第183話『俺、ルンバを……』
作者『本日21時、自室にて……カナブンを発見』
潤『え、で?捕まえたんだろ?』
作者『うん……最初は死んでそうだったからスルーした』
潤『あっ……』
作者『で、5分後に見たら──』
潤『消えてたんだな!?消えてたんだな!?』
作者『えぇ……消失……そして、そこから──』
潤『地獄が始まった……!』
作者『俺は虫とか別に平気なんだよ?ほんとに』
潤『だったらさっさと捕まえとけやぁぁああ!!』
作者『でもね?嫁が言ったの……』
作者『「見つけるまで寝るな」って』
潤『え、今何時──』
作者『──深夜3時。』
潤『ぎゃぁぁぁぁぁぁああ!!!』
作者『……やっと寝れる…………(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)』
──Neulogic本社・4階フロア。
潤(……うん、これは完全に俺のせいだな)
ユズハ「センパ〜イ♡ ルンバの残骸、回収しときました〜」
潤「“残骸”って言うな。“掃除ロボットの殉職現場”ぐらいの言い方にしといてくれ」
──数分前。
俺は、マイの会社にちょっとした打ち合わせで来ていた。
といっても、内容は“次のプレゼン資料に入れるAI倫理方針の文言”とかいう堅いやつ。
エンリに「あなたには無理ですから」って釘を刺された結果、俺は“提出役”として来社していたのだ。
潤「(でもさ……この会社、やたら床がピカピカじゃね?)」
エンリ「Neulogic社は『自律型清掃AIルンバ・エボリューション』を5台導入しています。モデルは試作段階ですが、障害物回避能力は比較的優秀です」
ユズハ「一台だけ、ちょっと攻撃的ですけどね〜♡」
潤「攻撃的って何」
──そして今。
俺はその“攻撃的なルンバ”に追われながら、緊急避難していた。
潤「なんで俺がロボ掃除機に狙われてんだよっ!!」
ルンバ(ヴィイイイイイン!)
エンリ「どうやら潤さんの靴底を“ゴミ”として認識したようです。床との摩擦係数が高かったのでしょう」
潤「俺の靴が汚いって言いたいのか!?」
──そして、逃げる途中でやらかした。
ユズハ「……セ〜ンパイ?」
潤「……え?」
──バキィィン!!!
ルンバ(ガガガ…)
潤「えええええっ!? 俺の足でルンバ踏み抜いた!?」
ミリー「じゅんくん、ルンバの“目”……完全に潰れてるの〜……」
潤「ひいいぃぃぃっ!!?」
──そして。
その場に現れたのが、スーツ姿の黒髪美人──御影 舞だった。
マイ「……」
潤「お、お、おじゃましてますぅ!!」
ユズハ「おつかれさまで〜す♡ えーっと、センパイがさっきですね〜、ルンバさんを──」
マイ「その話はあとで聞きます」
──無表情で、警備員を一人呼びつけるマイ。
警備「えーっと、こちらの方が“攻撃ルンバを過剰破壊した疑い”で……」
潤「いやいや! 俺は正当防衛だってば!!」
ユズハ「ルンバと戦って正当防衛ってどういう状況♡」
──そうして、俺は“社長なのに”警備員に連れられ、応接室に再収容されたのだった。
潤「……ねぇエンリ。俺、なんでこんな扱い受けてんの?」
エンリ「社長だからではなく、“あなたが潤さんだから”だと思います」
潤「意味わからん!!」
──今、ひとつだけ言えることがある。
この会社のルンバは──人間に厳しい。マジで。
──────
──Neulogic本社・応接スペース。
私が報告資料をまとめていたちょうどその時、会議室の扉が“バンッ”と勢いよく開いた。
潤「──誰か! ルンバ止めてくれぇぇぇっ!!」
……また、何をやっているんですか。
マイ(心の声)「……たしか、さっき掃除ロボットの動作チェックをしてたような……」
