第175話『俺、決勝戦』
【前書き:作者日記】
作者『ご飯にマヨネーズは勇気がいる……とのコメントを頂きました』
──その時すでに、読たんは縛り上げられていた。
読たん(プルプル……な、なんで……どうしてこんなことに……)
目の前には、炊きたてご飯に――
まるで芸術品のようにトグロを巻いた、マヨネーズ・オン・ザ・ライス。
潤『五臓六腑に染み渡るぜぇ……(ズゾゾゾ)』
作者『ほらほら!見てよこの輝き!黄金のライン!まるで白米界のグランドフィナーレッ!』
読たん(ヒッ……ヒェェェ……ッ!?)
作者『なぁ、読たん……? 一緒に食べようなぁ……?(満面の笑み)』
潤『もう……マヨ無しじゃ生きられない体によぉ……(ギュヒッ)』
──そして今日も、読たんの胃袋に地獄の季節が訪れる。
作者『というわけで!作品の方は安心の通常運転ですのでご安心ください☆』
潤『いやその“通常”が問題なんだよ!!!』
──そして、決勝戦。
ついにここまで来てしまった。
相手はエンリ。
包容力おばけにして、全ヒロインの母性代表──そして天然の最終兵器。
潤「……やるしかねぇか」
審判「決勝戦──潤 vs エンリ。……開始します」
【ピコッ】
開幕と同時に、全力スマッシュ!!
バシュッ!!
潤「……もらった!」
──だが。
ふわっ
エンリ「はい、どうぞ」
返ってきた。しかも、“全肯定の微笑み”つきで。
潤(やりづらっ!? なんだこの空気!!)
そして次の瞬間、事件が起きる。
ふと、エンリが軽く打ち返そうとしたそのとき──
ばるんっと何とは言わない何かが揺れた。
潤「ッッ……!!」
(な、なんだこの視界……!? 俺の前世、僧だったんか!?それとも今世で試されてるんか!?)
──慌ててスキル発動。
【スキルウインドウ展開】
スキル:反射強化(Lv4)
→ 発動中…
潤「これでいける……見えてても意識を逸らせば……!」
だが。
エンリ「……ふふっ、潤さんって、意外とかわいいですね」
潤「ッ……ッ!!」
──ウィンクが来た。
天然ウィンクが、爆撃レベルで飛んできた。
反射できねぇよ!!これはもう視覚じゃねぇ!!
心にダイレクトアタックだよ!!!
潤(……クッ……なら──)
──壁にダッシュ。
ゴッ!!ゴッ!!ゴッ!!ゴッ!!
潤「煩悩退散ッ!!俺は今より……スーパー潤になる!!」
ユズハ「ちょ!?壁に頭突きとか!?」
カエデ「アホや……ホンマにアホやこの子……」
ノア「潤様ぁああぁっ!?!?」
──集中しろ……俺はもう、欲望とは決別した……!!
潤「さあエンリ!勝負だ!!」
エンリ「ふふ……では、いきますね?」
──トスを上げたエンリが、ラケットを持ち替えた瞬間──
浴衣が、少しだけ、ずれた。
潤「……ッッ」
【視界に映る】
→【肩】
→【鎖骨】
→【エンリの慈愛フェイス】
潤「スーパー潤、システムエラー発生しましたあああああ!!!」
──ガシャァァン!!!
ラケットが吹き飛ぶ!
ボールはそのまま潤のコートに着地。
リア「……ポイント、エンリ。よって──」
【決勝戦 勝者:エンリ】
カエデ「ま、まぁ……しゃーないな……」
ユズハ「先輩、最後まで見事に“潰されて”ましたね♡」
ノア「潤様ぁぁ……ご無事ですか……!」
潤「俺の尊厳……温泉と一緒に流れてった……」
──こうして、潤を巡る温泉卓球バトルは、
慈愛と色気の包容力でねじ伏せたエンリの勝利に終わったのだった──
試合は──
終わった。
勝者:エンリ。
敗者たち:納得してない。
ミリー「え〜〜〜!?ミリーも!潤くんと寝る気満々だったのにぃ〜〜!」
潤「いや、寝る気満々って言われると色々困るんだけど!?」
ユズハ「そもそも“潤先輩=景品”って発想、どうなんですかぁ?人権的にアウトじゃないですかぁ?」
潤「俺もそう思う!!遅いけど!!ていうか言うなら試合前に言ってぇ!?」
カエデ「うーちーの潤くんがぁ〜〜〜持ってかれてもうたぁ〜〜〜!」
潤「何その西部劇みたいなテンション!?どこにさらわれたの俺!?」
リア「……納得いきません。私は数値で勝っていたはず……胸囲以外では」
潤「やめて!?その統計出すのやめて!?思ったより精神削られるから!!」
ノア「……ふふ。潤様のぬくもり……奪われる気持ち、よく分かりました」
潤「いやノア!?何その“過去に全部体験してる者の顔”!?」
そんな中、ひときわ静かな──勝者。
エンリ「……ふふっ、皆さん。今日の勝者、誰だったか──覚えてますか?」
一斉に、ピシッと止まる空気。
エンリ「景品は、“潤さんとの今夜の添い寝”でしたよね……?」
ユズハ「うぅ……くやしぃ……っ!」
ミリー「じゃあミリーは掛け布団だけ一緒に寝るぅぅぅ〜〜!」
リア「もう少し……もう少しで勝てたのに……」
ノア「潤様の寝顔……きっと、柔らかくて、優しくて……あぁ……」
カエデ「ぎゅってできへん夜……これはこれで地獄やわぁ〜〜〜!」
潤(えっ、えっ……?ちょっと待って?これ本当に俺、“添い寝景品扱い”で合ってる!?)
