第189話『俺、論破する』
作者『いつもお読み頂ける猛者たん、そして新たにお読み頂ける読たん──改めてよろしくお願いします』
潤『うん、まず“猛者たん”って何?新語?』
作者『いや……作者が闇堕ちしてもついてきてくれた人たちだから“猛者”かなって。で、愛を込めて“たん”』
潤『ギャップすごいな!?重戦車にリボンつけてんの!?』
作者『みてよ、あの出立ちを──』
作者『キュートなモコモコを纏いし子猫、子犬、小熊、子うさぎ……
そして中央にどっしり構えて短い足を組み、葉巻をくゆらせる歴戦の猛者たんが……』
潤『待て待て待て、急に画面の温度差おかしくなってんぞ!?』
作者『うちの猛者たんは、なかなかよ……一緒に地獄も戦場も潜ってきたんだから』
潤『その“うさ耳の奥に狂気を宿す感じ”やめろ。読たんが震えるわ』
作者『あ、ちなみに猛者たんも読たんも、“たん”は共通だけど……』
潤『方向性が天と地なんだよ!!!』
俺は一歩前に出て、静かに咳払いをした。
その所作からして、すでに“俺”ではなかった。
「私はですね──些細なことが、どうしても気になってしまう性質でして」
その瞬間、会場の空気が変わった。
さっきまで冷笑と嘲笑に満ちていた視線が、今は戸惑いに染まっている。
何が始まるのか、誰も予想がついていない。
「榊原さん……あなたはこの会社に“途中入社”されたと伺いましたが──
前職はどちらに?」
問いかけた俺の声は、どこまでも穏やかで理知的だった。
榊原は少し眉をひそめながらも、すぐに答える。
「……あなたに答える義務があるとは思いませんが。
まぁ構いません。以前は、OSの開発を行う企業におりましたが?」
彼の口調は余裕そのものだった。
不正の気配など微塵も見せない、完璧な表情とトーン。
「なるほど、ありがとうございます」
俺は会場を一望するように顔を上げ──次にマイへと視線を向けた。
「では、マイさん──榊原さんとは、どのようにして知り合われたのでしょう?」
突然の指名に、マイは戸惑いながらも答える。
「えっ……その、会社の資金調達を進めている中で、投資家の方を通じて紹介を受けました」
「ふむ。ではそのとき、スカウトしたのは──マイさんから?」
「いえ、私はあくまで資金調達が目的でしたので……」
「では、なぜ榊原さんは“社員”ではなく、“役員”として社に加わることになったのでしょうか?」
「……事業について相談した際に、融資だけでなく、役員として支える立場を希望されたので……」
「つまり、資金と引き換えにポジションを確保された、と?」
「……それだけではありません。
榊原さんのことは、投資家の方から“優秀な方”だと紹介されました。
何より……話していて、この人なら何とかしてくれるって……そう思えたんです」
「……そうでしたか。ありがとうございます」
俺は静かに頷いたあと、ゆっくりと視線を榊原に戻す。
彼は微笑みながら、言葉を紡いだ。
「だから申し上げたはずです。
自己資金をも投じ、この会社のために尽力している私が──たかだか小銭のために不正を働くなど、滑稽な話だと」
「なるほど……ならば、別の視点から──」
俺は、三橋に顔を向けた。
「三橋さん。あなた、随分と榊原さんにご執心のようで」
「はぁ? ……そりゃあんた、恩人だからな。
困ってる時に助けてくれた人だ。慕うのは当たり前だろ?」
榊原は含み笑いを浮かべながら口を挟む。
「まさか、私が彼に不正を手伝わせたとでも?」
「いえいえ、それは違いますよ。
三橋さんは、何も“していない”──ただ“可愛がられていただけ”ですから」
「……は? だからなんだよ」
「例えば──高級な料理をご馳走してもらったり、高価な腕時計をもらったり……心当たり、ありませんか?」
「……ああ? あるけど、それがどうしたってんだよ」
「不正で得た資金──榊原さんにとっては“持っているだけでリスク”でしかない。
ですが、現金をそのまま社員に渡すのは危険。
なら、奢りや高級品という形で“処理”し、その人間を恩で縛る。
結果、“忠実な信者”を作り出すことができる。
……違いますか?」
「出鱈目言ってんじゃねえ!」
榊原も声を上げた。
「そうだ! 私が不正で得た金を、わざわざ捨てるだと!?
