第176話『俺、心配される』
作者『今日は土砂降りです……皆様、お気をつけてくださいね』
潤『てかさ、これから台風も増える時期だろ?……読たん、大丈夫か?風で飛ばされてないか?』
作者『潤!お前ちょっと!読たんを乾燥機にかけるの手伝って!!濡れたままだとページふにゃふにゃになるから!!』
潤『いや何その扱い!?読たん本なの!?紙媒体だったの!?』
──翌朝。
布団の中で、俺はまだ夢の中だった。
エンリ「……ふふ。おはようございます、潤さん。……って、まだ寝てますね」
起きる気配は微塵もない。
昨夜あれだけ頭を撫で回しておいたからか、いつになく安心しきった寝顔でスヤスヤしている。
そこへ──
バンッ!
ユズハ「はいおはよーございまーす☆ さてさて!やっちゃってませんか〜!?」
カエデ「せやでエンリ! まさかとは思うけど、ウチらが見てへん間に……何かあったんちゃうやろなぁ〜?」
ミリー「……じゅんくんの貞操、守られたの!?無事!?」
エンリ「ふふ、落ち着いてください皆さん。私は何もしてませんよ?」
リア「証拠は?」
エンリ「言葉で信じていただけませんか……?」
ノア「ですが、エンリさんは勝者ですから……何があってもおかしくは……いえ、いけません、想像したくもありません……!」
エンリはにこやかに微笑む。
その手元には、昨夜と同じように、潤の寝癖を整えるように優しく撫でる動作。
カエデ「……うっわ、これほんまに……絶対安心しきってる寝顔やわ」
ユズハ「……うん、これはダメだ。こっちのセリフ言うね?“あ、もうこれ無理だな”」
ミリー「でもさ、すやすやで幸せそう……ミリーもちょっと一緒に寝たいなぁ……」
ノア「……潤様……昨夜は本当に……何も無かったんですよね……?」
エンリ「もちろんです。添い寝を約束しただけですから……それに、潤さんの理性、思った以上に……強かったですよ」
リア「ふむ……ならば問題はないですね」
ユズハ「いやいやいや!!それで解散はさすがに早すぎでしょ!?潤の周りに布団敷こう!!今すぐ!!」
カエデ「おーけーや!ウチは右側ゲット〜」
ミリー「じゃあミリーは頭のあたりに〜♪」
ノア「……私は、潤様の左腕側を……譲る気はありません」
リア「私は……足元に座って、読書をしておきましょう」
エンリ「……ふふ、にぎやかですね……。潤さん、幸せ者ですよ……」
──数分後。
【布団に囲まれ、ぐるりと寝姿を包囲された俺。】
布団 on 布団、
寝顔の周囲には6名のヒロインが横並び状態。
カエデ「なーなー、誰か動いたら潤起きるんかな?」
ユズハ「じゃあちょっとだけ頬ツン……」
ミリー「ぎゅーーっ♡」
ノア「潤様の隣は……譲りません」
リア「……これ、いっそ隔離施設みたいになってきましたね」
エンリ「……ふふ。潤さんが起きたら、びっくりするでしょうね……」
──その時、潤がごそりと寝返りを打った。
そして、ぽつりと。
潤「……もうちょっとだけ……寝かせてください……」
全員「「「「「「起きてるぅぅぅ!?」」」」」」
──────
そして観光を終えて帰りの車内
車のエンジン音と、規則的なタイヤの回転が、静かな帰路を包んでいた。
助手席ではノアが窓の外を見つめ、後部座席ではヒロインズがぐっすりと寝息を立てている。
カエデが肩にタオルをかけて熟睡中。ミリーは無防備な寝顔でぴょこぴょこ頭を揺らし、ユズハは口を半開きにして「むにゃぁ」とか言っていた。
リアに至っては、姿勢だけは完璧に正しく眠っており、エンリは隣の誰かにそっと毛布をかけていた。
……静かで、心地よくて。
今日一日が夢だったんじゃないかと思えるほど、穏やかな時間。
そんな時だった。
ノア「……潤様。いよいよです」
──その声は、眠りの空気を割るように静かで、どこか張りつめていた。
潤「……ん? なにが?」
ノア「会社の話です。悪徳リクルートエージェント社は、今、確かに力をつけてきています」
俺は前を見据えたまま、少しだけノアに目をやった。
その横顔には、余裕や甘えの気配はなかった。
潤「まぁな。電柱社の支援もデカかったし、ゲンジのメディア帝国の宣伝も効いてたし。……何より、みんなが頑張ってくれてたからだよ」
ノア「……はい。だからこそ、今お伝えしなければと思いました」
潤「ん?」
ノア「──わたくしたちの会社、悪徳リクルートエージェント社は、今や“日本のトップ300社”のひとつに数えられるようになっています」
潤「……はっ? え、トップ300……?」
思わずブレーキを踏みそうになる。
え、ちょっと待って。
え、なに? なんか言った? この人さらっととんでもないこと言ってなかった?
