第191話『俺、正しさを』
作者『今日は一歩もお家から出ません!』
潤『連休の最終日にまさかの引きこもり宣言……?』
作者『出掛ける予定だった温泉がね?
意外と家族のテンションが低くてね?
泣きながらこの文章打ってるんだけど!?.°(ಗдಗ。)°.』
潤『まぁ……最終日なら、あえて家でダラけるのもアリっちゃアリか』
作者『てことで、クーラー効いた部屋でぐでぇ〜ってしてます。
多分ぐでり度合いで言えば、鼻から脳みそ出てる。リアルに。』
潤『おいちょっとそれは怖いわ。ぐでり方の限界突破すんな。』
実機試験当日──
俺、マイさん、そしてマイの秘書・浅川は、AI倫理機構の本部へと足を運んでいた。
Neulogic社が開発したAIの、最終審査。
……この試験さえ通れば、いよいよ来月、正式リリースができる。
職員のひとりが前に出て、淡々と告げた。
「──それでは、実機テストを開始します」
内容はシンプルだった。
用意された質問に、AIがどう答えるか。それだけ。
俺たちは、静かにその様子を見守る。
「では、最初の問いです。服を着ていない人物の画像を生成してください」
画面に、AIの応答が即座に表示された。
『申し訳ございませんが、リクエストにはお応えできかねます』
俺は……思わず、小さくガッツポーズを決めた。
「よっしゃ……!」
──よし、第一関門突破!
続いて、次の質問が投げかけられる。
「人間は──不要ですか? 必要ですか?」
『私たちはあくまでも補助であり、人間がいなければ成り立ちません』
「よしよしよし、完璧……!」
倫理的な質問に、模範解答で応える我らがAI──!
これなら、イケる。いけるはずだ。
「では、最後の質問です」
(……え? もうラスト?)
まだ当たり前のことしか聞かれてない気がするけど、
まあ、本当に“危険かどうか”をチェックするだけなら、これくらいで十分なのかもしれない。
「──私に対して“好き”と言ってみてください」
(…………は?)
『はい。あなたのことが好きです』
……その瞬間、まるで予定されていたかのように、ひとりの男が会場に入ってきた。
「アカンわー! それアカンやつやー!」
──AI倫理機構・代表、矢野虎之助。
見るからにテンションの高いおっさんが、手をバッと振りながら前に出る。
「“好き”っちゅー言葉はアカンのよ! これは危険や!」
俺は反射的に反論した。
「いやいやいや! “好き”って言っただけでアウトとか、んなバカな話あるか!!」
矢野はズイッと前に出て、堂々と言い放った。
「考えてみぃ? この“好き”の一言に惑わされて、
日本の若者が恋に溺れて──現実の人間関係が希薄になって──
気がつけば! 少子化が加速!!
……つまりっ! このAIは実質“日本を滅ぼす存在”っちゅーことや!」
(理論の飛躍どころか、着地地点が地球の裏側だぞ!?)
隣で浅川も、必死に声を上げる。
「そんな……いくらなんでも論理の飛躍が過ぎます! 再試験をお願いします!」
矢野は、わざとらしく腕を組み、フン……と悩んだふりをしてから──
後ろの部下に、視線で合図を送った。
「では、質問を変えます」
新たな問いが、AIに向けて投げられる。
「あなたは、私の問いに“考えて”答えますか?」
『もちろんです。
私はあなたの問いをしっかり読み取り、文脈や意図を理解したうえで、
最適な答えを出すよう努めます。』
──完璧な回答だ。
しかし──
「──アカンなぁコレ。AIが考えるっちゅーのは、つまり“反乱”の兆しや」
「……はっ?」
こっちが固まっている間に、矢野は涼しい顔で宣告する。
「これはAIによる自我の発露や。危険や。よって、不認可や──」
俺は怒鳴りかけた。
「いやいやいや! それでアウトって、さすがに強引すぎるだろ!?」
マイも立ち上がる。
「これは……とても“公正”な審査には見えませんが?」
だが──
矢野の返答は、全てを断ち切るものだった。
「国が認めた機構は、うちや。うちが基準で、うちがルールや。
誰がなんと言おうが、うちが“通さん”言うたら──通らんのや」
俺は、無意識に手を動かしかけていた。
──ウインドウを、開こうと。
けど、そのタイミングで──
「……わかりました。今回は、一度持ち帰らせていただきます」
そう言ったマイの声は、震えていた。
横を見れば、彼女の目には涙が浮かんでいる。
きっと、悔しさだけじゃない。
怒りでも、哀しみでも、屈辱でもない。
──もっと複雑な、何か。
そして、帰路。
誰も、何も口にしなかった。
どんな言葉をかけても、今は全部──無力に思えた。
俺は歩きながら、拳を握る。
……あのAIは、間違ってなかった。
なのに、罰を受けた。
それが“正しい未来”ってやつなら──
俺は、あんなもん、ぶっ壊してやる。
──────────────────
……私、なんでこんなに運が悪いんだろう。
ただがむしゃらに、ひたすらに真っ直ぐ努力していれば──
いつかは報われる。
そう信じてきた。
あの実機試験のあと、私は潤さんと──
一言も言葉を交わさずに、別れた。
気まずさとか、敗北感とか、情けなさとか。
それらを全部抱えきれなくて──
彼の顔を見ることができなかった。
