第198話『私、やっぱり弱い』
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(いや、助けてください!!)
──都内某ホテル・高層階レストラン。
夜の帳が降り、窓の向こうには東京の街並みが滲んでいた。
しかし──マイの目に、それは映っていない。
「……ご馳走様でした。お料理、とても美味しかったです」
「そりゃよかった。お口に合うて、なによりや」
矢野はまるで日常の延長かのように笑っていた。
その顔に、悪意はなかった。むしろ柔らかく、飄々として──だからこそ、タチが悪い。
マイはワイングラスの縁をなぞる手に力を込める。
その微かな緊張が、今の自分の唯一の“意志”だった。
会社は、今もギリギリで立っている。
再審査が通らなければ、潰れる。
社員たちも、未来も、あの子(潤)との約束も──全部、意味を失う。
「──で、やけどな」
ふいにテーブルに滑り込むように差し出された、小さなカードキー。
「部屋、取ってある。あんたと、もっと深い話ができたらええなぁって思ってな」
……その瞬間、時間が止まったようだった。
心臓の音だけが、はっきりと聞こえる。
天井のシャンデリアの明かりがやけに眩しくて、顔をあげるのが遅れた。
だが──理解している。
これは、選択だ。
「……断ったら?」
「いやぁ、それはそれで。しゃあないけど、再審査の話は一回白紙に戻るかもなぁ。残念やけど」
優しい語り口。
でもその裏に潜むものは、はっきりと見えた。
──これは、取引じゃない。
“取引のふりをした脅迫”だ。
「……分かりました。私でいいなら」
小さく呟いて、カードキーを手に取る。
手のひらに当たるその冷たさが、まるで自分の“尊厳”を測る温度のようだった。
(……私が折れれば、それで済むなら)
(社員を守れて、あの子(潤)の会社にも迷惑をかけずに済むなら──)
(私は、それを選ぶ。社長だから)
──でも。
本当は怖かった。
震える手を見られないよう、無理に笑った。
口元だけの作り笑い。
それを“覚悟”だと呼ぶには、あまりに弱くて、惨めだった。
……あの子なら、どうするだろう。
……潤なら、何て言うんだろう。
そんなこと、考えたって意味はない。
誰も助けに来ない。
これは私の問題で、私の責任。
でも、どうしてだろう。
あの時の言葉が、頭から離れなかった。
『マイさんは、絶対に悪くない』
『俺が、何とかします』
──なんとかなるはずがない。
でも──ほんの、一ミリだけ。
ほんの、少しだけでいい。
あの子が、どこかで私のことを──
──“助けたい”と思ってくれていたら。
そんな自分勝手な期待が、胸の奥で息を潜めていた。
──エレベーターに乗り込む。
無機質な金属の扉が、静かに閉まっていく。
その直前。
レストランの入り口のあたりに、何か“空気の揺らぎ”のようなものを感じた。
……何?
けれど振り返る余裕はなかった。
怖くなるから。
今、立ち止まったら──後戻りできなくなるから。
「……行こう」
ボタンを押す指が微かに震えていた。
だがその震えを、誰も知らない。
それでいい。
──社長だから。私は、社長だから。
誰にも頼らず、責任を果たす。
そう、決めたんだから。
──たとえ、どこかで誰かにすがりたかったとしても。
──ホテル最上階。スイートルーム。
室内は静かだった。
落ち着いた照明、上質なソファ、そしてベッド。
矢野が先に足を踏み入れ、ジャケットを脱ぎながら振り返った。
「緊張せんでええよ。飲み物でも用意しよか?」
マイは小さく頷いた。
喉が渇いていたのか、それとも別の何かが渇いていたのか──もう、自分でも分からなかった。
ソファに座った彼の前まで、ゆっくりと歩を進める。
足音が、やけに重い。
一歩進むごとに、覚悟が削られていく気がした。
「……マイさん」
「はい……」
矢野が手を伸ばす。
マイの頬に触れるその手は、やけに優しかった。
──ああ、これは本物の地獄だ。
怒鳴ってくれた方がよかった。
暴力的なほうがまだ、対処しやすかった。
笑いながら、優しくしながら、
善意の仮面を被って、彼は“踏み込んでくる”。
「……いいんやな? もう、後戻りできへんで?」
──分かってる。
ここで拒めば、社員も、会社も、潤たちも終わる。
私が折れれば、それで済む。全部守れる。
それだけの話。
(……もう、やるしかない)
震える指で、スカートの裾に手をかけようとした時──
「……潤さん……助けて……」
──ぽろり、と。
口に出すつもりなどなかった言葉が、こぼれ落ちた。
「……っ……!」
涙が、止まらなかった。
顔を伏せて、膝が震える。
──でも、立たなきゃ。
泣きながらでも、やらなきゃ。
それが“社長”で、それが“責任”なんだから──!
