第192話『俺、ユズハが壊れるのを横目に俺も壊れる』
作者『あのさ、ガーリックシュリンプあるじゃん?』
潤『ああ、あのエビとかジャガイモがオリーブまみれになってるやつな』
作者『そう!あれ超好きなんだけど……』
潤『わかる、プリプリのエビににんにく香るやつな』
作者『あれさ……白米にバジャーッ!!ってぶっかけて食べてみたい』
潤『……は?』
作者『バジャーッ!ってね。炭水化物 on 炭水化物!』
潤『馬鹿野郎ッ!死に急ぐな!胃袋の寿命が縮むぞ!!』
──時は遡り。
実機テストの翌日。
俺は、悪徳リクルートエージェント社の応接室で──
「……あのタヌキィがぁぁぁぁぁッ!!」
机をバンッと叩きながら、叫んでいた。
珍しく──というほどでもないが、いつにも増して吠えていた俺の姿を見て、
斜め向かいのソファから声が飛んでくる。
ユズハ「おやおやぁ? 先輩が珍しく激おこですね〜♡」
潤「珍しくないわ!! ってかあの試験、どう見ても仕組まれてただろ!?
まるで“落とすためにやった”みたいな内容だったじゃん!」
ユズハ「だったらぁ〜? いつもみたいに“えいやっ♡”ってやっちゃえばいいんじゃないですかぁ?」
潤「その“えいやっ♡”がどれだけ重いか、お前知らねえだろ……! でもまあ──」
潤「やるか!? 行くか!? あのタヌキ野郎を────ッ!!」
立ち上がり、拳を握った瞬間──
パシィン!
「ッいてぇ!?」
リア「落ち着きなさい、潤」
背後から、冷静に──そしてやや本気気味の“ツッコミビンタ”が炸裂した。
振り返ると、そこには腕を組んだリアがいた。
氷のように冷静な眼差しで、こちらを見据えている。
潤「ちょ、リア!? ビンタはやりすぎじゃね!?」
リア「相手は“制度の執行者”です。ルールと法律上、表面上は“正当な審査”を行っただけ。
倫理的には問題があっても、法的には立証が困難です」
潤「……じゃあどうすんだよ。俺たち“泣き寝入り”ってやつ?」
ユズハ「そうですよぉ〜? このままだと、み〜んなで仲良くマッチ売りですよぉ?」
潤「ちょっと待て! 俺まだマッチ売ったことないけど!?」
リア「……はぁ。なぜ例えがいつも貧困方向なのかはさておき。
いいですか? 今回の件、“法案の進行スピード”が異常です」
潤「……は?」
リア「通常、こういった産業規制系の法案は、審議と審査で半年以上かかるものです。
それが今回は、わずか三ヶ月で“提出・可決・施行”まで完了している」
ユズハ「えぇ〜じゃあ……誰かが超急いでたってことぉ?」
リア「ええ。そしてそのタイミングに合わせるように、Neulogic社のAIがリリース予定──
偶然にしては、出来過ぎていると思いませんか?」
潤「……いや、偶然じゃね? たまたま重なっただけとか──」
リア「あなた、もう少し疑うことを学びなさい」
潤「す、すみません……」
リア「すでにエンリと連携して、法案提出経緯や関係団体との接触記録などを調べています。
そして──」
リアは机の端にあった厚みのあるファイルを、ドサッと俺の前に置いた。
リア「──これが、現時点での“関係資料”です」
潤「え、うわ、ちょ、待って!? これ全部!? いや、俺その、要点だけとか……?」
リア「何を言っているんですか? これから“その要点”を探すんですよ」
「あとユズハ、あなた今日“非番”でしたよね? 逃しません」
ユズハ「ひえっ!? え〜でもぉぉ〜私ぃ〜スパの予約がぁ〜〜〜!!」
リア「解約してください」
ユズハ「リアさん冷たいぃぃぃ!」
──こうして俺たちは、分厚い資料の山と格闘することになった。
──それから、8時間後。
俺たちは──地獄を見ていた。
白目を剥いて机に突っ伏し、震えながら“カタカタカタ……”と意味不明な擬音を発しているユズハ。
資料を束ねたクリップを指先でカチカチしながら、完全に精神を異次元に飛ばしている。
俺? 俺も大差ねぇ。
目は乾くわ、腰は死ぬわ、脳はもうPDF見るだけでエラー吐くわで、
椅子に体を溶かしながら半目で呟いた。
「お前……まだ意識あるか……?」
ユズハ「……ハートを……燃やせ……」
潤「死んだな、こいつ」
──そして、唯一。
唯一人、まったく表情も乱さず、背筋を伸ばして資料をペラペラと読み進めているのが──リアだった。
潤(お前何なんだよ……サイボーグか? 情報を主食にしてんのか……?)
