第169話『俺、怯える……』
作者『今日は絶対帰ったらゲームしたい』
潤『ついに“日記”どころか“感想”になりやがった』
作者『いやでもさ?たまにはご褒美欲しいじゃん?ね?』
潤『ご褒美の前にまず“執筆”っていう宿題終わらせろよ』
作者『うるへーっ!!じゃあ逆に聞くけど!
このテンションで帰宅して原稿開けると思う!?』
潤『じゃあ前書きでそれを主張するな!!』
──そこにスッ……と割り込む影。
ノア『……潤様、今日は私と一緒に資料読みされると伺っていたのですが?』
潤『えっ!?えっ!?俺、帰宅って概念まだ持ってていいの!?』
作者『おまえ今日も監禁か……』
ユズハ『んじゃ私はそのゲームに勝手にログインして「全部セーブデータ消しときました♡」ってメッセージ送っときますね〜♪』
潤『殺意MAXなんだけど!?』
カエデ『ウチはな〜、せっかく帰ってきた潤くんの膝でお昼寝するゲームしたいわぁ♪』
潤『もはやゲームでもなんでもねぇぇぇ!!』
ミリー『じゅんくん、ミリーの「バグまみれ恋愛シミュレーター」やってくれるの〜!?』
リア『……私は、“作者の精神耐久シミュレーター”の方を観察しておきます』
作者『今日も書く予定だった……いや、書くって決めてたんだよ!?(白目)』
──読者の皆様、前書きは日記じゃありません。たぶん。
──俺は、無事に退院した。
本来なら喜ぶべきことだ。
全身の痛みもなくなり、命の危険も遠ざかった。
社長業にも復帰できて、ようやく……日常に戻れる……
「……わけが、ないんだよなぁ」
だって──
【スキル合成進行率:86%】
──この数字がずっと、止まったままだから。
パッシブユニークスキル。
それは6つの才能を犠牲に得られる、超高性能スキル。
──なのに。
効果も、内容も、発動タイミングすら不明。
この“86%”って何だよ!?
精神的にいっちばん不安になる数字だわ!!あと14%で何が起こるかも教えろよ!!
『でー? じゅんくん、移動手段は何にするのー?車?電車?空飛ぶスキル?』
ミリーがバランスボールに乗りながら話しかけてくる。
なんで旅行当日の朝にフィットネスしてんのこの子は。
『んーとね♪ エンリさんの車、だってぇ〜♪』
「……え?」
いやいや待て。
エンリが、車を?
『ウチもなぁ、エンリが「車出します」言うたときには本気で耳疑ったわ』
カエデが麦茶飲みながらサラッと衝撃の事実を放り投げてくる。
『免許持ってるん、リアと潤くんだけやしなぁ』
「俺も持ってるだけで“乗る勇気”はないんだけど……」
『私は車を所有しておりませんし、潤の運転は……そもそも試験場以外での走行歴は?』
「……皆無です」
リアが静かに俺を刺してくるな!?
あと車の運転に“ガチの詰問”やめて!
『じゃあエンリさんって、レンタカー借りたん?』
自然な流れで尋ねたつもりだった。
──が。
その時、病院の駐車場に――黒い影が滑り込んだ。
……ド ン !!
「うわっ!? 爆音!?」
そこに現れたのは、黒塗りのハイエース。
車体はギラギラのメッキ仕様、フロントには謎のドラゴンエンブレム。
リアウィングが空を切り、タイヤは地を削り、
どこぞの峠を支配してそうな“族車全開”のカスタム車両だった。
「えっ?えっ??あれが……エンリの……車??」
──ドアが、静かに開く。
『ふふっ、お待たせしました。皆さん、ご乗車の準備はできましたか?』
降りてきたのは、いつも通りの優しい微笑みのエンリ。
白いブラウスにロングスカート、まるで温泉旅館の若女将のような清楚な装い。
だが背景が悪すぎる。車のせいで完全に“極道の姉御”にしか見えない。
「車体と服装のギャップで、時空がねじれてるぞ……」
『あっ……すみません、少し音が大きかったでしょうか。実はこのマフラー、カエデさんのお友達の“はっちゃけ工房”で取り付けてもらったんです』
「はっちゃけ工房ってどんな工房だよ!?音量で魂抜けそうになったわ!」
『わー! すごいねー! じゅんくん乗ってみようよー!』
「いや待て!マジで待て!ミリー!?それ“サイドドアにスモーク貼ってあって”“内装LEDで光ってる”やつだぞ!?」
──なんで温泉行くだけで、命の保証を失う選択をしなきゃならんのだ。
【スキル合成進行率:87%】
「進んでるしぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!???」
今じゃないだろ!?
俺の精神がブレてるこの瞬間に進行するのやめて!?
これで運転中に発動したらどうすんだよ!?
『さ、潤さん?出発のお時間ですよ?』
──こうして俺は、人生で最も危険な温泉旅行へと出発することになった。
目的地:安心できる癒しの宿。
予感:何一つ安心できる気がしない。
とりあえず乗り込み──いざ出発。
ゴゴゴ……ッ。
……ん?