潤(しかも……これ……エンリの空気が完全に“勝者の風格”なんだけど……)
エンリ「さ、潤さん……お部屋、こちらですよね?」
潤「えっ、ちょっ──俺、今日寝る部屋、あるんだけど!?」
エンリ「えぇ……ですから、そちらで一緒に、ですよ?」
潤「いやいやいや!?勝者の権利、強っ!!てか行使されるの早っ!!」
ヒロインズ「「「いってらっしゃい……(恨めしそうな目)」」」
潤(俺、もしかして──今夜、持ち帰られた……?)
部屋に戻ると──
もう布団が敷いてあった。しかも、並んで。なぜだ。
潤(……くっ……落ち着け……落ち着け俺……!これはただの添い寝……!ただの……温泉旅行で……添い寝を賭けた……謎の大会の結果で……って何だよその導線!?)
エンリ「ふふ……潤さん、どうぞこちらへ」
俺が布団に横になると、すぐ隣でエンリも寝転ぶ。
照明は落とされ、部屋の中は静かで──どこか、あたたかい。
いや、あたたかいどころじゃない。あったかすぎる。
布団が。エンリが。空気が。
潤(やべぇ……距離感……すげぇやわらか……いやいや待て理性!理性!お前はこのために今まで鍛えられてきたんだろ!!)
──ぴと。
エンリの手が、俺の頭にそっと触れる。
潤「っ……」
優しく、指先で髪を梳くように撫でてきた。
エンリ「ふふ……よしよし」
潤「よしよしって!?」
エンリ「お疲れ様でした、潤さん。今日もいっぱい頑張って、偉かったですね……」
潤「いやあの、その声のトーンずるいっていうか……」
エンリ「ミリーちゃんやカエデちゃん達に囲まれて……逃げ場もなかったでしょう?」
潤「いやそれは、確かに、そうなんだけど……」
エンリ「ちゃんと立ってて、ちゃんと笑ってて……潤さんは、本当にすごい人です」
──ぽふん。
もう片方の手で、頭ごと包み込まれた。
撫でられる。あたたかい。
これは──あれだ。
潤(完全に、母なる安らぎ……!)
潤(ダメだ……これは……脳が……バグる……)
エンリ「ね……潤さん。私は、潤さんが頑張らなくても、いいんです」
エンリ「どんなにダメでも、情けなくても……私だけは、ちゃんと分かってますから」
潤「…………」
エンリ「今夜は……もう、何も考えずに……ゆっくり、おやすみなさい」
──その言葉が、最後だった。
気づけば、俺の意識はすとんと沈んでいった。
撫でる手の温もりと、
隣で静かに息づく音。
それが──
たまらなく、心地よかった。
(俺……たぶん今夜……最高に、負けた)
──すぅ。
あとがき小話】
潤『なぁ?作者?』
作者『なんだ?ヒロインズの胸でキョドってた潤』
潤『あれは……!仕方ねーだろ!?急に距離詰められたら誰でも固まるわ! それは置いといて、俺さ──』
作者『俺さ? なに?ついに自分の魅力に気づいちゃった感じ?キザ潤モード発動?』
潤『いや違ぇよ!!俺がそんなこと言い出したら最終回で光の粒になって消えてくぞ!?』
作者『え、じゃあ何?ガチ悩み?恋?将来?マヨ?』
潤『なんでその並びに“マヨ”入ってんだよ!?お前の中の人生どんだけ調味料に支配されてんだよ!?』
作者『だってさぁあああああ!!俺も浴衣でイチャイチャ卓球やりたいのおおおおおおお!!!!(机ドン)』
潤『聞けよ俺の話をぉぉぉおお!!妄想の叫びで全部上書きすんな!!!』
作者『お前の話より“浴衣の襟元からチラリと見える素肌”のほうが大事なんじゃぁあああああああ!!!』
潤『知るかああああああああああああ!!!』
──完