──その時だった。
『アチョォオオオオーーーーッ!!!』
「……え?」
情けなく響き渡った叫び声に、マイも矢野も、頭が真っ白になった。
「……は?」
ガチャ──!!
スイートルームのドアが、無理矢理開いた。
「うおおおおおおおおおおッ!? ま、間に合ったぁぁぁぁぁ!!」
ずだだだだん!!
派手な足音と共に現れたのは──
「潤さん……!?」
白シャツのボタンがズレてて、髪はボサボサ、息切れMAX。
けれどその目だけは、誰よりも真っ直ぐだった。
「おい矢野!! その手ぇ、どけろ!! 今すぐッ!!」
矢野は立ち上がり、驚いた顔で潤を見る。
「なんやお前……部屋間違えてへん?」
「間違えてねぇよ!! お前が間違ってんだよ!! この人は……この人は、“そういうこと”で会社を守ろうとしてねぇんだよ!!!」
──マイの視界が、潤の背中でいっぱいになる。
その背中は、震えていた。
たぶん、怖いのだろう。自信なんてないのだろう。
でも、それでも彼は来た。
誰よりも早く、誰よりも不器用に──
「潤さん……来てくれたんですね……」
絞り出すようなその声に、潤は振り向かないまま、拳を握る。
「当たり前だろ……! こんなの……放っとけるわけねぇだろ……!」
そして、矢野に向き直った。
「──話は、あとでたっぷり聞かせてもらうからな……この外道野郎ッ!!」
──ここに、“社長の決意”と、“たった一人の救済者”が揃った。
嵐のような夜が、いま幕を開ける。
【あとがき小話】
作者『読たん……聞いてくれ……』
読たんは静かに頷いてるはず。
画面の前で、たぶん「はいはいまたかよ」って顔してる、そこのあなた。
作者『作者さ、スマホで執筆してるって言ったじゃん?……最近、よく顔面に落とすのよ。スマホ』
読たん(想像)『へぇ〜』
って言ってる
作者『で、思ったんだけど……これ、避けられるようになったら“進化”じゃね?』
読たん(想像)『いや知らんがな』
って言ってる
作者『……言ったな?今「知らんがな」って言ったな?』
読たん(想像)『言ってねぇよ!?』
って顔してる
作者『なんでわかるかって?』
作者『だってさ──』
今、
お前、後ろに居るもん
潤『ホラーは段階踏め!!』
作者『いやだって!最近、夜中に鼻にスマホ直撃すると“避けれたかもって”ビジョン見えるのよ!!』
潤『それ夢っていうか幻覚だよ!?スキルウィンドウ開くな!!』
⸻
【スキルウィンドウ展開】
【奪取対象:作者(被ダメ状態)】
悪事:スマホに物理でやられ続けている
スキル:記憶強化(Lv2)/直撃耐性(Lv1)/ノア感知(Lv∞)/投稿反射(Lv3)
→ イエス!
──取得スキル:【ノア感知(Lv∞)】
⸻
ノア『潤様?また他の方と楽しそうにしていませんでしたか?』
潤『なんで俺が被害者みたいな登場のされ方してんの!?』
作者『というわけで──
次回更新はスマホに顔面殴られながら頑張ります!』
潤『苦しみながら頑張らなくていいから!?』
作者『……でも正直、顔面にスマホ当たった瞬間ってさ、ちょっと気持ちよくない?』
潤『もう執筆以外のスキルが爆誕してるよ!!』
⸻
※画面の前の読たんへ
「え、ちょっと今後ろ振り返った」そこのあなた、ようこそ──才能奪取・あとがきホラー支部へ。