そのときだった。
──ガチャ。
「皆さん、お疲れ様です」
エンリの声で振り返ると──
彼女の手には、またしても“資料の束”が握られていた。
潤「……マジかよ……」
ユズハ「……ま、まだぁ……?」
俺たちは揃って椅子にもたれ、現実逃避しかけていた。
だが。
エンリの顔は、これまでで一番険しかった。
「……内容は“決定打”ではありません。ですが、違和感の残る箇所がありました。
レグルス傘下の一部部署に、倫理機構から過去に出向していた職員がいる記録──
そして、矢野代表の親族が“とある投資部門”と接点を持っていた可能性があります」
リアが目を細める。
「……微細ですが、興味深いですね。追って深堀りの価値はありそうです」
潤「つまり……まだ繋がってはいないけど、匂いはしてるってことか」
リア「はい。となれば、やることはひとつです」
──再び、調査が始まった。
エンリが残していった資料と、社内で集められた監査データ。
矢野・鳴海・レグルス──それぞれの行動履歴と周辺情報を突き合わせる、地道な作業。
ユズハ「ぐはっ……見ろ潤先輩……文字が……分裂して踊ってる……」
潤「俺の目はさっきから“日本語のはずなのに意味が分からない症候群”にかかってる……」
その横で、リアはまったく疲れた様子も見せず、
ひたすら資料を読み込み、整理し、照合していた。
(やっぱこの人サイボーグだわ……)
──そして、朝。
夜明け前の青白い光が、窓際を照らす。
机の上は、メモと資料とコーヒーの空きカップで埋まっていた。
その時、リアの指が止まる。
「……ありました」
全員が顔を上げた。
「倫理機構の広報資料と、議会提出の答弁記録──
それと、レグルス系列の出資報告書をクロスチェックしたところ……」
リアは、一枚の紙をピンと引き出した。
「“倫理機構が推奨するAI倫理フレームワーク案”──
実はこれ、レグルス傘下の“投資部門”が関わる外部研究所が起草に協力していたようです」
潤「つまり……?」
エンリが補足する。
「制度設計の段階から、すでに“関係者”が入り込んでいたということです」
そして──
リア「鳴海議員は、この案を“未来社会の基準”として採用すると明言しています。
この構造でAI市場に“制度の外堀”を先に作った上で、
自分たちだけが“認可済みAI”を出せるようにする──
……これは、封鎖です」
潤「……繋がった、ってことか」
リア「はい。倫理、制度、政治、そして企業。
そのすべてを使って、Neulogic社を市場から排除する構造が──
“最初から仕組まれていた”」
「……っしゃあああああああああああ!!」
思わず、叫んでいた。
「うぉぉぉぉぉ〜〜〜〜っ!キターーーーー!!!」
隣でユズハがノートを抱えて奇声を上げる。
──夜明け前のオフィスに響く狂喜の声。
完全にテンションがおかしい。いや、理性が吹き飛びかけてる。
「リア!!あったぞ!やっと見つけた!突破口だ!!!」
「まだ油断はできませんが……ようやく、希望が見えてきましたね」
リアの表情もわずかに緩んでいた。けれど──
「……まずは休息ですね。二人とも、目が虚ろです」
「やだ、寝たくない!寝たら忘れる!」
「なんでだよ!?」
「でも先輩、すぐ行動に移したら足元掬われますよ?」
「……うっ……」
「大丈夫です。逃げません、真実はそこにありますから」
「うぅぅぅ……リアさん優しいぃぃぃぃ……」
「寝ろ」
──夜明け。
俺たちは、ようやく“戦うための地図”を手に入れた。
……まずは、仮眠からだが。
あとがき小話
討論回「潤はカッコいい主人公か?」
カエデ『はいは〜いっ!今日のテーマはコレやで〜!』
カエデ『潤くんは、果たしてカッコいい主人公なんか!?どやっ!?』
潤『いやテーマ酷くね!?というか、お前が司会で俺が裁かれる形なの!?』
作者『正座して。』
潤『なに!?なんでお前まで敵側なの!?』
カエデ『そもそも潤くんって、戦ってる時はちょいカッコええのに、
日常になるとすぐテンパるやん?
ノアちゃんに迫られたらフリーズ、
ユズハちゃんに煽られたら赤面、
ミリーちゃんに甘えられたら泣きそうな顔なるし──』
潤『……やめて?なんかグサグサくるんだけど!?』
カエデ『しかもこの前、ウチが「潤くんはウチのんや!」って言ったら
「待ってこの状況まずい」って言いながらドアに小声で謝ってたやろ?』
潤『あれは!ノアの気配がしたから!生命の危機だったんだよ!!』
作者『そしてその結果──
“潤くん、毎日命がけで出社してる説”が生まれたんですよね(ドキュメンタリー風)』
潤『黙れ作者!!!今そういうノリじゃねえ!!!』
カエデ『じゃあ聞くけど、潤くんって“ここぞ”って時にキメ顔したことある?』
潤『え……いや……それは……』
カエデ『あかんあかん、それ即答できん時点で……』
潤『でも俺、たまには……ほら、スキルで助けたりとか、
命張って動いたりしてるじゃん!?』
カエデ『うんうん、そっちはええねん。
でも潤くんって──キメ顔のあと転ける系やん?』
潤『たしかにィィィィ!!!?!?!?』
作者『というわけで、
潤が“カッコいい主人公”かどうかは……!』
カエデ『ウチらの庇護欲とツッコミ魂で成立してる系やね♡』
潤『俺の存在、ヒロインのボケと暴走で維持されてたの!?』
最終結論:
潤は──“カッコいい(こともある)”、
でも基本“カッコつかないから可愛い”。