潤(トップ300社?ウチの社名“悪徳”だよ?)
潤(日本の名だたる企業ランキングに、“悪徳”が……?)
ノア「とはいえ、潤様。“トップ300”というのは、あくまでも門前の話です」
ノア「実際に社会に影響を与えるとされる“トップ30企業”は、さらにその上。資産、系列、政治、そして……」
潤「そして……?」
ノア「影響力。つまり、“世界を変える力”です」
潤「……」
いや、ちょっと待ってくれ。
怖い怖い怖い。助手席の女の子が急に国家転覆みたいな話始めたんだけど!?
ノア「そこに手をかけるには……もう、“安全なやり方”では届きません」
潤「ノア……お前、まさか──」
ノア「……安心してください。わたくしは、潤様を危険な目には絶対に遭わせません」
ノア「でも、潤様の“世界”を守るために……動かねばならない段階に入った、ということです」
ノアはまっすぐ俺を見た。
その瞳は、優しさと冷静さ、そして──強い決意に満ちていた。
後部座席では、カエデが寝言で「……お好み焼きぃ……」とつぶやいている。
この空気感の違いに、脳がバグりそうだ。
潤(なんだこの……世界の命運を左右する密談と、隣で寝ぼけてる広島風ボケの温度差は……!)
ノア「……わたくしは、潤様のために進みます。たとえ“次の一手”が、常識の外にあるとしても」
潤「おい……まさか、もう動き始めてたりとか──」
ノア「ふふっ。それは企業秘密です」
そう言って、ノアはそっと笑った。
窓の外には、朝焼け前の鈍いオレンジ色が広がっていた。
──俺たちは、ただ温泉旅行に来ただけだったはずなんだ。
だって、昨日まで卓球で騒いでたんだぞ? ミリーが途中で寝たんだぞ? エンリにボコられたんだぞ?
潤(それがどうして、こんな国家レベルの話になってるんだよ……!!)
だけど、その横顔は確かに“覚悟を決めた顔”だった。
潤(……やばい。これはもう止まらないやつだ……)
前を見据える俺の目に、再び真っ直ぐな国道が映る。
でもその先には、もはや元の“普通の人生”なんて、残っていない気がした。
──ただ、俺が運転するこの車だけは、今も変わらず前へ進んでいる。
そして、それは多分──もう引き返せない道だ。
【あとがき小話】
いよいよ次回から──
新章、突入です!!
作者『章のタイトルは……
\初心者の作者が本気出してみるで章〜〜!!/』
潤『毎度のことながら終わってんなそのタイトルセンス……』
作者『これまで学んだ全てを活かして……全力で読たんのハートをかっさらうのだッ!!(● ˃̶͈̀ロ˂̶͈́)੭ꠥ⁾⁾』
潤『頑張るのは俺なんだけどな!?敵もボケもイベントもぜんぶ俺の肩に乗ってくんだけどな!?』
作者『任せたぞ潤!かっこよくなっちゃってもいいからな!!』
潤『なんだその不安しか湧かない応援は……!』