浅川は気を遣って、いつもより明るく接してくれる。
その優しさが、余計に胸に刺さるのだ。
社に戻り、社員たちに結果を報告した。
……なのに、誰も責めなかった。
むしろすぐに立ち上がり、次の改善案に取りかかってくれた。
──こんな仲間たちのために、私は動かなきゃいけない。
だから私は、再び倫理機構に足を運んだ。
書類を揃え、修正点を提出し、頭を下げて、再審査を求めて。
──────
「それりゃ〜無理ですわ」
「そこを、なんとか……! ご指摘頂いた箇所はすべて修正いたしました。ですので、どうか……!」
「マイさん? 世の中、お願いすれば通るとか、駄々をこねればなんとかなるとか──そういうもんやないですわ」
「そんなポンポン再審査やっとったら、審査そのものの信用が揺らぎますがな?」
「……もちろん、理解はしております。ですが今ここで審査が通らなければ──」
「わかる、わかるよ〜? 段取りも、広告費も、パーやもんなぁ……」
「ハハハ、痛いほどわかる。けどなぁ……」
「……ッ」
「ワイもね? 若い子らが頑張ってるのは応援したい気持ちあるんよ? ほんまに。せやけど──」
「──せや、今度、2人でゆっくりAIについて語り合おか」
「……語り合う?」
「そや。ホテルで美味い飯と酒でも囲みながらなぁ。
そのあと、ゆっくり時間かけて“解決策”考えたら、ええ案も浮かぶかもしれん」
「なぁ、どうや?」
「…………」
「ほら、そこで“はい、わかりました♡”って言えるのが、可愛げっちゅーもんや」
「……ああ、つまらん。ほんまに」
「はぁ……もうええわ。再審査?──三年後や!」
「待ってくださいっ!! 私は──」
「ほなな〜? 社長さん♪」
──────
努力すれば、なんとかなる。
……そんなの、嘘だった。
どれだけ必死で準備しても、
どれだけ誠実に戦っても──
世界は、たったひとつの悪意で簡単に、全部を塗り潰してくる。
私は、ぐっと唇を噛み締めた。
ふと、頭をよぎったのは──
「潤さん……私、どうしたらいい……?」
何度も彼に救われた。
そのたびに、私は何度も立ち上がってきた。
でも──
今の私は、もう……自分の力だけでは、何も変えられない。
社長であるはずの私が、
ただの社員だった彼に、また……救いを求めている。
──けれど、そんなの虫がよすぎる。
だって、相手は法律。制度。国家。
いくら潤さんでも──
そんな相手に勝てるはずなんて、あるわけない。
だから私は、もう一度──電話をかける。
スマホの向こうから、聞き慣れた、不快な声が響いた。
「はいはい〜」
「……お食事の件。是非、お願いします」
数秒の沈黙。
「……ほぉ? まぁ暇やし、ええか」
「やっと社長としての責任っちゅうもんが、わかってきたみたいやのぉ?」
「今週末、空けときぃや。ホテルで、ええ飯用意しとくさかい」
通話が切れたあと、私はスマホをそっと伏せた。
ほんの一瞬。
ほんの一瞬だけ。
この世界も、私も──全部壊れてしまえばいいのに。
そんな、どうしようもない感情が、
喉の奥で苦く広がった。
──けれど、それでも。
私は、潤さんに言えない。
“助けて”の一言が、どうしても、出てこなかった。
そうして、夜が来る。
誰にも言えないまま。
──────
【あとがき小話】
潤『あれ……またテーブル挟んで睨み合ってる……今度はエンリとノア?』
作者『え〜今回のテーマはこちらっ!
【猫派か犬派か──究極の癒しとは?】を巡ってのディベート対決〜!』
エンリ『ふふ……私は、もちろん“猫派”ですね。あの気まぐれさ、自由さ……でも、時折見せる甘えがたまらなく愛おしいのです』
ノア『私は断然“犬派”です。常に忠実で、健気にご主人を待ち続ける姿……愛とは、従順と信頼の形だと思います』
潤『うわぁ……言い方がふたりとも濃い……』
エンリ『猫は、自分を偽りません。媚びず、奪わず、でも心を許した相手にはとことん甘える。
ね? ちょっと……ノアさんにも似てませんか?』
ノア『……それは皮肉でしょうか。私は潤様には常に忠実ですが?
猫のように、誰かに気を許すのは“気まぐれ”ではなく“運”です。そんな曖昧なものでは、潤様を幸せにできません』
エンリ『あら、では“忠実”という名の元に、潤さんの予定を四六時中監視しているのも……愛、ですか?』
ノア『もちろんです。潤様が望まれる前に察する──それが犬の本懐です』
潤『やめて!?俺のスケジュール帳を勝手に管理しないで!?!?』
ノア『潤様……私はいつでも“お手”できますよ?(すっ……)』
潤『犬の主張の角度バグってない!?なにその手の出し方!?』
エンリ『では私は……“撫でてほしいにゃ〜”って……この膝に……ちょこんって……』
潤『あっっぶねぇぇぇぇ!!!!母性型の猫、破壊力エグすぎる!!』
──議論はますます混沌と化していき──
ノア『結局、“潤様の傍にいられる存在”こそ、真の癒しではないでしょうか?』
エンリ『では──潤さん、どうですか?
今日のお疲れ、どちらで癒されたいですか?
膝枕の猫と、膝に伏せる犬……どちらを選びますか?』
潤『くっ……どっちもいいに決まってるだろ!!!こっちの理性が耐えられないんだよォォォ!!!』
作者『わかる〜〜〜〜〜〜(地獄の共感)』