第188話『私、社長を選ぶ』
作者『小説書き出してから、マジでスマホゲーやる時間消えたんだけど……』
潤『そりゃ毎日スマホと睨めっこして文章書いてりゃな……で、何やってたの?』
作者『えーっと、学マス、プリコネ、スレイザスパイヤ──』
潤『最後のだけ方向性おかしくない? 急にガチ戦略ゲーじゃん!』
作者『いやいや、スレイザは魂の浄化装置なの。難しすぎて泣きながら遊んでるけど、勝った時は……昇天する』
潤『それはもはや修行だろ。で、据え置きゲーは?』
作者『フロム? 必修科目だよ?(ニチャァ)』
潤『ドMの履修表じゃん!!』
会場はざわめいていた。
ざっくり数百人規模の社員たちが一堂に会し、空気は濁ったスープみたいにどんよりと澱んでいる。
その騒然とした空間を──俺は、上階の吹き抜けから見下ろしていた。
(やるか……って言ったけど、割と博打だし……根拠なんてねぇんだよなー)
俺のスキル《才能奪取》には制限がある。
対象が“悪事を働いている”こと──それを、この目で“目撃”していなければ発動できない。
でも逆に言えば、“悪事を働いているかどうか”だけは、ウインドウで見抜ける。
何をやったのかまでは分からなくても、“やってるかどうか”は、スキルが反応する。
(つまり……この場にいる数百人の中から、“ヤバいやつ”だけを選別することは可能ってわけだ)
会場入りする社員たちを、一人ずつ──まるで人間スキャナーのごとく、ウインドウ越しにチェックしていく。
(んー……これも違う。
あれも……うーん、ただの無能っぽいだけか……)
(……おい、今のヤツ……鼻ほじった手で……そのまま握手してる……)
(違う違う違うそうじゃない!!! ちゃんとやれ俺!!!)
ここでのミスは、即ち敗北。
引き返しはできない。これは“審査”ではなく、“戦場”だ。
俺の脳内に、警報のようにツッコミと焦燥が鳴り響く。
やがて全社員が会場に入り、席に着き、扉が閉まる。
(……やっべぇ。
それらしいヤツ、一人もいなかったんだけど!?)
そのタイミングで、マイが壇上へと上がる。
マイクを前に、ゆっくりとスピーチを始める彼女の姿は──俺から見ても、真っ直ぐだった。
(あー……やっぱマイさんって、真摯というか……愚直というか……
不器用なくらい真っ直ぐな人なんだな……)
だけど、会場の空気は冷たい。
下の階から見ているだけでも分かる。
社員たちの表情が、彼女に向けられる敵意と警戒心で満ちていた。
その中に──目立つ違和感を放っている二人の存在があった。
(あれ……確か……)
一人は、俺の悪評を広めてるっていう営業部の三橋。
もう一人は、マイの直属秘書・浅川。
三橋は今にも壇に噛みつきそうな勢いでマイを睨み、
浅川は……暗い。とにかく暗い。
うまく言えないけど、目の奥が死んでるような、そんな表情だった。
やがてマイが、「心当たりのある方がいれば力を貸してほしい」と呼びかけたその瞬間──
三橋が待ってましたと言わんばかりに、噛みついた。
「責任を取るべきは社長じゃないですか! 俺たちの努力を、全部無駄にする気ですか!?」
怒号が飛び交い、会場は炎上寸前の空気になる。
でも──
(ウインドウが……反応しないんだよなぁ……)
三橋の行動には、怒りも妄執もある。けど、“悪事”じゃない。
つまり、スキル的には“ただの困ったヤツ”扱いだ。
三橋が話し終える頃には、空気は完全にマイを吊し上げるムードに切り替わっていた。
(やばいやばいやばい……このままだと、マイさん終わっちまう……)
そのとき、穏やかに場を制したのは──榊原彰人。財務担当役員だ。
静かな口調でマイの言葉に“理解”を示し、会社の安定と秩序を持ち出して、社員たちの感情を見事に反転させていく。
(……マイさんも、“恩人だ”って言ってたし……
流石だな、この人)
──そう思ったその瞬間だった。
【スキルウインドウ展開】
【奪取対象:榊原 彰人】
悪事を目撃していない為、奪取出来ません
スキル:内部崩壊(Lv5)/情報偽装(Lv6)/上層誘導(Lv4)
【才能をランダムに奪いますか?】
→選択不可
(……ん?)
