第196話『俺、私鉄で移動中』
ちょこっとだけ、作者日記をおやすみします。
理由は──
本気で、自作と向き合いたくなったから。
ちょっとだけ静かになるけど、心配しないでね。
次に戻ってくるときは、きっと――
「今までと違う何か」を連れてくるから。
……だから、もう少しだけ待っててください。
─都内某所・AI倫理機構本部ビル前(夜)──
ビルの窓には、ところどころ照明が残っていたが、全体的には重厚で無機質な静けさが支配していた。
その建物の裏手、フェンスの隙間に小さな影が2つ──。
「ひぃぃぃ……やっぱり怖いですぅ……こ、これ絶対映画で最初にやられるタイプの展開ですぅ……!」
「大丈夫大丈夫っ♪ ミリーがついてるから問題なーしっ☆」
「そういうテンションが一番危ないんですぅぅ……!」
泣きそうな声で訴えるイヨに、ミリーはノリノリでウインクを飛ばす。
が、夜風に揺れるフェンスの金属音が、彼女のテンションだけを妙に浮かせた。
──パトロールルート、センサー配置、監視カメラの死角。全部、昼間のノイズデータで把握済み。
「……ってことで! 今っ☆ 右側の非常口へGO!」
「うわぁぁあ……ちょ、ちょっと待ってぇぇぇ!!」
ミリーは音もなくフェンスを跳ね越え、イヨの手を引っ張るようにして侵入。
イヨは涙目でついて行くが、心臓はすでに臨界寸前だった。
──施設内部・B2保管階層──
警備員の足音が近づく。
「ミ、ミリーさんっ!? だ、誰か来て……ひゃああっ!!」
「しーっ☆ ほら、今だけミリーが影になってあげるねっ♪」
ひょいっとイヨの前に立ち、ミリーは自分の体で彼女を影に隠すように覆う。
まるで踊るような姿勢で、警備員の動きに合わせて微調整しながら身を低くする。
「どこの……パルクール女子ですかぁ……うぅぅ……」
「ふふふっ、イヨちゃん可愛いっ♡」
影の中で、イヨの頬が真っ赤になった。
──セキュリティルーム目前──
「で、でも……ほんとに……いけるんですか? ここ、レベル4ですよ?」
「うん、でもここのパスコードはね……ふふっ、さっき拾ったIDカードのおかげで解けちゃったの!」
「ひ、拾ったって……どこで……!? うわああああ!!!」
IDカードをスキャンすると、電子音と共にロックが外れる。
ドアの向こうに広がるのは、無数のディスプレイとストレージ機器が連なる真っ白な制御室だった。
「……よし、じゃあ、ミリーはこっちのメイン端末を。イヨちゃんは予備電源の確保お願いね♪」
「ふぁっ!? ちょっ……私にもできることが……あったぁぁ!!」
──夜のビルに、ふたつの影が散っていく。
この“潜入”が、彼女たちの役割であり──
この先の作戦成功を、左右する一手だった。
──────
──AI倫理機構・地下サーバールーム付近
「……完了、なのっ!」
ミリーがUSBキーを抜き、小さくガッツポーズを取ったそのときだった。
廊下の向こう、無線の交信音が鳴る。
「……警備班、今フロアのログに異常。データ室周辺を再確認──」
(っ……ばれた!?)
すぐにドアの外へ視線を送る。
巡回の足音が近づく──!
ミリーは慌てて非常口の前に身を隠すが、そこからは物理的に出られない。
彼女の髪飾り型通信機がノイズを帯びながらかすかに光った。
「イヨ……やばい、なの……動けない……」
通信は届いていた。
しかし──返事は、ない。
数秒の沈黙。
(やっぱり……わたしが先に捕まっちゃうのかな、なの……)
そのとき──
──パシュンッ
小さな空気の弾けるような音。
廊下の奥にある非常用の配線盤が、唐突にバチバチと火花を散らす。
「うわっ、漏電か!? ちょっと待て、確認するぞ!」
警備員たちがそちらに気を取られ、姿勢を崩す。
直後──
サーバールームの裏手通路に繋がる隠し搬入通路が、ひっそりと開いていた。
「──ミリー、今。出て」
イヨの小さな声が、背後から届いた。
「い、イヨ!? えっ、今どこに──」
「見られてない。走って」
──そしてふたりは、狭い裏通路を駆け抜ける。
機器の陰に隠れながら、反射板と小型ジャマーを次々に置いていくイヨ。
気配も音も──自分の存在そのものも、まるで風のように隠す。
やがて最後のセキュリティゲート。
「出口はあっち。でも巡回、もう戻ってくる」
「どうするの、なの……!?」
イヨは少しだけ考えて、ミリーを見た。
「……目を閉じて。三秒で、通す」
「え? な、なのっ?」
──カチン。
指先で小型起爆装置を起動。配線の奥、旧設備の電源系統に設置した極小EMPが作動。
一瞬だけ──
建物全体が「深呼吸したような」静寂に包まれる。
照明が数秒間、フッと落ちた。
その“空白”の中で、ふたりは廊下を駆け抜ける。
足音すら吸い込まれるような沈黙の中──。
──
──
数十秒後。
屋外の非常階段を降り、ふたりは小さなタクシーが待つ裏路地へと滑り込んだ。
「…………イヨ、すご……なの……」
「うん……でも、ちょっと怖かった」
初めてイヨが、ほんの少しだけ肩で息をした。
けれど、その顔には──
わずかな達成感と、ミリーを無事に帰せた安堵の微笑みが浮かんでいた。
✦ あとがき小話 ✦
潤『最近さ……作者の気配、ちょっと薄くない?』
ユズハ『あー、それね。あの人、今“修行モード”入ってるらしいですよ~』
ミリー『うぅ〜さみしいの〜! でも作者が書いてくれるって信じて……ミリー、踊るっ!』
リア『無意味です。踊っても原稿は進みません。作者が“本気”で潜ると言ったのなら……』
エンリ『……きっと戻ってくる頃には、もっと深くて優しい物語を連れてくるはずです』
ノア『潤様、作者様はおそらく──“私たちがもっと輝ける舞台”を用意してくださっているのです。だから……少しだけ、我慢しましょう』
カエデ『せやけど、ウチは寂しいから毎晩寝る前に作者に念送っとくで。びびらんといてな♡』
潤『こえーよ! 念とかやめろ!』
──そんなわけで、作者はしばらく“篭りモード”に入ります。
次に現れる時、きっと何かが変わってる。変えてやる。
だから──もうちょっとだけ、待っててくれ。
\次回予告/
【作者、静かに爆誕準備中】