そんな馬鹿な話があるか!」
「──ええ、確かに馬鹿げてます。
ですが、もしあなたの目的が“金”ではなく“技術”だったとしたら?」
その一言で、榊原の笑みがピクリと止まる。
俺は静かに続ける。
「あなたの過去の職歴と──その会社が辿った“倒産の理由”を調べれば、おそらく繋がるはずです。
あなたの本当の狙いは、この会社が持つAI関連の技術──
資金洗浄も、信用操作も、そのための準備だったのではないですか?」
会場が一斉に息を呑んだ。
確かな証拠は、何もない。
だが──全員が、三橋の“はぶりの良さ”と、異常なまでの忠誠心を思い返していた。
そして今──その三橋本人が、呆然とした顔で、自分の腕時計を見つめていた。
誰も──反論しなかった。
榊原彰人は、翌日──
何の説明も残さぬまま、Neulogic社から姿を消した。
数日後────
その“逃亡”という事実こそが、今回の件を何より雄弁に物語っていた。
そして今、俺はマイのオフィスを訪れていた。
「やばい……どうしよう……」
手は尽くした。
犯人は突き止めたし、社員たちもマイへの信頼を取り戻し始めている。
……でも、それで全部が解決かと言えば──違う。
「ありがとう、潤。よくやってくれたわ。……でも、もう十分よ」
マイは、どこか清々しく、けれど少しだけ諦めの色を混ぜた笑顔を浮かべていた。
そう──たとえ内部の不正が明らかになったとしても、
それが“銀行”という巨大な組織にとって好材料になるかは別の話だ。
むしろ、あのまま黙認していたら、榊原が“融資判断そのもの”を捻じ曲げて、会社ごと技術を奪っていた可能性だってある。
だけど今は──犯人が去った代わりに、銀行の審査はまた白紙。
会社の命運は、まだ何一つ保証されていない。
(……結局、全部手放すしかないのか……)
そんな重苦しい空気の中──
「しっつれいしま〜〜〜す♡ き☆っ」
景気よく開いたドアの向こうから、ユズハが元気いっぱいに登場した。
「……なんだよ“好き☆”って。今そういう空気じゃ──」
「先輩、いいから♪ テレビつけまーす♪ ポチッとな☆」
「おい待て、勝手に──」
──映し出された画面。
そこに流れていたのは、Neulogic社の特集番組だった。
──不正に揺れながらも、懸命に業務を続ける社員たち。
──先頭に立って走り続ける、マイの姿。
──社員たちが、マイ社長を信じ、支えようとするインタビューの数々。
ナレーションが語る。
「今、再び動き出したAI企業・Neulogic。
未曾有の混乱の中で、信頼と技術を取り戻そうとする人々がいる──」
「え……なにこれ……?」
「ふっふ〜ん♡ ゲンジさんにお願いして、
“正直すぎる社長が不正に巻き込まれても前に進むドキュメンタリー”作ってもらいました〜♡」
「ゲンジさん、ノリノリで編集してくれて〜♪ めちゃカッコよく仕上げてくれたんですよぉ♡」
「なっ……」
続いて、扉が次々に開き──他のヒロインたちもなだれ込んでくる。
「ミリーもSNSで宣伝したの! 『AIって難しいけど、なんかすごくない!?』って!」
「私も……潤様に報いるために、エンリさんと共に銀行に通い詰めてまいりました」
エンリも静かに頷く。
「ええ……何度も説明を重ねて、ようやく融資に前向きな返答をいただけました」
カエデがずいっと前に出る。
「ウチもリアちゃんと協力して、今後必要になりそうな資金の調達先探してきたで〜」
リアは眉を寄せて、ため息混じりに一言。
「……もう足が棒です。……比喩ではありません」
「お前ら……なにしてんだよ……」
ここにいないはずの人間が、全員で俺の知らないところで動いていた。
一言の相談もなく──でも、迷いもなく。
「ふふ〜ん♡ あれあれ〜? 先輩もマイさんも泣いてるんですかぁ〜?」
「泣いてないっつの……! 花粉症だっつの……!! 俺は年中アレルゲンに反応すんだよ!!!」
そこへ、勢いよく扉が開く。
「社長ッ!!」
息を切らせて飛び込んできたのは──浅川だった。
「……銀行の融資、通りました! これで……これでようやく……!」
言い終わらないうちに、浅川の目からも涙が零れた。
マイは立ち上がり、言葉もなく、その肩を抱く。
そして、俺は思った。
(……なんだよ……俺、何もできなかったのに……)
──でも、もしかしたら。
今日なら、言える気がする。
こいつらに、“やっぱりお前ら最高だ”って。
【あとがき小話】
作者『ちなみに今回の3話……タイトルで気づいた方います?』
潤『「私、このままでいいのかな?」→「私、悪者だ」→「私、社長を選ぶ」ってやつな』
作者『そう、それ全部──社長秘書・浅川の心情だったんですよっ』
潤『マジかよ……』
作者『しかも「社長を選ぶ」って、マイ社長のことだけじゃなくて──』
作者『潤のことでもあるんですねぇ……』
潤『やめろ、その“ドヤァ……”の間が一番ムカつく……』
作者『え?今さら言わなくても気づいてたって?ほんとにぃ???』
(振り向く)
作者『……ねぇ読たん?ここ、あえて驚いてくれない?リアクションだけでいいから!』
読たん『…………Σ(๑ °꒳° ๑)ビクッ)』
作者『うおぉぉぉおぉぉぉっっっ!!!ありがとう読たん!!!天使!!!!!!!』
潤『おまえ今、ストーリーの深みを自分で吹き飛ばしたよな?』
作者『後悔してない(即答)』