画面を二度見する。
ウインドウは、消えていなかった。
目をこすり、もう一度見直す。
【奪取対象:榊原 彰人】
悪事を目撃していない為、奪取出来ません
スキル:内部崩壊(Lv5)/情報偽装(Lv6)/上層誘導(Lv4)
(ん?)
はぁぁぁぁぁぁ?
お前、めちゃくちゃ怪しいじゃねーーーーかぁぁぁぁぁッ!!!
スキルの一部は“目撃していない”ため不明扱い。
でも、表示されてる3つだけでお釣りが来るレベルでヤバい。
「内部崩壊」「情報偽装」「上層誘導」──企業クラッシャーのフルセットじゃねーか。
(間違いねぇ……こいつ、なんか企んでやがる……!)
だが──
榊原がそのまま話し終えると、三橋が率先して拍手を送り、
会場もそれに釣られるように、次々と賛同の拍手を始める。
──空気が完全に掌握されていく。
(……くそっ。もう行くしかねぇ……!)
俺は、意を決して走り出した。
マイのいる壇上へ──全てを変える一手を打つために。
壇上へ駆ける途中──
目に入ったのは、マイの顔だった。
彼女は唇をきつく噛み締め、必死に何かを堪えていた。
視線は俯きがちで、それでも揺れる足を前へ進めようとしている。
その光景に、俺の中で何かが弾けた。
榊原がこの場を解散しようとした、その瞬間──
「ちょっと待ったぁぁぁぁぁぁッ!!」
会場中の視線が、俺に刺さる。
数百もの視線がいっせいに──“お前誰?”という眼差しでこちらを見た。
俺は壇上へ飛び乗ると、そのまま指を突き立てる。
「榊原ぁぁぁッ!! ──犯人はお前だ!!」
……勝った。完全勝利ッ!!
今ここで犯人を特定し、名指しで告発した。
会場は沈黙──じゃ、なかった。
「フザけんな!!」「誰だあいつ!?」
「恩人に何言ってんだ!!」「頭湧いてんのか!?」
大ブーイング。
想像を遥かに超える音圧で俺を押し潰しにかかってきた。
(えっ? 信じてもらえない……?)
いや、よく考えろ。
今の俺──明らかにヤバいやつだ。
会社の危機を救った“恩人”に対し、いきなり壇上で犯人扱い。
社員から見たら、ただの非常識人間だ。
(まずいまずいまずい! これじゃ逆効果だ!)
しかし──
その流れを止めたのは、まさかの榊原だった。
「まぁまぁ皆さん、落ち着いて」
その穏やかな声に、会場が静まりかえる。
さっきまで地鳴りのようだった怒号が、嘘のようにピタリと止まる。
「──で? 私が犯人だと?」
榊原は薄く笑いながら、俺を見下ろしてきた。
「いくら会社に出資し、銀行融資の橋渡しをし、会社を救った恩人でも……
その発言は、冗談としても度が過ぎていますよ?」
ぐっ……。
こいつ、完全に“常識人ポジション”を装って、俺を晒し者にしようとしてる。
(……でも! まだ終わってない)
あのスキルがあれば──この空気を、一発でひっくり返せる。
そう、《演説》。
あれなら今の空気も打ち破れる──!
俺はウインドウを展開した。
【スキルウインドウ展開】
◆現在所持スキル
・格闘(Lv8)
・自動反応無効(Lv2)
・反射強化(Lv4)
・証拠隠滅(Lv6)
パッシブユニークスキル合成中:88%
(……えっ)
(えっ……?)
(演説……ねぇ!?)
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!
俺、演説……合成中にぶち込んでたぁぁぁぁぁッ!!!
(やばい!!! 喋れない!!! 口先しかないのに!!!)