潤「いやマジであいつ俺をターゲットロックオンしてんだって!ちょっ、やめろ、充電コードに巻き付くなッ!」
リア(淡々と)「潤、あなたの足に静電気が帯電していたせいで、ルンバの自動回避センサーが誤作動してるだけかと」
潤「じゃあ俺のせいじゃん!? 精密機械にすら避けられないってどういう人生だよ!?」
──結果、会議室の床には横倒しになったルンバと、それにコードごと巻き取られた潤の姿があった。
ユズハ「……先輩〜、掃除機に勝てなかった社長って、業界的にどのあたりに位置するんですか〜?」
エンリ「最下層ですね」
潤「ねえ!? 二人ともそういうのもうちょっとオブラートに包んで!? “社長”って肩書きすぐペラペラになるじゃん!!」
──そして、その光景を冷静に見つめる私。
マイ(静かに)「……あの、潤さん。あのルンバは、試作中の“空間学習型”なんですけど……」
潤「え、試作!? つまり俺が壊したのって──」
ゴゴゴゴゴゴゴ……
リア「……10万円くらいですね。たぶん」
ユズハ「上乗せあるかもですね〜♡ “人を追いかけるよう学習したルンバ”として、責任は深いですし〜♡」
潤「俺、今日中に“社会的掃除機”に吸い込まれる未来しか見えない……!」
──その後、潤さんは妙に真面目な顔をしてルンバに謝罪していた。いや、それ人にやるやつですから。
──午後。私は自席に戻り、会計データを確認していた。
どうしても“あのルンバ”の件が気になって、つい備品の管理履歴を調べてしまう。
マイ「……あった。社外秘扱いで試験的に導入された機体、確かに潤さんの動きに反応して、AI学習ルーチンに偏りが──」
(沈黙)
マイ(心の声)「……うん。やっぱり“逃げる動き”を学習しちゃってるんですね、あのルンバ」
……改めて、真面目に考えれば考えるほど、おかしな状況だ。
社内で一番情報を扱う部署の近くで、社長がルンバに巻き取られてる会社って、どうなんだろう。
マイ(ぽつり)「──……この人、本当に“内部情報を偽造する”ような人なんでしょうか?」
──ルンバに敗北する社長と、情報を捏造できる悪人。
そのギャップに、私は少しだけ頬を緩めてしまった。
マイ「……まぁ、笑えるくらいの“脇の甘さ”くらいは、あった方がいいのかもしれませんね」
──その呟きが誰にも聞かれなかったことに、少しだけ安心した。
でも。
リア「マイ。今、“脇の甘さが可愛い”とか言いかけてましたよね?」
──聞かれてた。
マイ「言ってません。業務に戻ります」
リア「ふふ、そうですか」
──平穏な午後だった。おそらく、社長がルンバに勝利しない限りは。
【あとがき小話】
にゃん語尾は、やっぱり正義──
作者『なぁ潤?なんで“にゃん”ってこんなに可愛いの?』
潤『いや、そりゃ猫を連想するからだろ』
作者『でもさ?作者、犬も好きだし、ハムスターも大好きなのよ?』
潤『……あー、つまり“ワン”とか“チュウ”には来ない?』
作者『うん。“チュウ”は一歩間違うと爆発音だし、“ワン”は体育会系だし』
潤『じゃあ、単純に“にゃん”の音が好きなんじゃ?』
作者『それなら“にゅん”とか“にょん”でもいいじゃん?』
潤『……にゅん!?いや無理だろ、それただの語尾事故だよ!?』
作者『“にゃん”だけ……なぜここまで世界を救えるのか……』
潤『急に壮大!!』
作者『これはもう“にゃん重力”だよ。“可愛い”という感情にのみ作用する、音韻的重力場……』
潤『やめろ、重力にゃんとか言い出したら一気にバカっぽくなるぞ!?』
作者『この謎を解けたら、きっと人類は“真に愛される語尾”を手にできる……』
潤『誰が求めてるんだその研究分野……』
作者(目が真剣)『にゃん語尾にこそ、世界を救う鍵がある──』
潤『どこのにゃん教だよ……』