましたか?」


俺は黙って頷き、

ユカリの家で起きたことを、全て話した。


2人は静かに耳を傾け、

何も言わずに聞き終えた。


──その沈黙を、最初に破ったのは、エンリだった。


「……ユカリちゃんは、お母さんのことが大好きなんです」


ぽつりと落ちたその言葉に、カエデが眉をひそめる。


「は?」


「本当なんです。あの子、いつも言うんです。“ママは頑張ってる”“優しいママなんだよ”って、目を輝かせながら……」


「──それがどうしたん?」


エンリは、ぎゅっと胸元を押さえた。


「だから……私は、その想いを裏切りたくないんです。現実がどうであれ、あの子にとっては“ママ”なんです。たった一人の、たった一人の……」


「……」


「間違っていても、嘘だったとしても……私が、勝手に“悪い人です”って決めつけて、ユカリちゃんからお母さんを奪うようなこと──したくないんです……!」


エンリの目が揺れていた。

迷いと、優しさと、そして……痛み。


カエデは立ち上がり、ゆっくりと息を吐いた。


「……エンリ。優しいんは、分かってる。でもな──」


その声には、怒りではなく、必死な願いが滲んでいた。


「“信じたい”ってだけで、子供が救えるなら、ウチかてそうしてるわ……!」


「私は、信じたいんです……。何度裏切られても……!」


「それ、アンタの話やろ!? ユカリちゃんの気持ちの話や言うて、結局“自分が信じたいだけ”やないか!!」


エンリが、ぎゅっと拳を握る。


「……それでも、私は見捨てたくない」


「はぁ!?」


「何度でも向き合って、話して、やり直せるって──そう信じて、救いたいんです……! 子供も、親も……どちらも」


「綺麗事や!!」


カエデの怒声が飛ぶ。


「“どっちも”なんて甘いこと言うて、結果“誰も”救えんかったらどうすんねん!?」


「それでも……!」


「ウチはな、現場で見てきたんや! 血が出るほど殴られても、“ママが好き”言うて泣いとる子を!」


「……っ」


「それでも、“お母さんを信じたい”言うてるその子の前で──加害者かばう大人を、何人も見てきたんや!!」


カエデの声は怒りを超えていた。

それは、叫び。悲鳴。痛みの記憶だった。


「ユカリちゃんが泣いとったん、見たやろ!?

それでもまだ、あの母親に“チャンス”やるんか!?」


「……ユカリちゃんが、望んでいるのなら……」


「アカンわ……!」


カエデが顔を伏せ、ギリ、と歯を食いしばる。


「アンタの“救い”は……自己満足や」


「……っ」


「当事者の痛みを“見てるふり”して、ほんまは見てへん。

アンタが救っとるんは、子供でも親でもない。

自分自身の、罪悪感や!!」


その言葉に、エンリが一瞬、目を見開いた。


「じゃあ、カエデさんの言う“救い”って……暴力ですか!?

力で叩いて、親を排除して、それで終わりなんですか!?」


「違うわ!! せやけどな!!」


カエデは真正面から叫び返す。


「“綺麗な正義”語って、子供を守れへん奴が──救いなんて、語る資格あらへんやろが!!!」


二人の視線がぶつかる。


……涙が滲んでいた。

怒りの中に、悔しさと、信じた相手への想いが滲んでいた。


互いを、信じていた。

同じ方向を向いていた。

それでも──“救い”の形が違った。


だからこそ……ぶつかってしまった。


──そして、カエデが言った。


「……エンリ。あんたのこと、見損なったわ」


その声は、静かだった。

けれど、どんな怒声よりも深く、胸に突き刺さった。


カエデは踵を返し、玄関へ向かう。


「カエデ!!」


俺が叫んだ時には──


ドアが、音を立てて閉じられていた。


……残されたのは、しんと静まり返った、重苦しい空気だけだった。





【あとがき小話】


初めて──ヒロイン同士の“ガチ喧嘩”を描きました。


書いていて思ったんですが、

エンリの「相手を信じたい」って気持ちも、

カエデの「それでも、守るべきものを優先する」って考えも、


どっちも、すごく人間らしくて──


どちらかが“正しい”って話じゃないのかもしれませんね。


きっとこれは、

読む人の数だけ、答えがある話なんだと思います。


……え?

「お前ほんとに作者か?」って?


うふふ──じゃあ、ちょっとだけ確かめてみましょうか。


ほら、小指。見て?


紫色の鎖……ついてますよね?


──ね、やっぱり。

あなたも、ここに辿り着く運命だったんですよ。ニチャァ……



潤『今までで一番怖いわ……』

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