もはや逃げ場なし。
「え、えーと……俺には……わかる! 榊原が……悪人ってことがぁぁぁぁ!」
……シン……
全社員が、静かに、深く、俺を憐れむ目で見ていた。
その中で、榊原だけがにこりと微笑んでいる。
──詰みだ。
完全に、詰んだ。
……そう思った、その時だった。
壇の下で、ずっと黙っていた一人の女性が、静かに手を上げる。
マイの秘書──浅川だ。
先ほどまで陰に沈むような顔だった彼女が、声を振り絞るように口を開いた。
「……私……この件が公になる、もっと前から……ずっと前から、不正のことに……気づいていました」
一瞬、会場が凍る。
浅川は震える声で、それでも言葉を紡いでいく。
「データに……不可解な点があったんです。
悪徳リクルートエージェント社に融資を受ける、少し前のことでした……」
「……私は、真っ先に財務担当の榊原さんに相談しました。
でも、“今表沙汰にすれば、これまでの努力が全部無駄になる”って言われて……」
涙ぐむ彼女の声が、マイクを通さずとも会場全体に染み込んでいく。
「……私……マイさんを一番近くで見てきたんです。
誰より早く出社して、誰より遅くまで残って……休みの日すら会社に来て……
みんなに責められても、一人で必死に、ずっと……」
「……その努力が……この会社が……なくなるなんて……私には耐えられなくて……だから、今……話しました……」
壇上のマイが、信じられないという目で浅川を見つめている。
「……浅川……?」
しかし──その空気を打ち砕くように声を上げたのは、三橋だった。
「はっ! だからって、榊原さんが犯人にはならねぇだろ!?
このタイミングで表に出したら、会社が潰れんだよ! 判断としては正しいだろが!」
会場が揺れた。
一部は戸惑い、一部は動揺し、空気は再び濁り始める。
──だが、ここで俺は迷わなかった。
これはもう一か八かだ。
合成中の《演説》がないなら、別の組み合わせを使うまで。
俺は、スキルウインドウに指を走らせ、スキルを選ぶ。
【スキルウインドウ展開】
使用スキル:名推理+演者
対象設定:杉下右京(ドラマ風演出)
→発動しますか?
→イエス!
(──勝負だ!!!)
【あとがき小話】
──リア、耐久:ヒロインズの過剰接触編──
リア「……“本日の記録”を開始します」
(静かに手帳を開く)
リア「午前8時、出勤──玄関を開けた瞬間、ミリーさんが飛びついてきました。
セリフは『おはよーなのーっ!!じゅんくんもリアもだーいすき〜っ♡』──“抱きつき+ほっぺ密着”のコンボです。開始0秒で接触」
潤(すげぇ……開幕即インパクト……)
リア「8時15分、カエデさん登場。
『おはよ〜、リアちゃん今日もよう冷えとるな〜♡』
──と言いながら背後からウエストホールド。反射的に“肘鉄”を入れそうになったのを自制。
……私の反射神経も鍛えられています」
潤(いや鍛え方の問題では……)
リア「9時30分、ノアさんの“間接手繋ぎ攻撃”発生。
潤が落とした書類を拾い上げた私の手を、彼女が上から“包み込む”ように抑えてきました」
ノア『潤様の物に触れた手は……温めておかないといけませんから』
リア「──論理破綻にも程があります」
リア「10時12分、ユズハさん。
唐突に耳元で『……リアちゃんって、意外と反応いいですよね〜♡』と囁いてくる事案が発生。
物理的な接触は最小ながら、心理ダメージが甚大。即座にカウンターで“視線だけで沈黙”させました」
潤(むしろ耐えてるのお前だけだわ……)
リア「12時、昼休み。ミリーさんが“となり座り密着モード”でスープをシェアしてきました。
あれは“接触”というより“甘やかし搾取”。もはや生物兵器です」
ミリー『あーん!リアもたべて〜♪』
リア「口にスプーンが来る前に、“精神が口を閉ざしました”」
リア「15時、エンリさん。穏やかに“肩ぽん”。
しかし、その手に込められた“包容圧”が高すぎて、“何かを許容させられる雰囲気”が発生」
エンリ『ふふ……リアさんの頑張り、ちゃんと見てますから』
リア「──もはや回避不能の“心の圧迫面接”でした」
潤「……なあリア、お前、1日でどれだけ“接触事案”発生してんだよ……」
リア「まとめますと、1日で6件。“完全接触型”4件、“接触未遂”1件、“精神的接触”1件。
なお、明日もこの予定は変わらない見込みです」
潤「お前、メンタル鋼かよ……!?」
リア「いえ、“他人の温度”を遮断するスキルなら、既にLv8です」
──というわけで、
本日のあとがき小話は、“触れたら即アウトなインテリの孤独な闘い”でした。
潤「いやむしろ、触れられすぎだろ。お前が一番“感情に巻き込まれてる”じゃねーか」
リア「……私が落ち着いているのは、慣れているからです。
──そして、誰よりも潤が巻き込まれていることも、既に記録済みです」
潤「おいそれ記録破棄しろッ!!」