……なんか……やたらと静かじゃね……?
──と思った瞬間、
車体は寸分の狂いもなく、法定速度ピッタリで動き出した。
「おっそ……!?」
いや、いやいやいやいや。
いいんだよ!? うん、飛ばされるよりマシだし!?
安全第一、安全運転! わかってる、わかってるけど!!
──おっそ……!!!
横を走る原チャがスイスイ抜いていく。
後ろから来た軽トラが3度見しながら追い抜いていく。
一台だけ**“やる気のない戦闘機”みたいに走るヤン車**って、なんの拷問だよこれ!?
「……え?ナビの予想到着時間、1時間半から──」
【現在:到着予定 3時間47分後】
「倍!? 伸びてる!? ナビが疲れてる!?」
『あら、少し遅く感じますか?でも交通法規は守らないと……ですよね?』
運転席のエンリが、満面の笑顔でそう言った。
この世でもっとも優しい表情で、“法定速度ピッタリ”の呪いをかけてくるタイプの悪魔。
「そ、そうですね……(声震え)」
『ちなみにハンドルには加速度感知センサーがついていて、法定速度を超えようとすると自動的にブレーキがかかるんです。ふふっ、安心ですよね』
「規制が厳しすぎるぅぅぅう!!」
『ウチ後ろで踊ってええ?』
『じゅんくんも一緒にラジオ体操する〜?』
後部座席のカエデとミリーがすでに飽きてきた感出してきてる。
てかミリー、**“ぴったり60km/hのリズムで揺れてる”**んだけど!?
それ何!?テンションメトロノームか何か!?
『潤、顔が死んでいます』
「そっちこそ!ずっとタブレットで到着予想時間見てんじゃねえ!!」
『到着予測、4時間12分に更新されました』
「うわぁぁぁああああ!!伸びてるううぅう!!」
──俺の体調が回復した意味とは。
このままいくと、目的地に着く前に**“心の臓”が再入院する未来しか見えない。
しかも、
【スキル合成進行率:88%】
──進んでるんだよ!地味にぃぃぃぃぃぃ!!!
この状況でスキル発動とか来たら、俺の心と道路交通法が同時に壊れるぞ!
『ふふっ、こうして皆でドライブするの、なんだか遠足みたいで楽しいですね』
「まさか……まさかこの“族車”で……合法ドライブの権化が現れるとは思わなかった……」
──法定速度は、悪くない。悪くないんだ。
それは正義。ルール。社会の安全のための理。
でも今だけは、叫ばせてくれ……!!
「おっっっっっっっそいんだよおぉぉぉぉおおおおおおおお!!!!!!!」
あとがき小話:ヒロインズのパジャマ姿想像会
ノア
──シルクの純白ネグリジェ。首元はレース、背中は大胆に開いている。
髪は下ろしたまま、薄く微笑みながら潤の膝元に正座。
ノア『どうか……潤様だけの“夜の私”をご記憶ください……』
潤(え、え、え、えろっ……!いやでも上品!でも肌色多め!でも色っぽい!どっちだ俺!?)
カエデ
──でっかいTシャツ一枚。しかも前面に「潤くん♥」の刺繍。
肩はずり落ち、袖から腕が完全に消失。動くたび裾ヒラリ。
カエデ『ウチのパジャマは“潤くん”やねん♪ ……どや?着心地ええよ?』
潤(あの……もしかして俺……着られてる!?)
ミリー
──ピンクのもこもこうさぎパジャマ上下セット。耳付きフードも完備。
寝る前なのに元気120%、跳ねながら抱きついてくる。
ミリー『じゅんくん〜!ミリーのお布団、いっしょに使う〜?ね〜?ね〜っ?』
潤(いや誘い方が赤ちゃんすぎるのに顔が女神級に可愛いのなんなん!?)
リア
──ネイビーカラーのシャツパジャマ。ボタンきっちり、髪も三つ編みにまとめ済み。
だけど──
リア『……裾が長すぎて、歩くと踏んでしまいます。構造的欠陥です』
潤(動きが可愛すぎる……ッ!ボタンしっかり閉じてるくせに、何でそんなに視線引くんだ……!?)
エンリ
──淡いベージュのロングパジャマワンピース。素材は柔らかフランネル。
胸元で手を重ねて微笑み、まるで絵画のような包容感。
エンリ『ふふ……潤さん、寝る前にお茶でも淹れて差し上げましょうか?』
潤(癒し……俺、今日一日どんだけ癒されてなかったんだ……)
ユズハ
──えっちぃサテン生地のキャミソール+ガウン。
脚組んでベッド端に座り、スマホをいじるふりしながら潤をチラ見。
ユズハ『……え、まさかぁ。先輩、そんなに見てたんですかぁ?』
潤『見てねぇわぁぁぁぁ!?いや嘘です見てましたすいません正座します!!』
──作者『というわけで、読たん!あなたの“今夜の推しパジャマ”は決まりましたか!?』
潤『いや誰が選べるかバカ野郎!!全員濃度が高すぎんだよ!!』